ショウガイキラー
―—誰かの悲鳴の声がした。そう感じた場所に、そいつはいつも、次の瞬間にそこにいる。誰より早くそこにいる。——
演技のはずが過熱してしまった、もう一つの理由。
怪しく黒いサングラスに反射する光。
「裏切り者」
彼にかけられた言葉は、心無い一言だった。しかし彼は、この都会の一角、おおきなコンクリート造りの川の中で、彼女を敵に回したわけではなかった。
「そういわれても、僕はただ、仕事をするだけだ」
今度の依頼は一週間前、彼は16歳高校生、お金がないことから自分で仕事を始めた、その名も“ショウガイキラー”生姜焼きではないし、しょうが醤油ではない。ただ、彼の住むスガオ街のありとあらゆる“ショウガイ”を解決する覆面ヒーローをやってのけようとおもったのだ。初めはひどかった、子供向けヒーローショーや、水商売にヘルプとしてよばれたこともあった。
「長い苦痛の日々だった」
今でも彼はそんな風にふりかえる。自宅のアパートの一室にはヒーローグッズやパソコン、小型エアコンまで完備して、彼はいつもでもここで集中して“彼以外の誰か”になる覚悟をしている。依頼は三日前、同い年の幼馴染の……友達からの依頼、もちろん本人は、彼の正体はしらない、だからこそ彼の本名を覆面をした彼の目の前で……とある廃工場で初対面のとき、スーパーラインというチャット機能でインターネットで連絡をとりあいつつ、二人は、待ち合わせをして、遭遇した、一人はいつもの格好で、一人は覆面をした、縞柄のアカとオレンジ、白の変態的なマスクとマフラーをして。
「私。カノっていうの」
「ユズ君に聞いてほしいの、私の事どうおもっているか―—」
衝撃的だった、つまりそれは、彼の事、“彼の本名がユズであるという決定的な事実と比較するに”覆面ヒーローはついに、ネットや、匿名掲示板での地道な活動、SNSでの広報活動を経て、やっとまともな仕事をえた、その先で―—彼女に―—告白されるのか!!?
しかし、2、3度あってわかった、彼女は“常人”ではなかった。
「うへへへへへ、私のこんな姿をみて、きらわないでいられるかしら」
どうやら彼女は、サバイバルナイフ愛好家という特殊な癖をもっているらしく、それはまだいい、ただ二点問題があったのだ、学校が終わり、裏山の空き地にて彼女の依頼をうける、まずは“あなた”が“彼の代わり”をして、というのだ。
「ホラホラよけてよ!!!」
しかし、今度の依頼はどう考えてもふざけている、ボウボウとまう砂埃、奇妙なストイックな新体操的な動きをする16歳の乙女、その手にはサバイバルナイフ。
「これでも、これでも!!」
彼女は、泣いていた。
「こんなの、嫌われちゃう」
すべてをさとったように、ショウガイキラーたるヒーローの本名ユズが、うなだれて四つん這いで地面をみつめて顔をうつむいた格好のままの、セーラー服少女の肩を叩こうとした、その時だった。
「嫌われちゃう―—友達として……」
「おれのどきどきをかえせええええええ!!」
「!?」
そういう事で、今日の決闘が始まったのである、なぜだか依頼者に対して決闘を申し込み、彼曰くその理由は。
「そんなしょぼい武術で死ぬ相手なら友達失格だ」
ということらしい。
そして彼は見事、なしとげた、ナイフを奪い、彼女のこぶしをうけとめ、“ショウガイ”を排除した。
彼女は涙を流す、コンクリートの川の中で、二人の、奇妙な友情が目を覚ます。
「自分にふさわしいのか、演技をあちらも見抜いてほしくて、優しいけど異性だから、あなた、SNSでみたときからきづいていた、口元だけでわかる、ユズ君でしょ……」
いつかのように四つん這いになるセーラー服の少女に、ショウガイキラーは声をかける方法を失っていた。
彼はこっそり思い出して、いま、心の中で理解した。
「こいつ、ねーちゃんたちににてる、皆プロレスラーで、小さいころから鍛えられてたんだよね」
ショウガイキラーの非日常的な日常はこれからも続く。
ショウガイキラー