第4話ー7

【ある兵士の日記より】

 もう日付の感覚がない。
 総官の命令で私に部隊は敵対生命体をひきつける役割を担った。しかし結果は惨敗である。敵対生命体の勢いは凄まじく、瞬く間にシールドは崩壊、黒い波に部隊は呑み込まれた。幸い、私は個人シールドで身を守ることに成功、戦場から逃げることに成功した。
 逃げた時点で緊急食糧と水分は持っていたが、現時点でほぼ底をついてしまった。現在地はどこなのかもわからない。ただ岩石ばかりが広がり、原住民が住んでいたと思しき岩をくりぬいた建造物を発見した。だが人の気配はない。まるでどこかへ逃げて行ってしまったかのようだ。
 これはおかしい。我々が惑星を攻撃した時に居たはずの原住民がまるで見当たらない。戦闘を繰り広げたはずの原住民が霞のように消えたのだ。
 一体、この惑星で何が起こったのだろうか。
 データベースで検索しても戦闘した敵対生命体のデータは見当たらない。
 私たちは誰と戦っていたのだろうか?

 あれからまた何日が過ぎたのかわからないが、とうとう食料と水分が無くなった。現地は岩石ばかりで食料がなにかないか探している。住民がくらしていたと思われる岩石を掘った穴をしらみつぶしに探してはいるが、なかなか食料らしきものは見つからない。
 辛うじて食べ物らしき物を発見はしたが、成分を調査してみると身体に害はない様子だが、見た目が悪い。紫色の粘々としら、かろうじて個体を保っているようなゼリー状の物体である。これを口にするときは、限界が本当にきた時にしよう。
 それにしてもだいぶ歩いたというのに、生物の気配がいっさいない。本当に神隠しというしかないほどだ。
 データでは原住民の他に生物が幾種も生息しているはずなのだが、それすらも見えないのだ。まるで惑星そのものがあの敵対生命体に食われているかのようだ。

 現地の食べ物は口に合わない。まるで生ごみでも口に放り込んだような味がする。それでも食べなければ生きられない。無理矢理喉の奥に押し込んで食べてはいる。
 幸い、到着する原住民の住まいには、必ずこの食料は備蓄されている。原住民の主食だと思われる。
 そしてありがたいことに、生存者がいないと思っていたのだが、味方の信号を複数確認することができた。味方の救助隊を待つ間、孤独と向き合う覚悟をしていたがその覚悟は無用だったようだ。
 装備は最小限のものしか所持していないが、敵対生命体が現れたならば、仲間に頼ろう。そしてこんな地獄からは抜け出してやるんだ。必ず。

 これが仲間なのか。
 信号をたどって生き残った部隊と合流した。岩石まみれの惑星で唯一といってよいほど、小さな茂みが生息する近くの洞窟に部隊は居を構えていたのだが、その隊長というのが最低の奴だ。部隊と合流したければある食料を渡せというのだ。
 他から来た生存兵の話では、集まってきた生存者から食料を奪い、自分の部下と分け合って、生き残ろうとしているらしい。表向きは人数が増えたので配給すると言っているらしい。
 あれだけ歩いて集めた食料は、全部奪われた。相手は武器を所持している。自分は生存に必要な僅かな装備だけだかなうはずもない。
 救難信号は発進しているらしい。それで救出部隊が来ることを願うばかりだ。早く来ないとあのいけ好かない隊長を殺してしまいそうだ。

 何日ぶりの更新になるだろうか。部隊に合流してからずいぶんと色々なことがあった。
 生き残りの兵士が何人か合流したことで食料が足りなくなった。食料調達を命じられた数年が出て行ったが未だに帰ってこない。食料はその間にもなくなっていく。量が日に日に減らされていくせいか頭がぼんやりとしてきた。
 中には身体の震えが止まらなくなった奴もいる。そして病気なのだろうか、何人かは起きたら死んでいた。隊長は感染性の病気ならば危険だからと洞窟から運ばせて焼却した。
 不思議なんだがその仲間が燃える臭いがいい匂いに感じてしまう。腹が減ってくるのだ。まさか自分も狂ってきているのだろうか。
 そういえばさっき、武器を手にして外に出て行った奴がいた。隊長に逆らって自分たちよりも食料の量を減らされて、何日も栄養が足りていないのだろう、痩せて装備ががばがばになっていた。
 あいつ、きっと戻ってこない。そんな気がする。

 食料の底が見えてきたところで争いが始まった。隊長は食料を独占している様子なのは最初からわかっていた。皆が栄養不足で痩せていくのに、隊長は平然として、理不尽なことばかり命令してくるからだ。自業自得である。皆が隊長を殺したのは。
 それでも食料は足りない。こうなると人は食料を争うようになる。そうだ、殺し合いの始まりだ。武器を奪い合い、さっきまで生きていた奴を殺す。そうするしか生きるすべがない。
 潔癖な奴は殺し合いを嫌がって洞窟を出て行った。きっと帰ることはない。それまでの連中と同様に。
 これで少しは食料が持つだろう。

 久しぶりの記録だ。何を記録すべきか。とにかく死ぬ前に書いておきたい。皆、死んでいく。生き残った連中も、武器を持つことすらできない。食料が無くなって何日にが過ぎたのか。
 外の茂みの草を食べた奴がいたがその場でもだえ苦しんで泡を噴いて、顔を真っ赤にしながら死んでいった。きっと毒があるのだろう。
 生き残ったのは自分とあと2人だけだ。仲間の遺体を運ぶことすらできない。だから腐った死体の横で寝るしかない。体力が亡くなってきているのか、気づけばずっと寝ている。次に寝たときは目が覚めないような気がしている。
 故郷の残してきた両親に会いたい。また母のうまい飯が食いたい。こんなところで、こんなところで。

 もうくるうしかない。
 じぶんは、なかまをたべた。さいごにいきのこったのはじぶんだけだから、たべないとしぬ。もうかんがえることも、あるくこともできない。よこでしんだやつのにくをけずってたべて、すこしでもいきる。いきたい。こんなところでしにたくない。かえり

 トハは腐敗臭が充満する、肉塊になった兵士たちが死んでいる洞窟の中で、クリスタルの記録スティックからホロスクリーンを投影して、記録を最後まで読んだ。ここで何があったのか、自分の中にしっかり刻み付けておきたかったのだ。
 兵士の1人が聞いてくる。
「遺体の収容は難しいかと。個体識別をするのも大変な状況です」
 トハはスティックを握りしめ、兵士に命令した。
「連れて帰る。必ず故郷で葬ってやりたい。
 そこへ別の兵士が洞窟へ、不快感をあらわにしながら駆け込んできた。
「付近を探索したところ、複数の遺体を発見しましたが、すでに白骨化が進んでいるものもあります。いかがいたしますか」
 軍省総官は苛立ちをぶつけるかの如く、兵士へ言葉を投げた。
「回収だ。全員連れて帰る」
 そう言い放つトハではなるが、自分たちも故郷への帰還ができないでいた。
 惑星を出たとしてもも前線基地へもたどり着ける。しかしそこからが難しい。恒星系を抜けようとすると、あの黒い生命体がどこからともなく現れ、船を破壊しつくす。だから前線基地から出られないのである。
 洞窟を抜けたトハは空を見上げた。そこには美しいばかりの空が広がっていた。

ENDLESS MYTH第4話ー8へ続く

第4話ー7

第4話ー7

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-01

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