パンプキンヘッド

犬をつれた男から、暗闇の細い路地から、幅の広い車道のわきへとびだしてきた、左側の街燈が男を照らすと、男はそちらの方角に同じように曲がり、あるいていく。白い射線が道路にひかれ、車道のある少しおおきな通りだ、コンクリートの様子が、月光と街燈にてらされて黒光りして見える。典型的中肉中背の、しかしいやに機敏な動作でトレンチコートとハンチング帽の男、名前をデフという、ベテラン刑事だ。今年53になる。

 男は手元の腕時計にてをのばす、左手首の時計の針は、午後7時をしめしている。ふと顔をあげると、何か小さいものが自分の下腹部当たりに突進してきたようだった、職業柄、男は驚いてとびのいた、しかし、おそかった、ぶつかったのでそのまま“それ”がころばないように両腕を抱えてやった。
「あっこどもかあ……」
「大丈夫か?」
ふたこと発しても、子どもから返事はない、小さな通りにはいくつかの庭先の軒先の庭木が映えるだけで、真正面には月が見えた。
「うっ」
子供に視線を戻すと、おこしてやっていたのになぜか泣いていた、ふとしたをみると、自分が何かを踏んづけていることに気が付いた、反省したように、汗をかき、すぐにそれをひろいあげ、平謝りをした。
「もうしわけない、お嬢ちゃんのかい?」
みると少女は涙をぽろぽろながして、それをふき取るまでもなく、ハンカチをみつめていた。
「すまない、大事なものなんだね、これ少ないけど、洗濯の代金さ、うちで洗って返したいけど、それは嫌だろう?きっと、危ないしなあ」
といいつつも心がいたむ、刑事はひとつ腰の右ポケットから、花柄のハンカチを取り出した。それを見ると少女の顔はパッと明るく輝いた。
「おじちゃんな、刑事なんだ、これ名刺と、それからこれで顔をふいて、おじょうちゃん、何かあれば電話をください、申し訳なかったね、家はどこだい?」
すると刑事のすぐ後ろの突き当りの小さな邸宅をしめした。
「あそこの裏には小さなアクセサリーショップがあったね」
そういうとまだ少女は泣き止んだ顔でニッコリして、コクリとうなづいた。
「じゃあね」
落ち着いた少女と2、3会話を交わしたあと、少女は帰れるというので、なるべく近くまで一緒にいって手を振った、刑事とはいえど、玄関口から奥へ行く勇気はない、聞かれると厄介な事になっても面倒だ。邸宅の前には、格子状のアルミ製の格子と門があった。
突き当りのほうは道がせまくなっていて。途中から小高い山に続く、土の上に小石がまかれただけの砂利道になっていた。ふりむいてあるきだして、もう一度少女のほうを振り返りてをふると、少女はぽつりと暗い邸宅の玄関口でこういった。
「おじちゃん、いいひとだね、いいことあるよ……きっと」
その子への返事は、犬がしたのだった、
「ワンッ」
こらっとわらってリードをひきしめ、もう一度みやると、少女はまだ笑って手を振っていた。

 そのころ同じバルミルトントン市のタワーマンションの25階のある一室で異変がおきようとしていた。先ほどなった玄関のベル、それを聞き、玄関口で応対をしていたかに見えたこの一室の主人は話し声を発した後、十数秒後から音すらたてない。同じ部屋のリビングで、枕をだいてテレビをみていたこの部屋の主人、デザイナーのトムの恋人のマーシーは、急いで、しかし慎重にそちらを、ちょうど玄関口から死角に入っているであろう、キッチンの左端から、玄関口へ続く廊下へと、四つん這いで顔をだした。
「どうしたのトム……ギャッ!!」
彼女がなぜ驚いたのか、その目の前におかしな奴がいたのだ、顔の数倍はあるかぶりものを、——かぼちゃの被り物を、それは、丁度ハロウィンの、ジャック・オー・ランタンの顔つきのかぶりもの―—そいつが成人男性の首から下をだきこんだようになっていて、その体は、わざらざ彼女の目線にまで、おろされていた。なぜそのことに気が付いたのか、その男が、奇妙な男が、ひざにてをあててしゃがみこみ、彼女と同じ目線で、彼女と同じように、彼女の顔をのぞきこんでいた。
「ぎゃーーー!!ジャック!!!!」
彼女が叫ぶと、なぜだかその変質者は、自身がやったことと彼女の悲鳴に驚くように、急ぎ足で、後ろあるきにとおのき、ひきさがり、玄関のとびらに肩をぶつけたかと思うと、もう一度、ガッっとにぶい男の悲鳴をあげて、体をひるがえし、とってをひねってドアから急いで飛び出ていってしまった。
マーシーは急いで警察に電話をかけようとしたが、その途中で気づき、少しためらったのだった……。それは、さっきのジャック・オー・ランタンの被り物をしていた人物……ワイシャツの青とジーンズの破け方……さっきまで傍にいた、恋人のものだとおもったからだ。
「嘘よね……」
その部屋の窓からも、きれいな満月が見えた。

朝焼けの中、刑事デフはある病院の病室にたちよっていた。
「201、201」
広い病院はやはり、迷ってしまう、彼の子供ゼムは、心臓の持病で、2度目の手術を終えたばかりだった。
「だれ?」
病室から声がして、足をとめた、いつもと同じトレンチコート、その声変わりまえの透き通った声に、昨日の綺麗な笑顔の少女のことをおもいだし、少しぎくっした、あとではなしてやろうか、少し考えにふける、病室は4人いる、あとはみんな老人だ。一番奥の左のとじられた紺色のカーテンにてをかけて、おどけたように顔をだした。
「やあ、いい子にしてたか」
今年小学4年生になる息子は、少しむっとして、しかし笑ったような表情をみせた、勢いあまって、トレンチコートは胸ポケットのメモ帳のやら、左ポケットの財布やらのおもみで、ベッドのへりをおおうようにゆれた、息子のひざに少しかかったようだ。
「ああ、すまない」
「いいよ」
息子はやはり、刑事の話を好んだ、昨日の不思議な少女の話をすると、天使かもしれないといって脅かしてわらった。
「さあ、そろそろ……」
楽しい時間はすぐにすぎて、15分ほどたつと、デフは重い腰をあげて、病室をあとにしようとした。しかし、息子はせがんだのだ、例の事件―—パンプキンヘッド―—の話を、正直刑事デフはその話があまり好きではない、奇妙な事件だし、いまだに解決していないシリアルキラーの話だ。若くしてなくなった息子の母親、自分の妻の死、死を連想してしまう、実際彼女は病死で直接関係がないが、彼が刑事になって初めに担当した事件も、彼女の病気と同時期に担当し、もっとも手を焼いた事件がその事件だった。この話には、おとぎ話じみた一面もあるのだ。しぶりながらも席に戻り、彼は話はじめた。
「これは、ある科学者が発明したマスクの話だ、その科学者は失った息子がこの世に戻ってくれるようにと、一番大好きだったお菓子会社のキャラクターを模した被り物をつくったんだが……―—」
いまもそいつは、亡霊のように、かぶりものに乗り移った亡霊は、人を殺して歩いている、それがこの事件の、おとぎ話じみた一面……。

 デフは気になって、昨日の夜、散歩道でよったあの通りに立ち寄ってみることにした、少し遅れたところで、刑事課長が少し怒るくらいだ。昨日の夜とは違って、突き当りの邸宅はとてもいい家に見える、そのあたりで、車をおりてうろうろしていると、その主人らしき女がでてきた。
「あの、昨夜この家のお嬢ちゃんとすれ違いましたね、これくらいの背丈の少女です」
刑事が背丈を身振り手振りでしめすと、女はなぜか汗をかき、戸惑ったようなしぐさをした。
「少女?私は知りませんが」
「……そんなわけは」
刑事特有の渋い顔をしていたな、とおもって、花柄のハンカチをほほにあてた、これは昨日と同じ柄、なぜだか花柄のハンカチがすきなのだ、妻も、恋人もそうだった、恋人、昔は持てたものだ……。

女はストレートな髪、東洋系の顔立ちで、繊細な顔つきの、こまったような表情と白いふちの眼鏡をかけていた。女は肩からバックさげて、どこかへ出かける様子で、すれ違い向こうにいってしまいそうだったので、声をかけた。
「失礼ですが、この家はあなたのご自宅ですか?ご職業は?」
苦い顔でぎょっとしたような、むっとしたような顔をした女だったが
「あなたは?」
と女が言いかけるまでに、刑事デフは手慣れた手つきで刑事手帳を見せつけた。
「私は、裏で占い師をしています、今度占いをしてさしあげますよ」
「裏って、アクセサリショップでは?」
女は少し顔をそらしたようにして
「え、ええ……それもありますけど、すぐ隣にありますわ、たまに営業しているの、今度いらしてね、いいえ、今日の夕方にでもくるといいわ、
私あなたに、出会ったことがあるきがして」
奇妙な女だ。そう思うまもなく、女は身をひるがえして、高いヒールの音をさせて、そそくさと仕事場に向っていったようだった。

警察署の刑事課にわりふられた大部屋へ入るデフ。
「デフさん、事件です」
声をかけてきたのは、部下のレンだった。細い目をした、眼鏡のベリーショートのさわやかな青年だ。
「事件は四六時中おきてるよ、何だ」
「その……いいづらいのですが、デフさん専門の……」
あまりにもったいぶられているのと、デフは自分のデスクの上がやけにちらかっているのでイライラして受け答えをしてしまう。
「ああ……なんだよ??」
「その……パンプキンヘッド」
彼は一瞬自分の呼吸がとまったような感じがした、まるで背中から、突然になぐられて呼吸を整えることができなくなったような感覚だった。
「な、なんだって……」
「シリアルキラーのパンプキンヘッドです、昨夜二つの事件がありました。一つはある男性の失踪、それにともなって、パンプキンヘッドの者と思われる手口……鉄バットと、パンプキンのらくがき……間違いなくパンプキンヘッドです」

 そのころ、例の女は、彼女の宣言通り、自宅裏手にあるアクセサリーショップの真横の占い店の型付けをしていた、開店まで余裕はある、今日はアクセサリーショップは閉じられている。
「まさか、こんなところであうなんて、まだ心の準備ができていないよ、さっきの対応、まずかったかな」
そういって女は、まだちらかったばかりのテーブルの上に、水晶玉やら、タロットカードなどを用意して、テーブルクロスを丁寧に整え、部屋全体の型付けを始めたのだった。

その日の夕暮れ、仕事帰り、デフは何を思い立ったのか、ゲームセンターやら、コンビニやらでパンプキンの人形を探して買いあさっていた、紙袋にたくさんの人形。
「ひとつ……息子にもわたすか」
そうこぼしながら、右手では車のキーを握り、左手でもりだくさんの重みをもった荷物をかかえて、のけぞりながらトランクをあけて、それをきちんと整理してしまった。ふとパンプキンヘッドの顔がうかび、この最中にトランクでもしめられたら……とスプラッター映画のワンシーンを想像してぞっとしたが、ひるがえってもなにもみえなかった。

パンプキンヘッドはそのころ、ある廃屋で、何かをむしゃむしゃとたべていた、それは、どう考えても血のりや何かではなく。人間の血液がまじった何かだった、その傍らには、ボロボロのベッドがあり、お腹のもげた女性が、そこでうめき声をあげた、それはパンプキンヘッド、ではなく、デザイナートムの恋人のマーシーだった。

帰りに占い店によることに決めていたデフだったが、急がないと病院が閉まってしまうというので、余計急いででかけた。
店はよくある商業用ビルの一回のテナントをかりていたような簡素な作りだった。ビロードのカーテンなど、やけにものものしい雰囲気のフクロウのはく製など、なかなか凝った作りの占い店だったが、表の看板は、かたむいていた。
あれはデザインかもしれないが、あまり好ましいものとも思えない、しかしそれは初老のセンスである。
占いは簡素なものをたのんだ、すると店主はこういった。
「大アルカナの占いをします、タロット占いですよ」
示されたのは、フールというカード。
「あなたの仕事運は、聞くまでもない、あなたがすべて知っているという事ですね」
「なんだそんなことか、お代は?」
「いいえ……」
なぜだか奇妙な女は、うつぶせに口ごもり、変な事をくちにした。
「私は、リドです、あなたに、恩返しがしたくて、私は……あなたの、昔からの知り合いですよ、いつか思い出してくださいね」
刑事は不気味なような、不思議なような気分になりつつも、その建物をあとにしたのだった、

一報病院につくと、息子は膨れ顔だった。
「ゼム……!!」
「すまない!」
お怒りの息子だった。

自宅についたのは、それからしばらくしての事、シャワーをひとっぷろあびようとおもっていると、仕事場から電話があった。
「パンプキンヘッドの殺人です」
溜息交じりに質問した
「どうしてわかる」
彼の両親にもきてもらっています、どうやらこいつは本物ですよ。
刑事デフは、仕方なく夜中の7時すぎにまた警察所へ急行したのだった。

廃工場の現場にたどり着くと、現場は乾式やら救急やら、パトカーやらでごったがえしていた、会話さえままならぬほどごちゃごちゃしている、そういったものは苦手だったが、いったん刑事の腕というか、勘というか、現場をチェックしなければならない、何しろ、刑事課随一の敏腕たる彼にしか
こんな大事件は解決できない、きっと皆そう踏んで、彼に連絡をした、同僚やら、レンがかけつけてきて、こちらに挨拶をした。
デフは手袋をつけて、キープアウトのテープの中へ悠々とはいっていった。
シャッター音やラ話し声がうるさいので、レンに、一度自宅にもどって、落ち着いたらもう一度来ることを伝えた、ほとんどのことは調べおいて、胸ポケットのメモ帳に書き込み終えたからだった。
「ここで見張ろう」
「なぜです?」
「統計的に、犯罪者が現場に戻ってくる確率が高い……というのは建前でいい、やつは、“らくがき”を忘れている、あの、まるで犯罪行為自体をあざ笑うかのような、挑戦的な“証拠”だ、やつは必ずもどってくる、初めに担当した奴の事件で、俺はそのとき、同僚を失ったのだ」

一度家に帰り、事件資料をあさる必要があった、パンプキンヘッドの資料は、彼独自で用意してもあるのだ。

家に帰ると、なぜだかリビングの電気がついていて、窓がひとつあいている、しめてからテレビをつけると、丁度現場の映像がながれていた。
「騒がしいのは嫌いなんだよな……ふう」
よこを見ると、窓際に赤い何かがみえたような気がして、そちらに歩み寄る、
「バッ!!」
顔をだしたのは、愛犬のベンだった、
「はあ」
とため息をついて急いで資料をかかえて、再び現場へと急いだ。
途中でなぜだか、例の少女の事がきになった、こういうときは、急がば回れというし、あれが亡霊なら、きっと今回は助けてくれるかもしれない
だなんて、妙なことを考えていた。しかし亡霊なら、なぜ妻がでてくれなかったのだろうか……亡霊は、いた……昨日と同じ場所で、玄関をみて、何かうろうろしているようだった。
「家には誰もいないのかい?」
刑事が声をかけると、少女はびっくりした様子で、コクリとうなずいた。
「君の事をきいたらお母さん、しらないって」
「お母さんは本当のこといわないから、でもあなたには感謝してるっていってた」
「感謝?」
デフが背後に気配を感じて振り返ると、占い師のリドが声をかけた。
「ねえ、無線を傍受していたの、デフ……今度の事件の犯人……トムでしょ?私もつれてって、元恋人なのよ、そいつ……」

「遅かったですね、どこへいってたんですか……」
廃工場につくと、暗がりから、部下のレンがかけつけてきた。同僚は二人、それから警察官は三人そのままテントを張って、ランタンをつけて待機していた。長椅子が三つ、コの字になっていて無線や電話や資料が上にのっていた。工場を見渡すと、同じものが、使いもしないものがたくさんおいてある。どうやら編み物の工場だったのだろうか。全面ガラス張りだが……と、なぜかびっくりしたように、レンが叫んだ。
「後ろの人は……おい!!おいおい嘘だと!!有名な霊能力者のリドさんじゃないか!!」
どうやら厄介な人物をつれてきたようだった、加害者の父親がいるというのに、会話は弾んでしまった。
「嘘でしょ……こんなはずない、トム」
リドはひたすら慌てていた、あまり気は進まなかったが、デフは全員に、おとぎ話のような、一連の話を話して聞かせたのだった。
そのうち、時刻は0時を回っていた。
「息子は……息子は……」
加害者の父親は、用意された、廃屋のソファーで、肩をふるわせて泣いていた。
午後二時ごろだった、物音がして最初にきづいたのは、デフが連れて来た犬のベンだった。
「ワンッ」
見ると、加害者の父親が何かをしている……廃屋の梁にロープをたれさげて。
「おい!!みんなおきろ!!」
その場は皆で説得しておさまったが、どうやら情緒不安定のようだった、精神を落ち着かせるため、リドが歌をうたったり占いをしたりした。
息子が小さいころすきだったという人形をもっていて、それはトムそっくりだと、リドは優しい言葉をかけた。犬のベンは、かまわずその人形にたいあたりをしたり、なめたりしていた。
「責任を取ろうと思っただけだ」
だれも言い返せるものがいなかった、デフとて、パンプキンヘッドの話は信じたい、しかしそんなことは……。
リドは、ベンが寝ているころ、加害者の父にある昔話を聞かせた、それは窃盗をくりかえしていた、少女時代の話だった。
「ある刑事が、何度も何度も見逃してくれて、なんで、っていったら教えてくれたの……“おれたちだって、悲しいできごとはおきてほしくないのさ”」
子供はまだ、やり直せる、そういって頭をなでた、それがデフだと、彼女はかたった。

次に目を覚ましたのは、デフだった、それは午前3時のことだ。彼はさとった、それは野生の勘ともいえるものだった。足音がする、廃工場の周囲を、走っている“人間がいる”、それは間違いなく、“奴”の足音だった、何度も何度も、この長い人生の間できいた、狂気の人間の足音だ。
“パンプキンヘッドは、カルトに染まった科学者が、息子を生き変えさせるために、被り物に呪いをかけたことからはじまった、連続殺人事件”
犯人は、何人とも何十人ともいわれている、だが、一人たりとて捕まったことはない、捕まるまえに、自殺するか、殺されるか、そのどっちかだ……。
彼は、説得を試みようときめていた、彼にはそれができるのだ。

彼は胸元から拳銃をとりだして、弾丸をチェックし、安全装置を解除した。決意を宿した目の、鋭さは本物だった。
「レド!!頼む!!いった通りにして、みんなを守ってくれ!!」
そういうと、レドはみんなに何かをくばっているようだった。それはパンプキン人形、子どものおもちゃのようなものだった。その行為が行われている最中、窓の外から、ギャッという声がした。だれかが左側の窓に何かをなげつけたようだった、ずりおちたそれをみるとパンプキン人形だった。
「このバカ息子がーへんなカルトにはまりおって!!!」
狂気をやどした、加害者トムの父親がさわいでいた、トムはかたわらにおちていた、農具のようなものをひっぱりだして、ガラスにむかっていった。
とたんにガシャーンと音がした。
「俺が殺してやる!!」

騒ぎをさけるように、デフは入口から外へでた。
「あの人形さえあれば大丈夫だ……」
彼には自負があった、いままで、彼だけが、それを信じていたのだ。彼は事件に対していつも紳士だった、それがカルト的側面をもとうが、霊能力的側面をもとうが、同じことだ。

リドは、加害者の父を説得している、しかし、そんな科学があるはずがない!!と暴れだす父、やはり奇妙な話をしたのがまずかったのか。とそのとき、屋内とも外からともわからぬ大声で、人の声がした。
「あるんだよ」

「ジャックオーランタン、いや科学者コフ、息子ヨセフ、気づいているぞ、お前たちは親子だ、死んでも死に切れぬ、切っても気に切れない感情に支配されている、つながっている、だがこんなことは、いつかやめなくてはいけない、やめなくてはいけないのだ」
まけじとデフは叫んだ。裏山をかけぬけて、声のした位置をさぐっていた、一発空にむけて、弾丸を放った。
《ドーーーーン!!!》
むなしくひびく大音量は夜中の山でこだました。
「うひひひ」
でかいかぶりものをした男が、傍らのすぐ目の前の木と木のはざまから、上半身を奇妙にまげて、てをふっていた。

リドはまた落ち着かせるように、占いをしていた、それは自分への占いでもあった、そもそも占いをはじめたのも、あの刑事―—デフに言われた事がきっかけだ——あの刑事の紳士さは、目に余るものがある、それは、きっとレドも考えているはずだった。
「またあの人は一人で」
さっきの独り言からうかがえることだ。
彼女がみていた水晶には、二人の様子がみえた、彼女の膝の上、ソファーの下の地べたにすわる彼女は、ジャックオーランタンの姿をみつけて
その内面の——オーラーーのようなものにピントをあわせようとして、眼を閉じた。

「うひひひひ!!!」
ジャックは木と木のはざま、くるくるとまわり、上下左右、どことかまわず敵をおちょくった、しかし、デフは安直な発砲はしなかった、彼とて被害者かもしれぬのである。
「おい!!気がふれているかもしれんがな、若者なんだ、まだ、まだやり直せる!!」
「うるせえ!!お前は優しすぎるから、出世コースを外れたんだよ」
「ぐっ」
走り出した彼をおいかけようとすると、奇妙なものが足にひっかかっているのにきづいた、ネズミ捕りのようなもので、鋭いハリがついていた、それが彼の足を、足の甲をつらぬいていた。
「ぐああああ!!!」
彼はハンカチを足にまきつけて、そのまま走り出した。

リドの見ていた水晶には、彼等の様子はすべて写っていた。
「しかしこれは、さっきのは、私でさえみたことがない……」
リドは再び、ジャック・オー・ランタンの被り物にピントをあわせた。その瞬間だった。
「ぐああああ!!!」
リドのブレスレットがおおきくゆれる、彼女は首から、背筋からのけぞって苦しみだした、眼をかかえて、うめいている。
レドがかけつけて、解放する。
「どうしたんだ!!」
「目が、目が!!あの人は……あの人は……人じゃない!!憎悪の集合だ!!あれは、いろんな人の魂が集まって!!!あれは!!
被り物をどうにかしないと!!!!あの人があぶない!!」
リドは目から血を流していたが、二人の刑事や警察官は、周囲を警護しながら、リドのほうをかまっているよゆうもなかった、二人の刑事は、加害者の父おやを、狂った父親をおさえていたのだ。
「殺してやる——!!!このバカ息子がああ!!!カルト教団がああ!」
尋常ではなかった、唯一尋常だったのが、デフ一人だけだった。

しかし、そんなデフの奮闘もあと少しのように思えた、さきほどの足の傷で、早くは走れない。
「一度、本部に戻らなくては……」
そのとき、背後で音がしたので、反射的にふりむくと、あきらかにパンプキンヘッドがいて、暗闇から顔をだしていた。
デフは、痛みのせいでぶれる標準を彼にあわせて、ためらわず胴体をうちぬいた。

「うごおおお!!!」

流血のせいか、視界がぼやけてよくみえない、しかし、男はうごめいていた、後一発、後一発、はいずりながら彼のほうへ向かうデフ。
「皆は無事だよ、お守りがあるからな……」
男はうごめきながら、四つん這いになりながら、息を切らして、呼吸を整えられない様子で、わめいていた。
「この体はああ!!もう終わりだあ、お前に殺された!!お前だけはいい奴だとおもっていたのに!!!」
「父親にやらせるわけにもいかんでな」
普段言わないようなことが口をついてでる……枯れ葉のカーテンの上を、かすむ目のまま、標準をあわせて、ジフはちょうど、パンプキンヘッドの真ん中に標準をあわせたのだった……真黒な虚空に、快音がひびいた。
「パーーーーン」
ひと呼吸、ふた呼吸、そしてジフは、無線で仲間に連絡をいれた、仲間は祝福の声をかけた。
「やったぞー」
「すきやきだー!!」
(ふう、やっとかえれる)
しかし、そのときだ、かすむ目をこすり、めを前へむけると、パンプキンヘッドが動いているようなきがして、さらにめをこらして、うつぶせのままそちらをみやる、と……パンプキンヘッドのしたから、子どものものと思われる手と足が姿をあらわして、妙な踊りを踊って、けたけたと、人間ともおもわれぬ不気味な声をだしてわらった。

「こっちだよ」
ジフの背後では、バールのようなものを振り上げた、トムらしき男性の姿があった。
そのころ、廃工場の作戦本部では、祝福ムードがただよっていた、ただひとり、水晶をみて叫んでいるリドを覗いては、レンもそれをみていたが、ほかの刑事はしらけていた。
「ほっとけほっとけカルトはよ」

林の奥、二人の男の戦いは続いていた、死に体のデフは、あおむけのしせいのまま、首を真上にむけて、さかさまにパンプキンヘッドをみると、そこから子供の手足など生えてはいなかった。
トムのほうをみやる、被り物を脱いだ男は、ボディペイントで。ジャックオーランタンの仮装をしていたのだった。
「さよなら……デフ、愛してるぜ、ありがとうな、この20年間」
「ま、まてええ!!!」
「残念、息子はパンプキンの人形が大っ嫌いだったのさ、超常科学の名にも知らぬ、しょせん、他人に息子の気持ちなどわかるものか」
パールをふりかぶった男は、一瞬動きをとめた、デフが男にみせたのは、ジャックオーランタンの人形だった。
落ち着いた様子で、デフは説得を試みる。
「俺にも息子がいるんだ、あんたの親の気持ちもわかるぜ」
「だから?そもそも俺の中には何十人もの怨霊がいる、いったい誰の事をいっているんだい?」
トムは、陽気にくびをかしげてみせた、ジェスチャーで両腕でクエスチョンマークのポーズをする。

「あんたの息子は、いやあんたは、いじめられていた」

「……違う!!」
突然大声をあげて、パールを真下に振り下ろす、それから急所をかばおうと、腕で防御したデフだったが、それはかすりもせず、地面にささった。

「いじめられてなどいない、奪う側だったのだ、現にそうじゃないか、人の命も、絆も奪ってきたんだ!!現実でできなかったことは
すべて、人の体をつかって!!」

そういう彼の顔は、メイクがくずれるほど、涙や体液でぼろぼろになっていて、眼は白目をむいている、その様子をみて、デフはかまをかけたのだった、それが命取りともしらずに……。

「どうだかな……本当はこの人形……好きだろ?」

デフが似合わずに、皮肉を言った瞬間、犯罪者の、狂気の瞳がかがやき。パールが月光できらめいた、首元めがけて、最後の人差しが放たれたのだった。

病院ではデフの息子が眠りの中にいた、デフからうけとったジャックオーランタンの人形を大事そうにかかえて……。

3年後、デフの息子ゼムは中学生になっていて、リドと街中で会う約束をしていた。あるカフェテリアで10時に町あわせをした、春まっさかりの、土曜日だった、対面座席で、二人は話をした。
「お母さんの事は覚えている?」
「いいえ」
この数年、親戚にそだてられて、少しニヒルな表情をみせるようになったゼムは、でもあのときより大人びて、着実に成長していっていた。
リドの娘も、引きこもりがちな生活から脱したのだと、その店ではなした。
その後、二人で墓参りにいった、命日ではなくとも、時間があえばこうするのだ、そして、リドは立派な父親の話をするのだ。

墓前にたち、はなをそえ、二人で合唱をする。リドは昔話をしたあとに、こういった
「あの人がいなければ、私はいまのような人生も歩めていない、アクセサリーの店の経営も、占いの店の経営もできなかった、だからおせっかいな刑事には感謝しているのよ」
なにもいわずに、数分おいて、ゼムの肩を抱きかかえる。
そうするとゼムは、あのときの彼女の娘、デフの出会った少女のように、なきながら、わらうのだった。綺麗な顔をしてわらうのだ。

パンプキンヘッド

パンプキンヘッド

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-02

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著作権法内での利用のみを許可します。

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  2. 2
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