宵越し編 13.5話

悔いなく行動してください。諦めないで下さい。足掻いてください。みんなみんな魅音を見ていますから


6月22日 午前7時 学校跡



『終わっちゃったな』

園崎魅音はそう呟いた
もう、自分の声は詩音には届かない。それは別れの時だった
24年前のあの日、私は皆に置いて行かれた
気付いたら私は詩音の側にいた
孤独な世界に残された私は『詩音』という光を見つけた
嬉しくて嬉しくて詩音の側にできる限り一緒にいた

だから、知っている

妹の、詩音の悲しさを、悔しさを、自分に対する呪いを

彼女は私が死んでから『喜』と『楽』の感情を忘れてしまった

「私も一緒に死ねばよかったんだ」

そんな事、思っちゃダメ
何度も語りかけた
詩音、もう幸せになって
そう願った
でも、大切な言葉は届かない
そうして詩音は背負わなくてよい罪を背負い『魅音』へとなっていった

死ななきゃよかった、死んじゃいけなかったんだ。どんな手を使っても生きなきゃならなかった
あの時、私が死んだ事により詩音は『魅音』になった。詩音が魅音に、魅音が詩音に
元の名前に戻り、本来の立場になる
私がずっと願っていた事

でも、違う、違うんだ
何かが違う

それは、きっと詩音の顔が笑ってないから

お姉、ごめんね
本当に出来の悪い妹で
お姉の本来の立場を奪って本来なら閉じ込められて生きる筈なのに普通に生きて
死んだら嫌な役目だけ押し付けて

彼女が『鬼』を継いだ瞬間を私は黙って見てるだけだった
涙を流す事しか出来なかった


結婚もせずただひたすらに姉への償いを果たそうとする詩音
誰か、誰か彼女を助けてあげて
こんなに側にいるのに大切な言葉が伝わらない
自分が歯痒く感じた
何も出来ない自分を悔いた

そうして月日が流れ、20余年
平穏に過ぎ去っていった
といっても詩音が関わってる世界は極道なので平穏という言葉とは無縁である
でも、このまま大きな争いなくできるかぎり平和に生きて欲しかった
そう願って詩音を見守ってきた


だけど、

三船の園崎組への乗っ取りが私の願った平和を崩し始めた
母さんが襲撃され死の淵を彷徨っている
組が混乱している中、三舟は主力の半分を引き抜いて反乱
詩音は窮地に立たされた

私は考えた
考えてどうしたら全てが収まるかを考えた
そして結論を導く

詩音が当主として認められればよい

そうすれば『園崎』の問題は一気に解決するだろう
そう、組の問題も元々は『園崎』の問題なのだから
なんだ、簡単な事じゃないか
悩んで悩んで出した結論が呆気なくて笑ってしまった
けど、そこまで詩音を誘導できるかが一番の賭けだった
私は一か八かで夢枕に立って呼びかけた

『雛見沢へ、雛見沢へ』と

叶わないかもしれない、そう思いもしたけどそんな思いは振り払った
信じる事が出来なければ願いなんて叶わないんだ
信じて、信じて、信じて、その言葉、思いは通じたのだ
詩音は導かれるまま雛見沢へ向かう
上手くいくかもしれない
そう期待が生まれた矢先、三船の追っ手が現れる
詩音はその追っ手を巻いたものの、車を道路沿いの壁にぶつけ気を失った



起きてっ!
起きてっ!
死んじゃやだ、やだよっ!
もう誰も誰も死んで欲しくないんだからっ!
起きてっ!詩音っ!

どのくらい叫んだんだろう
気付いたら梨花ちゃんや沙都子くらいの小さな女の子が傍らに立っていた

『この世界の僕にはもう力が残っていないのです』

両耳に角が生えた女の子は泣いていた

『でも、魅音のために最後の力を使いきろうと思うのです』

巫女服の袖で涙を振り払い何かを覚悟した目を宿した

『例え、それが僕がいなくなることだとしても悔いはないのです』

そして笑った

『それが僕がここにいる理由だとわかったから、なのです』

何?何の事?と問おうとした時

『魅音の気持ち、よく分かるのです、僕もそうだったから
 でも僕は恵まれていました。梨花がいましたから
 悔いなく行動してください。諦めないで下さい。足掻いてください
 みんなみんな魅音を見ていますから』

気付いたら私の体は詩音ヘ『取り憑いていた』





乙部に見守られ『園崎魅音』は2度目の死を迎えた
不思議と悔いはなかった

結末はどうなるか分からない
でも、出会った頃と顔つきが変わった乙部
そして眠りから覚めた詩音がいれば最悪のシナリオは免れるだろうと思った
そう思ったらあの場で私は降りなくてはならない役者だとそう悟った

振鈴は無事詩音の手に渡るだろう
乙部を見た詩音は「悟史」と呼んでしまうだろう
伝言を聞いた詩音はどんな顔をするのだろう

嫌な顔
困った顔

いや、違う
きっと泣いて、笑って照れ隠し


『お疲れです、みぃ』

声が聞こえた
とてもとても懐かしい、聞きたかった声
涙が出そうになる、でも堪える。だってここに涙は似合わない
うん、大変だったよ、梨花ちゃん。そうそうさっきはありがとうね

『……み、みぃちゃん、ごめんね……』

なんでレナが謝るのさ。悪いのはこっちだよ、ごめんね

『魅音さん、謝る前にやる事があるでございますわよ』

遠回りしてようやくたどり着いた私の場所

『遅いぞ魅音、早くやろうぜっ!』

ごめんごめん、みんな待たせたね


『じゃ、部活動はじめようか』

宵越し編 13.5話

宵越し編 13.5話

■ ひぐらしのなく頃に 宵越し編(ラストネタバレ) 園崎魅音の御話 (執筆2007年)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-04

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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