燃える宇宙人
ある白い部屋の一室にパイプ椅子と大きなモニターがあり、人影がパイプ椅子にすわり、ただ一人そこで映像をみていた。右には木でできたドアがあり、しめられたままで、すわった彼以外に誰かいるような様子もなかった。
―—こんにちは、地球政府広報の、ヨーレフです。皆さん、身の回りの宇宙人への差別意識はもっていませんか?まあ、これだけパラレルワールドから毎日のように宇宙人が降ってわいてくるとこまってしまいますね。それもこれも、突如月のあたりにできたワームホールのせい、いや、人間はあまたの科学実験で神にさえ歯向かったのだから、これらの試練は、我々の自業自得ともいえるのです、ですから、皆さん、皆さんも宇宙人たる隣人と仲良くすごしていきましょう。今日は、燃える宇宙人、レッドジョナサンの話をします。——
研修ビデオは始まり、中の人物は、青っぽい制服をきて、後ろのホワイトボードに、写真やら、メモやらをはりだした。
彼は、18歳の青年です、年齢や性別はごくごく普通ですが、彼の皮膚は少し……岩や鋼鉄のようにかたく、それだけなら握力や腕力にきをつかっていただければいいのですが、彼が初めて地球にふってきたとき、われわれは驚きました、大気圏をUFOと一緒におちてきて、中から出て来た宇宙人は、
燃えていました……、だから我々の職員の一人は、失礼ながら初めて彼をみたときこういいました。
「ワオ!!ここは大気圏じゃないぞ」
ってね(照れ顔)
ビデオは唐突に、真っ赤に燃える宇宙人のアニメーションを流しはじめた、彼は3等身のキャラクターとなり、地球の上で腕組みをして、しばらくすると、呼吸をあらくして地球と同じ速度で走り始めた。
彼は、すぐに仕事を探しました。
引っ越し業者のアルバイト、
ファストフード店のアルバイト、
コンビニのレジ、
変わった皮膚をしているのに、なぜそんなに色々試したかって?それもこれも、地球政府のある“法律”によって、現在、地球上に数多いる宇宙人の管理がなされていて、その法律というのが、“宇宙人友情持続法”というのだが、簡単にいえばこれ、宇宙人からしてみれば勝手にいい宇宙人か悪い宇宙人か、地球政府(2118年現在地球は一つの政府を樹立して大きく支配、統括されている)の都合のいいように振り分けられるという事。その中に就業の義務というのもあって、地球にきて一週間以内に長続きする仕事をみつめなくてはならない。
だから彼は必死で仕事をさがします、来る日も来る日も、しかし彼の皮膚は、燃えていて、近くにいくと、100度を簡単に超している個所もあるのです。
ビデオはヨーレフとホワイトボードのある映像にもどり、彼は身振り手振りで大袈裟におどけていた。そして、言葉にあわせて次々とアニメーションじみた絵をホワイトボードにくっつけていった。モニター前の人影は、さっきから肩をこわばらせて、膝の前で握りこぶしを強く握っていた。
彼は友達作りもうまくいきません、半径100mほど距離をとらなくては安全ではない友達とはあまりかかわりやすいとはいえないでしょう?
そう、だから彼は苦労した、引っ越し業者のアルバイトは家具をもやしてしまうし、ファーストフード店のアルバイトは、レジが数分で故障して溶け出した、チーズみたいに、コンビニでは商品はすべて隕石のようにカチカチになりました、少し売り上げが伸びましたが。
しかし、そんな彼にも居場所があったのです、
ピザ屋の宅配アルバイトだった、燃える男が宅配したピザは、いつも出来立て、ほかほかと評判!!
なぜなら彼の迷惑な、表皮を覆う高熱のコンロは、窯にいれなくともピザを焼きたての状態にまで熱し、準備しておくことが可能だからだ。
それは配送中にすぐ料理もできるし、あるいは宅配用のパッケージに工夫をすれば、ただ暖かいまま配送することも可能だったのだ。
かくしてかれは、宇宙人隔離施設、UTFに入れられる事もなくなった、というわけです。就労の義務を果たさない宇宙人は厳罰に処罰されてしまうので、まあこういうわけです、あなたもここへきたからには、すぐさまお仕事を見つけて頑張ってください。
白い部屋、モニターが消えると、パイプ椅子に座っていた黒い髪の人間はびっくりして、はっと顔をあげた、するとすぐ手前に、研修ビデオと同じ服装の男、同じ顔の男がたっていて、彼にかたりかけた。
「えーっと肌の色が肌色のお方、貴方もパラレルワールドでは地球に住んでおったといわれる、われわれ、うろこのある地球人にはなじみがないとは思いますが、宇宙人として、この星でうまく生活していってくださいね」
燃える宇宙人