魔法がかかる瞬間
制限時間付きのデートは終わりを迎える。
2人でいると時間というものはあっという間。時計塔長い針は11を示し短い針は6を示す。私達にかけられた『恋人』という魔法が解ける時間はすぐそこまで迫っている。
魔法が解けると私はこの国の王女へ、ジタンは盗賊になる。
身分という大きな壁が夕陽がおちると共に再びそびえるのだ。
「また、逢えるさ」
ジタンは軽々しく次の約束をかわす。そんなに簡単にいうけど今日のデートは約束が伸びに伸びてようやく二人の都合がついたもの。その都合がつくまでにかかった日数はおよそ3ヶ月。
「次はいつ逢えるの?」
数時間前、ジタンに逢えた嬉しい気持ちで心は満たされていた。だけど、いつの間にか気持ちは別れを惜しむ寂しい気持ちでいっぱいだった。だから聞いてみた、この不安の気持ちを少しでも払いたくて質問する。
「ガーネットが望むなら今晩でも」
彼は笑って答えた。その笑いにつられて笑った。
「あれ?信じてない?」
「信じてるわよ、ジタン」
だって、貴方は盗賊だもの。きっと私を攫った時の様にお城に忍び込んでいつの間にか私の隣にいることでしょう。
私は思いついて自分の肩にかけていた赤いストールをジタンのを首元にかけた。ジタンにストールをかけるとそれはなんだか旅人が着るマントみたいな、そんな感じだった。
「ガーネット?」
「返しに来てね、きっと」
彼が約束を守るよう理由を取り付けた。ジタンは少々困り顔だったけどすぐに「うん、わかったよ」と笑顔で応えてくれた。
カラーンコローンと広場に6時の鐘の音がなる
魔法が、解ける
繋いでいた手と手が徐々に離れていく
彼の手のぬくもりを感じたくて、離したくなくて
何度も手を離そうとする。でもまだ触れていたくてと握り返す
それじゃいけないとけじめをつけるけど自分の甘さが彼の手を離さない
帰らねばならない『現実』
まだ一緒にいたい『夢』
『現実』と『夢』の狭間で私達は別れを惜しんでいた
こういう時、必ずと言っていいほど勝つものは『現実』なのである
もどかしかった手の動きはいつの間にか指先へ
指先から爪先へと移り、とうとう最後の一点が離れたのと同時に私は後ろを振り向きお城へと歩いていく
別れの言葉は交わさない、悲しくなるから
自分の手を包み込むように握る
先ほどまでのジタンとのぬくもりの忘れたくなくて
この余韻を感じて帰路に着きたくて
「ガーネットッ!」
彼の声に反応して急いで顔を振り向く
「これ、返しに行くから、絶対返しに行くからっ!」
ジタンは先ほどの位置から少し移動してすぐ近くの、民家に登る階段に3、4歩登っていた。
私が見えるように
いえ、私に見えるように
彼は首元にかかるストールを掴みながらそう叫んだ。
あぁ、もう、寂しくない
「うん、待ってる、待ってるからねジタンっ!」
彼の声に負けないくらいの大きさで返事をした。私はもうこの時、早く夜が来ないかしらと別れを惜しむよりも未来を楽しんでいた。
魔法がかかる瞬間