グローブパペット

「そうだ、猫に謝りなよ、この前頭をたたいたろ」
「ごめんなさいお兄ちゃん」
暖炉を囲むように、ふたつのグローブパペットが会話をしている、そして腕の間隔はずっと同じまま、暖炉の方向をみつめて、彼等は会話する。
「おかあさんもどってこないね」
「おとおさんももどってこないよ」
初めに話したのは、眼鏡のお兄ちゃん人形だ、次に話したのは、みつあみの妹人形、一回り小さいのだ。
「暖炉に火をともしましょう」
「そうね、ともしましょう」
カーペットの下には血痕が見えている、しかし随分古いもので、黒ずんでいる、きれいに拭かれたあとすら見えるのだ。しかしパペットたちはそちらをみないし、気にもしない。
「お義母さんは、パペットを使うのが上手だったわ」
「でもお義母さんは厳しい人だったじゃないか、だって、いつも勝手にさわるとおこったよ、化粧台の化粧だってそうだ」
「守ってくれたわ、強盗から」
妹人形は、光の加減か、頬の赤らみを示したボタンがきらりとひかって、涙をながしたようにみえた、壊れたガラスのサッシの蔭が、口元を覆い隠す。
やはり腕は動かない。
「誰も帰ってこないね……」
「もうあれから15年もたつんだ、借りてもいないんだよ」
ごとごとごと、奥から大きな音が聞こえた、
「ニャアアアア!!!」
奇声を上げたのは、猫だ、尻尾がみっつにさけた猫だ、そして彼はしゃべった、先ほどまでと同じ声で。
「皆いない、僕はここで、あの犯人の強盗を見つけるまで、人形劇を続けるよ」
猫はグローブパペットのもとへもどし、頭や手足を器用につかい、彼等の動きをつくり、ふたたび会話をはじめた、両親の人形もある、母は背が高く、髪は巻き上げている、父はふとっていて、ボタンが飛んでいる。髪の毛は頭頂部が薄く、毛深い、そんななりで一度離婚を経験したのだ、そういって猫は笑う、彼は腕のようなものを、あと二つ用意して、父と母の土台をつくった、そして、ミニチュアの家具をくわえてきて、暖炉の前のテーブルにならべた、カーテンやカーペットもボロボロだが、猫が住むにはいい空き家だ、彼が土台にしたのは、精工にできたマネキンの腕。しゃべっていたのは、この家にずっと飼われていた化け猫だったのだ。

グローブパペット

グローブパペット

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-02

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