アンドロイドの奇行について……。

22世紀初頭、アンドロイドとAI産業は佳境をむかえ、街は人工的人間によってあふれかえっていた。
体の一部を改造したもの、はなからアンドロイドだったもの、もしくは、クローン技術によって自らの保身を保つもの。
そんな中、アンドロイドやAIが人間をこえるような動作、不具合を起こさないように監視する団体がいた、彼等はTechnological SingularityWatchdog
頭文字をとってTSWとよばれていた。

 彼らが日常業務において行うことはただ一つ、彼ら自身のスコープ(アンドロイド恒常動作確認装置)によって、企業、団体から与えられたアンドロイドのソフト、ハードデータをもとに、彼等が目視で確認するアンドロイド、AIの動作が、正常な動作であるかを確認し、そうでない場合、依頼者によって指示された対応[1連絡2捕獲3破壊]を、ケースごとに段階を経て行う。TSW職員は、まるで特殊部隊のような、防弾チョッキや、ライフル型の捕獲装置などもっているから、その見た目から、普段から一般人や消費者に恐れられていて、依頼さえあればアンドロイドを破壊することもあるので、
“アンドロイドの掃除屋”と呼ばれることもあった。

しかし、そんなTSWの職員がかかわった、意外な事件をひとつご紹介したい。彼等の別の面が明らかになるはずだ。
2125年のことだった。あるアンドロイド製造工場から、連絡がはいった。
「製造番号○○○号、こういってもわからないだろうが、アンドロイドが検査中に行方不明になった、すぐにきて、原因をつけとめてくれないか」
TSW職員はすぐに現場に派遣された。5名のグループだった、
「TSWから来たものです、連絡された事のほかに何か普段と変わったようなことはありませんでしたか?」
「ああ、特に……いや、ある、あるぞ!!少しだけなんだが、アンドロイドが奇妙な動きをする事があるんだ」
「場所や状況や日時は把握されていますか?」
「ん?あ、場所!いや、ついてきてくれ、とにかく、あそこで変な動きをするんだ」
連れていかれたのは、アンドロイドの運動場。歩行検査ラインだった、ここで製品の最終チェックをするらしい。ベルトコンベアの上をはしったり、
ただしかれた土の上をあるいたり、アンドロイドはせわしなく動く工業用アームなどの間をぬって、白と黄色にぬられた地面のラインがひかれている、
ときにジグザグに、ななめに、カーブを描きながら、アンドロイドたちはそこで一列にならび、試験をうけているようだった。

あるななめに曲がりくねった位置の、入口からみて左の奥の場所、角のすこし手前よりの箇所に、ベルトコンベアのゾーンがあって、どうやら、案内してくれた工場長―—ベン―—の話によると、そこで異変があるらしい、職員は3人ほどそちらへむかい、2人は工場内の調査にむかった。

「ベンさん、ここでおこるおかしなこととは、なんでしょうか?」
「ほら、コンベアの上ではねているじゃないか、普段はこんな動作しないんだよ」
「これは耐久度テストや何かでは?」
「違うね」

派遣されたグループのリーダーはすぐにこの場所に何かあると踏んで、調査を依頼した、しかし工場長は気分屋らしく、すでに“飛び跳ねたグループ”については危険性があるので処分してほしいという、その数ざっと20体はあったが、工場を止めるわけにもいかず、そのコンベアごとはずし、検査は引き続き行われることになった。

「奇行、蛮行ねえ」
工場長いわく、逃げ出したアンドロイドは、屋根をつたい外にでたという、普通そんな運動能力は制御されて手に入れることなどできないのだが…… アンドロイドは、屋根付近で、“アオーーン”と吠えたらしい、プログラミングリストに、テスト用の動物音声をしのばせてあるし、アンドロイドの初期設定には幼児ほどの知性はある、しかしこれは……と、3人のグループが先ほどから、工場の外でコンベアの分解作業をすすめていた、バーナーで焼き切る必要のある個所もあったが、許可はでている、と、中から何か物音がする、慎重に、中の“もの”を傷つけないようにコンベアをうごかしつつ、最後の箇所をバーナーで焼き切った。さびついて、ひどい。

「中に何かいるのかな」
「アンドロイドじゃないか?」
「こんなところに?」
「仲間をまもったのかもしれませんよ」

 しかし、ベルトコンベアの間に挟まっていたのは、なんと、小さな猫だった、アンドロイドたちの奇行はこれを知らせるためだったらしい。そのバグの理由はよくわかっていないが、アンドロイドプログラムの中に生命尊重の倫理感が設定されている。だから彼らはある意味で、身を挺してその小さな猫を守ろうとしたのかもしれない、はじめの奇行アンドロイドが、なぜ狼のモノマネをしたのか、それはすぐにわかった、動物のテスト音声の中に、猫の声は含まれていなかったのだ、幼児ほどの知性しかないとはいえど、生命尊重のためのプログラミングは、優先して作動した。
 数日後、初めの一体目の奇行アンドロイドは、遠く10キロも離れた西の果ての道路で車にひかれているのを発見された、アンドロイドが倒れていれば、すぐに警察や裏ルートからTSWに連絡が入る仕組みになっている、アンドロイドの製造番号や個体の特徴からいってまず彼に間違いはなかった。

 なんとも後味の悪い話しになった、しかし、失われた20体と一体のアンドロイドは、こうしてTSW職員の内で、“動物を救った英雄”として語り継がれているのである。

アンドロイドの奇行について……。

アンドロイドの奇行について……。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-01

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