憂鬱

杉山 実

  1. 事件発生
  2. 捜査
  3. 更なる事件
  4. 同一人物
  5. 困惑
  6. ネット投稿
  7. 死のマネキン販売
  8. 薬草同好会
  9. 事情聴取
  10. 類似犯行
  11. 過去の記憶
  12. 裏取引
  13. 過去の死因
  14. 美容整形
  15. 過去の憎しみ
  16. 過去の罪
  17. 上品なお婆さん
  18. 老人ホームの事件
  19. 毒饅頭
  20. 折檻
  21. 水死体?
  22. 縺れる推理
  23. 突破口
  24. 見えなかった物
  25. 新事実
  26. 不仲の兄弟
  27. 黙秘
  28. 同級生?
  29. 避難
  30. 交換条件
  31. 天橋立に現る
  32. 毒殺された記者
  33. 繋がり始めた真実
  34. 戸籍の消失
  35. 帰宅へ
  36. 新たな証言
  37. 明日香の驚き
  38. 発表
  39. 捜査会議①
  40. 捜査会議②
  41. 捜査会議③
  42. 記者会見
  43. 供述
  44. 死人に口なし
  45. 結末

ランダム投稿に成りますのでお許しを!

事件発生

 51-01
真夜中の一平と美優のマンションの前を、けたたましい音で救急車が続けて二台走って行った。
「二台も同じ方向に行ったな!」
「今、眠ろうとしていたのに目が覚めちゃったわ!でも事件では無い様ね!イチが鳴かないから」
「そうだな!急病人か交通事故だな!寝よう!」
「目が冴えて眠れなく成っちゃった」
「そうなの?それじゃ僕が眠られる様にしてやろう!」そう言って美優の身体を求める。
しばらくするとトイプードルのイチが、変な鳴き声で鳴き始めるいつもの野平家の様子に成った。

翌朝、同じくイチの鳴き声で起こされた二人は、直ぐに電話が鳴り響く音に完全に目覚めた。
「事件だ!」ベッドの上で起き上がった美優は「あっ!」そう言って再びベッドに潜って下着を捜す。
昨夜から全裸で眠っていたので、電話の処まで直ぐに行けなかった。
「もしもし!のひらです!」何と子供の美加が受話器を持って答えている。
ようやく美優がパジャマ姿で寝室を出て行くと、受話器を置いた美加が「じけんだ!はやく!さやま!だって」そう伝えた。
「驚いたわ!美加が電話で話せる!」と抱きかかえた時、一平が起きてきて「事件か?」と尋ねた。
「パパ、さやまって言ったよ!」笑顔で美加が寝ぼけ眼の一平に伝える。
「美加が聞いたの?」驚いて美優の腕から美加を取り上げる一平。
「そうなのよ!凄いでしょう?美加が電話でお話出来たのよ!」
喜ぶ一平が美加に頬刷りをすると髭に「いたいー」と怒る美加。

そんな和やかな雰囲気は直ぐに伊藤純也刑事の訪問で消し去って、朝七時の出勤に成った一平。
「刑事の仕事も働き方改革に成らないのかね?」
「主任それは無理でしょう?事件が何時発生するか判りませんからね!」車に乗り込むとその様な会話が始まる二人。
「無差別殺人の可能性が有るらしいですよ」
「どの様な事件なのだ!」
「昨夜、救急車の音が聞こえたでしょう?」
「目が覚めたよ!あれが事件なのか?時間が経過しているが?」
「食中毒だと思っていたらしいのですが、毒物だった様です」
「昨日スーパーASUKAのイベントで、豚汁が大勢の人に振る舞われたのですが、それを食べた数人が夜救急車で搬送されたのですが、二人が亡くなったのです」
「えーー豚汁で頓死か?」
「主任!冗談を言っている場合で有りませんよ!」
「昨夜救急車が二台走っていたが、搬送されたのは二人だけなのか?」
「そうです、他には誰も搬送されていません」
「変な話だな?」
「毒物は何でしょうね、まだそれ以上の事は聞いていません」

二人が県警に到着すると、早速捜査会議の会場に向かう。
横溝捜査一課長が、二人の到着を待っていた様に「今から、事件の経過を始める」と立ち上がった。
「昨日、静岡市内で二人の女性が救急車で搬送されたが、夜半二人共亡くなられた。二人は昼間スーパーASUKAのイベント会場で、豚汁を試食されて自宅に持ち帰られて夜食べてから体調が崩れた。昨日は天気が悪くイベントで作った豚汁が大量に残る様な感じに成り、主催者側が急遽持ち帰りの容器を準備したらしい。毒物はスズランだった」
「課長!今スズランとおっしゃいましたか?」
「そうだ!スズランは強い毒を持っている!専門家の書いた資料を渡す」とスズラン属の日本在来変種は、本州中部以北、東北、北海道の高地に多く自生する。
北海道を代表する花として知られ花には強い芳香がある。
観賞用に栽培されているものの多くはヨーロッパ原産のドイツスズランである。
日本に野生するスズランと比べると大型で花の香りが強い。
またスズランの花茎が葉より短いのに比べ、ドイツスズランは花茎が葉と同じ長さかそれ以上に伸びる。
花色は白が普通だが桃、紅などもあり、葉に斑(縞)の入った品種もある。
強心配糖体のコンバラトキシン 、コンバラマリン 、コンバロシド などを含む有毒植物。
有毒物質は全草に持つが、特に花や根に多く含まれる。
摂取した場合、嘔吐、頭痛、眩暈、心不全、血圧低下、心臓麻痺などの症状を起こし、重症の場合は死に至る。
北海道などで山菜として珍重されるギョウジャニンニクと外見が似ていることもあり、誤って摂取し中毒症状を起こす例が見られる。
スズランを活けた水を飲んでも中毒を起こすことがあり、これらを誤飲して死亡した例もあると書いて有った。
「わー凄い毒が有るのですね!」書類を読んで驚きの声を上げる刑事達。
「これらの事を考えると無差別殺人事件ではないか?その様に考えられるが、手分けして豚汁を作った人、配布した人、スーパーの関係者を聞き込みして欲しい」
横溝捜査一課長も、何が目的の事件なのか?状況だけではスーパーに対する恨みに見えるが、断定は出来ないと締めくくった。 

美優もテレビの報道で事件のあらましを見て「また変な事件が発生したわね!スズラン?」と口走ると美加が「スズランって綺麗な花でしょう?」と尋ねた。
画面にはスズランの花が映し出されて、とても猛毒が有るとは思えない。
スーパーASUKAは静岡県を中心に、山梨、愛知、長野に合計六十店舗を運営して、食料品中心で一部日用雑貨も揃えている。
ニュースが流れてから、豚汁を食べた人が病院に殺到したが、二人以外に中毒症状が発症した人は居なかった。

事件が起った店は静岡市葵区に位置し、静岡駅まで僅かの地理的条件の良い店だった。
店は臨時休業に成り、県警の刑事、鑑識等大勢の人が入って、収拾が出来ない状況に成っていた。
報道関係の車両が沢山道路を塞いで、通行の妨げに成る程だった。

捜査

  51-02
葵東店の店長荒木は、早朝から警察の事情聴取に困惑をしていた。
昨夜十一時に店を出て、自宅に帰ると直ぐに店に戻って、眠っていないのだ。
葵東店は店長と副店長の横山以外は全て女性、社員はもう一人レジの担当で青木小代子が居るが他は全てアルバイト、パートで構成されている。
店は二十四時間営業で、店長の荒木と副店長の横山が交代で店に居る事に成っていた。
昨日は雨の為、客の入りが悪くイベントで準備した豚汁が残りそうに成ったので、欲しいお客に持ち帰りを許可したと、荒木が証言した。
前日の準備は副店長の横山が、パート三人と調理して準備を行ったと証言した。
あいにくの天気で客足が伸びず、荒木店長が二時過ぎにお持ち帰りの容器を準備して、欲しい方に差し上げる事に成った。
それまでは持ち帰りの事は計算に無かったと話して、パートの店員とバックヤードのパートはこの時間に一部帰った。
夕方からはアルバイトの学生も二名加わって、六時には豚汁は全て無くなり、六時過ぎには容器を洗浄したと証言した。

一方亡くなった主婦の調査に向かった伊藤刑事と白石刑事は、森本清美と云う主婦が何時にスーパーに行って何時に自宅に戻ったか家族の者は判らない。
御主人は仕事で夜遅く帰り、苦しむ妻を病院に付き添ったので詳細は判らなかった。
大学生の息子が帰ったのが六時半、食事は二人で七時半に始めて、自分は豚汁を飲まなかったと証言した。
もう一人の被害者大垣美沙は新婚で、御主人の大垣晋と一緒に九時過ぎに食事をして、二人共豚汁を食べたが妻だけ体調が崩れて、夜半救急車を呼んだが手遅れだった。

夜の捜査会議で横溝捜査一課長は
被害者  大垣美沙   二十八歳   森本清美   四十七歳  二人共主婦
共通点無し、殺害される事件、事故等は無。

スーパーASUKA の店長  荒木芳樹 三十八歳
        副店長  横山武則 三十五歳
     豚汁の調理のパート  加東、迫田、加古
       客に配った人   青木小代子レジ係で社員
         パート    守木、菅野、藤井
         学生バイト  金沢、露木
「以上が調理と販売に関わった人だが、副店長の横山は事件の発生まで、店には入っていない。夜は冷蔵庫に保管されて朝から煮込み、十一時に配られている。二時過ぎまでは持ち帰りは行われていない、店長の荒木が残ると思い急遽持ち帰りの容器を準備して、欲しい客に配った」
「スズランの毒で亡くなって居るのですが、何を食べたのですか?」
「根の一部を二人共食べた様だ」
「他の人には被害が無かったのは、何故ですか?」
「一緒に煮込んでいないのでは無いか?放り込んだ!」
「煮てない物は食べられないでしょう?」
「別の容器で煮込んだ物を混入させた可能性が有る!」
「完全な計画的な犯行ですね!店に対する恨みでしょうか?」
「そうだろうな、個人的な恨みで二人の殺害をするには無理が有る!明日から店を最近辞めた人、トラブルを起こした人を捜す事に重点を置く事にする」
捜査会議が夜の十時に終了して、自宅に戻った一平を待っていた美優が「資料見せて!」と微笑みながら言う。
「また、首を突っ込むのか?今回はトラブルを起こした従業員か、内部犯行に間違いない!美優の出番は無いと思う!」
「そんなに簡単に解決する事件かな?無差別殺人なら範囲は広いわよ!」
そう言いながら一平の会議資料を見始める美優。
夕方はもう暗いから、犯人は闇に紛れて消える事も充分に出来る。
店頭で大きな鍋で豚汁を振る舞っていたとすれば、少し客が増えると鍋にスズランの根っこを放り込む事は容易いか?内部犯行とは断定出来ない!小さな根っこで死ぬ程の毒を持っている事を知っている人は多くない!監視カメラの映像を分析したが、店内の様子は細かく判るが、調理場と店頭の様子は細かくは撮影されていない。
でも犯人像は広すぎて中々特定が難しいと思う美優。
無差別殺人、スーパーASUKAに恨みを持つ人間か?捜査本部の見解と殆ど一致だと思い、会議の資料を読み終える。

翌日先月店でパート同士の口論で、退職した谷岡智寿子と云う四十五歳の主婦が居る事が聞き込みで判明。
調理場で加東、迫田と些細な事で口論に成り「仕事なんて幾らでも有る、貴女方もこの店で仕事出来なくしてやる!」と捨て台詞言って辞めたと言う。
副店長の横山が仲裁に入って、事なきを得たが一時は調理場の包丁を手に持っていたと証言した。
谷岡は入社して三ヶ月で、トラブルを起こした事に成るが、最近の人手不足で癖が悪そうだったが、深夜にも仕事が出来るので採用されていた。
履歴書のコピーを持って、自宅のマンションに向かった白石刑事と小寺刑事は、履歴書に書いて有る住所に、そのマンションの存在が無い事に驚き、連絡先の携帯に電話をしたが、音信不通に成っていた。
「この谷岡って女怪しいですね!」
「マイナンバーを登録されているだろう?調べてみなさい」電話を貰った佐山が小寺に伝える。
スーパーの店長荒木に連絡すると、提出を再三催促していたのですが、毎回忘れたと伸ばされていたが、辞めたので。。。。。と言葉を濁した。
この様な二十四時間営業の店は、最近の人手不足の影響を受けて人員の確保に必死で、店長も殆ど毎日四時間程度の睡眠しか出来ないと愚痴をこぼした。
スーパーASUKAは六十店舗の半数近い三十店舗を、二十四時間営業の店にしている。
静岡駅からさほど離れていない葵東店も葵西店も二十四時間営業で、各店舗は三人程度の正社員の他はパート、アルバイトで営業を行っているのが現状だった。

更なる事件

 51-03
翌日の捜査会議で、横溝捜査一課長は「マイナンバーを提出していない、存在の無いマンションを履歴書に書いた谷岡智寿子の行方を捜せ!」と指示をした。
「店の関係者に尋ねましたが、日頃からスズランとか毒草について話を聞いた人は居ませんでした」伊藤刑事が発表した。
「スズランの根っこを予め炊き込んで、鍋に混入させているので特定の人物の殺害は考えられません!確実に殺害出来るとは確証は無いそうです!嘔吐、頭痛、眩暈、心不全、血圧低下、心臓麻痺などで死なない場合も多いと医者の証言です」
「じゃあ、二人が死んだのは偶然か?」
「手当が遅れたのも亡くなった原因に成るそうです」
「普通毒を食べたとは思いませんから、嘔吐と頭痛なら治ると思いますよ!」
「それで深夜の救急搬送に成ったのだな」
佐山がスーパーASUKAに付いて発表を始めた。
「社長は朝比奈明日香、七十五歳、亭主の朝比奈信三は昨年心臓麻痺で他界、七十八歳でした。店舗は六十店舗で経営状態は順調です。自宅は伊豆半島の土肥に在ります。仕事は長男信一が専務取締役、長女碧の夫小島洋介常務、次男信治常務、次女奈々子の夫村上尚人営業部長が主な経営陣です。スーパー六十店舗以外に、最近は高齢者向けの宅配事業も始めて順調に業績を伸ばしています」
「会社には関係が無い様だな!個人的な恨みか、店に対する恨み、パート間の人間関係か?」
引き続き店の従業員への聞き込み、谷岡の行方を重点に捜査する事で、捜査会議が終わった。

自宅に戻った一平に美優が捜査会議の様子を尋ねたが、最初の方針と変わらず個人的な恨みと、谷岡と云うパートの存在が大きく事件に関係している話で、今回は自分の出番は無い様だと思っていた。
翌日も谷岡智寿子と云う女性の存在は判明せず、店は二日の休店で再開した。
だがこの日から店内で製造した品物を買う客が極端に減少したのと、客そのものが来店しなく成り閑散としていた。
営業部長の村上は再開の二日間の売り上げを見て、緊急な対策が必要だと専務の信一に進言した。
専務の信一は高齢の母明日香の後継を望んではいるが、長女碧の主人小島洋介、次男信治と対立状態に成っている。
信一と村上部長は積極派で、高齢者向きの宅配事業を成功させて社長の評判がアップした時に、今回の事件で早急な対策を迫られていた。

朝比奈信三は昔の人間で、長男が家督を継ぐ事を信条としていたが、後継を決める前に急な心臓麻痺で他界したので、日頃からの言葉が貫かれずに母親の明日香が社長の座に就いていた。
年齢では長女碧が五十二歳で一番上、その婿小島洋介は信一よりも五歳年上で五十五歳だ。
信一は五十歳、非上場会社で全ての株式は親戚縁者が持っている。
今回の事件で一番心配しているのは社長の明日香で、信一からの進言で直ぐにでもお客様にお詫びの特売セールを行う様に指示をした。
店の名前にASUKAと付けている様に、信三は妻の明日香を大事にしていた。
最初は静岡市内に野菜中心の店舗を出して、徐々にスーパーへと変貌して三店舗目でASUKAと命名して妻を喜ばせた。

営業部長の村上は指示を貰って、大々的な特価セールを打ち出す計画に入った。
特に店内で造る物は、半額として客の信頼を勝ち取る計画!その他の品物は全品三割引を打ち出し強烈なインパクトのイベントの案を提出した。
「これは閉店セールですか?」常務の小島は目を三角にして怒りを表わして、文句を言った。
「そうですよ!目玉商品を選び出して特売するのは判りますが、全て三割引きは聞いた事が有りません!三割も利益の無い品物も有りますよ!」次男信治も怒る。
「この店舗だけこの様なイベントをしても意味が無いでしょう?」
「新聞でも記載されている様に、人間関係に原因が有ると思われていますので、この葵東店だけで良いと思います」信一が言う。
結局紛糾したが、最後に明日香社長が「専務の意見を重視します」で決着した。
十日後から二日間だけの特価セールで、近くの店からの応援とバイトの導入で対応する事が決まった。
チラシは遠方には配布されないで、葵東店のお客様が来店される範囲に限定で新聞折り込みが入った。
美優が朝からチラシを目にして「えーーー全品三割引き!シャンプーも魚も肉も?お総菜、寿司、フライ、サンドイッチ、おにぎりも弁当も半額なの?」驚嘆の声を上げた。
「何の話だ!新店か?」一平が半分寝た様な声で尋ねる。
「違うわよ!事件の店よ!」
「スーパーASUKA か?」
「そうよ!これは行かなくちゃ!ごっそり買い込んで来るわ!限定って書いて無い」
「あそこの店、最近客居なかったからな、駐車場もがらがら状態だった!でも半額に三割引は凄いよ!」
「これで何も起らなければ客は戻るわね!思い切ったわね」美優も驚きの表情で見るチラシ。
「久美さんと一緒に行くのか?お袋にも教えてやろうかな?特売大好きだからな」
「英子にも連絡してあげたら?佐山さんの地区には多分チラシ配布されていないと思うから」
「そうだろうな?この様な強烈な企画広範囲に配布していたら、道路が渋滞するよ」
二人は笑いながら食事をして、その後美優が佐山英子と一平の母、志津に連絡をした。
美優と久美は昼過ぎにスーパーに向かうが、意外と駐車場は行列が少ない。
「みんなが敬遠したのね、これは助かったわね」
「ほんとうだわ!駐車場に入るまでもっと時間がかかると思ったのに、良かったわ」
警備員の誘導の中、出て行く車が多くて、入る車が極端に少ない事が判った。
その時一平の母親、志津が携帯に「今店に来たのだけれど、買うのを辞めた方が良いってみんな帰る様だわ」
「何故なの?」
「何でもスーパーASUKAの他の店で、ヨーグルトを食べた子供が亡くなったそうよ」
「えーー!それほんとうですか?」
美優は直ぐに電話を終わると県警に電話をした。
美優の名前を聞くと、刑事課に電話が繋がって横溝捜査一課長が出た。
「大変だ!今度はスーパーASUKAの他の店で、トリカブトの毒で子供が亡くなった」
と悲痛な声が電話口に聞こえた。

同一人物

 51-04
日本三大有毒植物の一つであり、古来からトリカブトの抽出成分を塗布した毒矢が、狩猟や戦いに使われてきた。人がこれを誤食した場合、死ぬこともある。
トリカブトには神経毒であり心臓毒であるアコニチンを含んでおり、嘔吐・呼吸困難、心不全などをもたらす。そして、その毒は即効性であり、口に入ってから数十秒以内に起こる。
新芽が芽吹く季節になると、ヨモギやセリとよく似ているためそれと見間違って誤食し、中毒死する事故がたびたびニュースになっている。
「今、被害者の自宅からヨーグルトの容器を回収して調べたら、上部から注射器で注入した様だ」
「えっ!それならヨーグルトが漏れるでしょう?」
「それが、値引き見切り品のシールが貼られて、その穴を塞いでいたので判らなかったのだ」
「何処の店だったのですか?」
「スーパーASUKAの島田店で、昨日の夕方買った品物を賞味期限が今日だったので、朝子供に食べさせたらしい」
「シールを貼った人が犯人でしょうか?」
「今、御主人達が島田の店に聞き込みに行っていますので、何か新しい事が判ると思います」
美優は電話が終わると、久美に詳しく説明して「でもこの店の品物は安全ね!行きましょう」と平然と店内に入って行った。
「何故?安全なの?」不安で尋ねる久美に「狙うなら、島田を狙わないわ!人間関係のトラブルでは無いのよ!この店の従業員のトラブルなら、ここを狙うでしょう?店に対する何かでは?だからここは人が多いので狙わない」
「でも人が多いと人混みに紛れるでしょう?」
「逆に誰に見られているかも判らない危険も有るでしょう?従業員も数倍多いし、ガードマンも多い」
「成る程!流石は美優さん!」久美は笑顔に成って、安い目的の商品を買い込み始めた。
流石に食べ物以外の売り場には人が沢山居て「これは安心だわ!」と話ながら買い込んでいた。

一平達捜査陣は、ヨーグルトが販売されたスーパーASUKAの島田店で、店内の監視カメラの分析と従業員への聞き取り調査を行っていた。
「このラベルを貼り替えたのは、何時頃で何方がされたのですか?」
島田店も二十四時間営業の店で、店長 馬場誠 四十歳 副店長 芳田昇平 三十三歳 レジ担当 目木理恵 四十歳以上が正社員。
他は全てパートとアルバイトが交代で、三人が休む時は本社の待機社員が臨時で入店する事に成っていた。
本社の待機社員は、県単位で配置されて各県に十人の社員が準備されていた。
島田店もこの制度で、副店長の芳田が三日間の休暇をしていたので、この日は本社から小野寺美紀子四十五歳が派遣されていた。
一平達は監視カメラを見ながら「見切り品の決まりは?」
「賞味期限の三分の一を過ぎると、見切り品に成ります!ヨーグルトは七日でしたので、残り二日に成れば担当がシールを貼ります」
「売り場には業者の人が並べるのですか?」
「昔はその様な事に成っていましたが、他社の商品を動かし不正を行うので、今では検品後当店の担当が陳列します」
「売り場の担当の方は本日いらっしゃいますか?」
「今日は来て居ませんね、明日早くから来る予定です」
「主任!この画像に映っている人でしょうか?」白石刑事が尋ねる様に言った。
その時、伊藤刑事が目木と一緒にやって来て「変ですね!この日付のヨーグルトは入荷履歴が有りません」
被害者が食べたヨーグルト二月五日は、入荷台帳には存在していない。
検品の時に数量と製造年月日の記載を、帳面に書かれて有り、確かに五日のヨーグルトはこの店には入っていない。
監視カメラを商品購入時間に送る一平が「この女性は間違い無く被害者の母親だ!」と画面を見て言った。
「間違い無く垣内さんは、この店で昨日の六時過ぎに買っていますね!この売り場の担当者とは連絡出来ませんか?」
「それが、携帯番号が違う様で繋がりません」目木が答える。
「パートの方のお名前は?岡谷寿子さんですが、まだ就職されて二ヶ月も過ぎて無いのです」
「住所とか連絡先の判る物は?」
「履歴書のコピーが有ると思います」店長の馬場が遅れて来て答えた。
しばらくして持って来た履歴書のコピーを見て「藤枝のマンションだな!所轄の警官に確認させる」直ぐに所轄の警察署に連絡をする伊藤刑事。
再び録画の画像を見る一平が「この従業員の方が岡谷さんに間違い無いですか?」
「はい、間違い無いです」目木が答える。
「でも日付を見て、シールを貼るまで数秒ですね!商品を持っていませんね」画像を見て伊藤刑事が話す。
「はい、この商品は比較的印字が大きいので、直ぐに判断して貼ったのだと思いますね!沢山の品物をチェックしますから、早いのです!」目木が補足説明をした。
しばらくして一平に、藤枝のマンションが存在していないと連絡が入り騒然と成る。
「この岡谷さんは私が面接しました!深夜も仕事が出来るので採用しましたが、マイナンバーの提出が遅れてまだ貰っていません」
「えーーそれって葵東店と同じだ!」白石刑事が驚きの声を上げる。
「モンタージュを見て貰え」
直ぐに伊藤刑事がポケットから折り畳んだ、似顔絵をテーブルに置くと「岡谷さんだ!」目木が言うと「ほんとうだ!岡谷さんに間違い無い!」店長の馬場も驚きの表情に成る。
一平がモンタージュの説明をすると、その場に居た全員が驚愕の表情に成った。
確かに面接で住所の確認もしない、免許証の提示も行わない。
本人の書いた履歴書を信頼するしか仕方が無いのが現状だ。
人手不足の現在、飛び込みで応募のパート、バイトはこの様な二十四時間営業の店には不可欠に成っている。
「谷岡智寿子、岡谷寿子か!似た様な名前だ!」
「この女が犯人ですね!」
「おそらく間違い無いだろう?共犯がいるのか?それが問題だな!」
直ぐに捜査本部に連絡が届いて、モンタージュの製作に一気に進んだ。

困惑

   51-05
その日の夜自宅に帰った一平が「明日モンタージュが発表されるので、何処かに面接に行っても直ぐに判る」
「でも一平ちゃんが監視カメラの映像を見る限り、商品は殆ど触らずに値引きシールを貼り付けたのでしょう?」
「そうだが、何か不自然か?」
「その様な監視カメラが在る場所でシールを貼らなくても、道具を自由に操作出来るのなら、別の場所で貼って置けば良いでしょう?」
「でも美優!葵東店では谷岡、島田店では岡谷で正体不明だよ!犯人以外に考えられない」
「それはそうだけれど、何か違う様な気がするわ!私の勘だけどね!」
「今回の事件は、この谷岡とか云う女がスーパーASUKAに恨みを持っているのだよ!一課長も署内の一致した意見だ!」
「珍しいわね!全員の意見が合ったのね?」
「そうだ!明日指名手配されたら直ぐに逮捕されるから、事件は一件落着だ!」
「でもスズランの根っこ、トリカブトは一般的には知らない人多いし、毒を抽出している今回のトリカブトは薬草の扱いに慣れているわ!この谷岡って女性は身元を明かせない何かが有って、今回の事件を見て姿を消した?」
「でも二度もその様な事に成るとは考えられないから、今回は美優の推理は外れだろう」
一平は勝ち誇った様に言う。

翌日事件が大きく報道されて、朝比奈明日香社長は心労で倒れて病院に入院をしてしまった。
勿論スーパーASUKAは閑散とした状況で、特に食料品は全く売れなく成ってしまった。
それは全店に広がり、緊急事態と成ると夕方専務の信一が静岡県警を訪れて、悲痛な訴えをした。
勿論モンタージュへの通報も膨大な数に成って、県警ではその通報の精査だけでも人手が不足する程だった。
信一は社長の病状を訴えて「静岡県警には有名な野平美優さんが。。。。。今回は、今回の事件には関与されないのですか?」
「一般人の方ですから,その様な事は頼めません!それにもう犯人は特定されています。今続々と情報が集められていますので、逮捕も時間の問題です」横溝捜査一課長も、信一の悲痛な表情に言葉も無い。
六十店舗の経営に直ぐに影響するから、必死に成るのも頷ける課長。
項垂れて帰る時、一平が戻って来て信一の目に止った。
「あっ、野平さん!美優さんの旦那さんでしょう?週刊誌で見ました!助けて下さい」と懇願して背広の裾を持って泣き崩れた。
「何方ですか?困ります」と言う一平に「スーパーASUKAの専務さんだ!」そう言って横溝捜査一課長が驚いて付いて来た。
「奥様は警察と同じ考えですか?それだけでも聞かせて下さい」
横溝捜査一課長も、廊下では困るので側の部屋に二人を入れた。
「妻の考えは違う様ですが、今回は警察の捜査が正しいと思いますよ」
「奥様は何とおっしゃられているのですか?」
「詳しくは判らない様ですが、警察の見込みは違っている様だと話していました」
「一度奥様に会わせて貰えませんか?ご意見を伺いたい」
一平は悲痛な専務の言葉と、美優の推理が気に成って電話で尋ねる事にした。
すると美優は意外と、専務さんに会いたいと返事をしてきた。
驚きながら伝えると「どちらに伺えばお目にかかれますか?」信一が尋ねた。
「妻がここに来ますから、しばらくお待ち下さいとの事です」
「そうですか、名探偵と誉れの高い奥様に聞いて頂けたら、今日伺った甲斐が有ります!待たせて頂きます」と一安心の表情に成った信一。

しばらくして美優が県警に現れると、署員が口々に「今度も難事件の様だわね」「奥様が登場したから、奥が深い事件に成るね」と囁き合っていた。
一平が美優を信一の処に案内するが、余計な期待を持たさないで適当に話して帰らせろと、捜査一課長の言葉を伝えた。
信一は美優に会社の窮状を伝えて、この事件は何が原因かと尋ねた。
だが美優は事件の本質が未だ見えませんが、参考までに社内で何かトラブルは起っていませんか?と尋ねた。
専務の信一は自分の会社の実情と、去年社長が亡くなって年老いた母が社長を継いだが、今回の事件で入院したと訴えた。
前社長の死因を尋ねて、今度は信一が父の死と今回の事件とは関係が無いと思いますが、奥様は関係が有るとお考えですか?と怒りだした。
美優は「あらゆる可能性から、犯人を割り出すのが私の推理なので、お許し下さい」と話した。
「元気だった父が急に心臓麻痺で亡くなったのには驚きましたが、もう一年も前ですから関係無いと思います」と声のトーンを落とした。
美優はお互いの携帯番号を交換して、何か気に成る事が有れば伝える事で話を終わった。
それ程信一専務は弱気に成っていて、元気付ける意味も有って交換したのだ。
確かにスーパーは日銭商売だから、客が入らなければ忽ち火の車に成る。
美優は今回の事件がそれ程簡単に収まるとは思ってはいなかった。

警察は通報の有った目撃情報を精査して、翌日から真意を確かめる為に総動員体制で裏付けの捜査を始めた。
スーパーASUKAは、客足が大きく落ち込み従業員の不安も日増しに増大を始めた。
だがその日の午後、事態が急展開に成る出来事が起った。
県警の捜査本部は「嘘だろう?」横溝捜査一課長の声が全てを物語っていた。
今までスーパーASUKAに負けているライバルスーパー昴にも、トリカブト入りのヨーグルトが置かれていたのだ。
幸い従業員が発見して警察に通報して、分析の結果トリカブトが検出されたのだ。
この事件で、従業員のトラブル説は消えて食品に対する無差別殺人に様相は一変した。
「今までと今回の相違点は有るの?」自宅に戻った一平に尋ねる美優。
「食べた人が居なかった事だな!シールを貼る前に発見出来た事」
「それは何故?」
「判らないよ!従業員が不審に思って警察に通報したからだろう?」
考え込む美優は、明日にでも発見した従業員に会いたい気分に成っていた。

ネット投稿

  51-06
「トリカブトは全く同じなの?」
「同じだった!同じ犯人に間違い無いと鑑識が判断した」
「葵区の店で二軒目だよね!犯人はこの近くの人間かな?でもこれでどの店も危ない危険な店に変わってしまったわね」
「捜査一課長も、自分の予想が外れて意気消沈だったよ!」
「スーパー昴の見つけた担当者に会いたいのだけれど、段取り付けてくれるかな?」
「美優が本格的に動き始めるのか?」
「だってこのままだと市民は憂鬱よ!特に主婦は買い物に困るわ!この後数カ所で事件が発生したら、静岡でお買い物出来ないわ」
「そんな事に成ったら、警察に対する風当たりも大変だよ!」

翌日一平は美優を伴って、伊藤刑事と一緒にスーパー昴の静岡店に向かった。
この店は十時から十時の店で、トリカブトの毒が混入されていたヨーグルトを見つけたパートは美優に会うと「有名な美人奥様探偵の美優さん?」と舞い上がってしまって、いきなり握手にサインを求められた。
一平の前で簡単にサインを書き始める美優を見て(いつの間に練習した!)と驚きの表情に成った。
「よく見つけましたね!」の質問に「だって直ぐに判る様に、大きな穴が空いていたから、誰も買いません」と笑いながら答える店員。
店内の監視カメラには、この場所を撮影した映像が無くて、犯人の姿を特定するのは困難だった。
帰りの車に乗ると美優が「ここでは殺人を行う予定に成っていなかった様ですね」と言った。
「すると?この店にも毒物が有ると教えた様な感じですか?」伊藤が尋ねる。
「マスコミは詳しくは書きませんから、ただ次々起る毒物事件としか言いませんから、犯人の狙いはあくまでもスーパーASUKAでは?と思いますね」
「だがあの谷岡または岡谷って女は何故、発見出来ない?」
「そうですね、彼女が見つかれば大きく事件が進展するのに!」
美優は首を傾げて「そうでも無いかも知れないと私は思っています」
「そうなのだよ!美優が犯人は谷岡では無いと初めから、主張しているのだよな!」
「美優さんの根拠は有るのですか?」
「何も無いわ!勘だけ!」そう言って笑う。
美優は今日の発見した女性の言葉を信用すれば、このヨーグルトは危険よと訴える様な置き方だと言ったので、一層その様に確信をした。

だが夕方に成って事態は益々深刻な状況に変わった。
(静岡県のみなさま!今度は異なる毒物をお召し上がり頂きます。毒殺魔より)の書き込みがネット上に流れたのだ。
「これは、何処から投稿されたのだ!」横溝捜査一課長が驚きの表情にて捜査本部で叫んだ。
「サイバー犯罪対策課の調べでは静岡管内では無い様なと、話していますが正確には判らないそうです」
「警視庁に確認、分析を依頼して投稿場所を特定して貰え」
「課長!問い合わせが殺到していますが、答える術が無い状況です」
「スズラン、トリカブト。。。。。毒が多すぎて。。。。。」苛立つ横溝捜査一課長。
「ネットカフェは身分証明が無ければ、使えない様に成っていますから、個人のパソコンなら犯人か場所は特定出来ると思います」
しかしこの投稿で、犯人が若い人の可能性が高いと断定された。
「犯人像は若い、毒草に精通している、静岡を憎んでいる」
「それでは谷岡と名乗る女性は?どう成りますか?」
「共犯者も考えられる!引き続き情報は無いのか?」
「犯罪歴が有るのかと履歴書に残っていた指紋を照合しましたが、二つの履歴書に同一の指紋は無、犯罪歴の有る指紋も有りませんでした」
「谷岡、岡谷共にスーパーASUKAに就職をしていたので、何か関係が有ると思うのだが?」
「その事も人事部で調べましたが、該当者は存在しませんでした」
「野平君!奥さんは今回の事件に何か言われてないか?」困った時に必ず美優の意見を聞き始める横溝捜査一課長の姿がそこに有った。
「いえ、まだ何も言っていませんでしたが、先日スーパー昴での毒物は見せる為だと言いました」
「見せる為?どう言う意味だ?」
「毒物を食べて、客に被害が出ない様に配慮したと」
「おい、おい、そんな善人の様な事をするか?既に三人も殺しているのだぞ!」
「はい、そこからはまだ何も判らない様です」と話を打ち切る一平。
捜査会議は深夜まで続き、遅い時間に東京のネットカフェから投稿された事が警視庁の調べで判明した。
「証明書では柿本貴史、二十歳、住所は静岡県伊東市だ!今所轄に問い合わせ中だ!いつでも急行出来る体勢で待て!」
「本星の可能性が有りますね」
「一気に解決に成れば良いが!」その時資料が送られてきて、横溝捜査一課長顔が一気に紅潮して「柿本は国立大の薬学部だ!薬の知識も有る」と大きな声で発表した。

だがしばらくして、伊東の警察から柿本は旅行中で自宅には居ないと連絡が入った。
家族も何処に行ったのか判らないと言い、時々旅行に出掛ける事が有ると答えた。
携帯は持って居るが、電源が入っていないとの事ですと、携帯番号が送られてきた。
「犯人の可能性が高いが、携帯の電源を切っているのは場所の特定を恐れてかも知れない」
結局、深夜の一時過ぎに各自自宅に帰り明日、一平と伊籐刑事が所轄の刑事と一緒に伊東市まで聞き込みに行く事に成った。
二時前に戻ると、直ぐに眠る準備に入る一平に美優が何か進展が有ったのか?と尋ねると「明日伊東市に今日の投稿の学生の家が在る!とにかく眠る!六時に起こしてくれ」
疲れ果てた様子の一平に、美優はそれ以上の事を聞かなかった。
今度の事件は何か?恨みの犯行の様に思えている美優、それが何に対してなのか?スーパーASUKAの何に対しての恨みなのか?未だ見えていない。
警察の攪乱を狙ったのが、先日のスーパー昴と今日のネットの投稿なら、まだまだ事件が拡大すると考えている美優だった。

死のマネキン販売

 51-07
翌日柿本の自宅に向かった一平と伊東刑事、所轄の刑事に連れられて向かう。
柿本の自宅の周辺には既に沢山の刑事が包囲して「昨日から帰った形跡は有りません」と一平に報告した。
東京から送られて来た学生証のコピーを持って、三人は柿本の自宅に入る。
昨晩も警察に来られて驚く家族が、今朝も三人の刑事に驚いて「昨夜も貴史の事で警察の方が来られましたが一体息子に何が有ったのですか?山で遭難でもしましたか?」
母親が驚いて尋ねた。
「山に行かれているのですか?」
「はい、貴史は薬学部で薬草の研究をテーマに勉強していますが、それが何か?」
「えー、薬草の研究?今世間で話題に成っている事件をご存じ無いのですか?」一平が尋ねた。
「えーー!それで?」今度は母親の多恵子が驚いた。
「今、毒草、スズラン、トリカブトで世間が騒然としているでしょう?」今度は伊藤刑事が詰め寄る。
「知ってはいますが、貴史が研究しているのは薬草で、毒草では有りませんよ」
「じゃあ、これはどの様に説明するのですか?息子さんの学生証でしょう?」一平がコピーを母多恵子に見せた。
「見つかりましたか?息子は学生証が無くなったと先日言って、学校に再発行をお願いしたと言っていました。それにこれ息子の顔か判らない程写りが悪いですね」
確かにネットカフェのコピーは殆ど顔が判別出来ない程、写りが悪く顔の輪郭までしか判らない。
事件でも発生しない限り、警察に提出する事は無いので、形式だけコピーをする場合が多いのも事実だ。
「東京のネットカフェから、脅迫メールが発信されて、息子さんの学生証が残されていたのです」
「それは無理でしょう?今息子は沖縄の方に行って居ますから、東京には昨日も一昨日も居ない筈です」
そう言われては、裏付けを取る意外に方法は無い一平達。
先ずは大学に問い合わせて、学生証の再発行の届けが出ているのか?の確認を急いだ。
沖縄県警に連絡して、柿本が宿泊していたホテルの確認も急いで行われた。

夕方の捜査会議の席上「柿本の大学に問い合わせた結果、十日前位に紛失に気付き申請が出ていました。現在再発行の準備中でした」
「沖縄のホテルには一昨日まで宿泊して、離島に移動したそうです。この薬草の研究には同じ大学の者数名と一緒だとの裏が取れました」と発表した。
横溝捜査一課長が「だが、完璧に白だと決まっていない、共犯が存在する可能性は高い!本人に確かめるまで気を許さず自宅の警戒を継続する事」
「柿本の帰宅予定は来月初め、新学期が始まる前に成るそうです」
「それまで行方不明と同じか!だが柿本の学生証が使われたのは事実だ!犯人は彼の近くに居る可能性が高い!大学も含めて聞き込みを続けろ!谷岡の捜査は?」
「忍者の如く消えて足取りが掴めません、両方のスーパーの同僚にも尋ねたのですが、人の少ない夕方から深夜に働いていたので、話をする人間が極端に少ないのです。人手不足が深刻だと今回の聞き込みで身に浸みました」白石刑事が発表した。

美優が夜一平に事件の経過を聞いた。
「谷岡と岡谷は同一人物の可能性は?」
「それがどちらの履歴書にも写真が無いので、判別の方法が無い」
「指紋が共通で残っていないの?もし両方から同じ指紋が見つかれば?」
「明日調べてみよう、だが筆跡は全く異なるぞ」
「馬鹿ね!履歴書はその場で書かないから、代筆でも充分だわ!でも写真の無い履歴書でも受け付けるの?」
「人手不足で、パート、バイトは店長の裁量で採用するらしい!写真の無い履歴書は珍しくないと話していた」
「深刻なのね、それなら偽名で就職出来るわね」
「マイナンバーの登録も少しの猶予が有るので、潜り込むなら充分だ」
「今、怪しいのは谷岡と岡谷、学生証の柿本貴史なのね」
「それ以外の人物は浮かんでないな」
「すると柿本貴史の学生証を拾う?それは無いなら身近の人間?谷岡も計画的にスーパーに入り込むなら関係者か?写真が無いのは社内で知っている人が居る可能性が有るわね」
美優の独断の推理が進むので、一平は寝ている美加の寝室に行ってしまった。

翌日予期せぬ事件が今度はスーパーASUKAの焼津店で起った。
客二人と子供が店頭販売の焼き肉の試食で、急に床に転がり苦しみだして、救急車で運ばれたが子供は救急車の中で死亡、二人の主婦は意識不明の重体に成ったのだ。
マネキン会社の志水佳子は、焼き肉を試食して直ぐに苦しみだして、何が何だか判らないと証言したが、気が動転してそれ以上の事が答えられなかった。
所轄の刑事が調べている最中に、佐山刑事と白石刑事が合流して状況を調べると、スーパーASUKA焼津店では客足回復の為、マネキン販売を強化して通路の数カ所で色々な商品の試食販売を行っていた。
それは不審な品物、不審な人物を見張る意味と、マネキン自らが品物を調べて販売するので安全性が高いと店長と本部の意見で先週から始めて、好評で徐々に売り上げがアップしていた矢先の事件だった。
店が閉鎖されて、鑑識が調査に乗り出し残った焼き肉「この焼き肉を食べて急に症状が出たのか?」
「毒物らしき物も有りませんね、持ち帰って詳しく調べませんとここでは判りません」
ホットプレートの上には焼き残りの肉が数切れ、横の皿には生のバラ肉が置かれている。
しばらくして、佐山がマネキンの志水に聞き取りにバックヤードに向かう。
漸く落ち着き「刑事さん!私は何もしていませんよ!朝からお客様に沢山召し上がって頂きましたよ!昨日も美味しいと評判が良く、牛肉も沢山売れました」
「事故が起る前に不審な人物とか、来ませんでしたか?」
「いいえ、持ち場を離れる時は、隣のマネキンさんに監視して頂きますので、それに肉がプレートに有る時は離れていません」
佐山もこの志水が何かをするとは考えられないので、鑑識の結果を見てからもう一度事情を聞く事にした。

薬草同好会

   51-08
翌日捜査本部が愕然とする鑑識からの発表が行われ
今回の毒物も毒草の一種で、沖縄にしか無い植物でオオミフクラハギ、キョウチクトウの仲間で花の形がよく似ている。
日本では沖縄だけで見られる種で、沖縄方言の「目脹ラ木」(ミフクラギ、目をこすると腫れる木)からこの名前が付いた。
この木には、ケルベリンという毒が含まれており、心筋中のカルシウムチャネルの働きを阻害し、不整脈を起こす。多量に摂取した場合は、死にいたる。
またオオミフクラギは、完全犯罪を目的とした凶器に利用されることがしばしばあった。
それは抽出毒のケルベリンが、容易にスパイスへと偽装できる素晴らしい風味を持ち、そして多くの場合検死ではケルベリンが死因として見過ごされがちだからである。

「肉を焼いた時にコショーと間違えてと言いますか、コショーの瓶に入れて有ったと考えられます。コショーの瓶からはマネキンさんの志水さんの指紋しか出ていません」
鑑識が発表すると、佐山が「志水さんの話では、昼過ぎに無くなったので調理場にコショーを借りに行き、最初のお客さまが被害に遭われた様だ!」
「何者かが、バックヤードの調理場にこの毒の入ったコショーの瓶を置いていたのだよ」横溝捜査一課長が、頭を抱えて言った。
静岡県警も完全に世間から批判を浴びて、生活出来ないとクレームの嵐で、横溝捜査一課長も十円禿げが出来ている程だ。
「この毒草、沖縄のみでしょう?柿本貴史は関係無いでしょうか?」白石刑事が発言した。
「そうだ!その後柿本は帰っていないのか?」
「昨日の時点では自宅を張り込んでいる者からは、まだ帰っていないと報告を受けています」佐山が報告した。
「佐山君!今回の毒草も沖縄!先日の脅迫メールと合致する!彼は既に沖縄から帰って来てスーパーASUKAに侵入した可能性が有る」
「しかし学生証は紛失届けが出ていましたから。。。。。。」
「引き続き、重要な犯行可能の男だ!早く探し出せ!谷岡、岡谷のパートの行方はその後どう成った?」
「履歴書の指紋を調べましたが、検出出来ませんでした」一平が急に発言した。
「同一人物の特定か?同僚の話を総合すれば同一人物の可能性が高いです」白石刑事が発言した。
「しかし何処にも発見出来ないのは?何故だ?」
「既に海外に逃亡とか、死亡の可能性が有ります」佐山が捜査一課長の質問に答えた。
「死んでいるのに、犯行は続かないだろう?」
「仲間割れとかは?有るかも知れませんよ!唯一顔が知られている女ですから」佐山刑事の話に頷く横溝捜査一課長。
「佐山係長の推理では、複数犯で実行したのが谷岡智寿子で、岡谷寿子も同一人物?」
「仲間割れする理由は面が割れた事か?柿本は?」
「柿本はまだ鼠色でしょう?本人の身柄が確認されていませんから、どうする事も出来ません。母親の話では二~三日位に帰ると聞いたそうです」
「新学期だからだろうが?犯人なら帰っては来ないぞ!」
「携帯が使われた形跡は今も有りませんから、まだ沖縄の山の中だと地元の警察は話していました」
①  スーパーASUKAの葵東店でスズランの根っこを豚汁に入れて、二人が死亡。
②  スーパーASUKAの島田店でヨーグルトに、注射針でトリカブトを注入一人死亡。
③  スーパー昴の葵店で同じくヨーグルトにトリカブトだったが、発見されて被害者無し。
④  スーパーSUKAの焼津店で、マネキン販売の焼き肉に沖縄のオオミフクラハギから造った毒が使われ一人死亡、二人が重体。
⑤  ネットに(静岡県のみなさま!今度は異なる毒物をお召し上がり頂きます。毒殺魔より)の書き込みがネット上に流れたのだ。
「スーパーに恨みを持つにしても、犯罪が広範囲で中々難しいのでは?と警察庁からも危惧する声が出ているそうだ」

美優はスーパーASUKAに恨みを持つ人間の可能性が高いと考えていた。
薬草に詳しい事も重要な犯人像に近づく、柿本貴史の近辺に誰か?と考えるが、偶然手に入れた学生証が薬学部?これは余りにも偶然が重なり過ぎているので、近くに必ず犯人が潜んでいると思った。
犯人の人数は少なくとも二名?若しくは三人?男女?と推理をしていた。

三日後、沖縄警察が那覇空港で大学の薬学部の一行を発見、直ぐに全員の身柄を拘束して静岡県警に連絡した。
だが、柿本貴史が一行の中に居ない事を尋ねると、一行の引率者である守本教授が、急用で実家に帰って離島調査には参加していないと答えた。
静岡の事件の事を尋ねると、メンバーの誰もニュースを知らなく驚きの表情に成った。
しかし柿本君がその様な事件を起こすとは考えられないと、揃って否定した。
全員で十一人の予定が十人に成ったが、最初から最後まで誰一人離島から離れていないと五十代の教授は警察に証言して、事件には協力するので静岡県警に全員行きますと答えた。
生徒九人の内訳は男性六人、女性三人で沖縄県警の刑事が二人同行して羽田空港に向かった。
勿論羽田空港に静岡県警が準備したバスが準備されて、静岡県警の刑事も数人同乗する。

沖縄からの連絡で、伊東市の柿本の実家を監視している刑事に、沖縄県警の話をして再び柿本の母親佐知にその話をすると、連絡をした記憶も無いが息子が何処に行った?と不安を滲ませ貴史の父親柿本健治にその場で連絡をした。
担当した所轄の刑事は、とても芝居の様子は感じられなかったので、柿本貴史の捜索を急務と県警に伝えた。
即日、該当の日時の沖縄発の全ての飛行機に柿本貴史の搭乗記録が調べられた。
夜まで時間を要したが、柿本の搭乗記録は全く存在せずに、沖縄本土で静岡医科大学のサークルと柿本が別れた後の行動は不明に成っていた。

同じ日の夜沖縄から戻った薬草同好会のメンバーと守本教授は、専用のバスで静岡県警に到着した。

事情聴取

 51-09
早速全員一緒に事情聴取が行われて、順番に聞くと時間が掛ると教授からの進言で、その様に成った。
帰りのバスの中で白石刑事と、小寺刑事が全員に対して事情を聞いたが、警察署では個別に聴取が行われた。
守本教授を担当した佐山刑事は、柿本の薬草知識について尋ねた。
教授は柿本の薬草、毒草の知識は中程度で、それ程高いとは言えないと言い、このサークルの女子学生の横山麻那に誘われて入部した様だと答えていた。
柿本は横山麻那に興味が有り、特に今回の沖縄薬草探検採取に旅行気分で行きたかったのでは?と目的意識の異なりを言った。
そして、今回の様な事件を起こす事は柿本の能力では到底無理ですと言いきった。
女子は三人で、横山麻那、迫田理香、竹内満里奈だが、横山麻那が一番可愛いのは誰の目にも確かだった。

事情聴取が終わって生徒たちが帰ると、県警では緊急捜査会議が開かれ深夜の検討に入った。
① 柿本貴史が離島に行かずに、自宅に戻ると言って別れたのは何故か?
② 飛行機の搭乗記録が全く無いので、沖縄から出ていない可能性が高い。
② 自宅には何も連絡が無いし、自宅の家族も貴史に連絡した形跡が無い。
③ 守本教授の話では柿本は、薬草にそれ程詳しくなくて、同好会の女の子が目的で入会した可能性が高い。 
④ 東京のネット喫茶から発信された時間には、貴史は沖縄に居た事は全員の証言が有るので白、学生証を落としたか?盗まれて使われた可能性が高い。
⑥ 沖縄県警と協力して、引き続き柿本貴史の消息を探して貰う。
「沖縄に白石刑事と堀田刑事に行って貰う」と横溝捜査一課長が言った。
「柿本貴史が惚れている横山麻耶は、彼の事をどの様に思っていた?」
「はい、個別に迫田、竹内に聞きましたが、貴史の片思いの様ですね!でも横山達三人は薬草研究同好会をクラブに格上げしたいので、部員を増やす為に頑張っている様でした」
「他の男子学生と柿本貴史の関係は?」
「他の学生も、部員を増やしたいとの思いは同じ様で、三人の女子学生に追随の様でした。柿本はまだ入会して日も浅く、それ程彼と親しい学生は居なかった様です」
「薬草の知識について柿本貴史は殆ど無かったのか?」
「守本教授の話では、殆ど無いので今静岡で発生している犯罪はとても無理だと!」
「他の学生なら可能なのか?」佐山が急に発言した。
「それは聞いていませんが、明日教授に確かめてみます」
結局捜査会議は深夜まで長引き、一平が帰宅したのは深夜の二時前だった。

美優は一平の帰りを待ちわびた様に「学生さんから何か判った?」と尋ねた。
「ひとつ確かな事は、俺は眠い!」そう言うとソファーに倒れこんだ。
「何か無かったの?収穫!」
「柿本貴史は女の子目的で入会した学生で薬草の知識が無いから、今回の様な事件は無理だって結論!」それだけ喋ると、もう寝ると風呂場に行ってシャワーを始める一平。
「学生証は盗まれた可能性が高いわね!その女の子って美人?」
「可愛い感じの子」風呂場から答える一平。
直ぐに美優の推理の中で柿本貴史は消えて居なかった。
学生証を使われている事、少なくとも薬草の知識は無いとしても犯人若しくは犯人の一味が近くに居ると考えていた。

翌日伊藤刑事が守本教授を再び訪ねて、今の同好会の中で一番薬草に詳しいのは誰ですか?と尋ねた。
「勿論、横山君と竹内、迫田の女性三人でしょう!特に横山君は私以上に知っているかも知れませんよ!」
「彼女なら今回の犯行は出来ますか?」
しばらく考えて「そりゃ、出来るでしょうが、彼女がその様な事をする理由も時間も無いでしょう?刑事さんそれは考えが飛躍しすぎていますよ」そう言って笑った。
「確かに、事件発生の時は先生と一緒に離島で研究をされていたのですからね」
「それに、毒草の研究調査は全く行っていませんし、彼女達からその様な話を聞いた事は有りません!柿本貴史君を呼び出したのは誰なのでしょうね?」
「先生は柿本君が学生証を無くして申請している事を前からご存知でしたか?」
「はい、知っていました!沖縄に行く前に騒いでいましたからね」

伊藤刑事が捜査本部に戻って報告すると捜査一課長は「学生証は盗まれた可能性が高いな?」
「同好会の学生では無い第三者の可能性が高く成ったな!柿本貴史が薬草同好会に在籍していたので犯人に狙われたのかも知れませんね!」佐山刑事が言う。
「知識が有ると犯人は誤解していたので、犯人に仕立てたのだな!」
「柿本貴史の交友関係を探せば、今回の事件との接点が見つかる可能性が高い!残った捜査員で探し出せ!」

しかし、翌日再びネットに(静岡県だけが対象と考えると危険だ!静岡に店を出しているスーパーは全て私の敵に成る)との書き込みが行われた。
「これはどう言う意味だ?」横溝捜査一課長が署員に大声で尋ねた。
「課長!これって静岡にスーパーを出している店が全て対象って事ですね」
「そう書いてあるが、対象が多くて絞りきれないが、また毒草を入れるのだろうか?」
「スーパーASUKAも昴も中堅のスーパーですが、大手の電鉄系も在れば、日本一のスーパーも在りますよ!最近「客は大手のスーパーまで出掛けるらしくて、駐車場は満杯に成っています」
「ASUKAも昴もがらがらで、品物が古く成っていると、巡回の刑事からも連絡が入っています」
「早急に犯人逮捕で事件を解決しなければ、二社共、倒産に追い込まれるな」
「この文章は静岡に店を出すなって意味にも成りますよね!」
「悪戯の可能性も有る、今サイバー犯罪課で発信元を調べている」

夕方に成って、発信元は沖縄県だと警視庁から連絡が入り、柿本貴史が沖縄に潜伏して再び発信したのか?の疑問が湧き起こった。

類似犯行

   51-010
白石刑事達が沖縄に向かったが、警視庁サイバー犯罪課の刑事も遅れて沖縄に入った。
沖縄県警の協力で那覇市内の発信元とされる地域を重点的に捜す。
同時に柿本貴史の消息を徹底的に調査したが、足取りが全く不明で難航を極めた。

翌日再びネットに(一週間以内に、数か所に毒入りの食べ物をスーパーに置く!)と警告の書き込みが行われて騒然と成った。
海外のサーバーを利用した投稿で、場所の特定が出来ないと警察の内部ではその日の夕方発表された。

夜、その情報を聞いた美優が一平に「昨日は沖縄から判るように発信して、今日は海外と云う事から考えると、明らかに柿本貴史は関係ないわね!」
「えっ、柿本貴史は無関係?」
「そうよ、女の子目的で入会した薬草同好会、薬草の知識が無い事、学生証の紛失届、自宅から呼び出されて離島に行かずに帰った点、東京のネットカフェからの発信!全てが柿本貴史は白だと証明しているわ」
「美優はこの薬草同好会の人は白だと?」
「いいえ、この同好会の中に今回の事件関係の有る人物が潜んでいると思っているわ」
「えっ、でも柿本以外は離島で生活していた事実は、証明されているよ!」
「馬鹿ね!主犯は別に居るのは間違いないけれど、共犯者はこの十人の中に居ると思うわ」
「十人なら教授も入るのか?」
「勿論だわ!薬草の知識も豊富だし、学生よりも自由が利くでしょう?」
「確かにそうだが、それをどの様に調べる?」
「でも警察で発表すれば、直ぐに次の犯行に出て攪乱させて、また犠牲者が出るから一平ちゃんと数人で調べて欲しいのよ!」
「でも昨日も今日もネットの警告が有るから、何処かで犯行を行うのでは?」
「私は脅しだと思うのよ!目的は静岡に絞られているのは間違いないわ」
「確かに、昨日の書き込みでも静岡の名前が書かれていたな」
「十人の身元、出身地、交友関係、特にスーパーASUKAに関係の有る人が居ないか?」
「美優はASUKAに的を絞っているね!」
「そうよ、人は一番攻撃したい所を一番に狙って、それを攪乱の為にその他を狙うのよ!今回もASUKAが一番痛手を被っているでしょう?だから犯人はASUKAに関係の有る人物が必ず絡んでいるわ!」
「成る程!早速明日課長に進言してみる!」
「待って、横溝課長は直ぐに顔に出るから駄目よ!係長だけに話した方が良いわ」
「課長の許可が無ければ調査出来ないぞ!」
「大丈夫よ!佐山さんが上手く話してくれるわよ!奥さんにひと肌脱いで貰うか?ってね」
「えっ、それって美優が調べるって事?」
微笑みながら頷いて「と言う事で、お母様の準備ヨロシク!」と言って、風呂場に向かう美優。
美加の世話を再び母親の野平静に頼む事に成った一平、しかし事件の解決に美優の力は必ず必要な気がしていた一平だった。
「横山って女の子可愛いの?」風呂場から聞こえる美優の声。
冷蔵庫からビールを出して飲み始める一平が「そうだな!可愛い子だな!柿本貴史が惚れたのだからな!それとその子薬草の知識は相当高いらしい」
「その子は地元の子?」
「違うと思う、関西から薬剤師を目指しているって聞いたな」
「関西か!」そう言うと次の会話が消えて、一平はビールを飲み干しながら「十人の中にASUKAの関係者?」と独り言を言った。

社長は朝比奈明日香、七十五歳、只今心労で入院中。
亭主の朝比奈信三は昨年心臓麻痺で他界、七十八歳でした。
店舗は六十店舗で自宅は伊豆半島の土肥。
経営は長男信一が専務取締役で実権を握っている。
長女碧の夫小島洋介常務、次男信治常務、次女奈々子の夫村上尚人営業部長。
スーパー六十店舗以外に、最近は高齢者向けの宅配事業。
美優が風呂から出てくると、ボブの髪を乾かしながらパソコンを立ち上げて、一平にASUKAの資料を見せる。
「この朝比奈信三の死に疑問は無いのかな?心臓麻痺って、今回の毒草なら可能性が有るのよ」
「でも一年以上前に社長を殺して、一年後にASUKAの経営を窮地に追い込む様な事をするかな?」
「そうなのよ!そこがよく判らないのよね」
「調べて見るか?心臓麻痺だから救急車使っているだろう?」
一平はそれだけ話すとビールの影響か、大きな欠伸をして寝室に向かった。

美優は今回の事件の根底にスーパーASUKAに対する遺恨が有るのだろうか?と視点を変えて考えていた。
警察は無差別殺人だと決めつけているが、実際殺人で亡く成った人はスーパーASUKAで買い物した客だけで、他の店では死者が出ていないのも事実だ。
もしも店に対する遺恨なら、スーパーASUKAが経営不振に成る事を願っているのだろう?それならもう充分痛手は出ている。

静岡県民の憂鬱と、県警の憂鬱は翌日も続いた。
再びネットに(来週無差別に、トリカブトの猛毒を食品に混入させる!気を付けて食事を!)この投稿を巡って、県警には全国から「静岡の警察がもたもたしているから、全国規模に広がった!」と批判の矛先が寄せられた。
「ここまで広がると、真似る人も出てくるから、判断が難しい」
連日ニュースで事件の報道がされるが、どれが本当なのか判らなく成ったのは夕方警視庁のサイバー犯罪課が「朝投稿された物は高校生の悪戯で、犯人は北九州市の高校生だった」と発表した。
「混乱が続くぞ!早急に犯人を検挙しよう!」捜査本部で苛立つ横溝捜査一課長。
一平は救急車の履歴を調べたが、朝比奈家には救急車の出動が無く、自宅に聞き込みに行く以外方法は無いと思った。

過去の記憶

  51-011
しかし今回の事件と何も関係の無い一年以上前の、朝比奈信三の病気を尋ねる理由が見つからない。
美優の頼みでも土肥の自宅に行く事は、一平には出来ない事だった。
「駄目ね!警察は縄張り意識が強くて!私が調べて来るわ!」数日後痺れを切らした美優が美加を連れて土肥に小旅行気分で出掛けて行った。
土肥は金山と温泉が有名な西伊豆の観光地、絶好のドライブ日和りの中、車を走らせた。
「金山が在るのよ!」
「キン、キンってママが大好きな物だよね!」助手席に乗って嬉しそうにはしゃぐ。
美優は美加が飽きない様に気を使いながら、高速道路のサービスエリアで小まめな休憩をしながら沼津ICで降りると、伊豆縦貫道路から伊豆中央道を走って、目的地まで三時間以上要した。
「一平ちゃん、予想よりも時間を要したわ」電話で伝えると「無理しないで、泊まっても良いから余裕を持って行動して、美加が熱でも出したら大変だからな」
「判っているわ、泊まる準備もしているから安心して!」
「えっ、泊まる用意していたのか?」
「一平ちゃん捜査で帰れないから、家に居ても泊っても同じでしょう?」
「まあ、それはそうだが。。。。。」美優の準備の良さに呆れる一平。
だが美優が何か捜査の手掛かりでも見つけてくれる事を願っている一平。
警察への風当たりは日増しに強くなり、捜査本部は憂鬱な日々を過ごしていたからだ。

美優は朝比奈家の噂を近所で聞いて廻る。
小さな子ずれの美優に、殆どの人は警戒感を示さず気さくに色々な事を話してくれる。
美優の作戦が図に当たった感じで、女性週刊誌の記者が最近の毒物混入事件の取材に来たが、子供を預けられないので同伴していると思いお菓子を美加に与える主婦も居た。
朝比奈信三は一代でスーパーASUKAを築き上げた人物で、店名に妻の名前を付ける程の愛妻家で奥様思いの真面目な人物だと評判に成っていた。
だが子供達の権力争いが最近は目立って、特に信三が急死した後は露骨に成っていた様だ。
数十人に聞いた美優に一人の老婆が、昔朝比奈家でお手伝いをしていた人に聞けばもう少し家の中が判ると思うと教えてくれた。
その人物は伊豆の下田に住んでいると聞いたが、名前は飛田公子で八十歳位だと教えてくれた。
だが二十年程前のお手伝いに今回の事件、関係が有るのか?美優は不思議に思ったが、下田と聞いて昔の捜査一課長持田の顔を思い出して、急に会いたく成った。
県警の捜査一課長から、下田警察の捜査課に降格されたのは不詳事の責任を取った形だった。
美優は一平にその話を伝えて、今夜は下田に泊まると決めてしまった。

一平は美優の推理が、朝比奈家の内部に向かっている事、捜査本部は全く朝比奈家には目が向いていないので、どちらが正しいのか今回は決めかねている。
朝比奈家に対する恨み?相続争い?権力争い?朝比奈家に対する恨み以外に今回の犯罪は無いと思うが、捜査本部が調べた範疇では恨みは浮かんではいなかったのだ。
相続も権力争いもこの様な事件を起こすと、元も子も無いからだった。
事実スーパーASUKAの業績はつるべ落としに成って、悲惨な状況に成っている。

夕方下田警察署に行くと、持田課長が懐かしそうに美優を待っていた。
「ご無沙汰しています。お元気でしょうか?」
「美加ちゃんだったかな?大きくなったね」と美加の頭を撫ぜる持田課長に「覚えていらっしゃったのですか?子供の名前!感激です!」
「不思議と名前が出て来たのだよ!今夜の宿は決めているのかね?」
「いいえ、これから探そうと思っています」
「それなら、私の家に泊まりなさい!今は妻と二人だけだからひっそりとしているよ」
「子供さんは留学していらっしゃるのですね」
「そうだ!すこし海外でのんびりして、帰ればまた違う道も開けるだろう」
数年前娘が事件に巻き込まれた事で、下田に転勤していたのだ。
「頼まれていた飛田公子さんは、ここから二キロ程の老人ホームに暮らしているから、明日行けば会えるよ」
「ありがとうございます。助かります」
「例の毒物混入事件に首を突っ込んでいるのだな!飛田さんは昔朝比奈の家で家政婦をしていたのだろう?」
「えっ、ご存知だったのですか?」
「私も県警の捜査一課長をしていた人間だ!美優さんの捜索で直ぐに判ったよ!」
「流石ですね!」
「だが、彼女が家政婦をしていたのは二十年近く前だが、そんな昔の事が原因なのかね?」
「いいえ、全く判らないので、偶々土肥でお婆さんが朝比奈家の事を聞くなら飛田さんに聞けばと教えて下さったので、成り行きの様な感じですね」
「美優さんの勘か?兎に角もう少しで退署時間だ!その辺りで待っていてくれたまえ!」
美加は警察署の中で退屈そうにしているので、半時間程近くに出る事にした。
近くにスーパーASUKAの下田店が見えて、覗きに行く事にして店に向かった。
意外と店には客が多く事件の影響を感じさせないが、店の中にはガードマンが絶えず見回り警戒を強めている。

その夜持田課長に歓待を受けて、楽しく過した美優は翌朝老人ホームに向かった。
持田が付き合うかと言ったが、警察が一緒なら老人が警戒するので、丁重に断り一人で向かった。
飛田公子は意外としっかりした感じで、美優の事も週刊誌で知っていると話して「流石名探偵ね!私に目を付けるなんて、素晴らしいわ」そう言って褒める。
「それはどうもお褒め頂いてありがとうございます!」笑顔で言うと「あの旦那様愛妻家で奥様以外の女性に見向きもしなかったって言われているでしょう?」
「はい、店の名前も奥様の名前でしょう?」
「旦那様のお宅に十年前までお世話に成っていたのよ!でもね!愛妻家の旦那様が一度だけ魔が差したのよね!」尋ねていないのに自分から話す公子。
興味深く話を聞き始めた美優、何か昔に事件が起こったのか?

裏取引

    51-012
「あの頃、私以外に若いお手伝いさんが雇われていたのよ!奥様が入院されて自宅と病院、店舗と御主人は忙しくされていたのです」
「お婆さん!その話って亡く成られた朝比奈信三さんの話?」
「旦那様!亡く成られた?本当?いつの事なの?」
「去年、心臓麻痺で亡く成られたそうですよ!」
「心臓麻痺!あの旦那様が心臓麻痺!えーー信じられないね!奥様なら考えられるけれど旦那様が。。。。。」と絶句した公子。
自分と歳が近いので、お互い百歳迄頑張ろうと二年前にこの老人ホームに来て励ましてくれたと涙を流しながら、信三を懐かしむ公子。
公子は信三が二十年近く前に、住み込みのお手伝い麻生香里と不倫をしたと話した。
住み込みで自分と麻生香里は朝比奈家で働いていたが、奥様の入院で自分が病院に行く事が多くなった時、信三と香里は不倫に成ったと話したが、公子は香里が誘惑したと決めつける様に話しをしたが、多少違和感を感じた美優。
当時香里は三十歳位で、子持ちで実家に預けて働いていたと思うと話した。
公子は香里の実家の住所は覚えていなかったが、四国の出身だと思うと話して、不倫が発覚して朝比奈家を追出されたので、一年も勤めて居なかっただろうと言った。
「噂ではその香里は子供を妊っていたと聞いたけれど、生んだのか?始末したのか?判らないですね!でも可哀想だった!」と最後に話した。
美優は帰りの車の中で、麻生香里は今は五十歳程度、連れ子は二十五歳前後だろう、もしも子供が産まれていたら二十歳前か?と考えていた。
だが、二十年前の四国の麻生香里だけでは中々捜すのに苦労すると思う。
結局美優の土肥での成果は、この麻生香里の件のみで一泊二日の聞き込みは殆ど不発に終った。

静岡県警に谷岡智寿子と岡谷寿子の情報は沢山入って来たが、決め手に成る程の情報は殆ど無かった。
その後何処の店にもこの二人が面接に行った形跡は無く、島田店と葵東店以外の店舗には就職に行った形跡が無かった。
捜査本部は島田から東静岡駅の間に谷岡が住んでいたとの計算を建て、ゲリラ作戦で不動産屋を徹底的に調べていた。
両方の店に名前を変えて、曜日もぶつからない様にして働いている事を出勤簿から発見して、この作戦を実行していた。
捜査本部ではこの谷岡、岡谷が今回の主犯格で実行犯、共犯に柿本貴史が絡んでいると思っていたが、薬草の知識が低いので?が付いていた。
その柿本貴史は新学期が始まっても、全く消息が掴めず両親からは捜索願いが警察に逆に提出された。

美優はその日の夜一平に自分の勘だと前置きして「柿本貴史は事件に利用された被害者で、谷岡、岡谷は多分同一人物だが今回の事件とは直接関係が無いと思う」と捜査本部と全く異なる見解を話した。
「柿本貴史は薬学部だから狙われたのか?」
「多分、そうだと思うわ」
「では何故姿を現さないの?」
「既に殺されているから出て来られないのよ」
「えっ、殺された?」
「そう、離島に行っていない時点で、何者かに殺害されていると思うわ」
「谷岡、岡谷は何故消えた?」
「この様な大事件に成って、警察が自分の近辺に沢山やって来たので、働けなく成って逃げた!」
「何故?犯人でも無いのに逃げるのだ?」
「それは、別の事件の手配者?」
「確かに不思議と指紋が発見されていないのが、今回の事件の疑問点なのだよ!葵東店でも島田店でも指紋が出ていない」
「大事件の犯人なら、世間では直ぐに判るから小さい犯罪?でもそれなら名乗り出るか?」
「でも毎日の様にモンタージュが出ているから、誰か知っている人居ると思うがな!事件の犯人なら尚更だ」
「女だから整形の可能性も有るわよ!もう一つ私が思うのは、大きな天災が発生しているでしょう?その影響も有るかも知れないわ!」
「東日本大震災、阪神淡路大震災か?」
「確かに多くの資料も消えているから、犯罪が途中で消えてしまった可能性も有るな」
①薬草に詳しい人物が犯人の中に必ず居る。
②ネットの操作にも精通している可能性が有る。
③スーパーASUKAに恨みを持っている可能性が高い。
「だから、麻生香里の消息を捜して欲しい!」
「それか?こんな話しを始めるから何か有ると思ったけれど、先日の続きか?でも二十年も前のお手伝いだろう?飛田のお婆さんも出身が四国程度しか記憶が無いのだろう?」
「麻生香里が谷岡だったら?捜すでしょう?」
「そ、そりゃ捜査本部は総力を上げて捜すよ!」
「じゃあ、そうするか!」微笑む美優だが、無理が有りすぎた。

だが新たな事件は全く発生せずに、毒草の被害もネットの投稿も消えた時、静岡県警にスーパーASUKAの小島常務がこっそりとやって来た。
横溝捜査一課長に面会をして「専務が我々に内密に、犯人と交渉をした様なのです」と訴えたのだ。
「えーー、警察に内密に直接犯人と交渉をした!」驚きの声を上げる課長。
「多分一週間程前だと思います、専務の自宅に犯人から連絡が入って金額の提示が有ったと考えられます。最近は何事も起っていないでしょう?それが原因です」
「そんな、馬鹿な事を!金銭の受け渡し交渉が犯人逮捕の絶好の機会なのだ!何て事を!警察に協力をして貰わなければ。。。。。」絶句の横溝捜査一課長。
「もう金銭の受け渡しは終ったのですか?」
「多分終ったと思います!」
「確かに最近は何事も無く成ったが。。。。。。」最近の状況に納得する横溝捜査一課長、それだけ伝えると小島常務は県警を後にした。

過去の死因

 51-013
早速佐山刑事がスーパーASUKAの本社に問い合わせると「誰がその様な根も葉もない事を言ったのですか?」困惑の信一専務。
「犯人からのアプローチは無かったのですか?」
「全く有りません!その様な事実が有れば直ぐに県警に連絡します」唐突な話に驚くと、同時に何処からの情報ですか?と尋ねた。
佐山刑事は電話が終ると困惑の表情で横溝捜査一課長に伝えて「どちらかが嘘を?」捜査本部は困惑した。
「だが、冷静に考えて、小島常務が嘘をついて県警に来ても何も得は有りません」
「確かに!事実事件はその後発生していない」
「信一専務の周辺で何か起っていないか?金銭の動きを調べて裏取引が行われたのかを解明してくれ!」

翌日に成って金融機関で調査をしていた刑事達が、金銭が動いた形跡は信一専務も他の重役達の口座も全く動きが有りませんでしたと報告した。
「佐山君!これは一体どう言う事だろう?」
「小島常務が嘘の情報を県警に持って来たのか?一度小島に会ってきます」
午後に成って佐山刑事が、小島常務の自宅に女性の声でお金を受け取ったので、事件を終息させたと連絡が有ったそうですと連絡してきた。
「また女か?中年の女の声、谷岡か?」横溝課長が唸る様に言った。

夜一平が美優に一連の事態を報告する様に話すと「スーパーASUKAの内情に詳しいから、私の予想通りこの事件はスーパーASUKAに恨みを持つ人物の犯行だわ」と言った。
「でも、電話の主が悪戯なら?」
「事実犯行が無いでしょう?だから本当だと思う!」
「目的は何?」
「今回は内部分裂!信一専務と小島常務は相反した考えらしいから、そこを巧みに利用した!毒草は今警備が厳しいので作戦を変更したのよ!目的はスーパーASUKAの崩壊!」
「美優は何が原因だと考えている?」
「それは判らないけれど、何か憎しみを感じる部分も有るわね」
「店を憎む気持ちで沢山の関係の無い人を殺すかな?」
「その為にも麻生香里の消息を調べて欲しいのよ?」
「手掛かりは四国の出身、原因は信三の初の浮気相手だろう?余りにも動機としては弱いよ!捜査本部には言えないよ!二十年も経過して何故復讐をするのだよ!信三の死因に不明な事は無かったのだろう?」
「死因の調査もしていなかったわ、地元の町医者稲垣が自宅に呼ばれて、心臓麻痺で診断書を書いて終りに成っているから何も無い!その医者には信三は糖尿の薬を貰っている掛かり付けだからね」
「何も無ければ、尚更調べられない!今回は美優の勘は外れだろう」
「スーパーASUKAの関係者が裏で取引をした形跡が無いのに、小島常務の自宅に裏取引をしたと伝えて両者間にトラブルの火種を造った?」
「その様な事をして、何か犯人は得が有るのかな?」
「小島常務が嘘を言った?逆に信一社長阻止の一手なら中々やり手だわね」
「権力争い?」
「今回警察に届けに来たのも、根拠が無い可能性も有るわね!誰も女性の声を聞いた訳では無いからね!前社長の急死によって相続争いが起った事も事実らしいから、今回の事件は色々な容疑者が内部にも居るのよ!」
「流石は美優だね!土肥行きの成果は無いと思っていたけれど、色々調べているね」
「前社長の急死の後、長男信一と次女奈々子の亭主村上営業部長VS長女碧の亭主小島、次男信治で社長の座を巡って争っているのよ!今回の事件で争いは表面上消えたけれど、母親の明日香の容体次第で再び勃発するって噂だわ」
「今回の事件がスーパーASUKAに関連した事件なら、当然美優の言う二十年前の前社長の浮気も対象なのかも知れないが、現状ASUKAに特定するには弱いなあ?何か決定的な事が出れば、一課長も動くだろうが今は柿本貴史、谷岡、岡谷の消息に全力を上げているからな」

美優は翌日谷岡と岡谷が勤めて居た店に買い物を兼ねて向かった。
捜査本部が見落としている何か?それを捜す為に行ったが、客よりもガードマンの数の方が多い様な気がする程の警戒で、買い物をする気分に成れないと感じた。
学生バイトの金沢が「静岡県警の美人妻、野平さんですよね!」と声を掛けてきた。
「えっ、知っているの?」
「はい、母が野平さんのファンで、いつも自宅で話していまして、きっと野平さんが事件を解決してくれると期待しています」
「それは光栄だわ!ところでここで働いていたパートさん、谷岡さんだったかな?何か覚えている事無い?」
「僕はバイトだから、警察の人にも殆ど尋ねられなかったけれど、あの谷岡さんって人東北の人だと思いますよ!」
「何故?僕の友人に東北から来ている子が居るのですが、そのイントネーションに似ているのです」
「君は何処の学生さん?」
「静岡医科大の二回生です」
「えっ、静岡医科大って、あの行方不明に成っている柿本君と同じ?」
「そうですが、僕は直接知りません!彼は薬学で僕は看護ですから、接点は無いのですが話題に成っていますから知っています」
「東北から大学に来ている子のイントネーションに似ていたの?」
「はい、多分宮城県の友人と似ていましたから、そう思っただけです」
「他に何か覚えていない?」
「地震がもの凄く恐いと話していましたよ!小さな地震があった時青白い顔で震えていました」
美優は自分の言った事が的中していたのか?東北出身で地震の影響で、何かの事件が没に成って消えてしまったと思った。
谷岡か岡谷と云う女性は、何かの犯罪で逃げている人の可能性が高いと思う美優。

美容整形

51-014
美優は直ぐに一平に金沢と云うバイトに聞いた話しを伝えた。
一平は今更ながらに美優の勘の良さに驚いて、佐山に相談して横溝捜査一課長にどの様に伝えるか相談をした。
もしこの谷岡が犯行と関係無い場合、捜査が全く振り出しに戻ってしまい世間の非難を浴びる事に成る。

美優は谷岡の店から、岡谷の居た島田店に移動して何か手掛かりが無いかを捜す事にした。
今度も同じで客は少なく、ガードマンと従業員の数が目立っている。
同じ様にパートの人に尋ねると、そう言われると静岡の人とは少しイントネーションが異なる感じがしたと証言した。
岡谷と谷岡が同一人物だとの見立ては正しい様だと確信した美優。
運転をしながら色々と考え始める美優は、自分の推理の中でも無理が有ると感じていた。
スーパーASUKAに対しての復讐だと考えても、次々と無差別で人を殺害する事に抵抗は無いのだろうか?
もう一つはこれだけの変わった毒草を使用している犯人は、相当な毒草の研究とサンプルを既に持っている可能性が高いと思った。
柿本貴史は殆ど知識が無いとの証言が有るので、犯人の可能性は極めて低いが学生証がもしも意図的に盗まれたのなら、薬草同好会の面々の中に犯人若しくは共犯者が存在する。
使われた毒草で有名なものはトリカブト程度で、それ以外は一般的に知る人は極めて少な。い。
簡単に毒草を手に入れる事が出来るのだろうか?長年に渡り研究している人物?
柿本貴史は、薬草同好会の横山摩耶に好意を持って、薬草にそれ程の興味は無いのに入会している。
薬草の知識が豊富な横山麻耶が、柿本の学生証を盗み取る事は極めて簡単だが、それを使った人間が男性で柿本貴史に似ていなければ意味が無い。
その様に考えると、スーパーASUKAに恨みを持っている人と一致する人は少ないと思う。
① 薬草の知識が豊富。
② 柿本貴史の学生証を簡単に手に入れられる人。
③ 柿本に似ている人物。
④ 犯人が複数なら恨みを持つ人と共犯?
⑤ 残忍な性格の人物が主犯なのか?無差別殺人が出来る!

スーパーASUKAの小島常務への聞き取り調査が再び行われて、電話の女性は声に特徴は少し訛りが有ると聞いた白石刑事達。
その話しを聞いて、一平から聞いた美優の話と一致すると大いに喜んで、再び岡谷、谷岡を名乗ったモンタージュの女性に捜索の目を向ける皮肉な結果に成った。

だが意外な処から、この女性に対する情報が流れて来て捜査は方向性を失う事に成った。
東京の美容整形の看護師が偶然モンタージュを見て、数年前に暁美容クリニックで整形した患者に似ていると県警に通報してきた。

伊藤刑事が女性刑事小寺を伴って事情を聞きに向かった。
看護師は現在神奈川のGKクリニックに勤めて居ると話したが、一年以上前に暁美容クリニックは、院長が心筋梗塞の為に死去して閉院をしていると話した。
内野朋子看護師は四十五歳、暁美容クリニックは小さな病院で開院して六年程度で、院長の急な病気で閉院したので、患者数も多くなかったと証言した内野。
事件の事は知っていたが、モンタージュの写真は見ていなかった。
先日ワイドショーで詳しく事件の特集を放送していたので、偶々見て思いだしたと話した。
院長は暁輝一で亡く成ったのは四十五歳、大手の美容整形に勤務から独立して開業。
僅か六年で急な病で死去、大手の美容クリニックは院長の脱税で話題に成った病院だった。
「その女性の名前とか住所は覚えていらっしゃいますか?」
「保険を使わない整形だったと記憶しています。結構高額の手術代だったと記憶していますが名前が本名か?確認していません。院長は開業して間も無いので、少し意味の有る様な整形もしていた様です。それは以前の大手の病院でも同じだった様でした」
「脱税の病院は違法な手術、事件性の患者も闇で行っていたのですよね」
「その様な噂は聞きました。それでその様な話しも暁には来たと聞いています」
「当時の同僚の方でお付き合いの有る方はいらっしゃいませんか?」
「看護師は私一人で、忙しい時は奥様が手伝われていました。受付に一人パートの方が勤められていただけですので、殆ど知りません」
「その女性はどの様な手術をされたのか覚えていますか?」
「眉を薄くして、鼻を高く目元も変えましたね、髪型を変えれば全く別人に成れますよ!と院長が自慢していました!美人に整形をした訳では有りません!全く異なる顔に変えたと思います」
「他に何か特徴は有りませんか?」
「多分東北の方だと思います、地震で拾った人生だから大切にしなさいと院長が勘定の時話していました。私は地震で死にかけたのだと思ったのですが、今考えると違った様です」
「成る程、追われていた?と言う事ですね」
頷く岡野が急に「この女性が、院長が亡くなる少し前に病院を訪ねて来たのです」
「えっ、手術から六年後ですよね!」
「そうです、多分手術に来たのが開院から半年後位でしたから、今頃の季節だったと思います。彼女が医院を訪れたのはもう少し寒い時期だったと思います」
「何をする為に訪れたのですか?」
「術後の経過を診て貰う為に来たと思いますが、普通は六年も経過して来ないのですが?でも院長は手土産を貰って嬉しそうでした」
「手土産を持って来たのですか?」
「はい、お酒だと思いますが、中身は見ていませんので判りません」
二人は岡野の昼休みに話しを聞いて病院を後にしたが「手土産を貰って、数週間で亡く成ったと岡野さん話していたな!」
「何か臭いませんか?」
「確かに!名前は偽名で手術しているし、六年も経過して何故暁美容整形に来たのだろう?」
「はい、その後直ぐに院長が急死!それも心筋梗塞でしょう?怪しい」
二人は帰りの車で、疑問点の応酬に成っていた。

過去の憎しみ

51-015
「暁美容クリニックの奥さんの所在を突き止めて、手術の実体と死因を確かめて、谷岡の本当の名前を割り出せ」横溝捜査一課長は伊藤刑事の報告を聞いて捜査員に指示をした。
捜査本部には久々の進展する情報に沸き立った。
捜査の状況は夜、美優に一平から伝えられて、流石の美優も自分の推理に唖然として聞いた。
唯内容が自分の推理と異なって、今回の事件に関連が有る可能性が高く成った事が意外だった。
「この状況から考えると、少なくとも事件に関与している可能性が高く成ったな!」
「医者の亡くなり方も似ているわね」
「誰に似ているのだ?」
「馬鹿ね、スーパーASUKAの前の社長の亡くなり方も、心臓麻痺でしょう?時期も同じ様な時ね!」
「美優はどうしてもスーパーASUKA の前社長と結び付けるな!」
「だから麻生香里を早く調べる必要が有るのよ」
「二十年以上前のお手伝いで、四国の出身らしい?男の子が居たらしいでは調べるのが困難だよ!」
「一度関係者に尋ねてみたらどう?専務とか長女の碧さんなら充分知っている年齢でしょう?」
「それはそうだろうが?何を理由に尋ねるのだよ?」

翌日暁美容クリニックの調査を刑事数人で調べた。
数年前に院長の死亡で閉院に成っている事は確認が出来たが、戸籍を調べても妻が居た形跡が全く無く暗礁に乗り上げてしまった。
岡野朋子の証言した奥さんの存在が、資料からは全く判らず刑事達は再び岡野の病院に向かった。
岡野朋子も、まさかあの人が奥様では無かったと聞いて、内縁だったとは信じられませんと答える以外に無かった。
白井刑事は他に奥さんに関して、何か手掛かりに成る様な事を覚えていませんか?の質問に、同じ病院に勤めて居た事以外は判りませんと答えた。
だが、脱税の病院は暁美容整形クリニックが開院した頃には、無く成っていたので一層判り難い。
「奥さんらしき女の名前も住所も判らないか?」横溝捜査一課長は再び捜査の行き詰まりを感じて「十円禿げがまた大きく成る!署長からも、世間からも警視庁にまで捜査の進展を尋ねられる!本当に憂鬱だ!」

美優は夜に成って一平から情報を手に入れると紙に書き始めた。
①仮説 スーパーASUKA の創業者、朝比奈信三に対する恨みが原因?
②無差別殺人を起こしたのは、スーパーASUKAの崩壊目的。
③信三と不倫関係に成った麻生香里が朝比奈家を追出された事が原因?
④谷岡、岡谷と名前を変えてスーパーASUKAに毒草を仕掛ける為に潜入したのなら、何故暁美容整形で顔を変えた?
⑤この女は東北の女性で、麻生香里とは全く別人だ!年齢も十歳程若い。
⑥この二つを結び付ける事は何も無い!麻生香里説は間違いか?
⑦柿本貴史の学生証を使った男は、少なくとも二十歳前後の男性だ!
⑧犯人は柿本を名乗った二十歳前後の男、谷岡か岡谷を名乗った女の二名?
⑨既に四人の関係の無い人が死亡しているが、急に毒草を使わなく成ったのは?小島常務の話が本当だった?
⑩暁医師と朝比奈信三の死因と時期が酷似しているのも、何か引っかかる。
「疑問点はこんな感じだわね!」書いた紙を渡す美優。
一平が読みながら「最初に信三に対する恨みか?」と笑った。
「私一度小島碧さんに会って来ようと思うのよ!」
「何を理由に会うのだ?」
「女性の声で自宅に電話が有ったのだから、それを聞いても構わないのでは?」
「警察が既に常務には聞いているよ!自宅まで行くのは?」
「自宅は藤枝でしょう?近いわ」
「でも簡単には会って貰えないだろう?」
「野平美優って言ったら、名探偵の奥様ね!今回の事件を解決して頂けるなら、何でも協力しますって、言われたわ」
「えーー、既にアポを?」
「はい」って微笑むと「久美さんに美加の事は頼んだから大丈夫!」と微笑む。

翌日美優は二十年前の家政婦、麻生香里の事を尋ねるのが主な目的として藤枝の自宅に向かった。
碧は美優を見て芸能人に会った様に喜んで迎えて、事件解決に乗り出して頂いて感謝していると御礼を述べた。
しばらく事件の話しをしてから、本題の父親信三さんの死因に不自然な事は無かったのか?と尋ねると「あんなに元気で精力的に働いていた父が、心臓麻痺で倒れたと聞いて驚きました」と答えた。
「不自然な亡く成り方だったのですね」
「父の死が今回の事件と関係が有るのですか?」不思議そうに尋ねる碧。
「毒草にも心臓麻痺と似た様な具合に成る物が沢山有るので、気に成ったのです」
「でも一年以上前の事ですし、医者も何も疑問を持っていなかったと聞いて居ます」
「今と成っては死因を特定する事は無理だと思います!お父様は誰かに恨まれていたとかは?」
「有ると思いますよ!六十店舗のスーパーを作ってきたのですから、地元の市場の人達には恨まれていると思いますね、他府県ですからね!でも殺す程か?と聞かれたら違うでしょう」
「敵は多かったと言う事ですね、それから個人的な事ですが、昔お父様がお手伝いさんと不倫をされたと聞いたのですが?」
その言葉に顔色を変えて「誰に聞かれたのですか?誰も知らないと思うのですが?主人も知らない話なのに、兄?次の兄、妹?」
「どの様な人だったのですか?麻生さんは?」
「えっ、名前まで知っているのですか?これは驚きだわ!名探偵は本当だった!」
驚き半分、昔を思い出して興奮している碧。
「母が入院中にお手伝いの子持ちが、父を誘惑したのよ!許せなかったわ!子供四人で懲らしめて追出してやったわ!」
「その後の事はご存じですか?」
「知る訳無いわ!四国にでも逃げ帰ったのでしょう?」興奮が収まらない碧。

過去の罪

 51-016
「子供を田舎から呼んで、母が病気の時を狙って不倫で父を誘惑したのよ!許せないでしょう?」
「子供って男の子?」
「そうよ!六歳位でしょか?四国の小学校に入れるより、静岡の小学校に入学させたいと父に頼んでいたらしいわ」
「名前とかご存じ無いですか?」
「知らないわ、一度会っただけで泣いていて五月蠅いだけだった」
「お父様は何と?」
「父が知らない間に、四国に追い返してやったわ!父も母の事を愛していたから、出来心だったと退院してきた母に謝って、平和に成ったわ」
「それではその後麻生香里さんの消息は?」
「知る訳無いでしょう?今度の事件と泥棒猫の家政婦が関係有るの?」
「それは判りませんが、あらゆる可能性を調べ無ければ、犯人には辿り着けません」
「色仕掛けしか能の無い女が、二十年も経過して復讐に来るの?変な話しだわ!名探偵も焼きが回ったのね」気分を害したのか、その後は一気に機嫌が悪く成って美優は質問の機会を失い退散した。
もう一度老人ホームに行って、飛田公子にもう少し事情を聞こうと思った美優。
帰りの車で関係者の中で、麻生って名前の人物は居ないわね!パート従業員に麻生って人物が居ないのかな?そう考え出すと車は自然と静岡県警に向かっていた。
横溝捜査一課長一人で、他の刑事は全員聞き込みに出掛けていた。
「課長さんお一人ですか?」
「美優さん、また事件だよ!今度は電鉄系のスーパーの花売り場でトリカブトの花が置かれて居たのだよ」
「本星の犯行でしょうか?」
「悪戯かも知れないが、聞き込みに行かせた!今日はどの様な用事だね?」
「実はスーパーASUKAの従業員に麻生って人は居ませんか?」
「麻生?少し待って下さいよ!従業員のリストなら貰っていますよ」
婦人警官の一人にパソコンを操作させて調べると、しばらくして「ひとり正社員で居ますね」と女性が画面を見て言った。
「年齢は?性別は?」美優が直ぐに尋ねた。
「三十七歳男性で、愛知の店の店長をしていますね」
「そうですか、全く該当しません」
「美優さん、その麻生って人は?何処の何者?」
「朝比奈家に昔お手伝いに入っていた人です」
「二十年前の朝比奈家のお手伝い?それが今回の事件に関連が有るのですか?」
婦人警官が「パートもバイトも麻生って名前はこの人一人ですね」とパソコンを調べて伝えた。
「いいえ、偶々聞いたので調べただけです、すみませんでした」
美優は該当者無しに、失望して県警を後にした。
確かに麻生香里か子供が店に入っていたら、事件は一気に解決だからそうは簡単には解決しないと気を取り直して自宅に向かった。

夜一平が戻ると「今日のトリカブトの花は精巧に造られた造花だったよ!」
「誰が置いたか判ったの?」
「花売り場の品物として、届けられた物で送り主は不明!悪戯か、一連の犯行か?未だ調査中だ!それより署に麻生を捜しに行ったらしいな?」
「居なかったわ、私の推理ミスかな?」
「岡谷も予想は外れたから、今回も外れかも知れない!度々刑事以上の活躍をされると俺の立場が無い」そう言って笑う一平。
「でもね、朝比奈家の子供達が四人でお手伝いの麻生香里を、家から叩き出した様だったわ!」
「叩き出した?穏やかでは無い言葉だな」
「そうなの、碧は今でも当時を思い出して興奮していたわ、それに麻生の子供も一緒に居たらしいの?静岡の小学校に入学させるとかで、田舎から出て来たらしいわ」
「住み込みの家政婦だろう?阪神淡路の震災に関係有るのかも知れないな?」
「一平ちゃん!凄い!四国も徳島、香川、高松は被害が出ていたと思うから、引き取ったのかも知れないわね」
「碧は麻生香里の住所とか連絡先は知っている様だったのか?」
「全く知らない様子で、家政婦に入った経緯も知らなかった様だわ!既に結婚していたから実家の事は判らないだろうと思うわ!或る日実家から父親が家政婦と不倫していると聞いて激怒して押し掛けて、叩き出したのでしょうね」
「その現場に子供が居て、悲惨な状況を見ていても復讐するかな?六歳前後だろう?」
「麻生香里に信三の子供が居たらどう成ると思う?」
「スーパーASUKAはこの二十数年で大きく成ったから、認知を頼みに行った?」
「えっ、それなら犯罪は起こす動機に繋がるでしょう!」
「美優の推理では、その時子供を妊っていた香里は出産した!二十数年経過して、認知を迫ったが信三は無視した!すると信三を殺害して、自分を叩き出した家族には相続させない為、店を潰そうと考えたと言う推理だな!」
「そうね、でもそれは子供が産まれていた事が前提で、もう一人岡谷を名乗った女との関連が全く判らないし、もしも暁医師が殺されていたのなら尚更奇々怪々なのよ」
「それでスーパーASUKA の麻生に成る訳だな」
「二人共、殺された事を今では実証出来ないから、想像だけなのよ」
「コショー事件の後は殺人に成る様な事件が発生していないのは?」
「毒草の事を調べたのだけれど、最後の偽コショーで死人が出る事が犯人は計算外だったのかも知れないわ、あの毒草は相当沢山食べないと死に至らないのに、簡単に死んでしまったのは誤算だったのかも知れないわ」
「スズランでも二人も死ぬのは計算外か?」
「体調の悪い人、沢山食べた人で状況は変るし、これだけ食べれば死ぬ基準が無いのよ!」
「だが、連続で死んでいる」
「私は実行犯と、計画犯は異なるのだと思う、例えば毒草で犯罪を計画して実行犯に委ねて、自分は実行犯と連絡が出来ない場合どう成ると思う?」
「始めた計画は進めてしまうだろうな?」
「もしかしたら死ぬかも知れないけれど、多分大丈夫だと思うと言ったら?」
「実行犯は連絡が出来ないので、死人が出ても継続してしまう!」
「連絡が出来る様に成れば、慌てて中止する可能性が有るでしょう?」
美優の推理を感心して聞いている一平は、そうかも知れないと考え始めていた。

上品なお婆さん

51-017
(計画を作成した人物が離島に居て連絡ができない時、実行者は当初の計画通りに遂行する)一平の頭に昨夜の結論が呪文の様に残って県警に向かう。
署に到着すると一平は直ぐに佐山係長に美優の推理を簡単に説明して、下田の老人ホームに飛田公子を訪ねたいと願い出た。
佐山は美優の大胆な推理に驚きながらも、理屈は合っていると横溝捜査一課長に一平と伊藤刑事を派遣する様に頼み込んだ。
佐山は横溝捜査一課長に一平の話は伝えないで、最近毒草事件が発生していないが、朝比奈家が狙われているのなら個人を狙うかも知れませんので、一度調査を行った方が良いのでは?と進言していた。
朝比奈家の人間を狙う可能性も無いとは言えないと、横溝捜査一課長は一度身辺を調べて何か恨みが隠れて居るかも知れないと自ら言った。
行き詰まる捜査に疲れ果てた横溝捜査一課長の苦悩が見てとれた。

二人は宿泊の準備をする為に自宅に戻り、着替えを持って土肥、下田方面の聞き込みに向かった。
時間が有れば朝比奈明日香の病院に立ち寄る事も視野に、下田署の持田課長に連絡をして所轄の刑事に応援を頼んだ。
下田警察署管内での捜査には所轄の刑事の同行は不可欠で、県警が単独で捜査をすると後々トラブルに成る事が多い。

美優は自宅で犯人が静岡のスーパーASUKAを狙っているのなら、警察の動き、朝比奈家の動き、そして自分の事も監視している可能性が有ると考えていた。
自分の推理が正しいのなら、静岡医科大学の薬草同窓会の面々の中に、今回の犯行に関わりが有る人が必ず存在すると考えて、佐山刑事に連絡をして資料を貰う事にした。
メールで届いた資料を見る美優。
薬草同好会メンバー
守本覚教授 五十二歳 現住所  静岡市内で大学の指定住宅に妻、楓 五十歳、二人の子供と生活、出身は京都府、亀岡市。
横山麻那 二十歳  学校の寮生活、実家は和歌山県串本市。
竹内満里奈 二十歳 学校の寮生活、実家は秋田県、秋田市。
迫田理香  二十歳  静岡県、浜松市。
村野恭介  二十三歳 市内のマンション住まい、実家は東京都、渋谷区、医者の息子。
児玉順   十九歳  市内のマンション住まい、愛知県、岡崎市、医者の息子。
富田昌樹  二十二歳 市内のマンション住まい、富山県高岡市、医者の息子。
北野俊   二十歳 市内のマンション住まい、神奈川県、横浜市、医者の息子。
福田宏隆 二十四歳 市内のマンション住まい、長野県長野市、医者の息子。
本多芳樹 二十歳 学校の寮 実家は山梨県、大月市
上記のマンション住まいの学生は全員医学部で、残りの四名と柿本は薬学部と注意書きが添えられていた。
「お金持ちは違うわね!子供にマンションに住まわせて、大学に行かせるのね」資料を見て独り言を言う美優。
だがこの中に麻生香里の関係者が居るのだろうか?医者の息子は全員関係無いとすれば、女性三人と本多芳樹か?大月市?田舎の薬局の息子?美優は大月市の薬局をネットで調べると、本多薬局がヒットして「ここの息子か?」そう呟きながら電話をかける。
予想は見事的中で「息子に何か御用ですか?大学ですから寮に電話をして下さい」と親父らしき男性が忙しそうにそれだけ言うと切った。
残る女子学生の中に関係者が居るとすれば、秋田と和歌山はスーパーASUKAの存在も知らないだろう?
迫田理香か?香里、理香似ているわ?取り敢えず迫田に的を絞って明日にでも実家を見に行こうと考える美優。

「伊豆高原病院に入院中の朝比奈明日香社長に面会されるのなら、今日の方が良いとの事ですがどうされますか?」所轄の山田刑事が一平達と合流して最初に言った。
「そうですね、今から行きましょうか?」
車を一台にして三人で病院に向かう。
個室の病室に上品な明日香は刑事達が訪れるのを、服装を整えて待っていた。
「この様な田舎の病院まで警察の方が、来て頂いたのは事件が解決したのでしょうか?」
嫌味を言う程しっかりとしたお婆さんの明日香。
「今日お聞きしたいのは、昨年亡く成られた御主人の死因に付いて何か不審な点は無かったのでしょうか?」
「えっ、主人が亡く成った事が今回の毒物事件と関係が有るのですか?お酒が好きでしたから日頃から飲んで風呂に入るのは良くないと、掛かり付けの稲垣先生から注意を受けていたのです」
「それなら、風呂で亡く成られたのですか?」
「そうです、それで救急車を呼ぶのを躊躇って、稲垣先生に来て頂いたのですよ!」
「既に風呂で亡く成られていた訳ですね!」
「そうです、主人は長風呂だったので、私も気にしていなかったのですが、遅すぎたので見に行くと既に亡く成っていました」
美優は先日信三が亡く成った場所まで聞いて居なかったが、風呂で亡く成っていたなら、救急車は呼ぶ事は無いだろうと思う一平。
「もう一つ、お尋ねしたいのですが、二十年程前に飛田公子さん以外にお手伝いさんを雇われていましたね」
「私が病気でここに入院した時ですね!公子さんがここに毎日の様に来ましたから、少し若い家政婦さんを住み込みで雇ったと聞きましたが、私は一度も会った事が有りません!その家政婦さんが何か?」不思議そうに尋ねる明日香に次の質問が出来ない一平。
家族は信三との不倫を明日香には全く伝えていないのか?
「その時、長く入院されていたのですか?」
「癌だったので、入退院を繰り返していましたね!一年程度その様な感じでしたから、その後は再発もせずに今日まで過して参りました」
「麻生香里と言う女性ですが、何もお聞きに成っていませんか?」
「はい、今初めて聞きましたね、公子さんの話しでは直ぐに辞めて、住み込みで無い通いの家政婦さんが来たと聞きました。その方は三浦さんって名前で、私も知っていますわ」
一平は明日香にこれ以上尋ねる事は酷だと思い、病院を後にして飛田公子の老人ホームに向かった。

老人ホームの事件

51-018
一平達が到着すると、老人ホームが騒がしい様子で職員が右往左往している。
「どうされたのですか?」伊藤刑事が近くに居た老人に尋ねた。
救急車の音が近くに聞こえて「食中毒かな?何人か倒れたみたいよ!」
「えっ、食中毒?」一平が職員の姿を探しに園内に向かった。
山田刑事も園内の異常に下田警察署に連絡をすると「老人が数人死亡して、数人が苦しんでいると通報が有り、救急車と警察が向かっています」と山田刑事に伝えた。
「お婆さんが二人亡くなり、お爺さんが二人意識不明、その他数名が身体の不調を訴えて医者の診察を受けています」
伊藤刑事が職員に聞いて山田刑事に伝えた。
しばらくして救急車が三台到着、続けてパトカーが同じく三台到着して、山田刑事を見つけて「山田刑事、ここに来られて居らのですか?」と驚いた様子で尋ねた。
「今、偶然来たらこの騒ぎだ!よく判らないのだ」
一平が園内で一番心配していた飛田公子の行方だったが、混乱の中職員を捜して訪ねると「その人よ!その人が原因なのよ!孫が送って来た饅頭をみんなに振る舞ったのよ!」
「飛田公子の孫が送って来た饅頭?本人は?」
「亡く成ったわ!だから文句を言えないけれど、とんでもない腐った饅頭だったのよ!食中毒でしょう?」
「飛田公子が亡くなった?その饅頭は残っていますか?」
「貰って食べたから、具合が悪く成ったのでしょう?誰かに聞いて下さい」
忙しいのに聞かれて、苛つきながら答える職員は救急隊員に、具合の悪い老人を運ぶ様に指示をした。
一平は飛田公子の部屋に向かい孫が送って来た饅頭の箱を捜したが、何処にも見当たらない。
「飛田さんの孫から送られて来た饅頭の箱はご存じ無いですか?」
老婆に尋ねると「今朝皆に分けて、箱は棄てたわ!私は仲が悪く嫌いだから貰えなかったから、助かった!」そう言って笑った。
ゴミ箱のゴミは昼前にゴミの収集車持って帰ったと、職員が一平に伝えて箱を見つける事は無理に成った。
産廃業者に連絡して押さえようと試みたが、夕方迄時間を要してしまい、焼却炉の中に消えていたのだ。
老人ホームでも好き嫌いが多く、仲間意識の有る老人達でお互いの貰った物を分ける様で、饅頭を貰った人は十名前後で、公子ともう一人亡くなった老婆は仲が良く二個ずつ食べた様だ。
この事件は直ぐに夜のニュースに成って流れる。
二人の老婆は静岡県警に運ばれて、明日司法解剖に廻された。
病院に運ばれた老人達の症状は、毒物を食べた状況だと複数の病院の医師が証言した。
夜のニュースの段階では食中毒で二名死亡と発表されていたが、一平が美優に連絡した時は毒物を食べたと伝えた。
「孫が送って来た饅頭なの?多分毒草よ!明日司法解剖すれば判明すると思うけれど間違い無いと思うわ!」
「何故?飛田公子が狙われたのだろう?」
「多分以前から、飛田公子の事は調べていたのだと思うわ、私が老人ホームに行った事を知って殺害したのよ!これで犯人は完全に墓穴を掘ったのよ!」
「何故?」
「自分は朝比奈家に恨みを持っていますと証明したのよ!」
「成る程!」
「でも捜査本部は公表しない方が良いと思う、犯人に気づかれない様にして置かないと捜査が筒抜けに成って、犠牲者が増える可能性が有るわ」
「このまま食中毒でやり過ごすのだな!」
「もう飛田公子さんの孫を警察は捜しているでしょう?」
「それが、孫は存在していないのだよ!県警も困っている!だって結婚していない飛田公子に孫は居ないだろう?」
「住み込みで長い間、朝比奈家で暮らしていたのだから、結婚はしてないわね」
「飛田公子は日頃から、可愛い孫娘が居ると園内で話していたそうなのだよ!だから嬉しそうに孫娘が饅頭を送ってくれたから、みんなで食べましょうと、仲良くしていた人に配った」
「宅配便でしょう?履歴は調べたの?」
「静岡県浜松市内のコンビニから、発送されている」
「監視カメラに残って無いの?」
「若い男性だが、サングラスに髭で変装していた様だ」
「若い男、東京のネットと同じ男だわね!谷岡とこの二人は犯人として確定だわね!後何人が犯行グループだろう?私は四人!主犯があの薬草同好会のメンバーの中に居るとして、東北出身の女が谷岡、岡谷か!」そう話しながら電話を終る美優。
迫田理香の存在が美優の頭に大きく広がる。
明日美加を久美にお願いして、浜松の実家を調査に行かなければ犯行を止めなければ、これ以上の犠牲者は出せないと自分に言い聞かせた。

翌日一平達は事件の後始末と調査に明け暮れ、県警からの応援部隊も合流して回復した老人の事情聴取を始めた。
美優は朝から浜松に向けて車を走らせる。
近所の家に聞き込みに入る美優だったが、美優の事を知っている主婦で、興奮して今回の事件を手伝っているのか?自分が知っている事は何でも話すと積極的。
顔が知られると便利な時も有れば、困る事も有ると考えながら話しを切り出す。
「迫田さんのお嬢さん?昔から頭が良かったのよね!国立大の薬学部でしょう?奥さんが、お金が沢山掛ると自慢の様に話していたわ!理香ちゃんが何か?」
「家族関係とか何か特殊な事情とか有るのかな?って、薬草同好会のメンバー調べているのです」
「何も無いわね、弟の勉強が出来ないって奥さんがぼやいている位かな」
「姉弟は二人ですか?」
「弟は高校生、御主人は役所勤め、奥さんとは見合い結婚!奥さんは近所の会社にパートに行って居るわ!こんな感じで良いの?」
美優はそこまで聞いて自分が見込み違いだったと直ぐに判った。
迫田理香が今回の犯行をする理由が見当たらないと思った。
無駄足に成った様だと家を出た時「こんにちは、叔母さんご無沙汰しています」と主婦に声を掛ける若い女性。
「偶然って恐いわね、今の女の子が理香ちゃんよ!」と驚いた様に言った。
連れの女の子と一緒に自宅に入って行く「学校の同級生だわ、二度程見たわ!あの子も同じサークルの子よ!」主婦は聞きもしていないのに教えてくれた。

毒饅頭

51-019
「同じサークルって、薬草同好会のメンバー?」
「よく三人で休みに成ったら遊んでいる様ですよ、もう一人今日は来てない様ね!」
美優は今の女の子が竹内満里奈で秋田の子だと見ていた。
主婦に御礼を言うと、少し待ってと家の中に戻るから、何か思い出したと思って待っていると、色紙とサインペンを持って来て書いて欲しいと頼み込まれた。
美優は何か思い出したら連絡をして貰う交換条件で、サインを色紙に書いて手渡した。
帰り道、自分の推理が間違っていたのか?薬草同好会のメンバーに主犯は居ないのか?だが何度考えても十人の中の誰かが関係しているとの結論に成るのだがと思う。

その頃司法解剖で、シクトキシンが体内から検出された。
シクトキシン とはドクゼリに含まれる化学物質であり、猛毒成分である。
類似化合物にファルカリノール、ファルカリンジオール、エナントトキシンがあり、いずれもセリ科の植物から発見されている。
食べた老人の話では、飛田公子に貰ったのは人参饅頭で、九州の土産だと聞いたと証言した。
鑑識の見解ではその饅頭にドクゼリから抽出した毒を、注射器で注入した様だ。
確かに残った饅頭の包み紙は、普通の観光地の土産で小包装から複数の指紋が検出されたが、犯罪に結び付く物は無かった。
外箱、包装紙等が既に破棄されているので、それ以上の事を調べる事が出来なかった。
犯行に使われたのはドクゼリと呼ばれる毒草だと断定されたが、敢えて老人ホームで集団食中毒とマスコミに発表した静岡県警。
横溝捜査一課長は美優の推理に脱帽して、犯人を油断させる作戦を敢えて敢行した。

「これで犯人の狙いが朝比奈家に有ると見て間違い無い様だ!今後は朝比奈家の相続争い、権力争いの線も従来の捜査に合わせて、内密で行う事にする。担当は伊藤君、野平君、小寺君、白石君の四名でその任に当たってくれ!従来の谷岡、美容整形を中心とした捜査は他の全員で捜査して、谷岡と朝比奈家の接点が有れば一気に解決だ!」
横溝捜査一課長は事件に一筋の光が差し込み、元気を取り戻した。
佐山係長を中心に四人のミーティングが行われて、疑問点を話し合う。
① 具体的に今回使われたのは九州の土産だが、飛田公子が確実に二個食べなければ死に至らない可能性も有ったのに何故敢えて実行したのか?
② 飛田公子は独身で孫が居ないし、戸籍上も養子を貰った形跡も無いのに何故?孫が送って来たと園内の人に話していたのか?
③ 美優さんが老人ホームに飛田公子を訪ねた事を、犯人は何故知ったか?
④ 飛田公子が朝比奈家の事情に精通している事が、今回の殺害に繋がったのか?
⑤ 朝比奈明日香は麻生香里と信三の不倫を知らないのに、子供達は知って香里を叩き出したのか?
⑥ 麻生香里の消息、そして息子が存在したのか?信三との間に子供が出来ていたのか?
「以上の点を重点に調べ様、少人数なので老人ホームを白石と小寺で、飛田公子の実家を野平と伊藤で調べて二日後に,もう一度情報を集めて話しをしよう」佐山の指示で明日から二組で聞き込みをする事に成った。

飛田公子は老人ホームホームへの入園時の身元が、公子の弟飛田敏夫に成っていて、遺品等は敏夫の住まい浜松市に送られた。
保証人が朝比奈信三に成っていたのは、長年朝比奈家でお手伝いをしていたからだろうと察しられた。
遺品からは孫の存在が実証出来る物は何も無かった。
一平と伊藤が公子の弟の自宅に向かったが、弟敏夫の家も息子夫婦の代に成って敏夫自身も辛うじて家において貰っている状況。
荷物を貰ってもゴミに成るだけだから、園で処分してくれたら良いのにと息子の嫁が嫌な顔をした。
敏夫は、姉は一度も結婚しないで、若い時から朝比奈家に住み込みで働いていたので、子供も居ないのに孫が居る訳無いですと言った。
老人ホームに入るのは、全て朝比奈家が手続きもお金も出してくれて、自分は名前だけ書いただけだと言った。
自分の孫も男が二人だけで、子供も一人で全く女の子には縁が無いと話した。
嫁が喜んだのは公子の僅かな貯金だけで、二人の刑事は孤独死に近いと思った。

一方園内での聞き込みの二人は孫娘の話を聞かされた人を捜し始めた。
介護士の瀬川は飛田公子のお気に入りで、孫娘を実際に見た一人だった。
二十歳位の比較的美人のお嬢さんで、その時も手土産に饅頭を持って来たと記憶していた。
人参饅頭を持参して、自分もひとつ頂いたけれど美味しかったと証言した。
もう一年程前だと瀬川は話し、その当時飛田さんと仲の良かった河西さんと言うお婆さんと三人で少しの間話し込んでいたと話した。
白石刑事がその河西さんは、どの方ですと尋ねると今年の冬に亡く成られましたと話した。
孫娘を実際に見た人は数人居るだろうが、話しをしたのは河西さんひとりだと思うと話した。
「他に何か覚えていませんか?」
「多分大学生だと話していましたよ!勉強が良く出来るとも聞きましたね」
その程度の情報しか残って居なくて、他の老人に尋ねても殆ど記憶が不確かで信頼性に欠ける話しが多かった。
麻生香里の情報を知っているのは、朝比奈家の四人兄弟、姉妹のみだ。
翌日手分けをして、朝比奈兄弟、小島家、村上家に向かった。
朝比奈信一専務の自宅に伺うと、信一は名古屋の店に行って留守で妻の響子が「事件が進展したのですか?」と嬉しそうに言った。
「いいえ、一昨日飛田公子さんと言う方が老人ホームで毒殺されまして、その事件の調査に伺いました」伊藤刑事が説明をすると「飛田公子さん?老人ホーム?食中毒が毒殺?我が家と関係が有るのでしょうか?」不思議そうな顔をした。
「朝比奈の家の家政婦をされていた方ですが、記憶に無いですか?」
信一と響子は結婚して直ぐに家を出て、静岡市内に住んでいるので家政婦の名前が直ぐに判らなかった様だ。
信一と結婚の時、小姑が多いので家を建てるのを条件に結婚したので、響子は判らないと言った。
だが、二十年程前の家政婦の話は記憶に有った様で「先代の社長と不倫をした女性でしょう?麻生香里の名前までは覚えていませんが、当時兄弟で相当揉めていました」と証言した。

折檻

51-020
信一専務は明日に成らないと帰らないので、小島常務の自宅に長女碧を訪ねると「恐いですね!あの飛田さんが亡く成られたのは毒殺だったのですね!今弟の奥さんから連絡が有りました」と先手を打たれた。
「マスコミには発表していませんが、毒草による殺害です!今日は先日お聞きしましたお手伝いの麻生香里さんの事をもう少し詳しくお尋ねしたいのと、飛田公子さんが孫娘だと園内で話していた女性に付いてお聞きしたいのです」
「飛田さんが孫娘だと紹介するのなら、身内の人でしょう?」
「弟さんの家族には女の子はいません!年齢は二十歳前後で綺麗な女性です」
「それ以外に考えられるのは、私達兄弟の子供でしょうか?実家に行けば可愛がって頂きました!残念ながら内は男の子が二人で大きいですから関係無いですね」
「二十歳前後の女の子は下の弟の子供ですが、アメリカ留学していますので違うと思います。一番下の奈々子には女の子が二人ですが、まだ高校生と中学生ですから該当しませんね」
兄弟の年齢は長女碧が五十二歳、長男信一が五十歳、次男信治が四十七歳、次女奈々子が四十三歳の資料は既に持って居た。
「奈々子の娘は飛田さんが孫娘の様だとは話していましたが、全く該当しませんね」
「先日お聞きしました麻生香里さんの事をもう少し詳しくお聞きしたいのですが?お母様は麻生香里さんの事はご存じ無かった様ですが、先日はお父様が謝ったとおっしやいましたね!」
そう言われて顔色が変った碧が「病気の母にその様な話しが出来ないでしょう?父が私達に謝ったのよ!」
「それ本当ですか?お父様が留守の時に追出したのではありませんか?仕事で忙しくされていたでしょう?」一平が問い詰める様に言った。
「そんな事は無いわ!名探偵の旦那さんは奥さんに聞いて来たの?」
「美優は、麻生香里さんは四国で、阪神淡路の大震災で被害に遭った息子さんを呼び寄せて、お父様の口添えで静岡の学校に通わせる予定に成っていたのでは?と話しましたよ!それは本当ですか?」碧の顔色が益々変化して「あれだけの会話でそこまで推理するって、本当に恐い奥さんだわ!でも何も私達はしていないわよ!だから本当の事を言っても罪にも成らない!でも父の恥ずかしい事だし、お母さんは今も知らないので隠していたのよ!」
「今回の事件にその麻生香里が関与していたらどうしますか?」
「冗談でしょう?それなら先日の女の電話って麻生香里なの?」
「貴方達に追出された麻生香里さんって、何処の誰なのですか?」
「飛田さんが知り合いの人を通じて、家に連れて来たって聞いたわ!」
「えっ、飛田公子さんが連れて来た?」
「でも彼女は知り合いに頼まれて連れて来たので、麻生香里の事は全く知らないと言っていたわ!お母様が病気に成ったので家政婦が必要に成って捜していたのよ」
「不思議な話ですね、連れて来た飛田さんが知らないのは?」
「知り合いが直接来て、父と面談をして決めたらしいわ!」
「お父さんはその時、麻生香里さんを見て気に入られた?」
「多分そうだと思います、母の入院でその後飛田さんは病院に行く機会が多かったので、弟達が留守の時は父と二人きりに成る機会が多く成って、不倫に進んだと思います」
「もう碧さんは当時結婚されていましたよね!何故不倫を知ったのですか?」
「下の妹が教えてくれたのよ!それで兄弟が集って彼女を問い詰めて。。。。。」言葉を濁す碧。
「お父さんの留守に麻生さんを追い出した?聞いた話では妊娠されていたと聞きましたが?本当ですか?」
「。。。。。。。。。」青ざめる顔色の碧。
「本当なのですね!麻生香里さんは妊娠されていた」
「。。。。。。。。」無言で頷く碧。
「今回の一連の事件は若い女性が絡んでいます、もしかしてその麻生さんの子供の復讐かも知れませんよ」一平が問い詰める。
碧は青ざめた顔で大きく首を振って「その様な事は有りません!絶対に!」
「何故?断言出来るのです!」伊藤刑事が声を荒げた。
「そ、それは私達が病院に連れて行って子供を堕させたからです!」
「えー、麻生香里さんを病院に連れて行って、堕胎させたのですか?」
「。。。。。。。」黙って頷く碧。
「その後の麻生香里さんはどの様に成ったのですか?」
「知らないわ、飛田に聞いたら子供を連れて泣き泣き何処かに行ったって話していたわ」
新しい事実は美優の推理を根底から覆し、振出しに戻してしまう程の衝撃だった。

夜捜査本部で佐山刑事が入って会議が行われて、同じ様な話は白石刑事達も、一番下の妹奈々子から聞いて衝撃を受けていた。
四人は麻生香里と幼い男の子を、徹底的に虐めてお腹を庇うので問い詰めると、妊娠している事が判明したらしい。
四人の折檻は壮絶だった様で、奈々子は見るに耐えなかったと白石達に話した。
「香里を子供の前で全裸にして、この体で親父を誘惑したのか?と問い詰めたと話しました」白石刑事が報告した。
「男の子は横で、母の虐められる姿を見て泣いていたと聞きました」付け加える小寺刑事も話しながら涙ぐむ。
「それはすざましい光景だっただろうな?その時信三社長は?」
「アメリカに視察旅行に行って留守だった様です」
「それ程の事件を明日香奥さんは全く知らなかった?」
「重病、それも癌で入退院を繰り返していたので、言えなかったでしょう」
「これで麻生香里の子供が女の子で、復讐の線は消えたが男の子は復讐をするかも知れないが、二十年も経過してから母親の受けた仕打ちの復讐は?だな」
「そうですね、年齢も三十歳に近いですから、柿本貴史の学生証では無理ですよね」
「では誰が飛田公子の孫娘で、毒饅頭を送ったのだ?浜松のコンビニから送った男はサングラスに髭!何者だ?」
「確かに飛田公子を狙った犯行ですよね!」
「公子が生きていると困るのは、麻生香里の事を知っているからですよね!」伊藤が発言する。
「だがあの四人は怖い連中だったな!不倫をしたのは確かに悪いが、自分たちの父親も同罪だろうが?麻生香里をそれ程責めるとは?許せんな!」佐山の怒りの言葉で捜査の矛先は四人から離れる事に成る。

水死体?

51-021
美優は自宅でパソコンと睨めっこの二日間を過していた。
東北の地域で発生した事件の資料(新聞記事)を県警に取り寄せて貰って、調べていたのだ。
東北の巨大地震の行方不明者は2018年4月現在でも2539人。
既に亡く成った人は15895人、もしもこの不明者の中に紛れ込んでいたら?死亡に成っていたら戸籍が無く成っている。
女性が関係した事件、当時三十歳過ぎとの条件付きで捜すと、保険金詐欺事件、信用金庫の使い込み事件が容疑者死亡に成っている。
宮城県の病院での看護師が点滴ミスで患者が死亡、余罪が有る可能性有りで、その後の報道は無い、病院は石巻。
「この余罪って何だろう?」独り言を言いながら、記事を書いている東邦日報東北支社に電話をした。
「その記事を書いた記者はもう退社したから真意は判らないけれど、あの大地震だから資料も殆ど無いからな!石巻支社の記事だろう?書いた本人は確か生きているよ!聞いてみたら?」
「お名前とか電話番号、お住まいは判りませんか?」
「貴女もしかして、有名な刑事の奥さん?確か野平美優さん?そうでしょう?」急に声のトーンが変って、今すぐに判らないけれど調べて連絡をすると態度が急変した。
美優は有名なのも時には役立つと、電話口で長い舌を出していた。

夜遅く一平が疲れた様子で帰宅すると、早速聞き込みの結果を訪ねる美優。
知り得た情報を話すと「えーー、子供は堕胎されていたの?これで若い女性が麻生香里の娘って推理は消えたわね」
「それと、今頃に成って息子が母親と共謀して復讐するのも変な話しだろう?今まで機会は何度も有ったと思うからな!」
「今回の老人ホームの殺人だけれど、人参饅頭を食べて亡く成った飛田さんともう一人のお婆さんは何故二個食べたの?」
「好きだったからだろう?」
「でも鑑識の見解では、一個なら死ぬ確率は少ないのでしょう?余程体調が悪い場合を除いて」
「意識不明の老人はその後助かったからな!そう言われたら変だよな!もう一人は別にして、飛田さんが二個食べてくれなければ毒饅頭殺人は成り立たないのだよな!」
「もう一人の老婆は飛田さんと仲良しだったの?」
「園内では中が良かったらしい、去年までは仲の良い河西ってお婆さんが居たらしいけれど、亡く成ったって報告を聞いた」
「その亡く成ったお婆さんの名前は?」
手帳を出して「夏目里子さん八十一歳だな!この人が気に成るのか?飛田さんの一番の仲良しだったらしい」
「何処の人?」
「静岡出身だ!確か近くだが子供に迷惑を掛けたく無いので、数年前から入園しているらしいな」
「でも犯人は飛田公子さんを狙ったのに、二個食べなかったら無意味に成ったのに?」
「前にも持って来たから、送れば好きだから二個は食べると思ったのでは?」
「その様な不確実な殺し方をする犯罪者はいないわ!何か手紙が添えられていたか、確実に二個食べると判っていたのよ!」
「そんな感じなのかな?包み紙も手紙も何も無かったけれどな!」
「子供達の方は私の推理に感服したのね!これで相当四人が麻生香里さんを虐めて、追出した事は決まったわね!でも子供が堕ろされていたのなら、もっと早く復讐するはずよね!子供の目の前で母親を裸にして、折檻したのでしょう?六歳の子供でも衝撃は大きいわ!恨みに思うわね!二十年も経過して毒草で復讐するかな?四人を殺しに行っても、店で無差別殺人はしないでしょう?」
「じゃあ、麻生香里の復讐説は消えたね?」
「でも薬草同好会のメンバーへの疑いは消えていないわ?東日本大震災の時に事件が起って東北で女性の関連する事件が三件有ったの、これよ!見て!」
パソコンの画面を見せる美優。
「保険金詐欺、信用金庫使い込み、看護師の医療ミスか?」
「この中なら、保険金と使い込みだろう?」
「何故?」
「整形にお金を使っているから、お金を持っていただろう?」
「一平ちゃんも偶には良いとこ言うわね!明日この事件その後どの様に成ったか、調べて貰える」プリントアウトして手渡す美優。
「今思ったのだけれど!信三社長心臓麻痺に成ってお風呂で死んだから、主治医を呼んだのよね!何か不審な事は無かったのかしら?毒殺とか?」
「稲垣って町医者には白石が聞き取りに行ったけれど、何も不審な点は無かったと言っていた」
「土肥の町医者でしょう?以前から朝比奈家の人は世話に成っているのよね、特に明日香は病弱だから懇意にしていたでしょうね」
「何が言いたい!」
「頼まれ事を断れない関係は成立するわね!」
「おいおい!今度は町医者を疑うのか?」
「推理の鉄則よ!関係者は全て疑え!だわ」
「麻生香里の捜索はどうする?」
「もう捜査本部は本気で捜さないでしょうね!孫娘は消えたし、柿本と長男は年齢が違うから」
「薬草同好会のメンバー調べたのだろう?」
「浜松の迫田さんは違ったわ」、和歌山の横山さんと秋田の竹内さんはスーパーASUKA すら知らないでしょう?他の男子は医者の息子で論外、後は守本教授だけれど、この人も関西で京都の亀岡でしょう?どうも決め手が無いのよ」
「でも美優はこの同好会のメンバーの関与を疑っているのだろう?」
「勿論よ!柿本貴史君が無事に帰ってくれば、疑いは晴れるけれどね」
だが翌日、予想外の場所で事件が発生して、県警は朝から騒然と成ってしまった。

早朝「一平大変だ!浜名湖で水死体だ!毒殺で沈められていた様だ」の佐山の電話が一平と美優の眠りを大きく妨げた。

縺れる推理

  51-022
伊藤刑事が一平を迎えに来ると「どうやら行方不明の柿本では?との話しです!浜名湖の現場に向かえって言われました」
「これでまた美優の意見が復活だ!」そう口走りながら車に乗り込む一平。
「重りが切れて浮き上がった様ですね、殺されたのは四月初旬でしょうか?」
「まあ、死体を見なければ何とも言えないな」
「誰が柿本を呼び出したのか?飛行機の搭乗した形跡が無いのにどの様に本土に帰ったのでしょうか?」
「偽名の可能性も充分考えられる!身分証明書は必要無いから、誰かが渡せば潜り込める」
「離島に行く前に静岡に戻って居たのなら、学生証を使った男でしょうか?」
「でも柿本貴史が何故狙われたのだろう?スーパーASUKAには関係無い様だが?」
二人はその様な話しをしながら浜名湖に向かった。

美優も同じ様な疑問を持っていた。
柿本貴史もスーパーの客と同じ様に考えて殺したのだろうか?学生証の使われ方を見ると、犯人に似ているだけで、利用されて殺された?
何処かで犯人グループと接点が有るのだろう?

遺体は腐敗して、衣類を身に着けていないので決め手が殆ど無い。
県警で遺体の解剖を行わなければ身元の特定、死因もはっきりしないと鑑識が結論付けた。
佐山刑事が一平に言った毒殺は、適当に起こすために使ったと謝って笑った。
柿本の所轄の刑事に、柿本のDNA採取に必要な物を自宅に預かりに向かわせる。
母親の柿本美代は錯乱状態で、信じられないと言いながらも自分の目で確かめたいと自らが、息子の歯ブラシを持って県警に向かった。
行方不明に成ってから、不安で夜も寝ていない美代は一気に窶れて精気が無い状態でパトカーに乗っていた。

夕方に成って鑑識が発表するまで、遺体には会わせて貰えない美代。
「お母さん!あの遺体は息子さんでは有りませんでした」佐山刑事が長椅子で待つ美代に伝えると「えーー」と言うと同時にその場に倒れ込んでしまった。
美代は病院に搬送されて、父親の健治が丁度その時間に県警に到着した。

「柿本貴史だと思われた遺体は、別人だった!死因は溺死だが別の場所で殺された様だ!飲み込んだ水は水道水だが、風呂の湯だと思われる」横溝捜査一課長が捜査会議の前に記者会見で発表した。
「死亡推定時期は四月初め、年齢は十八歳から二十五歳、血液型はO型、全裸で浜名湖に鎮められていたので、所持品も何も無い!明日から歯の治療痕の調査から始めるが、毒草事件との関連は不明だ!唯一近いのは行方不明の柿本貴史に背格好が似ている事程度だ!」
静岡県警は新たな事件を捜査する事に成り、人手が足りない程忙しくなった。
横溝捜査一課長の十円禿げは次第に大きく成って、五百円に変ろうとしていたのだ。

美優はこの死体が柿本貴史を装って、ネットカフェからメールを発信したのなら、柿本貴史は生きている事に成る。
益々複雑に成る事件を自分で紙に書いて整理を始めた。
そこに伊藤刑事の妻、久美が子供を連れて遊びにやって来た。
子持ちの奥さんには絶対に見えない久美に「どう見ても子持ちの奥様には見えないわね!いつも綺麗だわ!」
「姉は子供が居ないから、独身で旦那様が居ない時は遊んでいるのよ!」
「その時は東で?遊ぶのかな?」と言った美優の表情が大きく変る。
「どうしたの?美優さん?」
「それよ!それが有ったわ!」
「何が有ったの?急に大きな声を出すから驚いたわ!」
「女性は結婚すると名字が変るでしょう?それで判ら無かったのかも知れないわ!麻生香里では無いかも知れない!香里で捜して貰うわ」
直ぐに県警に電話をする美優「香里って名前の従業員が居ないか調べて貰えますか?麻生香里では無く香里だけで調べて欲しいの?漢字が判らないから全てお願いします」
「何か見つかりましたか?」横溝捜査一課長は美優が何か掴んでくれたのかと声を弾ませて訪ねた。
スーパーASUKAの従業員とパートの数は多く、直ぐには見つけられない。
名字は五十音順に並べているので、早いが名前はそれ程簡単には探せない。

二時間程経過して「数人見つかったがメールで送るか?」と横溝捜査一課長が直々電話をしてきて「お願いします」と言うと「該当者は居ないかも知れないぞ!このリストは先週新しく貰ったので最新だが、まあ見て怪しい人が居たら調査してみよう」
早速送られて来たリストに、かおり、香織、香、馨、歌織、香麻里、薰と八名の名前が書かれている。
薰が二名居るので八名に成っていた。
だが四十歳以上に限定すると、二名に成って住所と勤めて居る店が静岡では無く、愛知と長野に成っているので、今回の事件には関係が無い様だ。
美優も推理の限界に近づいていた。
次々と自分の推理が崩されてゆくのに、頭を抱えてしまった。
何かが違う?何だろう?
① 朝比奈信三と不倫関係に成った麻生香里、子供が妊っていたので認知に訪れたが断られて殺害?と思ったが子供は既に四人の子供達の手で始末されて、放り出されていた。
② 麻生香里の存在を知っている飛田公子を殺したのが、香里の娘と考えたが間違いだった。
③ 柿本貴史は既に殺されていると思ったが、これも間違い。
④ 谷岡、岡谷を名乗った女が東北の震災で逃げている犯罪者の事も、何も連絡が東邦日報から無い。
⑤ 谷岡と麻生香里が何処で繋がっているのか?今の処全く接点は無い。
⑥ 暁整形外科医の死は何を意味するのか?事件とは全く関係無いのか?
美優の推理は何処かで糸が縺れていると自分でも思っていた。
もっと大胆な推理が必要なのだろうか?
一番不思議な事は、老人ホームに贈られた孫娘からの人参饅頭を、飛田公子が二個食べた事だ。
もう一人のお婆さん夏目里子って、何者?美優の脳裏に急に大きく成って来た名前!

突破口

51-023
夜遅く帰った一平に、美優は「饅頭を食べて亡く成った夏目さんってどの様な経歴なの?」
と尋ねた。
「いきなり、饅頭を食べた老人か?八十歳過ぎのお婆さんだったな!経歴は聞いてないな!老人ホームに入る前の職業だな?園に聞いてみる」
「浜名湖の水死体の身元特定は困難でしょうね!」
「全国から問い合わせが相当県警に届いているから、順次照合しているが行方不明者が多いのには毎度驚かされる。身長170センチ、十八から二十五歳、O型だけでこれだけ問い合わせが有るのかと驚いたよ!」
「歯の治療痕では?」
「まだ該当者は無い様だ」
「柿本貴史さんが死んでないのなら、逆に共犯者の可能性も有るわね!でもまだ死体が発見されていないだけかも知れない!」
「しかし、本当に憂鬱な事件だ!犯人の目星が全く付かない」
「私も推理がどうしても全てを繋げ様としていたけれど、別々似考えたらどの様に成るのだろうと思ったの!それで亡く成ったお婆さんの事が気に成ったのよ」

翌日老人ホームに問い合わせた一平に、園の担当者は「昔の職業何て聞かないわよ!老人ホームに入る時若い頃の自慢をする人もいるけれど、夏目さんは賢いお婆さんで謙虚な人だったから何も言わなかったわ」
「何か職業的な事を聞かれた事は有りませんか?」
「聞いた事は無いけれど、一度園のお爺さんが倒れた時に直ぐに脈を診た事が有ったかな?」
「夏目さん脈診られるのですね?」と近くのお婆さんが言ったら笑いながら「誰でも脈は診られるでしょう?」と微笑んで、お爺さんは大丈夫って言われたのを覚えていますと話した。
「医師か看護師?の可能性が有りますね」
「ですかね!」園と担当者も一平の話に納得した様に返事をした。
その話は直ぐに美優の元に電話で伝える一平に美優は「何か感じるわね!」それだけ言って電話を切った。
美優の脳裏に或る仮説が組み立てられて居た。
飛田公子は自殺だったのでは?夏目里子も自殺?他殺?元の職業は看護師か、医師!美優の脳裏に浮かんだ仮説には、今回の事件の複雑さが凝縮されていた。
だが何も証拠は無い、動機も不明なので口外する事はまだ出来ないと思った。
碧の話しでは飛田公子は自分の知り合いから頼まれて、麻生香里を朝比奈家の住み込み家政婦として連れて来たと一平には話している。
まさか、飛田公子が仕組んだ?美優の仮説は飛田公子が麻生香里を信三に知っていて近づけたと云う事だ。
癌で入退院を繰り返している明日香の病気が治らないと考えて、朝比奈家の財産を狙った?でも大きな無理が有る!四人も実子が居るのに例え愛人に成れたとしても財産は僅かだろう?事実子供達に見つかって追出されている。
二十年前なら、信三は六十歳前、子供も長女と長男が結婚しただけで、下の二人はまだ独身だ!
飛田公子がその様な事を企むだろうか?知り合いから頼まれた?知り合いって誰なのだろう?
信三は明日香を愛しているから、店の名前をASUKAにしたと聞いたが本当だろうか?本当は逆?
信三は1939年生まれ、太平洋戦争の少し前の生まれだ。
麻生香里とは三十歳近い歳の差が有るなら、親子に近いのか?
謎の女が麻生香里、飛田公子の孫娘の二人と、谷岡か岡谷と云う女だが、この女は沢山の人が見ている。
孫娘を見たのは飛田公子と河西と云う昨年亡く成ったお婆さん?
河西ってお婆さんも調べる必要が有るわね!の結論に達した美優。

翌日美優は直接老人ホームに電話をして、河西の事を話した介護士に尋ねた。
「河西さんは、名前?そう河西美沙代だったわね」
「飛田公子さんと親しい関係だったのでしょう?」
「仲が良かったわ、確か歳も殆ど同じ位だったから仲良しだったのよ!」
「何処の方ですか?」
「静岡県内の人ですよ!一度朝比奈社長が園に来られて、驚かれていましたよ!多分知り合いだったのかしら?二人で園の隅で長い時間話しをされていましたよ!」
「殆ど三人は年齢も近いですよね」
「そうですね、飛田さんは家政婦さんをしていたから、知り合いは判るのですが河西さんが社長の知り合いだったのには驚きました」
美優は意外な事実を聞いて、その河西美佐代をもう少し調べて見る必要を感じた。
店に昔勤めて居たのかも知れないし、もっと昔の知り合いの可能性も有るからだ。
解けない事件の謎に壁を感じていた美優に、新しい突破口を見つけた心境に成っていた。
①朝比奈信三と河西美佐代は知り合いで、飛田公子は朝比奈家の家政婦をしていた。
②その河西美佐代と飛田公子は老人ホームで仲良しだった。
③飛田公子は夏目里子と一緒に毒饅頭を食べて亡くなった。
④その夏目里子は、医者か看護師の経験者の可能性が高い。
⑤飛田公子の孫娘と称する女の子は、河西美佐代と一緒にホームで会っていた。
⑥飛田公子は知り合いに頼まれて、麻生香里を住み込みで朝比奈家に住み込みに成った。
飛田公子、夏目里子、河西美佐代の三人と朝比奈信三の関係をもう一度調べれば、毒饅頭事件は目処が付きそうな気がしている美優。
それは一連の事件の真相に迫る可能性が高いと思い始めた美優。
下田老人ホームにもう一度自ら行く必要を感じていた。

二日後一平の母親が、当然の如く呼び出されて、美加の面倒を見る事に成った。
「もう、美優さんが解決してくれないと、買い物にも安心して行けないわ!何日でも美加ちゃんの面倒は見るから、存分に捜して解決して頂戴!」
野平志津でも、この憂鬱な事件にうんざりしていたので、息子の立場はもっと深刻だろうと察していた。
着替えをバッグに詰め込んで、美加に挨拶すると「めいたんてい!たのみます!」とほほ笑んで見送った。

見えなかった物

51-024
事前に下田署の持田課長に連絡すると、一人では大変だろう?人手が必要なら山田刑事を使っても良いと言う。
刑事が一緒なら、警戒もされるが事情は聴きやすいので、下田駅で待ち合わせる事にして、電車で熱海駅から下田に向かう美優。
覆面パトカーに乗って待っていたのは、山田刑事と若い女性の刑事角居栞で「すみません!課長が一緒に勉強して来なさいと。。。迷惑でなければお願いします」と挨拶した。
「人手は多い方が早いかも知れませんね」微笑みながら挨拶をして車に乗り込むと「伊豆高原病院に行って」といきなり言った。
「えっ、朝比奈明日香に会いに行くのですか?彼女事前にアポイントが無いと会いませんよ」
「彼女には会わなくても良いの?昔からあの病院に世話に成っているから、看護師さんとか医師に聞きたい事が有るのよ」
いきなり予想外の所に行く様に支持されて驚く二人。
病院に到着すると「成るべく昔の事をご存知の方にお会いしたいのですが?」
看護師が一番昔の事を知っている方なら、師長を呼んできますと言った。
しばらくして、六十歳を超えていると思われる赤城師長がやって来て「あっ、有名な野平美優さん?」美優を見ると笑顔で挨拶をした。
「私、貴女の活躍いつも楽しみにしているのよ!今日は朝比奈のお婆さんの事を聞きに来られた?図星でしょう?先日も彼女に会いに旦那様が来られたでしょう?でも今日は私を目当てに来られるなんて、流石名探偵さんだわ!」嬉しそうに一気に喋る師長。
「それはお褒めに預かりありがとうございます」
「それで、何が聞きたいの?朝比奈の奥様と御主人の関係?奥様の病気の状態?それも昔の?」
「えっ、ええ!」自分が訪ねたい事を先先言う師長に驚く美優。
「先ず、朝比奈明日香さんの実家はお金持ちだった!スーパーの資金は明日香さんの実家が援助したと思うわ!だから信三さんは頭が上がらなかったので、店の名前をASUKAにしたのよ!夫婦仲はそれ程良くないと思うわ!だって信三さんには結婚したい女の人が居たって聞いたわ、でもその家族は関西から太平洋戦争で逃げて来た人だったから、信三さんの両親が許すはず無いでしょう?朝比奈家も旧家だからね!昔は醤油を造っていたそうだからね!奥様は桐生って大きな米屋のお嬢様!」
「良くご存じですね?」
「本人に聞いたから間違い無いわ」
「奥様?それとも旦那様?」
「両方だわ」
「その好きだった彼女って、河西って方で近年亡く成られた?」
「いいえ、信三さんの彼女は昔に亡くなったって聞いたわ!それにその様な名字では無かったと思うわ!もう随分昔に亡く成っていますよ!」
「二十年程前に奥様癌で入院されたでしょう?その時位ですか?」
「いえいえ、もっと前でしょう?その時に聞いたのですから」
「えーー、二十年前には既に?」
「御主人が病院に来られて、昔好きだった女性も風の便りで聞くと、癌で亡く成ったのですよ!今妻も癌で危ないなんて、人生の巡り会いとは不思議なものですね!と話されました。でも奥様は闘病の末、完治されましたけれどね」
「そうだったのですか?」美優は話しの流れで、河西美佐代が信三の好きだった女性だと思っていたが全く異なり、師長が河西美沙代は見た事も聞いた事も無いと言った。
「犯人は朝比奈家に恨みを持っている人でしょう?それでここに聞きに来たのでしょう?」
「何故そう思われるのですか?」
「スーパーASUKAが狙われているのは明らかだし、お手伝いしていた飛田さんが殺されたでしょう?間違い無い恨みよ!あの子供達母親に似て気位が高いのよ!」
「信三さんの浮気は聞かれました?」
「知っていますよ!当時大変な騒ぎだったからね」
「当然!奥様もご存じですよね!」
「一番怒り狂っていたのですから、当たり前でしょう!」
明日香は知らないと話したが、全くの出鱈目を話していたと判った。
「子供達が主人の留守の間に追出してくれて、お腹の子供も始末したと喜んでいましたが、御主人の前では自分は何も知らない!と知らぬ顔をされていました」
「飛田公子さんは奥様の味方でしたか?」
「表面上は味方でしたが、何か裏が有る様に感じましたが、それ以上は知りません」
「最後に信三さんの死因ですが、心臓麻痺とお聞きしたのですが?」
「それはこの病院で診察していませんので、判りませんが?心臓は丈夫だったとの健康診断の記録は残っています!」
「ありがとうございました」と深々とお辞儀をすると「早く犯人を逮捕して下さいね」と微笑んで美優達を見送った。
「意外な成果でしたね!流石に野平さんだ!警察とは目の付け方が違いますね」と褒める山田刑事。
「次はどちらに行かれますか?」
「稲垣医師の病院に行きましょう」
「先程の話しの裏付けですね」車は土肥に向かって走り始めた。
「奥様を愛していたと思っていましたけれど、意外な事実でしたね」角居栞が美優に話す。
「外からは判らない事は多いのが夫婦ですからね!」
「えーー、野平さんもですか?」
「うちはノー天気な一平君と可愛い娘、幸せな家庭ですよ!」そう言って微笑む。

しばらくして稲垣医院に到着するが、丁度診察中で待たされる。
「警察の方も今回の事件では大変ですね!今日は例の食中毒の件ですか?」
診察を終えて待合室に出て来た稲垣医師が三人に言った。
「いいえ、今日お尋ねしたいのは朝比奈信三さんの死因に付いてです」美優が切り出した。
警戒心を持って居る様な顔で「警察も最近は女性が多いのですね」美優と角居を見て嫌味を言う。
稲垣は既に六十歳を過ぎた医者で、朝比奈家の軽い病気は全て自分が診察していると言い、奥様には絶大な信頼を頂いていると誇らしげに言った。
「信三さんはお風呂で亡く成られたと聞きましたが?」
「酒を飲んで、長風呂に入るから駄目なのですよ!日頃から注意はしていたのですがね!」
「救急車を呼ばずに先生を呼ばれた?」
「私が行った時は、もう冷たく成っていましたよ!救急車より霊柩車が必要でしたよ!」
死人の話だが、笑いながら言う稲垣医師に少し違和感の美優だった。

新事実

 51-025
「朝比奈家の内科関係は稲垣さんですが、他の病気は何処の病院をお使いかご存じ有りませんか?」
「殆ど私が診察したよ!子供さんは親父には診て貰っただろう、親子二代で主治医だよ」
「看護師さんか医師で夏目里子さんってご存じ有りませんか?もう現役では無いのですが?」
「夏目?その名前最近見たけれど、食中毒で亡くなった老人ホームのお婆さん!やはり医者だったのか?」
「えっ、ご存じだったのですか?」
「変った名前だったから記憶に有ったのだよ!もう二十年以上前だが静岡の医師会の会合で横に座って話しをした記憶が残っていたのだ」
「何処の、何科のお医者さんか記憶に有りませんか?」
「私より二十歳程年上だったので、親父に尋ねたのを覚えていますが、確か産婦人科の先生だと記憶していますよ!食中毒で亡くなったのか?」昔を懐かしむ様に話す稲垣医師。
「実は食中毒では有りません、殺害されたのです!」
「えーー、人参饅頭が腐っていたと聞きましたが?殺人ですか?」
「はい、今の先生の話で確信しました!ありがとうございました」と御礼を言うと直ぐに医院を出る美優。
驚いた様子で見送る稲垣には、変な刑事だと美優を見送っていた。

「何か判ったのですか?私にはさっぱり判りませんが?」栞が不思議そうに訪ねる。
「今回の事件は根が深いわ!人は見かけや噂とは全く異なる事が証明されたわ」
「次は老人ホームですか?」
「いいえ、夏目里子の実家に行きましょう?」
「判りませんが?」
「園に訪ねれば遺体の引き取りで判るでしょう?警察も担当部署は聞いて居るかも知れませんよ!」
「はっ、はい」
早速電話で尋ねる栞が「堂ヶ島だそうです」早速ナビに住所を入れると、夕暮れの海岸を走る車。
「その夏目里子さんの家に行けば何か判りますかね?」
「二十年前の秘密が判るのでは?と思っています」
「二十年前の秘密?って?」
「それはまだお話出来ませんが、不幸な女性が時を超えて現れたのではと考えています」
「何かロマンチックなお話ですね!」
「現実は恐ろしい事件に成っているのですが?始まりはロマンチックだったかも知れませんね」
「事件の根が深いと言われましたが、亡く成られた先代の社長!信三さんが原因ですか?」
「おそらく!」そう言っただけで口を噤む美優。
まだ想像の世界の話しで何も立証されていないので、迂闊に喋る事は出来ない。

しばらくして実家に到着すると、夏目里子の息子の嫁が三人を出迎えて「犯人が見つかったのですか?」と尋ねた。
「いいえ、未だ捕まってはいません」
里子の息子は八時に成らないと帰りら無いと妻が話して、用件を尋ねた。
「お母さんの里子さんは昔産婦人科医をされていたのですか?」
「はい、土肥で小さな医院をしていましたが、随分昔で二十年程前には閉院しました!田舎で患者さんも少なく子供を産む人が少ないと話されていましたね!それが何か?」
「閉院される少し前ですが何か変った事は有りませんでしたか?」
「変った事?」遠い昔を思い出す夏目陽子。
「あっ、もしかして?」と口走る様子。
「何か思い出されましたか?」
「やはり、夫の浮気相手でしたか?」意味不明の事を口走った様子。
「どう言った事でしょうか?」栞が訪ねるが美優が「それは大きな間違いですよ!その浮気相手はその後どうされたのですか?」
「夫が何処かに連れて行きましたが、二日程この家に泊まらせましたが、本当に主人の浮気相手では無いのですね!」
「はい!ご安心下さい!全く関係有りませんよ!人助けをされたと思います」
「子持ちの女性だったので、その様な事は無いと思っていたのですが、刑事さんが来られたので急に不安に成りました」
「名前は覚えていらっしゃいますか?子供は六歳位の男の子ですよね!」
その話で刑事の二人は、親子が麻生香里だと初めて察していた。
「名前は忘れましたが、確かに六歳位の男の子が一緒でした」
それだけを確かめると「御主人が帰られたら、私の携帯にお電話下さい」と名刺を差し出す美優。
それを見て「貴女が有名な野平美優さん?刑事さんでは無かったのですね!義理の母は食中毒では無かったのですか?」
「はい、毒饅頭を食べられたのです」
「えっ、殺人ですか?」
「いいえ、多分自殺では?と考えられます」
「自殺?何故義母が自殺を?」
「まだはっきり判りませんが、その可能性が高いと考えられます」
「それは信じられません!何故自殺を?」
「飛田公子さんの孫娘から贈られた人参饅頭を食べて、二人は亡く成られましたが、二個食べなければ死なない毒の量だったのです。それを敢えて二人は食べられましたので、自殺ではと考えています。兎に角御主人が帰られたらお願いします」
「その主人が連れて行った親子が関係有るのですね!」
「おそらく!その親子が今回の自殺には関係有ると私は思っています」

だが夏目康司からの連絡は宿泊の持田課長の自宅に戻っても、連絡は無かった。
翌朝妻の陽子から、昨夜友人と会うと連絡が六時過ぎに有ったのですが、その後携帯が繋がらなく成り、今朝も戻って来ませんと七時に美優の携帯に連絡が届いた。
「えっ、御主人が消えた!」絶句してしまった美優は、誰かが自分を見張っているのか?と恐く成った。

不仲の兄弟

 51-026
美優は直ぐに持田課長に非常線を張って、不審な車の洗い出しと夏目康司の車の手配を依頼した。
一平にも連絡して、伊豆半島から出る道を全て検問して、不審車及び夏目の車を探し出す様に頼んだ。
横溝捜査一課長も事件の真意は判らなかったが、人参饅頭の容疑者が伊豆半島に潜伏、逃走を図ったと指示をだした。

翌朝「野平さん今日は何処に行かれるのですか?」車に乗り込むと山田刑事が尋ねた。
「スーパーASUKAの本社に行きたいですので、下田の駅まで送って頂ければ充分ですわ」
「清水でしょう?野平さん一人で行かれても専務も常務も多分会いませんよ!一緒に行きましょう!同行します」
「私一人なら、会って貰えませんか?」
「多分忙しいとか言い訳で会わないでしょうね?」
「そう、ではお願いしますか?」二人の刑事は美優の推理の結末を確認したい気持ちが大きく成った。

スーパーASUKAの本社に到着すると、早速山田刑事が受付に行って専務、常務に面談を申し込む。
しばらくして、時間が少ししか取れないが応接で話しを聞きましょうと返事が来た。
応接室で待つ事二十分「お待たせしました!常務の信治にも用事が有るそうですね」
そう言いながら専務の信一がやって来た。
「お忙しいのにどうも済みません」軽くお辞儀をする美優を見て「あっ、野平さん!警察の方だと受付が言ったので、失礼しました」
「携帯の番号を交換しておきながら、突然の訪問をお許し下さい」
「いえ、いえ!事件解決に成るのなら、時間が許す限り何でもお答えします」
美優の名探偵の噂を知っているので、その様に言った。
「実は下田の老人ホームの事件に目処が付きましたので、確認に来ました」
「下田の老人ホームって、食中毒で二人亡くなった?それが私とどの様な関連が有るのですか?」不思議そうに尋ねる。
「亡く成られたのは、お宅に長い間勤められていた飛田公子さんですよ!関係無い訳では無いでしょう?」
「今、その様な昔、それも二十年も前に辞めた家政婦の事まで気が廻りませんよ!最近少し犯人の行動が無く成って、お客様が若干戻りましたが、前年対比50%以下ですよ!事件の店とその近辺の店!全体でも前年比75%しか無いのです!」怒った様に言う。
「実は食中毒では無かったのです!毒草の饅頭を食べたのが原因でした!」
「えっ、また毒草ですか?犯人は同じですか?何故老人ホームの人を殺害したのですか?」
「もう一人のお婆さんは夏目里子さんと言います」
「夏目里子?何方ですか?その様な方は朝比奈家とは関係有りませんが?」
「そうでしょうか?二十年前は土肥で婦人科医をされていたのですが?ご存じ有りませんか?」
「。。。。。。。。。」言葉は発しないが、明らかに顔色が変る信一。
「そうです!貴男方が麻生香里さんを連れて行った病院です!違いますか?」
「。。。。。。。。そんな昔の事。。。。。」口籠もる信一。
「当時住み込みの家政婦だった麻生香里さんが、お父さんの信三さんと不倫したとお父さんの留守の時に折檻、その時妊娠していると知って病院連れて行って堕胎させたでしょう?その病院の女医さんと家政婦の飛田さんが亡く成ったのですよ!何も感じないのですか?」
「。。。。。。。。。。。」
「病院に運んだのは、貴方と飛田さんだったのでしょう?飛田さんは知り合いに頼まれて朝比奈家に麻生香里さんを連れて来た!」
「今回の毒草事件と関係無いでしょう?」
「それが関係有るのですよ!私も最近まで判りませんでしたが、貴男方に対する復讐の始まりなのです」
「麻生香里が犯人なのですか?そこまで判れば直ぐに逮捕出来るじゃ無いですか?早く逮捕して事件を終らせて下さい」
「谷岡、岡谷と名乗る女性の所在も未だ判りませんので、逮捕は困難です!麻生香里を逮捕するのはもっと困難かも知れません!」
「何故です、そこまで判っているのに!」
「人の事より、自分も時効だとは言っても二十年前に殺人を行っているのですよ!」
「私が?二十年前に殺人?暴力は振るったかも知れないが、殺人はしていない」
「馬鹿な!堕胎も殺人ですよ!」怒る様に怒鳴りつける美優。
「時効!時効!」そう言って開き直ると、応接室を出て行く信一だが、背中は恐怖に怯えて居る様に見えた。
しばらくして代って、常務の次男信治が入って来て「専務機嫌が悪い様でしたが?」
「初めまして、野平美優と申します」と挨拶すると「貴女が有名な刑事の妻で名探偵の?美人さんですね!ショートボブがお似合いだ」と褒め称えた。
「今、機嫌が悪かったのは、二十年前のお手伝いさん追い出し事件の真相を話していたのです」
「その話しですか、奈々子が騒いで兄弟が集ってお手伝いの女を追出したのです!」
「奈々子さんは何故大騒ぎをされたのですか?」
「親父と家政婦の女香里だったかな、抱き合っているのを見て大騒ぎに成ったのだよ!それが問質している時、女がお腹を庇ったので上の姉が子供を妊っているだろうと問い詰めたのだ!そうしたらその通りだった!怒った姉は家政婦の飛田を呼んで、病院に連れて行った。兄貴が一緒に付いて行ったな!」
「その話は、お母様はご存じでしたか?」
「奈々子があれだけ大きな声で言えば、知らない人は居ませんよ!親父がアメリカに行っている時だったから、家政婦を庇う人は誰も居なかった」
「そうですか!よく判りました!今会社は専務の信一さんと、小島常務、信治さんで意見の隔たりが有る様ですが?」
「お袋が兄貴の味方だから、今は兄貴が有利だがお袋が亡くなれば五分五分!姉は俺の味方だから、と言うより義理の兄貴を俺が支える」
「まあ、会社が無事ならですがね!そんな余裕は無いでしょうが?」
「また、事件が起るのか?勘弁して欲しいな」信治は困った顔をした。

黙秘

 51-027
「流石ですね!僕らにも少し事件が見えて来ました」山田刑事がASUKAの本社を出てから言った。
「飛田さんの後の三浦さんって家政婦さんの自宅って調べているの?」
「いいえ、調べていません」
「今の家政婦さんは三浦さんでは無いでしょう?」
「はい、調べてみます!」
「今日の間には合わないわね、県警に送って頂戴!まだ夏目の息子さん捕まってない?」
「えっ、夏目さんって自分から逃げているのですか?誰かに連れ去られたとかでは無いのですか?」
「恐く成ったのよ!」
「誰が恐いのですか?真犯人?」
「警察に話しをするのが恐く成ったのよ!」
「えっ、警察が恐いのですか?」
「昔の事が世間に出る事が不安に成って、逃げ出したのよ!気が弱いのね」
「夏目の息子さんは何をしたのですか?」
「人助けをしたと考えられますね!唯今と成っては本人しか証言出来ないので、供述するか?それは判りません!」
「私には何の話しかさっぱり判りません」栞が首を傾げながら美優に聞こうとするが美優は敢えて喋る事は無かった。

県警に到着すると、慌ただしい様子を見て美優が「どうやら確保したようだわ」と言った。
署内に入ると「奥さん!今高速の入り口で手配の車と運転手の夏目を確保したぞ!」
横溝捜査一課長が美優を見つけて嬉しそうに言った。
「ありがとうございます」
「捕まえた男が犯人なのですか?だが敏速な非常線で捕えられたが、もう少し指示が遅れれば逃がす寸前だったよ!取り敢えず事情聴取の形で署に連行しているが、罪は何だね?毒物混入の実行犯?それとも脅迫文を送った男か?」
「いいえ、逃亡若しくは自殺を防いだだけです」
「えーー、朝から大騒ぎで捕まえて、自殺を防いだだけ?それは奥さん問題に成りますよ!事件に直接関係が無ければもっと問題に成る」
「でも課長さんの腕で彼から、犯人の輪郭を聞き出す事は出来るかも知れませんよ!」
「捕えた男が事件の全てを知っているのか?」
「いいえ、少なくとも経緯は知っている可能性が有ります!毒饅頭自殺の息子ですから」
「自殺?自殺なのか?孫娘が贈って来たのだろう?」
「そうですが、二個食べなければ死なない量の毒ですから、二人飛田公子と夏目里子は二個食べています。彼はその真相を知っています!彼から事件の全容か経緯は聞けるのでは無いでしょうか?」
「私にはさっぱり判らないが、奥さんは判っているのですか?」
「まだ肝心の部分が判りませんが、原因は掴めた様な気がします」
「教えて貰えませんか?」
「ですから、それを彼に聞かなければまだ判りません!何時にここに来ますか?」
「半時間程で来ると思いますが、罪は何で捕まえますか?」
「何でも良いと思います!公務執行妨害でも宜しいのでは?」
「で何を聞けば良いのですか?」
「何故逃亡したのか?その一点でしょう?奥さんは私が来た事を告げたので逃げたのだと思います」

しばらくして夏目康司は白石刑事と伊藤刑事に連れられて、静岡県警に入って来た。
取調室で「何故職場から自宅に戻らずに、何処に行く予定だったのだ?」
佐山刑事の質問に「。。。。。。。」無言の夏目康司。
「お母さんの夏目里子さんが老人ホームで饅頭を食べて死んだのは、食中毒では無いのは知っているのだろう?」
「やはり!」と小さく口走る。
「そうだ!毒入りの饅頭を二個食べたので亡く成ったのだよ!一個なら死なない毒の量だった」
「。。。。。。。。。」
「飛田公子さんとお母さんは自ら進んで二個食べたのだろう?」
「。。。。。。。。。」
「だから、二人は自殺だろう?」事前に美優から質問内容を聞いている佐山が段取り通り尋ねる。
「だが、何故逃亡する必要が有ったのだ!お前が毒饅頭を送ったのか?」
大きく首を振る夏目康司。
「飛田公子さんの孫娘を知っているのだな?」
「。。。。。。。。。。。」
「誰を庇っているのだ!飛田公子は結婚もしていないので、孫娘は存在しない!それでも孫娘から貰った饅頭だと言って老人ホームの人に配った!恒に孫娘の存在を園の人には話していた!これは何故なのだ?もう一度尋ねる何故逃げ様とした?何処に行く予定だった?西の方向に車は向かっていたな?関西か浜松か?」
「私は何も知らない!恐ろしい事件に巻き込まれたく無い!」そう言って頭を抱え込んで机に額を擦りつけた。
「何を知っているのだ?全て話せば楽に成る!夏目さんには罪は無いだろう?命は警察が守る!全てを話せば事件は解決する」
「。。。。。。。」だが一切喋らない夏目康司。

夜美優は自宅に戻って一平からの報告を聞いて「両方から狙われると思っているのかも知れないわ」
「両方?」
「毒饅頭を送った人達、スーパーASUKAの人達の両方よ!」
「美優はASUKAの人って被害者だろう?」
「今は被害者だけれど、加害者だった時も有るでしょう?麻生香里さんの子供を殺して追出したのだから」
「その事件に夏目康司は関係しているのか?」
「多分全てを知っているのかは判らないけれど、母親の里子に頼まれて?自分から?それは判らないけれど、関与しているのよ!」
「俺にはまだよく判らないけれどな?美優の推理が正しいのか?それを彼が喋る訳だな!」
頷く美優だが、康司が何処まで知っているのか?それは美優にも判らない。

同級生?

  51-028
美優は一応民間人だから、康司を取調べする事は出来ない。
翌朝、一平に「今日も何も喋らなければ、一度釈放して様子を見るのが良いかも知れないわ!警察に見張られているので、半ば安心感も有るからね」
「美優は何を喋らせようとしているの?」
「取り敢えずは、麻生香里さんを知っているか?麻生香里さんと男の子を彼が何処かに逃がしたと私は考えているの!」
「えっ、彼が何故麻生香里さんを逃がす手助けをしたの?」
「それは母親の里子さんが、香里さんの堕胎をしなかったからだと思うの?」
「えーー、朝比奈の息子が一緒に病院に行ったのに?」
「そう、私が考えている事はもう少し異なるのだけれど、康司さんが麻生香里と男の子、お腹の子を助けたのだと思う!もしもそれが朝比奈家の人に知れたら、大変な事に成るから隠していたのだと思う」
「それが本当なら、麻生香里の子供は産まれている?」
「そう、それが飛田公子さんの言っている孫娘だと私は思っているの?」
「自分の過去を知って復讐を始めたのか?」
「それが少し違う様なのよ!その辺りの話しを康司さんが知っているのか?それとも全く知らないのか?一年程前に老人ホームで仲の良かった河西美佐代さんが亡く成っているの、その河西さんが麻生香里さんを朝比奈家に連れて行ったのだと、私は思っているのよ!」
「二十年前にだろう?それから二十年も経過して何故事件が起るのだ?」
「今日康司さんが何か喋ってくれる事を祈りましょう!」

一平が出て行ってから、漸く東邦日報の人が連絡をしてきて、その記者は現在タブロイド紙の記者をしていると言った。
大森章二四十五歳、東京の品川に本社の在る(日刊クローズアップ)と云う会社だとメールが届いた。
美優は情報を貰ったタブロイド紙(日刊クローズアップ)には迂闊に電話が出来なかった。
一気に自分の質問が記事に成って世間に出てしまう恐れが有るからだ。
そう成れば谷岡、岡谷の消息は益々闇の中に入ってしまう。
状況は極めて良くないと思っていた美優に、翌日予想外の事が起るのだった。

結局夏目康司はその日も何も喋らず、一平の進言通り自宅に戻す事にして、刑事が常に尾行警護をする事にした。
それは美優には自分が康司に接触出来るチャンスにも成るのだが、機会は失われた。

(謎の女性が絡むのか?静岡毒草殺人事件)タブロイド紙が美優の予想を超えてスクープ記事を出してしまったのだ。
東邦日報の人間が大森に美優が連絡を取りたいと話した事が、この記事に代ってしまったのだ。
元々面白可笑しく記事をねつ造する事がこの種の新聞だから、この後どの様に記事の続きを書くのか興味深いが、犯人にどの様な刺激を与えるのか推測出来ない。
記事は殆ど中身が無いが、戸籍の無い女性が谷岡、岡谷なので静岡県警も動けないと書かれている。
東邦日報に尋ねた事が記事に面白く書かれて、東日本大震災で消えた女性が静岡で犯行?と推測だけで書かれた。
驚いたのは横溝捜査一課長で、その様な事は全く聞いていないので「佐山君!これは本当なのか?戸籍の無い人間なのか?」と問い質して、自分でも訳が判らなく成っていた。

翌日「名探偵の奥様に色々お聞きしたいのですが、お会いしたいと言うか?取材に行きたいのですが?」と大森が美優の自宅に電話をして来た。
「自宅の電話番号まで調べて?何を聞こうと?」
「名探偵さんが毒草事件を何処まで調べているのかをお聞きしたい」
「その様な事をお話し出来る筈無いでしょう?それとあの様な憶測で記事を書かれると、犯人を取り逃がしてしまうでしょう?それに無関係な人が疑われる可能性も有るでしょう?もう止めて頂きたいわ」
「それは出来ませんね!編集長も今回の事件は面白いので、深く掘り下げて週に一度以上のペースで記事を書く様に指示されましたので、今日電話したのですよ!」
「何もお話し出来ません!」そう言うと美優は電話を一方的に切った。

美優は自分の推理を確定させる為に、河西美佐代の家族に聞きたい事が有るので、下田署の山田刑事に老人ホームで住所を聞いて貰った。
個人情報の問題で、中々個人では最近は聞く事が出来ない。
夕方に成って山田刑事が「河西美佐代は、浜松の娘さんが遺体を引き取ったそうです」と連絡してきた。
美優はまた浜松?浜松に何か秘密が有るのだろうか?偶然なのか?
翌日大森に見張られているとも知らずに、浜松の河西美佐代の娘の嫁ぎ先芳田芙美子の自宅を訪れる事にした。
一平の母親志津も、長引く事件に一平の自宅に泊まり込み、孫娘美加の世話をしている。

芳田は美優の事を知っていて「私の母が今回の事件と関係しているのでしょうか?」そう言って不安な顔で尋ねた。
「それは私にもよく判らないのですが、お母様はASUKAの亡く成られた社長とお知り合いだったのですか?」
「はい、同じ学校で一年先輩が母だと聞いた事が有ります」
「成る程、それで老人ホームで会われた時懐かしそうに話しをされていたのですね」
「えっ、老人ホームに社長が行かれたのですか?」
「朝比奈家に長い間家政婦として働いていた飛田公子さんを訪ねて行かれたのだと思います」
「飛田さんですか?母の親友です!母は飛田さんが老人ホームに入る様に勧めたのかも知れませんね」
「お母さんは他も親友と呼ばれる方がいらっしゃいましたか?」
「私が知っている限りではもう誰も居ないと思いますよ!亡く成られた様ですから」
「お母さんも飛田さんも同じ学校ですか?」
「小中学校の時に一緒だったと聞きました!多分朝比奈社長も同じだったと思います」
美優は自分の推理の半分が間違い無いと思ったが、肝心の事は娘の口からは出て来なかった。

避難

51-029
美優の出て行った後に、芳田の家に入った大森は名刺を差し出して「先程出て行かれた野平さんの活躍を取材させて頂いています。色々お聞きしたいのですが?」と切り出した。
「えっ、新聞に彼女出るのですか?」
「はい、今回の毒物混入事件に立ち向かう刑事の妻!名探偵野平美優として大々的に取り上げる予定です」
「凄いですね!美人で数々の事件を解決されているので、今回の毒物事件にも立ち上がったのですね」
「処で何を聞かれました?名探偵の目の付け所は?」
巧みに聞き取ろうとする大森、僅かなヒントでも記事が書けると自負している大森。
東邦日報の時代にも、大袈裟に記事を書く事が度々で、編集長と衝突が絶えず喧嘩で退社した経緯が有る。
「野平さんは母と朝比奈前社長の関係に付いて、聞きに来られました」
「他には?」
「飛田さんと三人は同級生で仲が良かった!それ位ですね!」
それだけ聞くと大森は急いで帰ってしまった。

翌日の午後(静岡連続毒物混入事件に動く名探偵、野平美優!)の見出しで、内容はこれまで数々の難事件を解決してきた野平美優さんが、今回の事件の解決の糸口を見つけた様だ!
先日下田老人ホームで、食中毒で亡くなられた飛田公子さんと、スーパーASUKAの前社長朝比奈信三さんは同級生で、昨年亡く成られたMKさんと三人は殆ど同時期に亡く成られたと調査に入った様だ!三人にどの様な秘密、関係が有るのか今後も野平美優名探偵から目が離せない!スーパーASUKAに対する恨みで毒物を入れた人物が誰か?戸籍の無い人間が事件に絡んでいる可能性も棄てきれない!その為警察では捜査の行き詰まりの打開に期待している!この様な文章でタブロイド紙は発行された。
 
新聞を読んだ警察庁幹部から、静岡県警に早速クレームが届き、横溝捜査一課長は署長に呼び出され不甲斐ない現状を叱咤され、素人の主婦に捜査を頼んでいるのか?とお咎めを受けた。
横溝捜査一課長は、一平を呼び出し美優の自粛を要請して事件に首を突っ込まない事を申し伝えざるを得なく成ってしまった。
美優も自分が油断したと申し入れを受け入れて、自粛する事に成ってしまった。
この記事は日本全国から、激励と批判が県警と個人宅にも届く原因に成り、美優は一気に有名人に成ってしまった。
テレビ局から出演交渉、インタビューの依頼が舞い込む事態に成ったが、美優は全ての事に対して応対をしなかった。
一週間行動が消えた美優に困り果てたのは、反響の大きい記事を書いた大森記者で、続編の取材が全く出来なく成って編集長に次の記事を要求されて、困り果てる事態に成った。

「しばらく動けないので、資料を整理するわ」とは言ったが、ネットは記事に賛成派、反対派で盛り上がり、抗議のメール、電話が県警、警視庁、マスコミに殺到。
事件を解決出来ないのに、手伝って貰っているのに、批判するとは?と世論も六割以上が美優に好意的な論評に成った。

大森が記事を書いてから五日後、その大森が世論を後押しする様な記事を書いて、警察庁と静岡県警の批判をした。
その記事は一層美優の立場を応援する事に成った。
「事件でも憂鬱なのに、マスコミの批判で益々憂鬱だ!」横溝捜査一課長は頭を抱え込んだ。
昼過ぎに成って、浜名湖の水死体の該当者が洗い出されて、毒草事件とは全く関係の無い男性で暴力団の人間とトラブルに成った。
「ひとつ事件が解決してホットしたよ!これ以上事件が続けば私は耐えられない」横溝捜査一課長一人が世間と、警察庁の批判を一手に受けて毎日悲惨な姿に成っていた。

美優もマンションに居ると、取材攻勢問い合わせ等にうんざりして、早朝美加を連れて実家の久美浜に疎開してしまった。
記事の出た一週間後に久美浜に帰ると、流石に取材の人も久美浜迄は追い掛けて来なく成った。
「油断したわ!大森って記者が尾行していたのに、気づくべきだったのよ!」
母の加代に話すと「いつまでも探偵ごっこしているからですよ!美加一人だと寂しいでしょう?男の子を産まないと!」
「またその話しですか?出来ないから仕方無いでしょう?」
一平と美優には美加が一人で、どうしても男の子を産みなさいと口癖の様に言われているのだ
パソコンを出して、今までの事件を纏め始める美優。
久々の孫に会えて喜ぶ祖父母、美加も心得たもので祖父、大祖父母と交代で相手をするので、どちらが子守をしているのか判らない程だ。
① 河西美佐代と朝比奈信三、飛田公子は同級生?同じ小中学校の出身。
② 朝比奈信三は関西から戦争が原因で引っ越してきた女性Aと恋愛に成ったが、身分の違いで結ばれる事は無かった。
③ もしも友達が四人だった場合、ここに謎の女の子Aが登場する。
④ 大人に成っても付き合いが続いていたら、二人の愛が引き裂かれていたなら?
⑤ 朝比奈信三の家政婦に入った麻生香里は、信三の不倫相手?
⑥ 飛田公子も夏目里子も真相を知っているから、麻生親子を逃がした。
⑦ 朝比奈明日香は全てを知っていた。
⑧ 朝比奈信三が殺害された可能性が有れば、二人は常に朝比奈家を気にして生活をしていた事に成る。
美優は事件が全く異なる意図で起った可能性を感じ始めていた。
麻生香里を探し出さなければ、真相は見えてこないが全く手掛かりが無いのが現状だ。
二十年程前に、河西美佐代と飛田公子が朝比奈家に連れて来たのは間違い無い。
その後麻生香里は妊娠している事実が発覚、四人の子供に追出されて、夏目病院で堕胎手術に成ったが、夏目里子の機転で息子夏目康司が、二人を病院から逃亡させた。
美優の推理は夜遅くまで続いていた。

交換条件

51-030
一週間後、一平が久美浜の美優の実家に迎えにやって来て「署長が迎えに行けと休みをくれたので。。。」
「えっ、署長が?」
「抗議の電話にメールが毎日届いて大変な事態に成っているのだよ!美優の謹慎が静岡県警を揺さぶっているのだよ!勿論警察庁からも大変な騒ぎに成っているので、迎えに行けと署長直々の命令が出た」
「あのタブロイド紙の連日の記事で、世論が動いたのね!」
「毎日の様に、警察の美優に対する処分が不当だと書かれたのでは、動かざるを得ないだろう!」
「事実何も解決に向かっていないからね!」
「その通りだ!でも事件はその後発生していないのは何故だろう?」
「計算外に人が沢山亡く成った事が犯人にはショックだったのよ!」
「そんな心の有る犯人だろうか?」
「私は充分有る人だと思うわ、だから多くの人が助けていると云うか仲間が居るのだと思うな!」
「犯人は女?」
「主犯は女性でしょうね!麻生香里の消息が判らないので、私の推理が確定しないのよ!」
「でもこれだけ騒がれたら、事件を解決しなければ世間に顔向け出来なく成ったぞ!人気が高く成りすぎたのと、恐いネットの威力を知っただろう?」
「一躍有名人に成ってしまったわ、ここにもテレビ局から取材の申し込みが来たからね!自宅の留守電パンクでしょう?」
「大丈夫、切ってある!」そう言って笑う一平。
「でも静岡に帰れば、何か発表しなければ収拾出来ないでしょう?だから今は帰れないわね」
「何か発表出来る事は無いの?」
「警察でも無いでしょう?だから無理よ!今私が思っている事を発表すれば「犯人はもう犯行を辞めるでしょうが?逮捕は出来ないわ?どうする?」
「それはどう言う事だ?」
「私が発表する事で、傷つく人が居るのね!それが犯人の目的の一部だから、そこから先は見守るだけに変ると思うの!その後は姿を消してしまうから、もう警察が捕まえる事は不可能に成る!それでも発表するなら私は構わないけどね」
「それでは、今は静岡には帰らないと?」
「犯人の目星が付けば帰れるけれど、全く判らないから帰れないでしょう?夏目さんは何か行動を起こした?」
「何も無いな!」
「これだけ騒ぎが大きく成ったら、貝に成るわね」
その後美優の言い分を横溝捜査一課長に報告する一平。

しばらくして横溝捜査一課長は、美優の手足に成って捜査をするから要望を聞きなさいと柔軟な返事が返ってきた。
「相当困っているわね!捜査一課長も、間に挟まれて自分の意志では動けなく成っているわね」
「そりゃそうだろう?もう事件発覚から三ヶ月、次の犯行は無く成ったけれど、犯人の影も見えない状況だから、今回の新聞記事で一気に世間の風当たりが警察批判に成ったので、尚更だよ!もう課長首を洗っているよ!」
「課長も左遷、署長も左遷決まりかな?」
「これだけ騒ぎが大きく成ったら、もう難しいだろう?一般紙も批判的だからな!美優の味方で警察批判が一般的だよ!」
「兎に角調べて欲しい事は、薬草同好会のメンバーの詳しい家族構成等、特に女性と医学部以外の男子生徒、守本教授」
「えっ、まだ薬草同好会に拘るのか?」
「他には朝比奈信三が昔通った小学校から高校迄のクラスメートを捜して、仲の良かった女子を見つけて欲しいの」
「えーもう亡く成った人の昔の恋人を捜すのか?」
「その人が判明すれば、事件は解決の方向に向かう気がするの!」
「そんな昔の恋人が事件に関係しているのか?」
「その人はもう既にこの世には居ないのよ!若い時に亡く成ったらしいわ」
「何故そんな事知っているのだ?」
「名探偵ですからね!警察の知らない事を知っているのよ!」
一平はその話しを直ぐに佐山刑事に伝えて、刑事が分散して調査に向かった。
一平も美優を残して、久美浜を一人で帰って行く。
美優の頭の中では、次の事件が起れば自分の考えを発表しよう!今度は無差別殺人をエスカレートさせる可能性が高いから、警察が犯人を逮捕出来なくても公表しようと考えて居た。

そんな美優に大森が電話を掛けてきたのは、その日の夕方だった。
民宿の忙しくなる季節がもう直ぐに成っている。
「近くに来て居るのですよ!一度お目に掛りたいのですが?」
「えっ、こんな田舎に?驚きの根性ですね!」
「私の記事で迷惑を掛けたので、ニュースを持って来ましたよ!」
「今夜の宿はお決まりですか?もしお決まりで無かったら、民宿していますのでここに来られませんか?」
変に外で会うより、民宿に呼べば家族が沢山居るので安心だと、美優は大森記者を誘った。
大森は別に警戒する事も無く二つ返事で、民宿に泊まると承諾した。

美優は大森を一目見て、癖の有りそうな男だと思った。
いきなり「保険金詐欺事件、信用金庫の使い込み事件が容疑者死亡に成っているが、本当は地震で行方不明だ!宮城県の病院での看護師が点滴ミスで患者が死亡、余罪が有る可能性有りは、他にも似た様な死に方をした患者が居たのだよ」
美優が尋ねていた件に直ぐに答えた大森。
「どの様なニュースですか?」
「信用金庫の使い込み事件の容疑者、安永真紀子が名探偵の捜している女性では無いかと思うのですよ!」
「私の捜している人知っているの?」
「谷岡、岡谷を名乗った女でしょう?」流石に新聞記者だ!よく調べていると感心している美優に「この安永って女、生まれは関西だ!と判った!驚いたか?」
「本当ですか?今は行方不明ですよね」
笑顔で頷く大森記者はまだ何かを掴んでいる様な顔で、微笑んでいた。

天橋立に現る

 51-031
「これが安永真紀子の信用金庫時代の写真ですよ!」そう言って写真を美優に見せた。
「これが谷岡、岡谷に成ったの?」写真を見るが、モンタージュとは相当異なるので、相当整形を行ったと思う。
「野平さん、この写真を見せれば覚えている人が居るのでしょう?」
大森は岡野朋子の事を知っているのだろうか?警察が発表していないのに調べている?と考えていると「その写真は差上げますよ!安永真紀子が関西の生まれなのは、事件を追っていた時に知ったのですよ!その尋ねた人も家も津波で海の藻屑に成りましたから、この事実を知っている人は私だけかも知れませんね」
そう言いながら微笑むが、これ以上の内容が聞きたかったら自分の新聞に独占インタビュー記事を書かせて欲しいと切り出した。
世間で注目の事件と、話題に成っている名探偵野平美優の記事は大きなスクープに成ると言った。
だが、今その様な記事に出る事は警察を敵にする様な事で、一平の立場が無く成る。
同時に犯人を刺激して、再び無差別殺人が起るので断った美優。
「まあ、急ぎませんよ!明日帰る迄に結論を出して下さい!色々お役に立てる情報だと思いますよ!」それだけ話すと自分の部屋に向かって歩き出し「ビールお願いしますよ!」そう言って笑った。

だが大森は翌朝朝食も食べずに「急用が出来たから帰る!新しい情報も入るので、昨夜の事お願いしますと伝えて下さい!天橋立はここから何分掛りますか?」早起きの大祖父、健治に尋ねて宿泊費を払って「魚が美味しいですね!」と笑顔で言った。
「ここから約一時間程ですよ」健治が答えると笑顔で民宿を七時に出て行った。
美優が起きてきた時、健治が記者の男早くから帰ったと伝えると「変ね!何処かに行ったの?」
「急用で橋立に行くと話したよ!新しい情報を手に入れるのでお前に伝えてと嬉しそうに出て行ったよ」
「犯人が接触してきた可能性が有るわ」そう口走ると直ぐに一平に電話を掛ける。
家を出る前で忙しい時だったが「犯人が接触して来た!」の声に「何!」と大きな声で叫ぶ一平。
美優は天橋立で、新聞記者の大森が犯人に呼び出された事を伝えて、所轄の警察に緊急配備の連絡をする様に頼んだ。
時間は八時、大祖父の話しでは八時過ぎに会うのだと思う美優。
半時間後に現場の交番に連絡が届き、所轄の警察も緊急で天橋立に向かう。
観光地は早朝から、パトカーが多数サイレンを鳴らすので、物々しい雰囲気に成った。
現場の警官二人は、本庁の連絡で橋立の中を捜すが広いので二人では中々進まない。
九時前に成って刑事、警官が大勢現場に到着、一斉に捜索が始まった。
知恩寺の境内、日本三文殊に数えられ、「三人寄れば文殊の智恵 」でおなじみの智恩寺。
智恵を授ける菩薩として、学業成就を願う人々が全国各地から参詣に訪れる。
天橋立を文珠側から入ってすぐに在る。
傘松公園に向かう警察、成相山中腹にある公園で、天橋立を北側から一望できる展望所だ。
ここからの眺めは、天橋立が昇り龍のように見えることから「昇龍観」と呼ばれている。
天橋立を股の間からのぞくと天地が逆転したように見える「股のぞき」発祥の地としても有名。
兎に角広い、天橋立神社は天橋立の中にひっそりと佇む神社で、恋愛成就のパワースポットとして人気の場所でだ。
龍伝説がいくつか残っている天橋立の中で、八大龍王をお祀りされてる。
すぐ横には日本名水100選の一つ「磯清水」があり、周りを海に囲まれているにもかかわらず真水が湧いている不思議な井戸として神社のお参りの際、手水として利用されている。
丹後一宮、元伊勢籠神社
伊勢神宮に奉られる天照大神、豊受大神がこの地から伊勢に移されたという故事から元伊勢と呼ばれる古社。
奈良時代に丹後の国の一の宮となり、平安時代の「延喜式」には名神大社となり、山陰道唯一の大社であり、最高の社格と由緒を誇っている。
本殿正面には伊勢神宮と籠神社にしか祀ることが許されていない五色の座玉すえたまが輝いています。
境内には地下を流れる水の音を聞くことができる水琴屈があり、その不思議な音色は心を和やかにしてくれます。
天の浮橋神話・・・神代の時代、天にいたイザナギノミコト(男神)が地上の籠神社の奥宮眞名井神社にいたイザナミノミコト(女神)のもとに通うために使っていた梯子が天橋立であったというお話で、現在は男と女を結ぶ良縁成就の地として伝えられている。
奥宮 眞名井神社
元伊勢籠神社の奥宮で、別名を久志濱宮くしはまのみやとも云う。「くし」とは霊妙なる不思議なパワーの源を意味し、現在はパワースポットとして多くの方が訪れます。
本殿の裏に約2,500年前からそのままの形で祀られている古代の祭祀場「磐座いわくら」があり、豊受大神、天照大神をはじめとする神々が祀られています。
境内には「天の眞名井の水」という御神水が滾々と湧き出ています。霊験あらたかな「眞名井の水」を汲みに、全国各地から訪れる人が沢山います。
警官は互いに連絡を取りながら、広大な天の橋立を捜し廻る。
廻旋橋は、船が通るたびに90度旋回する珍しい橋で、天橋立と文殊堂のある陸地をつなぐ橋だ。
大正12年に手動でまわる廻旋橋ができましたが、橋の下を通る大型船舶が多くなり、昭和35年5月から電動式となりました。
「ここから先は松林が続く、三人で端まで調べてくれ」
人数が限られているので手分けをするが、この松林は幅は約 20~140メートル・総延長約3,6キロメートルの白砂青松の砂州でできた砂浜です。
大小約8,000本もの松が茂っている珍しい地形で、その形が、天に舞う白い架け橋のように見えることから『天橋立』の名が付きました。
日本百選にも多数選ばれており、「名松」「白砂青松」「渚」「道」そして、「磯清水」は「名水」の百選に選ばれています。
また、松の中には、大正天皇お手植えの松、昭和天皇お手植えの松も植わっており、天橋立の散歩をより楽しませてくれます。
天橋立内は年中自由に出入りでき、夏は海水浴場として賑います。
早朝の天橋立は百人近い警察官で、埋め尽くされて観光客も異様な雰囲気に驚いていた

毒殺された記者

 51-032
約一時間後「死体発見!松林の端近くで中年の男性!」無線が各警官に一斉に流れて「まだ近くに犯人が徘徊している検問を始めろ!」
直ぐに橋立から出る場所に臨時の検問所が設置されて、観光客は入場を制限され、出て行く人は厳重チェックが始まった。
「係長!主にどの様な人物を見つけるのでしょうか?」
「それは挙動不審者、女だ!新聞に出ていただろう?谷岡、岡谷ってモンタージュ」
「覚えていません!」
「名前と身分証明出来る物を見せて貰え!」
静岡の事件が急に天橋立に来て、戸惑う警官達!
「殺されたのは、免許証から新聞記者の大森章二四十五歳だ!」
「この新聞今話題の日刊クローズアップの記者だ!」
「えーー、犯人に殺されたのか?」
「おい、大事件が京都に飛び火か?勘弁してよ!」
刑事達が口々に言うと、松永捜査一課長が遅れて到着して「今聞いたが、静岡の毒草事件を追っている記者が殺害されたのか?」
「はい、大森と言う男ですが、静岡県警からの連絡では、朝早く久美浜から何者かに呼び出されて殺害された様です」
「死因は何だ!」
「毒物による殺害だと思われます!」鑑識の一人が答えた。
「静岡に連絡して、もっと情報を貰わなければ犯人を取り逃がす!」
「死後半時間から一時間ですね!近くに犯人は居ると思います」
「全ての電車の駅に検問!道路も非常線を張れ!防犯カメラの分析を急げ!」松永捜査一課長が矢継ぎ早に指示を出して、大事件の犯人を逮捕すれば自分の地位が世間に認められると張り切っていた。
舞鶴警察署に京都府警が加わって、大規模な一斉検問が行われる。
静岡県警から佐山刑事と白石刑事が、新幹線で舞鶴署に向かう。
美優の元へも大森記者が殺害されたニュースが飛込み、大祖父に大森が民宿を出て行った経緯を再度尋ねていた。
姉の河野美希が十時前に民宿にやって来て「今、ニュースで見たけれど、大森って人昨日泊まっていた人でしょう?」と慌てた様子で尋ねた。
「お姉さん、何か知っているの?」
「昨夜私が帰る前だから、九時前かな?女の人が大森さんに電話をして来たのよ!」
「えー、民宿に?」
「そう、お客さんの大森さん呼び出して貰えますか?麻生と言いますと言ったと思うわ」
「麻生?女の声?」
「そうよ!それで電話を大森さんの部屋に廻したのよ!」
「警察も直ぐに大森がここに泊まった事を突き止めるでしょうね!お姉さん証言しなければ駄目よ!」
「えー、警察に聞かれるの?嫌だわ!」
「あの新聞記者、ここを出て行く時、凄く嬉しそうにしていたよ!」健治がその情景を美優に話した。
その時、電話が鳴り響き舞鶴警察署の刑事が、昨夜宿泊していた大森さんの事で事情を伺いたいと連絡をして来た。
ポケットに民宿新田の領収書が入っていたので、直ぐに判った様だ。

美優は本当に麻生香里が電話をして来たのか?大きな疑問だが、大森記者に麻生香里の名前は猫に鰹節状態だから、簡単に誘いに乗ってしまったのだろうと思う。
だが、大森がここに宿泊している事を知っているのは、尾行していた事に成る。
するとこの近くの防犯カメラを調べれば、犯人の画像が判る可能性が有ると思う美優。

同じ様に舞鶴警察も天橋立一帯の監視カメラを一斉点検して、京都丹後鉄道天橋立駅を降りる大きな庇の帽子を深く被り、サングラスを着けた女性の姿を発見、それは知恩寺周辺、旋回橋でも確認された。
勿論大森の姿も駅から知恩寺でも確認された。
松林で待ち合わせをしていたのか、お互いの時間は五分程度の誤差が有り、大森は周囲を警戒した歩き方に成っていた。
「この女に間違い無いが、顔も良く判らないな!」松永捜査一課長が画面を全て見て言う。
「課長!この女は電車で来ていますね!帰りも電車でしょうか?」
「それが、帰りの駅にはその様な女性の姿は見えない」
「どう言う事でしょう?」
「もう一度時間を調べて見よう?殺害後変装したのか?」
「朝のボランティア活動の人達が清掃に来ていますね!」
「そうだな!九時に成る前だが、松林の清掃は終っている様だな!ボランティアに紛れ込んだか?」

現場検証が進む最中、民宿に二人の刑事が訪れて昨夜の行動と、今朝の大森の行動を尋ねた。
訪れた刑事はこの民宿が美優の実家とは知らずに来ているので、何を目的にこの民宿に泊まったのか?連れの存在は無かったのか?と執拗に尋ねた。
奥の部屋で耳を澄まして聞いている美優、姉の美希に電話の内容を詳しく聞いて「麻生香里って何処かで聞いた名前だな?」と一人の刑事が言うと、もう一人も「そう言えば最近聞いた様な気がする!まあ兎に角その女が電話を掛けて来て、大森は翌朝七時には民宿を出て行ったのだな!」
「ここで待つ様に言われていたのでしょうね?それで夜電話で明日天橋立に来る様に呼び出された!その様ですね」
別の部屋で聞いていた美優が痺れを切らして「違うでしょう!大森は私を追い掛けてここに来たのよ!」と飛び出すと同時に叫ぶ様に言った。
二人の刑事は美優の勢いに「貴女誰?」と不思議そうに見る。
「私はここの娘よ!嫁に行って実家に帰って来たの!」
「離婚ですか?」年配の刑事が苦笑いで言う。
「馬鹿!誰が離婚なのよ!実家に避難して来たの!この民宿に泊まっている事を尾行していたのよ!」
「貴女がですか?」
「とんちんかんな事を言わないで、私を追って大森がここに来たのを、犯人が尾行して来たのよ!」
「処で貴女の名前は?誰?」益々不思議そうに見る二人の刑事。

繋がり始めた真実

51-033
「私は野平美優、ここは私の実家です!」
「野平?」
「美優?」二人が名前を言いながら考えて「あっ」「それ?」
「もしかして、今話題に成っている静岡県警の?」
笑顔で頷く美優に「野平さんだったのですか?ここが実家ですか?」
「そう言われると、大森って男が警察を悪者扱いにして書いた男だった!」
「野平さんを追ってここに来たのですか?」
「そうなの、実家まで押し掛けてくるとは思わなかったのよ!」
「それでどの様な話を聞きに来たのですか?」
「独占インタビュー記事を書かせて欲しいとの依頼でしたが、断りました!多分犯人は大森さんの尾行をしていたのだと思います。それと犯人は二人だと思います」
「犯人が二人ですか?現状の防犯カメラには、帽子を深く被ってサングラスを掛けた女が確認されているだけです」
「それは、共犯者が事前に天橋立で準備をしていたと思いますよ!」
「準備?毒を飲んで死んでいたのですが?準備が必要でしょうか?」
「足取りは、向かう方だけで足跡が消えているのでは?」
「何故?それをご存じですか?」
「舞鶴警察と京都府警が大規模な検問、捜査を行っても見つからないのでしょう?ですから、犯人は松林近くにボートを準備して待っていたと考えられます」
「成る程、ボート!複数犯か?流石名探偵!」
「それより、この辺りの防犯カメラを調べれば犯人の顔が見られるかも知れませんよ!」
「えっ、この辺りの防犯カメラ?」
「そうです、犯人は大森さんを尾行していますから、昨日の四時以降の駅からこの民宿までのカメラを調べれば、不審な女が映っている可能性が有ります」
「でも車で来ていたら、判りませんよ!」
「歩きの人の尾行を車ですれば、直ぐに判ってしまいますよ!この様な田舎なら尚更です」
二人は美優に言われて、民宿を後にすると松永捜査一課長に電話で話しの内容を報告した。
松永は直ぐに、防犯カメラを調べる様に指示して、モーターボートの動きを地元の関係者に尋ねた。

しばらくして聞き込みに行った刑事が、九時過ぎに若狭湾の方に猛スピードで走り去ったボートを数人の人が目撃していた。
それを聞いて松永捜査一課長は、既に逃げられたと唇を噛んだ。
美優の推理に驚いたので、防犯カメラの映像に期待をした。

佐山刑事と白石刑事が天橋立の現場に到着したのは、午後の三時を過ぎていた。
既に大森の遺体は京都府警が監察医の元に運び、司法解剖が始まっていた。
現場を監視している警官が「犯人はボートで逃げたらしいですよ!流石ですよね!名探偵は現場を見てないのに、犯人の逃走経路を言い当てたのですよ!驚きました!ファンに成りました」
「それって野平美優さんの事か?」
「勿論ですよ!刑事さん達静岡ですよね!美優さん見た事有るのですよね!羨ましいな」
呆れて現場を後にして、捜査本部の置かれた舞鶴署に向かう二人。

捜査本部に入ると挨拶もそこそこに、松永捜査一課長が「これ見て下さい!この女怪しく無いですか?」そう言って画面を指さす。
「これは何処の防犯カメラですか?」佐山が尋ねた。
「久美浜駅の防犯カメラです、この男が大森です」
「顔が判りませんね」白石刑事が目を細くして画面を見つめる。
「この服装で、こちらの画面を見て下さい」画面が切り替わると「あっ、谷岡!」「岡谷だ!」二人が異なる女の名前を発した。
「ご存じの女性ですか?」
「指名手配の女です!スーパーASUKAの店に勤めていて、姿を眩ました女です」
「ああ、思い出しました確かに!私も迂闊でした」

その後佐山と白石はその情報を持って、美優の実家民宿新田に向かった。
「夏に来るのは始めただ!いつも蟹の時期に来ているから新鮮だな!」
「白石刑事は初めてですね!」美優が挨拶しながら笑顔で言った。
「はい、久美浜と言いますか、山陰も天橋立も初めてで股のぞきをしたかったなあ!」
「美優さん、大森の尾行をしていた女は、岡谷を名乗った女でした」
「駅の防犯カメラと、この近くのコンビニのカメラに残って居ました」
「鮮明では有りませんが、特徴は捉えていましたので、多分同一人物でしょう?明日スーパーに持って行って従業員に見て貰います」
「大森さんは本人と接触して殺されましたが、何か資料とか持って居ませんでしたか?」
「ショルダーバッグだけで、財布の中にここの領収書が入っていたそうですよ!」
「記者なら、ボイスレコーダーとか手帳を持って居ると思うのですが?」
「簡単な着替えだけだったと聞きましたね、他の物は犯人が持ち帰ったのでしょう?」白石刑事が言った。

美優はその後一人に成って、自分との会話を録音していたのなら、犯人は安永真紀子と言う名前を知っている。
安永真紀子は男に貢ぐ為にお金を盗んだのだろう?目的は何だったのか?関西の生まれでも育ちは東北なのだろう、訛りが有る程長く子供の頃から住んでいた筈だ。
麻生香里も四国、もしかして安永真紀子も四国の生まれ?二人は姉妹?
もし姉妹なら今回の事件は充分に考えられる。
香里と真紀子は十歳程度年齢が離れているので、父親が異なるのか?
美優の推理が次々と広がってゆく!
二十年前朝比奈家に家政婦に入った麻生香里、妊娠していた子供は飛田公子と夏目里子の機転で命を救われて、去年朝比奈家にやって来た?朝比奈信三に会った?
それが飛田公子の言う孫娘だろう?その麻生香里の子供の事は、朝比奈信三に老人ホームで会った河西美佐代が話したのではないだろうか?
美優は自分の推理が繋がっていく事が、背中に寒い物を感じ始めていた。

戸籍の消失

51-034
美優はその日の夜、考えながら眠ってしまっていた。
結論は朝比奈信三の過去からの思いが、世代を超えて今回の事件を引き起こしたのでは?と考えていた。

翌朝、美優は一平に陸前信用金庫石巻支店に勤務していた安永真紀子の、略歴、戸籍謄本を調べて欲しいと連絡した。
これで判らなかった部分が判明するのでは?の期待が込められていたが、これは大森記者殺害に関する調査で調べて欲しいと頼み込んだ。

一応京都府警と静岡県警の合同捜査で、大森記者殺害事件は捜査本部が舞鶴署に設けられたが、松永捜査一課長は翌日部下を伴って民宿新田を訪れた。
表面上は大森の足取りと犯人の女の行動の調査だったが、本当の狙いは美優の鋭い推理を聞きたいが本音だった。
「先日は鋭い指摘を部下に頂き感謝しています!」民宿を訪れて開口一番御礼から始まった松永課長。
「いえ、簡単な事を話しただけですが?今日は犯人の逃走経路?犯人像をお聞きに来られたのですか?」
「えっ、野平さんには全てお見通しの様ですね!恥ずかしながら図星で、ボートで逃げられたので全く虚を突かれた感じで困っています」
「毒物は毒草だったのですか?」
「それが青酸カリを使っていましたので、その殺し方も違うのでは?と思いましてお聞きにきました」意外と正直な松永捜査一課長に美優も気を許して「それは確実を狙ったのだと思います!犯人にはこれ以上大森さんに動き廻られては困るからです」
「毒草を使うと確実に死なない?」
「死にますが、感づかれては困りますからね!青酸カリなら確実でしょう?」
「成る程、橋立の松林に呼び出して、缶コーヒーに仕込んだ青酸カリを飲ませています」
「青酸カリが手に入る場所に犯人は居ますね!メッキ工場、研究施設、薬品工場、学校、農業用、接着剤とか塗料の工場、病害虫駆除用とかですね」
「結構色々な場所で使われていますから、特定するのは困難ですね」
「ボートは発見されたのですか?」
「いいえ、何処の港に向かったのかも判りませんでした!何かヒントは有りませんか?」
「個人の所有で無い場合は、盗難届けとか出ているのでは?」
「調べましたが、複数の目撃証言に該当のボートに合致しませんでした」
「個人所有って事に成るのですね!ボートを個人で持っている?」そう口走ると美優はもしかして?の疑問が閃いていた。
「何か?」美優の顔色に注目した松永。
「いいえ、事件にお金持ちの人が絡んでいるのか?と思いまして」
「そうですよね!ボートの所有者ならお金持ちですよね!」松永はその様に納得して帰って行った。
美優は直ぐに、スーパーASUKAの関係者で、ボートの所有者は存在するか?を確認して貰う事にした。
意外な処から犯人に近づく可能性が有るからだ。
美優の推理の中に新たな証拠と成るかも知れないと思った。

翌日一平が「前の社長は釣りが好きで、ボートを所有していたが、今は誰も持って居ない様だな」
「社長が持って居たボートと今回の事件のボートは似ているの?」
「似ている様だが、もう処分した様だ」
「やはり、予想通りだわ」
「えっ、亡く成った社長のボートが使われたのか?」
「まだ判らないけれど、可能性は残ったかも」
「安永真紀子の方は?」
「彼女は既に亡く成っているよ!数年前だったが?それ以上調べるのか?」
「東日本大震災の時の死亡かな?」
「違うな、三年前に成っているから、2015年だな!」
「兄弟とか?両親が関西?」
「震災の影響か?彼女が結婚して旦那さんは地震の時に亡く成っている!安永裕治さん三十五歳で死亡だ!子供も同じ時に死亡に成っている」
「津波で亡く成ったのね!でも真紀子さんが三年前の死亡なの?」
美優は自分の推理が間違っていたのか?パソコンで調べると、戸籍に不明な点が有る場合は連絡下さいと書かれている。
誰も不審に思わなければそのままの状態に成る。
安村真紀子の様に家族が全員亡くなって居た場合はどう成るのだろう?
「行方不明者は確定するか、家族からの申請で死亡に成る可能性が有ります」と電話で答えが返った。
政府は、東日本大震災の行方不明者について、民法上の失踪宣告の手続きを経ずに、市町村が死亡届を受理できる措置をとる方針である。
民法上は、船の沈没・航空機事故等に巻き込まれて遺体を確認できなかった場合、1年間生死不明の状態が続いたことを条件に、失踪宣告が認められ、死亡したものとみなされる。そして、この失踪宣告が認められるには、手続として、家庭裁判所への申立てが必要となる。
一方、戸籍法は、死亡届の添付書類について、やむを得ず診断書などを得られないときは、死亡の事実を証明する書面があれば受理できるとしている。
そこで、東日本大震災の行方不明者については、戸籍法を特例的に活用し、失踪宣告の手続きを経ないでも、震災時の状況や経緯などを記した書面を死亡届に添付すれば、死亡届が受理され死亡が確定する方向となっている。
したがって、震災から1年を待たずに、また家庭裁判所への申立てをしないでも、家族による財産の相続や生命保険の受け取りが可能になる。行方不明者の家族の方が新しい生活を踏み出す一助となることが期待される。
「これで、遅く成った?」と独り言を言った。
もう少し詳しく聞きたいから、一平に紹介された当時の信用金庫の職員、津村に尋ねる事にした美優。

帰宅へ

 51-035
津村は現在陸前信用金庫石巻支店長に出世している。
当時の支店長の監督が全ての責任を負わされた形に成っているが、支店長は津波で亡く成っている。
津村は当時係長で、主に外交に廻っていたので難を免れた。
美優の質問に「静岡県警の御主人に聞いていますが、静岡の事件に関連が有るのでしょうか?」
「安村真紀子さんが今回の天橋立の事件に関連しているのではと思いまして、当時の事をお聞きしたいのですが?」
「安村真紀子は仕事の良く出来た職員でした。多分あの地震が無ければ横領は発覚していなかったと思います」
「地震で発覚したのですか?」
「はい、津波で支店が流されてしまって、回収された書類で発覚して警察に訴えたのですが、当時本人は近所の商店街に営業の人間が風邪で休んで、代わりに売り上げの回収に行っていたのです!津波で呑み込まれてしまって、行方不明でした!支店長も最後まで支店に居たので、同じく遺体で発見されました」
「安村真紀子さんの遺体は発見されなかった!横領金額は幾ら程でしたか?」
「約二千万程度だったと記憶していますが、自宅も流されて主人も子供も遺体で発見されたので、信用金庫は弁償して貰う術が無く成りました」
「御主人のお仕事は?」
「漁業関係の仕事ですから、港に居た様です!息子さんは中学校で亡く成ったと聞きました」
「安村さんの出身は宮城県の仙台だと?」
「子供の時に東北に来たけれど、殆ど田舎の記憶は無いと話していましたね!母親が若くで亡く成ったので、姉妹が離れ離れで親戚に引き取られたらしいですよ!」
「姉妹ですか?」
「確かお姉さんが居ると話していました!地震の半年前位だったかな?お金が必要だと同僚に話したらしいですが、その同僚も津波で亡く成りましたので、それ以上は判りませんね」
「彼女から麻生と云う名前は聞かれた事は有りませんか?」
「知りませんね!彼女の実家で聞かれたら判るのでしょうが、両親は既に亡く成られたと聞きましたね」
美優は丁寧に礼を言って電話を終った。

夜に成って一平に電話で安永真紀子の実家の事で尋ねると、戸籍は小池って夫婦に養子で入籍されているが、小池夫婦には子供が無く五十歳を過ぎてから真紀子を貰った様だと話した。
「その小池さんは何処から真紀子さんを養子に貰ったの?」
「それが、今日判ったのだが、河西美佐代さんの子供だった!」
「えーーー、河西美佐代さんって八十歳過ぎているでしょう?当時ならまだ四十歳前後?」
「初めは同性同名だと思っていたのだけれど、調べると同じ人だった」
「私頭が変に成りそうだわ!それなら私の推理は全く外れに成るわ!河西美佐代さんの子供に香里さんは?」
「居ないよ!そこで香里さんが居たら訳判らないだろう?美優は姉妹だと思っていたのか?」
「安村真紀子が麻生香里と姉妹なら、事件は解決だと推理していたのだけれどね~ショックだわ」
「でも関西人では無いよな!静岡人だから少し違う気がするけれど、戸籍は間違い無く河西美佐代の子供だった!長女に成っている」
美優は明日芳田芙美子に妹の事を聞いてみようと思った。
芙美子と安永真紀子は十歳程度年齢が離れているので、妹の記憶は有る筈だ。

電話で尋ねると芙美子は簡単に、妹が産まれたのは知っていますよ!でも母は私の父とは離婚していたので、不倫で産まれた妹だから一年程で貰われて行きましたと答えた。
「今考えて見ると恥ずかしかったのでしょうね」
「妹の名前とか覚えていますか?」
「はい!マッキーと呼んでいました!私は可愛がっていましたので、急に小学校から帰って居なく成った時は驚いて、泣きました!でも私が数年後理解出来る歳に成ったら、不倫の話しをして教えてくれました!その妹が何処かに居るのですか?もう四十年以上会っていません!会いたいです!例え不倫でも二人きりの姉妹ですから!」
「いえ、東北の方に貰われて行ったのですか?」
「東北?もしかして小池って人ですか?時々母が東北の小池って人と手紙とか電話をしていました」
「その様ですね!でも小池さんは既に亡く成られています!」
「母より年上かも知れませんから、そうかも知れません」
結局美優は真紀子の事を話す勇気が出なかった。
四十年以上会っていない妹が重要事件の犯人か?津波で亡く成ったか?どちらも彼女には良い話しでは無いからだ。
だがこの芙美子の証言で、真紀子が河西美代子の子供は間違い無い様だ。
そう成ると美優の推理は根底から崩れてしまう。

眠れない夜、美優の脳裏に安永真紀子が河西さんの子供だと決まれば、犯行が確実にスーパーASUKAに決定と云う事に成るなら、もう夏目康司と朝比奈明日香の二人にぶつかってみるしか残された道は無いと決意した。
決意をすると、直ぐに眠りに入った美優。
翌朝「お母さん!静岡に帰るわ」といきなり言うと、帰る支度を初めて下田署の山田刑事に朝比奈明日香の面会を申し込む様に伝える。
そして夏目康司の様子を尋ねたら、警察の監視を良い事に機嫌良く働いていると答えた。
美優はその後一平に連絡して、今日帰るので明日一平の母親に自宅に来て欲しいと頼んだ。
何か見通しが付いたのか?の質問に、全ては明日朝比奈明日香に会ってから発表すると答えた。
いよいよ犯人が判ったのか?と期待をして尋ねた一平に「犯人の姿は全く判らない!けれど外堀は埋まったかも知れないわ」と答えるに留めた。

新たな証言

 51-036
美優は久々に自宅に帰ったが、マスコミ関係者は長期の不在で姿が消えて平穏なマンションに戻って居た。
美優は今でも大森記者が話した言葉、安永真紀子は関西の生まれだの言葉が脳裏に残っていた。
河西美佐代は静岡の人間なのに?何故大森記者は関西の生まれだと自信たっぷりと話したのだろう?美佐代が産んだ様に成っている戸籍が偽物?その様な事が出来るの?と考えていると病院?夏目里子と組んでなら出来る!
テーブルの上にメモ用紙を見つける美優。
△守本覚教授 五十二歳 現住所  静岡市内で大学の指定住宅に妻、楓 五十歳、二人の子供と生活、出身は京都府、亀岡市。
△横山麻那 二十歳  学校の寮生活、実家は和歌山県串本市。
○竹内満里奈 二十歳 学校の寮生活、実家は秋田県、秋田市。
○本多芳樹 二十歳 学校の寮 実家は山梨県、大月市。
○迫田理香  二十歳  静岡県、浜松市。
頼んでいた薬草同好会のメンバーの名前の前に印が付けて有った。
この印で考えると一平ちゃんは、教授と横山さんに疑問を持った部分が有ると云う事だわね!

夜遅く帰っても一平はメモの事には触れずに、いつの間にかメモ事態が消えていた。
まだ確信が無いので、話す段階では無いのだろう?自分の頭の中だけの疑いなのだろうと理解して、敢えて聞かない美優。
だが頭の中には詰め込んで、翌日からの聞き込みに使おうと決めていた。

翌朝一平の母志津が早朝から来てくれると、直ぐに宿泊の荷物を持って静岡駅に向かう美優。
下田の駅には栞と山田刑事が待機していて、美優の到着を待って夏目康司の会社に向かう。
自宅に向かうと前回の様に逃げ様とするので、仕事場に行く事にした美優。
美優の急な訪問に驚きながらも面会に応じた夏目康司。
「今日はズバリとお聞きしますが、お母さんの夏目里子さんに頼まれて麻生香里さんと男の子を貴方が逃がしましたね!」
「。。。。。。。。。」
「朝比奈家の事を気にして喋らないのでしょう?」
「えっ!」驚く顔に成った夏目康司。
「守本さん、横山さんって名前はご存じですか?」
その質問に大きく首を振る康司。
「もう夏目さんが行った事実が、朝比奈家に知られても大丈夫ですよ!香里さんの子供が復讐をしているのでしょう?」
「えっ、何故それをご存じなのですか?」
「貴方は自分が助けた為に、今回の事件が起ったと誤解されていますね!お母様から何をお聞きに成ったのか判りませんが、貴方が責任を感じる事では無いのですよ!」
「母は自分達が助けた事が今回の事件を引き起こしたと、後悔をして亡く成りました」
「何故?誰が送って来たのですか?」
「それは判りませんが、母と飛田公子さんが食べて死にました!覚悟の自殺だと思います!母は少し前から事件の起る事は知っていた様です」
美優は話しを聞きながら、毒饅頭を送ったのが麻生香里の娘だと判ったが、何故二人を殺す必要が有ったのか?の疑問が湧いていた。
自分の母と兄そして自分を助けてくれた恩人二人に毒饅頭を送って、自殺を強要する事がどうしても理解出来なかった。
「夏目さんが逃げる必要は無いと思います!麻生香里さんの子供が助けられた事実を朝比奈明日香さんは既にご存じだと、私は思っています」
「えーー!本当ですか?」
「私は今から、朝比奈明日香さんに会ってその事実を確かめてきます!だから逃げなくても良いのです!」
「そうですか?母も自分もこの二十数年、逃がした事が朝比奈家に知れる事を一番危惧していました。そして今大事件が起って、母が子供の復讐が始まったと言った時、恐く成って自分が助けた事がこの様な事件を起こしたと後悔していました!朝比奈の社長が亡くなられて次々事件が起り、母まで自殺してしまい!恐くて、恐くて」
「私の推理では、少し違う様に思うのですが、もう直ぐ事件の真相が判ると思います!子供の事で何かお母様は言われませんでしたか?」
「賢い美人の子供に育って良かったと、去年話して嬉しそうでしたが?この様な事件を引き起こすとは思いませんでした」
「麻生香里さんの消息は?」
「四国の徳島に住んでいた様ですね!逃がす時、徳島に帰りますと話していました」
「姉妹の話は有りませんでしたか?妹が居るとか?」
「その様な話しは聞きませんでしたね!二十年も前の話なので、細かい話しはしましたが殆ど忘れてしまいました!三万円と新幹線の切符を買って静岡駅で別れました!麻生さんは泣きながら男の子の手を引いて改札を入っていきました!その姿は今でも目に焼き付いています」
「男の名前は覚えていませんか?」
康司は少し考えて「私と同じ様な名前では無いでしょうか?こうちゃんと呼んでいました」
「こうちゃん!ですか?朝比奈社長がアメリカから帰国されてから、朝比奈家の事を何か聞かれましたか?」
「いいえ、何事も無かった様ですね!飛田公子さんも騒動の話しを母には伝えて無いのかも知れませんが?」
美優の推理の中で、二人が何故毒饅頭を食べたのか?それだけが疑問として残ったが、大体他は自分の推理通りだと、朝比奈明日香の病院に向かった。
「驚きました!」栞が車に乗り込むと同時に美優に話した。
「そうなのよ、朝比奈の子供達に虐められて病院に送り込まれたが、飛田公子と夏目里子の機転で手術はされずに、康司さんが静岡駅まで逃がしたのよ!」
「兄弟達は、父親の不倫の子供を始末したと思ったのですね!」
「その子供が二十年経過して現われた!」山田刑事が言う。
「現われたのは正しいのですが、少し違うのですよ!」美優が微笑みながら言うと「えー、何が違うのですか?」栞が不思議そうに美優の顔を見る。

明日香の驚き

  51-037
夕方美優と二人の刑事は、朝比奈明日香の入院している伊豆高原病院に到着した。
以前と全く同じで、個室の病室で上品な明日香は刑事達が訪れるのを、服装を整えて待っていた。
「事件が解決したのでしょうか?」美優に尋ねる明日香。
「はい、解決致しました!但し奥様が本当の事をお話頂けたらですが?」
「どう言う事ですの?何か私が嘘を話したとでも?」
「はい、先ず麻生香里さんをご存じだったのに、知らないとおっしゃった事実です」
恐い顔に成って明日香が「私の入院中に、家政婦と恋仲に成るなんて認められませんわ!だから忘れました!」
「恋仲?不倫?本当ですか?」
顔色が変って「子供達も見ていますので、間違い有りませんわ!私が直接見ていませんが、子供達が嘘を言う筈有りませんわ!」
「それで御主人との間に子供が妊娠をしているとお知りに成ったので、病院に連れて行く様に言ったのですね」
「当然でしょう!家政婦に主人の子供が。。。。信じられませんでしょう?」
興奮気味に話す明日香。
「堕胎して追出した筈だったのに、昨年御主人の信三さんを訪ねて麻生香里の子供がやって来たのでしょう?」
一気に顔色が変ってしまった明日香。
「ゴホン、ゴホン」と大きく咳き込むと看護師がスピーカーで「どうされましたか?」と尋ねる。
「私、具合が悪いので、帰って貰って下さい!」とマイクに向かって言う。
直ぐに看護師が来て、美優達を病室から追出す様に押し出した。
「お婆さんの様子を注視して下さい!自殺の恐れが有ります!」と美優が看護師に話す。
「えー自殺?」病室の外で驚きの声を出した。

これ以上の聞き取りは無理だと思い、電話で赤木師長に、明日香を厳重に監視する様に伝えて、今夜の宿泊予定の下田のホテルに向かう美優。
持田課長が泊まれと言ったが、度々では申し訳ないので一人で泊まる事にしたのだ。
翌日は老人ホームと稲垣医院を訪問する予定にしている美優。
明日香に肝心の事を聞く前に興奮させてしまった反省をしている美優に、一平が電話を掛けてきた。
「沖縄で柿本貴史の遺体が発見された!」
「死因は毒殺?」
「その通りだ!どくぜりから抽出した毒だな!四月の頭に殺されていた様だ!」
「沖縄からは帰って無かったのね」
「明日、静岡医科大学に行って、薬草同好会のメンバー全員事情聴取する予定だ」
「これで犯人は薬草同好会のメンバーの可能性が益々高く成ったわね」
「そちらはどの様な具合だ!」
「明日県警に行って、事件の全容を話しするわ!」
「えっ、解決か?」
「まだ犯人逮捕して無いでしょう?解決では無いわ!」
「薬草同好会のメンバーの中で、二人可能性が有る人物が居る」
「はい、一人は守本教授、もう一人は横山麻那さんでしょう?」
「俺のメモ見ただろう?」
「気に成る事が有ったの?」
「気に成るのは、順番に消していったら二人が残っただけだ!」
「成る程ね!でもそれは重要な事だわ!逆に考えれば二人以外は白って事だから、二人を徹底的に調べれば良いのよ!」
「横山麻那さんには、歳の離れた兄が居る!兄の本籍は徳島県だ!これ重要?」
「。。。。。。。。」美優の声が消える。
徳島県、歳の離れた兄、、、、、昼間聞いた話しに一致する。
「もしもし美優!聞いているのか?」
「兄の名前は?」
「信康だが、どうかしたか?」
「こう。。。。。じゃないの?」
「麻生信康だよ!こうって何?」と一平が言うと電話を切ってしまう美優。
これでこうちゃんなら確定だったが、異なってがっかりする美優。

翌朝、二人の刑事と一緒に下田の老人ホームに向かった美優。
園長に河西美佐代の事に付いて「子供が園を訪ねて来た事が有りますか?」
「はい、お嫁に行かれた芙美子さんはよくここに来られましたよ」笑顔で話した。
「妹さんの方で真紀子ですが?」
「妹さん?真紀子さん?そんな名前一度も聞きませんでしたよ!お葬式にも妹さんの存在は在りませんでしたね」
「東日本の震災で亡くなられているので、勿論葬儀には出る事は出来ないのですが?東北の方に子供さんがいらっしゃる話しは、聞かれた事無いですか?」
「嫁に行かれたのですか?」
「嫁には貰われた小川って家からですが、元々は小川家に真紀子さんは貰われていたのです」
「それでは芳田さんには妹さんが?」
「全くご存じ無かった?」
「はい、美佐代さんも子供は一人だと言われていましたから、今日初めて聞きました」
美優は芳田芙美子が事実を知っていて、事実と異なる事を喋ったのかも知れないと考えていた。
美優は河西美佐代、飛田公子、夏目里子が小中学校の同級生だった事を尋ねたが知らなかった。
それで仲が良かったのか?と理解した様だった。
もう一人朝比奈信三も同級生だと伝えると、河西さんと朝比奈さんが仲良く話しをしていた意味が理解出来た様だ。
美優の頭の中にはもう一人の同級生の存在が在ったが、その人が誰なのか?今は全ての人が亡くなっているので、証明は出来ないがその人物がこの四人に大きく関係しているのだと思っていた。

発表

 51-038
老人ホームを出て次の稲垣医院に向かう途中、一平が漸く卒業名簿が手に入ったと連絡してきた。
美優はタブレットにデータを送ってくれる様に頼む。
それは朝比奈信三の小中学校の卒業名簿で、この中に四人が存在すると確信していた。
だが朝比奈信三と飛田公子、夏目里子は居たが河西美佐代の名前は存在しなかった。
第四の人物に該当する名前の存在も無い。
小さな学校で卒業生は三十人程度、美優は一平に前後の学年も調べて欲しいと再び連絡をして稲垣医院に向かった。

稲垣医師は面倒くさい顔で出迎えると「まだ何かお尋ねに成りたい事が?」
「はい、今日は朝比奈信三さんの亡く成られた日に、自宅に行かれましたね」
「行きましたが?それが何か?」
「心臓麻痺、お酒を飲んで長風呂が原因とお聞きしましたが?」
「その通りですよ!私が伺った時は既に風呂から出されていましたが、既に亡く成られていました」
「それは変ですね!信三さんをお風呂から明日香さん一人では運べませんよ!それにお手伝いの三浦さんに確認しましたら、その日は休みを頂いて息子さんの家に行く事に成っていたそうですよ!」
「。。。。。。。。。」顔色が変る稲垣医師。
「稲垣さんが朝比奈家を訪れた時、奥さんの明日香さん以外の方がいらっしゃったのでしょう?」
「。。。。。。。。」黙って頷く稲垣医師。
「それは子供さんですね!」
「はい、信三さんが風呂で亡く成られたので、取り敢えず風呂からここに連れて来ましたが、既に死んで居たので、先生心臓麻痺で死亡診断書を書いて欲しいと頼まれたのです!私も主治医をしている関係で、断り切れなかったのです!殺人ですか?」
「何故?殺人だと?」
「いえ、刑事さんが再び来られたので、殺人なのかと思いました!最初にお越しに成った時に事実をお話するべきでした」
稲垣医師は項垂れて答えた。

稲垣医院を出ると「奥さんは朝比奈信三さんが殺されたと?」山田刑事が尋ねる。
「証拠は有りませんが、可能性は高いと思います」
「稲垣医師も多少は不審に思ったのですね!」
「私は帰りますが、稲垣医師の行動を監視して下さい!何処かに行く可能性が有ります」
美優は二人に修善寺の駅まで送って貰うと、伊豆箱根鉄道で三島経由にて新幹線で帰宅した。
帰宅と同時に一平が「河西美佐代は一歳年上で、存在が確認された」と連絡してきた。
「同級生か一学年下に疎開してきた生徒か、朝比奈信三さんと仲が良かった子は居ないの?」
「同級生のその後を捜しているのだが、半数以上は死亡か所在不明だ」
「近い人で確認出来る人居ないの?」
「高齢だからな、今手分けして捜している」
「明日午後県警に行くわ!横溝捜査一課長と佐山さんには居て貰って」
「既に捜査員が集る事に成っているよ!美優の推理を聞く為に!」
「えーー、捜査会議で発表するの?」
「有名人だから、仕方無いでしょう?マスコミにも課長はその後記者会見すると言っていたぞ!」
「そんな!困るわ!」
「でも世間を騒がせたので発表しなければ、示しが付かないのも事実だ」
「仕方無いわね!美容院に朝行ってから行くわ!テレビに映るかもでしょう?それより早く同級生捜して、名前を突き止めて頂戴!」

だが真夜中に帰った一平の口から、朝比奈信三は知っていたが恋人の存在を知っている人には会えなかった様だの言葉に失望する美優。
「同級生より歳下の子の可能性が高いわ!明日もう一度捜して!」
美優に叱咤激励されるが、一平も独自の捜査で相当疲れていた。

翌朝美容院に向かった美優に栞が「旦那さんから依頼されていた信三さんと交際していた可能性が有る女の子が見つかりました」と連絡をしてきた。
「名前は?横山さんでしょう?」
「えーー、奥さんご存じだったのですか?」
「勘よ!その方は既に亡く成って久しいのでしょう?」
「えーー、そこまで判るのですか?」
「もう随分前に亡く成られています。土肥の遠い親戚を頼って関西から疎開されてきた様です。中学生の時に知り合った様ですね!名前は横山由香子だそうです!亡く成られたのは三十一歳ですね」
「ありがとう!事件は解決したわ!」
「本当ですか!私には何も判りません」
美優はその後美容院でショートボブの光沢の有る髪に変身して、食事を終えると静岡県警に向かった。
「おおー野平美優さんだ!」既に数人の記者が美優を見て集まって来た。
「事件が解決したと聞きましたが、本当ですか?」
「いいえ、まだ犯人が逮捕されていませんので、解決では有りませんが、捜査会議の後の記者会見で大まかな事実は発表されます」
「今、少し教えて頂けませんか?最終版に間に合うのですが?」と詰め寄る記者。
笑顔で「まだ犯人はその辺りに居ますよ!お茶に毒が入っている可能性も充分考えられます」
「えーー」と驚いた時、美優は捜査本部の中に消えてしまった。
「野平さん、済みません!今日はよろしくお願いします!」会議室の机を確認している刑事に挨拶をされる美優。
そこに横溝捜査一課長と佐山刑事が一緒に来て「事件は解決ですか?」
美優は首を振って「まだ犯人は逮捕されていませんので、これからでしょう?」と微笑んだ。

捜査会議①

 51-039
会議室に捜査員が多数集まり、署長が「今回の毒草による連続殺人事件の解明に尽力された野平美優さんにこれから事件を解き明かして頂きますが、発表と同時に犯人が自殺、逃亡の恐れが有りますので、全員口外は慎み犯人検挙に向かって下さい」と挨拶をした。
横溝捜査一課長が「今回の事件ではここにいらっしゃる野平さんには、迷惑をお掛けして申し訳ないと思っています。事件の全容が判明すれば速やかに諸君は行動を起こし、犯人の身柄を確保する様に!」
前に立った美優を見て一平が目を細める程輝いて、美しく見える美優。
「いつも主人がお世話に成っています!こんなに沢山の方の前でお話するのは初めてで、緊張していますが、難事件を一刻も早く解決する為に敢えてこの場に立たせて頂きました。質問等は後程纏めてお答えしますのでよろしくお願いします」
①事件の発端
戦争中関西から疎開してきた一人の少女と、地元の名士の子息との出会いから始まります。
その子息が朝比奈信三前スーパーASUKAの社長です。
女の子が今回の薬草事件の主犯格の祖母に成ります。
中学生で知り合い二人は異なる高校に通いながらも、愛を育みましたが身分の違いから結ばれませんでした。
朝比奈信三さんは同じ旧家の桐生明日香さんと結婚させられて、この女性とは泣く泣く別れる事に成りました。
それでも忘れられない二人は、その後も時々会っていたのでしょう?
だが、この女性が関西に帰ってしまって会えなく成ってしまったのです。
女性は妊っていましたが、信三さんには多分話さなかったのだと思います。
彼女はやがて女の子を出産しましたが、生活の為子供を連れて結婚に踏み切りました。
この女の子が麻生香里さんなのです。
会議室が驚きで、騒がしく成る。
②経緯
この女性の結婚後の姓が麻生さんで、麻生さんとの間にもう一人子供が産まれたのですが、女性は肺がんに冒されて居た様です。
子供を産んだが、育てる事無く貰われて行きました。
この時麻生さんとも別れて居たのでしょう?
父親の異なる子供を助けたのは、昔同じ学校で仲良しだった河西美佐代、飛田公子、そして夏目里子さんだったのです。
夏目里子さんは婦人科医をされていましたので、彼女の産んだ子供は河西美佐代さんの子供として入籍されました。
信三さんの彼女は出産と同時に三十一歳で亡く成ってしまったのです。
③始まり
そして約二十年程前、朝比奈家に一人の家政婦がやって来ました。
それは河西美佐代、飛田公子、夏目里子が朝比奈信三に自分の子供との対面をさせてやろうと仕組んだ事だったのです。
家政婦として少しの間でも一緒に住んで親子を感じさせたい気持ちが、次女に見られて誤解を招いてしまったのです。
信三さんが自分の娘麻生香里さんと抱き合っていたのを、兄弟と母親明日香さんに喋ってしまったのです。
怒った明日香さんは子供達に家政婦を追出す様に指示をしたのです。
四人の兄弟は麻生香里さんを嬲り、辱めて泣き叫ぶ男の子の前で全裸にして虐めた。
その時香里さんは妊娠をしていました。
それを知った四人は、父信三との間に出来た子供だと思い、家政婦の飛田公子の友人で有る夏目里子に堕胎を強要したのです。
この時信三さんはアメリカに視察旅行に行かれていました。
信一が公子と一緒に病院に連れて行きましたが、二人は信一を上手に騙して里子は自分の子供康司に頼んで病院から脱出させました。

④事件前
その約十数年後、この時産まれた女の子が兄信康と一緒に河西を頼ってやって来たのではないでしょうか?
それはこの兄妹にお金が必要だったのでは?と考えています。
本当は信三に出して貰おうと考えて来たのだが、昔の事が有るので河西美佐代は叔母の真紀子を紹介したのではないでしょうか?
これは私の推測ですが、その妹が安永真紀子で東日本大震災の前年では?と考えています。
その為真紀子は信用金庫のお金を流用して、この子供達に渡したと考えられます。
真紀子は香里から、朝比奈家で起った事を聞いていたと思われます。
別れ別れでも姉妹は交流をしていたと考えられます。

⑤事件
昨年信三の孫娘は勇気を振り絞って、会いにやって来たと考えられます。
この時信三は明日香に孫娘の事を打ち明けて、自分が面倒を見たいと話したと考えられます。
二十年前の家政婦が実は自分の愛した女の子供だった事実は、明日香さんの心を大きく傷つけ、財産を奪われると思った子供達は、明日香さんが信三さんを殺害する事を手伝ったと考えられます。
主治医の証言では、風呂で心臓麻痺にて亡く成ったが、既に風呂から信三さんの遺体は運び出されていたのです。
明日香さんの体力では運び出せません!

⑥事件発生
祖父で有る信三さんが亡く成った事実を知った二人は、過去の出来事から信三さんが殺されたのでは?と疑いを持って公子さん達に詰め寄ったと考えられます。
公子さんには大体の事件が把握出来たので、二人に伝えたと思われます。
その為に今回の毒草殺人を考えて、スーパーASUKAを彼等の手から奪い取ろう!と云うより抹殺してしまおうと思い始めたのです。
捜査員も署長を初めとした横溝捜査一課長も、美優の話を唖然として聞いていた。

捜査会議②

 51-040
創業者の祖父を殺して奪い盗ったスーパーASUKAを潰してしまうのが目的だった。

⑥手違い
それは毒草の威力を軽く考えていた事です。
一般の客の具合が悪く成って、救急搬送される程度で終れば良かったが、死者が多数出てしまった。
実行犯には、過激な事を告げて鼓舞させていたと考えられます。
計画犯の方は世間から離れた離島に行き、事件の実体を把握するまで時間が掛ってしまった。

それでは事件を、順を追って検証してみましょう?
①先ず発端の事件は去年朝比奈信三さんが、孫二人を認知したいと明日香さんに申し込んだと考えられます。
それは自分の子供麻生香里さんが、若くして亡く成った事を知ったからです。
その話しに逆上した明日香さんは、子供と共謀して信三さんを心臓麻痺に見せかけて殺害した。

②麻生香里さんと安永真紀子さんは、遠く離れていても幼い時に別れた姉妹で親交が有り、連絡はしていたと考えられます。
河西美佐代さんは出産後直ぐに亡く成った横山由香子さんの子供を、自分の子供として入籍して、東北の小川家に養女として預けました。
数十年後、小川真紀子は結婚して安永真紀子さんに成りました。
だが、お姉さんの麻生香里さんが癌に冒されてお金が必要に成り、仕方無く信用金庫のお金を拝借してしまったのです。
その後、東日本大震災の発生まで発覚しなかったのですが、あの地震が全てを明るみに出してしまったのです。
真紀子さんは夫と子供を失った事を知り、自分も同じ様に死んだ事にしたと考えられます。
その後は甥っ子と姪っ子の復讐、母の無念の気持ちで犯罪に手を染めたのだと思われます。
別人に成る為に暁美容整形で顔を変えて、スーパーASUKAに潜入今回の事件の実行犯と成ったと考えられます。

③兄は麻生信康、妹は横山麻那
横山は母方の名前で麻生香里さんが離婚したから、子供の姓を横山にしたのだと思われます。
横山麻那さんはご存じの通り、静岡医科大学の学生です。
彼女が医科大学に行けたのは、多分横領のお金が有ったからだと考えられます。
折角横領したが、姉の麻生香里さんは治療前に亡く成ってしまったのだと思います。
それは真紀子さんがお金の工面に時間が掛り、横領まで至る時間が切羽詰まったのだと思います。
犯罪者ですが、その時の真紀子さんの苦悩が、目に浮かぶと涙が。。。。。。

④ネットカフェ
柿本貴史さんは横山麻那さんに憧れて薬草同好会に入り、学生証を紛失したと届けを出していますが、本当は麻那さんに頼まれて虚言をしていたのかも知れません!
この事件の影の協力者が二人存在するのかも知れません!

⑤第二第三の犯罪の後、離島から戻って驚いたのは計画犯で、慌てて実行犯の二人を止めて犯罪を停止させました。

⑥毒饅頭で老人ホームの二人が亡く成ったのは、麻那さんがこれ以上犯罪を続けたくないので、朝比奈明日香の殺害を飛田公子さんに頼んだのだと思います。
だが飛田さんはその様な事が出来ずに、悩んだ末夏目里子さんと相談して、自分達が食べて犯罪を終わらせ様としたのでは?と考えています。

⑦天橋立の事件ですが、大森記者が自分達の事を大々的に新聞に書く危険を感じたので、常に尾行をしていたと考えられます。
私の実家を訪れたのが、彼等の決断を急がせたと考えられます。
その為、麻生香里さんが生きている様に見せかけて、天橋立に呼び出して殺害したのです。
その時に使ったモーターボートは朝比奈信三さんの所有だったボートです。
ここに舞鶴署から届いた知らせに寄りますと、ボートはこの事件の関係者の実家近くに係留されていました。
以上で私の推理の話しは終りますが、犯人の気持ちを考えると複雑な気分です。
署長と横溝捜査一課長が拍手をすると、全員が大きな拍手で称えた。

「それでは質問を受け付けますが、個人の名前で伏せて有るのはまだ確定では無いので、捜査をお願いしたいのです」
「朝比奈信三さんが殺された証拠は有るのでしょうか?」一人の刑事が質問をした。
「一年前ですので、多分証拠は無いと思って頂いた方が良いと思いますので、自供以外に道は無いですが、稲垣医師の証言は重要に成ると思います」
「老人ホームで毒饅頭を食べた二人ですが、本当に朝比奈明日香の殺害を依頼されたのでしょうか?何か書いた物が発見されましたか?」
「いいえ、何も有りません!でも二人が揃って饅頭を食べるには何か条件が重なったと考えたら、明日香さん殺害依頼以外に考えられなかったのです」
「男の子と一緒に家政婦として来たのは何が理由ですか?」
「それは、麻生香里が徳島で阪神淡路の震災に遭遇したから、連れて来たのだと考えられます。静岡の学校に入れる話しが有った様です」
「モーターボートの係留先から、犯人が特定出来たのですか?」
「それは舞鶴署の松永課長が現在確認中です」
てきぱきと答える美優はまるで捜査一課長の様に、一平には見えていた。
憂鬱な事件で、頭に五百円禿げが出来ている横溝課長は完全に傍観者に成っていた。

捜査会議③

 51-041
「今回の事件はスーパーASUKA内部の揉め事と言うより、気位の高い朝比奈明日香が夫の過去の恋人横山由香子と、その子麻生香里が許せなかった事が原因だと思います」
「朝比奈明日香は最初、麻生香里は家政婦で子供だとは考えていなかったのですね」
「その通りです、家政婦と自分の夫が不倫して子供を妊ったと思っていたのです、その為昨年信三さんが孫を認知したいか、自分の手元に置きたいと告白した事が、青天の霹靂に成ったのだと思います。それも始末した筈の麻生香里の子供が孫だった事は大きなショックだったでしょう」
「戦後疎開してきた横山由香子と朝比奈信三は、中学の時から恋仲に成っていたのですか?」
「同級生の話では、相思相愛の関係だった様ですが、朝比奈家は名家で全く釣り合いが合わず。二人は引き離された様ですが、その後も密かに会っていた様ですが、由香子は関西に帰ってしまったのでしょう?多分信三さんは結婚後も由香子さんと関西で会っていたので、香里さんを妊ったのです」
「由香子も香里も短命だったのですね」
「由香子さんの病名は肺癌で、香里さんの病名は判りませんが、同じ癌だったのではと推測出来ます」

「よし、静岡医科大学に行くメンバーを決めるぞ!」横溝捜査一課長が急に立ち上がって叫んだ。
すると美優が「少し待って下さい!もう少し裏を固めてからの方が良いと思います」
「何故?」
「もう一人の主犯の容疑が確定していないのです、松永課長からの連絡を待ちましょう!スーパーASUKAの関係者の事情聴取は初めて頂いても大丈夫ですが、明日香さんの行動には気を付けて下さい!気位が高いので自殺の道を選ぶと思いますので」
美優の言葉に頷く横溝捜査一課長は、佐山刑事と協議して数十人の部隊を編成して、スーパーASUKAの四人の兄弟の身柄を確保、朝比奈明日香の事情聴取の準備に入った。

「ありがとう!流石は名探偵の誉れの高い野平さんだ!恐れ入った」署長の藪田が美優に握手を求めて労った。
「感謝状の準備もしなければ成らんな!」そう言って笑顔を振りまくが、他の刑事達は既に次の行動に移っていた。
「記者にはどの様に発表する?困ったな!」横溝捜査一課長はこの後の記者発表に困惑の表情に成った。
「松永さんからの連絡が有れば、取り敢えず犯人逮捕の準備は出来ますが、毒を持っていますので、追い詰めると自殺の恐れが有りますよ!」
「安永真紀子は何処に潜伏しているのですか?」
「今、松永さん達が向かった場所ではないでしょうか?」
「すると舞鶴近辺?」
「既にボートは確認されていますので、近くに潜伏していると思われます?」
「何故判ったのですか?」
「朝比奈信三さんは釣りが趣味で、ボートを持たれていましたが、亡く成られてボートの行方が判らなく成っていたのですが、或る方に譲られていたのですよ!信三さんは孫娘の為に釣り仲間で友人の方には、自分の事を打ち明けていたのではないかと考えられます」
その時、美優の携帯が鳴り連絡が入った。
「今、舞鶴署が安永真紀子と思われる女性の身柄を確保したと連絡が入りました」
美優の言葉に手を叩く署長と横溝捜査一課長。
「これで、ボートの持ち主守本教授が、横山麻那さんの協力者が確定しました」
美優が言うと「えっ、守本教授が?」「犯人?」二人が驚いて顔を見合わせる。
「そうです、守本教授と朝比奈信三さんは釣りの仲間だったのです!勉強の良く出来る孫娘の横山麻那さんが信三さんの孫娘だと、以前から知っていたと思います。信三さんは孫娘の話をすると、気位の高い明日香さんに、もしかしたら殺されるかも知れないと思ったのかも知れませんね!守本教授は信三さんの死が殺しでは?の疑問を持っていました。
度重なる苦渋を経験している兄の麻生信康は、その時我慢の限界に達したと考えられます。
子供の時母の香里さんが、四人の兄弟に折檻される姿が蘇って、スーパーASUKAそのものを葬り去ろうと考え始めたのでしょう?当初は脅かす程度の計画が、死者が出てしまい驚いたのは、島から帰った二人でした。
だが起ってしまった事件は止められません!その為毒饅頭が登場したのだと考えられるのです」
「柿本貴史は何故?殺されたのですか?」
「多分、事件の真相を知ったのでしょう?その為兄が殺してしまったと思います!二人が知らない間に殺害したと考えられます」
「舞鶴署に行って、取り調べに立ち会って連行して下さい」
横溝捜査一課長が二人に指示をして、他の刑事達は静岡医科大学に向かう。
既に朝比奈家の面々の確保に、半数の刑事は出て行き、一平もその中に含まれていた。

「これで記者会見が出来ますな!」上機嫌の署長の藪田。
「時間は四時にしますか?」横溝捜査一課長が尋ねる。
美優は呆れて、トイレに向かうとそのまま帰りたい心境に成っていた。
だが、自分が言わなければ、報道は考えられない様な記事を書くので、帰る訳には行かないとトイレの鏡の自分に言い聞かせた美優。

安永真紀子が逮捕された事実は、兄の麻生信康が知って既に静岡医科大学の守本教授に伝わっていた。
「叔母さんが逮捕された様だよ!」守本教授に言う。
「叔母さんは、常々話していました!自分は既に七年前に死んで居た!母と姉の敵討ちが出来て幸せだと!」続けて話した。
「執念だな!整形までして復讐の為に命を賭けた!」
「整形医まで殺してしまうとは考えて居ませんでした!毒草の計画を先生と考えた時、叔母さんがそれを整形医で試すとは?」
「叔母さんはあの整形が悪い奴だと、開き直って居た時は驚いたな」
「もう直ぐここにも刑事が来るな、逃げるか?」
「はい、今捕まる訳にはいきません!朝比奈家の最後を見届けるまでは!」
二人は既に逃走の準備をしていた様で、刑事達が到着する数分前に大学から姿を消していた。

記者会見

51-042
一平達が夕方のASUKAの本社に数人の刑事を伴って、入って行った。
その頃、美優を中央に挟んで、藪田署長、横溝捜査一課長が記者会見を始めた。
「今回の一連の事件の経過並びに、犯人が判明致しましたので、只今一斉に任意同行を求めると共に、大森記者殺害の重要参考人も先程舞鶴で確保致しました!世間の皆様には大変ご心配をお掛けしました毒草事件も漸く終息の運びに成りました!」署長の挨拶で始まった。
「今回も野平美優さんの活躍が有ったとお聞きしていますが、本当でしょうか?」記者が質問をする。
横溝捜査一課長が「一時は警察内部で、野平さんには不快な思いをさせてしまいましたが、今回の事件の解明も野平美優さんの活躍の賜物でございます!本当にお世話に成りました」と説明した。
「事件のあらましを説明して頂けませんか?」
「一言で申上げますと、二つの事件が重なり合って起った事件だと思います!」突然美優が口を開いた。
二人に任せて置けば、犯人の悪党ばかりが強調されてしまい!兄妹が余りにも惨めに成るから敢えて口を開いていた。
「二つの事件?それは何でしょう?毒草で亡く成った人、先日殺された記者、死体が発見された大学生?」
「それは一連の事件ですが、実は発端は祖父を殺された兄妹が祖父の作った会社を盗られる位なら、潰してしまおうと考えた事です」
「えっ、スーパーASUKAの息子さんの子供が今回の事件を?」響めく会場。
「違います!朝比奈信三さんには、昔好きだった女性がいらっしゃったのですが、両親の反対で別れさせられたのです」
「えっ、それって?」ざわざわする会場。
「それは太平洋戦争末期、静岡に関西から疎開してきた女の子がいました。その女性と中学の時に知り合い恋愛に発展したと考えられます。。。。。。。。。。。。。」説明が続いた。
美優の説明に耳を傾ける記者達、地元の醤油製造の名士の息子信三と、関西から疎開して住んでいる女の子の結婚は許されない!その辺りの話しに目頭を押さえる女性記者も居た。
「約二十年前、同級生達の計らいで、信三さんは自分の子供と初めて対面を果たしました!愛した女性は既にこの世には居なくて、子供と対面したのです。。。。。。。。。。」美優の詳しい話しが続く。
「その女性が麻生香里さんですか?」
「はい、だがこの対面を見ていた次女が勘違いをして、信三さんが家政婦と不倫だと明日香さんと兄弟に話してしまったのです。家政婦と不倫に激怒した明日香さんは子供達に彼女を追出す様に指示したのです。この時香里さんは男の子の目の前で裸にされて虐められたと聞きましたが、お腹には妹が宿って居たので、お腹を庇っていたので、信三さんとの子供だと病院に連れて行かれたのです。。。。。。。。。」美優の話に会場が静まり返る。
「惨い!子供がお父さんを頼って会いに来ただけなのに!それは酷すぎます!」一人の女性記者が突然立ち上がって泣きながら叫んだ。
「誤解が考えられない事件を起こしたのですが、お母さんの同級生、飛田公子さんと夏目里子さんが子供と麻生香里さんを救って逃がしました」
美優は殺人事件を起こしたが、この兄妹を憎めない気持ちで一杯だった。
「昨年、このお腹の女の子が信三さんに会いに来た事が事件を引き起こしたのです。信三さんが妻の明日香さんに孫の事を打ち明けた事が、激怒に変わり信三さんは明日香さんに殺害されたと考えられます!加担したのは子供達でした。それを知った兄妹は過去の経緯も有り祖父の作ったスーパーASUKAをこの人達が手に入れるなら、潰してしまおうと考えたのです」
「関係の無いお客が沢山亡くなって居ますが?これは?」
「はい、彼女と協力者は薬草の研究者です。騒ぎを起こすのが目的だったのですが、予想外の事が続きました」
「それは?」
「最初に豚汁の中にスズランの根が混入していましたが、その日天候が悪く店長が残るので、お客様にお持ち帰りをさせた事が沢山食べる事に成ってしまったのです。。。。。。。」美優の詳しい説明が始まった。

美優の会見の様子がテレビに放送されていたのは、地元のテレビ局だけだったが、その放送を守本教授と横山麻那は車の中で見ていた。
「先生!この野平って人、凄いですね!私達の事をズバリと言いましたよ!」
「本当に凄いと思うよ!君達のお母さんの事、お婆さんの事、そして信三さんの事まで見抜いている!これには参ったな!だがこの人は、君達を擁護して発言しているよ!決して悪いとは言っていない」
「私もそう思いました!でもスズランの話しも安永の叔母さんが話した通りだった」
「まだ、朝比奈家の面々が逮捕されたとは伝えていないな!」
「お兄ちゃんを迎えに行きましょう」
車は高速道路を西に走って行った。

美優は安永真紀子の話も記者に話して、実行犯は兄の麻生信康、計画犯は妹の横山麻那と守本教授だと話して、長い会見を締めくくった。
記者から「守本教授が何故?」と尋ねたが、その問いには答えずに会場を後にした。
「後は逮捕後、本人の口から聞き取れるでしょう!」横溝捜査一課長がそう言って会見を終ったが、美優にもこの状況はまだ解明されていなかった。

警察に連れて行かれる車の中で、次男の常務の信治が「今頃、親父の隠し子の孫が出て来て、財産を?馬鹿じゃないのかと思ったよ!」
「それはお父さんから聞いたのか?」
「違うお袋さんだ!入籍させるか、財産を与えると話している!貴方はどう思うと聞かれたよ!話しにも成らないでしょう?」
「お母さんの話を信じたのか?」
「当然でしょう?二十年前追出した家政婦が実は親父の子供だった?親父の子供を妊娠していると思っていたのに、それが孫?冗談凄すぎでしょう!」
「お前はよく喋るな、兄貴の専務は一言も喋らないそうだ!」
「俺は見ていただけだからな!今回も二十年前も!俺には罪は無いでしょう?」
「まあ、お前の様な喋りの弟が居て、我々は助かるよ!」
「兄貴は殺人罪、会社は俺の所に自動で転がり込む!勿論今の社長は殺人で逮捕!」
「実のお母さんが逮捕されるのに、嬉しそうだな」
「お袋は先ずは兄貴優先だからな、だが今度は自然と俺が優先だ!」
「警察で、もっと色々話して下さいよ!新社長!」煽てる一平に笑顔に成る信治だった。

供述

51-043
警察に呼び出されたのは長女碧、長男信一、次男信治、次女奈々子の面々、四人は中継を見る前に警察に踏み込まれたので、全く内容は知らない。
それぞれが顔を合わせる事無く、取り調べを受ける事に成っている。
朝比奈明日香だけは、病院での取り調べに成って山田刑事、角居栞を筆頭に数名が身柄を確保して、県警から伊藤刑事達の到着を待っていた。
明日香はもう覚悟を決めているのか、凜とした態度で目を閉じて待っていた。
伊藤刑事達が到着して「朝比奈明日香さん、御主人の朝比奈信三さんを殺害しましたね!」の問いかけに小さく頷いて罪を認めた。
意外と簡単に認めたのに驚いた伊藤刑事達が、県警に連絡すると一平が「美優が、明日香はもう覚悟を決めていると思うと話していた」と言った。

安村真紀子も松永課長から、朝比奈明日香が罪を認めたと教えられて「そうですか、母も姉も漸く落ち着いて眠れるでしょう。申し訳有りませんでした」と初めて事件に言及して詫びたが、内容には口を閉ざして静岡で話しますと語った。
夕方からのニュースは事件一色に成ったが、朝比奈家の惨劇のタイトルでの事件の一報に留めて、詳しい事件の内容は本人達の自供を待つ報道に成っていた。
勿論、主犯の三人が逮捕されていない事も、考慮されての事だった。

そのニュースを見た横山麻那と守本教授は「我々の目的は達成したな!信三の仇も討てたが、彼が作ったスーパーASUKAはどの様に成るのだろうな?」
「先生三人で自首しますか?」
「兄貴と叔母さんが全ての罪を被って自供するかも知れないぞ!」
「お兄ちゃんだけに罪を被らせる訳にはいきません!計算外の事が起ったのは私達のミスですからね」
「叔母さんは家族を失い、戸籍を失って今回沢山の事件を起こして本望だったのだろうか?」
「関係の無い人を殺してしまったのは悔いていましたが、自分ももう余命が少ないので悔いは無いでしょう?」
「全員が癌の家系で若死にか?叔母さんは長生きの方だな!君も気を付けなければな」
「私はお爺さんに似て長生きかも知れません!」
沢山の人を殺害して、逮捕されたら死刑だと判っているから、二人の会話はかみ合っていなかった。
車は守本教授の故郷亀岡を目指して走っていた。

信一も碧も父親殺しを否認していたが、信治が全てを喋ったと聞いて唇を噛みしめて「電気のコードを親父の風呂に浸けて感電死させたのは、私です」と答えた。
「感電の死体を黙認したのは稲垣医師で、死亡診断書も心臓麻痺と書いて貰いました。死体は弟と一緒に風呂から運びました」と供述した。
「次男が睡眠薬を飲ませて、ふらふらしている親父を風呂に入れたと話しているぞ!」
「それは、姉の碧と妹の奈々子が親父を煽てて、飲ませたのです。二人が孫って可愛いでしょうと、味方の様に話すと親父は上機嫌に成ってお酒を飲んでいました」

その供述は信治の取り調べ室に伝えられると、一平が「お兄さんが自供したぞ!」
「そうだろう?兄貴が殺したのだよ!俺は何もしていない!」
「お父さんを風呂から運び出したのだろう?」
「それだけだ!お袋が持てないから俺が手伝わなければ無理だろう?死体は重たい!」
「それは、全員で親父さんを殺害した事に成るのだよ!お前が電気のコードを持たなくても同じだよ!」
「そんな!弁護士を呼んでくれ!俺は何もして無い!コンセントは姉だし!考えたのは妹だ!寝ている親父を風呂に入れたのと、風呂から出しただけだ!」
朝比奈信三殺害の様子を赤裸々に語る信治の供述で、親子の犯罪が全て警察の知る事に成った。
下田の警察が逮捕状を持って翌日、稲垣医院を訪れて、稲垣医師も死体は感電死の症状を示していたと供述した。

同じ頃、静岡県警の取り調べ室で、安永真紀子が全ての犯罪は自分が行いました。
横山麻那と守本教授に教えて貰った毒草を使った殺人は、全て自分一人が行ったと罪を一人で背負い込む覚悟を見せた。
「青酸カリの入手は?」の質問に「大学に忍び込んで盗んだ!毒草の話しの時に、大学には即効性の毒薬も在ると聞いていたので、自分の昔を新聞に書かれると終ると思い大森記者を殺害しました」
「お前は用意周到にボートを準備していたが?」
「こうちゃんに頼んで、橋立にボートを着けて貰ったの!こうちゃんは何も知らずに運転してきたの、だから関係無い!」
時々咳をしながら佐山刑事の取り調べに、全ての犯行を喋った。
「こうちゃんとは、麻生信康か?」頷く真紀子。
「何故毒草で殺そうと思ったのだ!」
「麻那が薬草研究をしていて、薬草と毒草が在ると教えてくれたの、それは知っていたのですが、分量さえ間違えなければ死ぬ事は無かったのに、私が分量を間違えてしまって亡く成り、子供が食べてしまった事も計算外で、沢山の人が亡く成ってしまいました。麻那は直ぐに私の犯行だと知って怒りましたが、時既に遅しでした!」
「今回の犯行は貴女一人では出来ないでしょう?」
「手伝ってくれたのは、柿本貴史君です!彼は麻那に惚れていたのと、毒草を使った今回の事を、ゲームの様に思っていました!それで一緒に途中まで手伝ってくれました」
「彼は沖縄で死んでいたのだよ!」
「途中から、恐く成って逃げだそうとしたので、殺しました!毒饅頭に使う毒草の実験台にしました」
「えーー柿本貴史は共犯だったのか?」
「はい、ネットカフェも彼が自分で行って、打ち込んでくれたのです!警察が捜しても本人だから見つかりませんよね!」そう言って苦笑いをした。
「守本教授は事件の事を知っていたのか?」
「沖縄の離島に麻那達と行っていたので、帰ってから知って驚いていると麻那から連絡が有りました!」
その取り調べの最中に美優が県警に姿を現した。

死人に口なし

 51-044
「美優さん、安永真紀子さんは一人で罪を被る供述をしているよ!」
横溝捜査一課長が美優を出迎えて話した。
「松永捜査一課長の話では、安永真紀子さんの潜伏先には、病院で貰った薬が在ったそうですよ!」
「何の薬だ!」
「肺がんです!」
「えっ、妹も肺癌に冒されていたのか?」
「それで、全ての罪を被ろうとしているのですね!」
「先程の供述で麻那の兄の事をこうちゃんと呼んでいました」
「確かに信康と書いて信を読まなければこうちゃんに成ります!そうだったのね?」
「何か判りましたか?」
「信は信三さんの信なのです!でも信三さんの孫には成れないから、信を呼ばなかったのですよ!お婆さんの思いが娘の香里さんから伝わっていたのですよ!」
「えっ、親子三代の思いが。。。。。。」思わず目頭を押さえる横溝。
「明日香さんは信三さん憎さに、子供達に財産を信三さんが孫に譲ると話したのかも知れませんね!欲深い子供達は明日香さんの言葉を真に受けて、信三さん殺害を決したのでしょう?」
「確かに、子供達の供述でも母親から財産を分ける様な事を言われた様です」
「気位の高い明日香さんは、自分と結婚している時も心は由香子さんの処に有った事が許せなかったのでしょう?そして世代を超えてまで守ろうとした信三さんを、もっと許せなかったのです」

その美優の推理は、下田警察の持田課長が病院での取り調べで聞いていた。
今日にも逮捕状が出て、朝比奈明日香は、警察病院に収容される予定に成っている。
持田の取り調べに明日香は、自分と結婚する前なら許す事も出来たが、子供も居るのに密かに思いを寄せて子供まで居た事に、許せないと思いましたと話した。
結婚前に仲人さんから、信三さんには好きな女性が居たのですが、家柄も悪くとても結婚の対象では無いので、両親が責任を持って別れさせるので安心して下さい!と聞きましたと話した。
「昨年主人が孫の話しを切り出すまで、全く存じませんでした!主人の浮気は二十年前の家政婦との不倫だけだと思っていましたから、驚きと興奮で数日間眠れませんでした!二十年前アメリカから帰って家政婦が居なく成って、主人は色々と捜したらしいのですが、見つからなかったそうです!」
「二十年前に子供さんだと知っていたら、どうしていますか?」
「その時に子供と一緒に殺したでしょうね!」恐い顔で言い切る明日香。
「それ程、憎かったのですか?」
「主人は子供の時の遊びの延長で付き合っていたのでしょうが、身分の異なる結婚は当時許されない事だと判っていた筈です!スーパーの資金も私の実家で沢山出して貰ったのですよ!」
「孫の代に成れば、考え方も変りますからね!処で財産の話しは有ったのですか?」
「いいえ、その様な事は何も有りません!子供達に憎悪の気持ちを植え付ける為に私が適当に言ったのよ!後継争いをする様な子供達ですから、欲は深いのですよ!主人はそんな子供達に呆れて跡を継がせるのは未だ未だだと口癖でした!友人の子供を来年入社させて将来はその子と自分の孫を結婚させる計画を持って居た様です!」
「えっ、そんな話しが有ったのですか?」
「主人が電話で話をしているのを聞いてしまったのです!本気か?冗談か?真意は判りませんが、自分の息子達を見ていてそう思ったのか?昔の恋人が忘れられずにその様な事を言ったのか?今ではもう判りません!」

この明日香の供述は直ぐに捜査本部に送られて、横溝捜査一課長達に伝えられた。
美優が一緒に供述書を読んで「もしかして、この来年入社の人って、守本教授の息子だったのでは?」
「友人の子供!確かに辻褄が合いますね!早速調べて見ましょう」
「今年の春には入社して無いでしょうね!信三さんが亡く成っていますからね!」

横山麻那の実家の調査を依頼していた和歌山県警が、調査結果を伝えてきたのは丁度その頃だった。
大学の入学に必要な実家は、横山春男で横山由香子の弟が住んでいた。
春男も既に他界して息子の代に変っていて、横山浩介は偉い大学の先生が来られて、身元の保証人だけ成って欲しいと頼まれたと話した。
由香子の孫娘は頭が良いので、医科大学に入学させたいのだが、既に両親が居ないのでお願いしたいと言う事だった。
お金の心配は全く無いので、籍だけ使わせて欲しいと少しのお金を貰ったらしい。
「この先生は守本教授に間違い無い!お金は朝比奈信三が出しているのだろう?」
「戸籍も送られて来ています!」
横山由香子は子供一人、香里のみで三十一歳で死んでいる。
結婚相手は麻生保で、徳島県の人間だが既に亡く成っていた。
連れ子の香里が麻生の名前に成っているのは、入籍したからだろう?
次女の真紀子が誰の子供なのか?それは戸籍では全く判らない。
麻生香里は徳島で親戚の横山和生と結婚して信康を出産しているが、その後微妙な時期に離婚している。
横山麻那の父親が誰なのか戸籍では判ら無かった。
引き続き横山和生に当時の事を聞いてみる様に、和歌山県警に依頼した横溝課長。
だが結果は判らないだった。

安永真紀子は事件を自分が筋書きを書いた様に順番に話し出した。
「天候不順で、客が少なくて店長がタッパーで客に持ち帰らせた時は本当に驚きましたが、止める事も出来ず呆然と見ていました」
「その夜、死者が出たのを知っていながら、次の犯行を行ったのは?」
「もう、事前に準備していたので、変更が出来ませんでした!」
「値引きの札を貼ったのはお前では?」
「どれに入って居るか調べる余裕が無かったのです、監視の目が有りましたのでそのままでした」
「他のスーパー昴の事件は?」
「あれは柿本君が置いてくれたのですが、ダミーですから安心していました」
「コショーとすり替えたのは?」
「それも柿本君が率先して、バックヤードに入って瓶を交換したので、何処に置いたのか判らなく成りました」真紀子は自分と亡く成った柿本貴史の犯行で切り抜け様としていた。

結末

 51-045
「真紀子ももしかして、信三さんの子供なのでは?」美優が呟く様に言った。
「成る程、それなら父親の敵討ちに成るな!」横溝捜査一課長が手を叩き言う。
「これで守本教授の息子が、スーパーASUKAに入社に成っていたのなら、間違い無いですね!」美優は漸く縺れた糸が解ける気分に成っていた。
必死で自分と柿本貴史の犯行で切り抜け様としている真紀子が、哀れに思えていたのも事実だ。
もう余命の少ない真紀子は、自分の姉の子供を必死で守ろうとしているのだと美優はひしひしと感じていた。

昼の休憩で取り調べが中断した時、守本教授の周辺を調べていた刑事が「守本教授の長男守本直也が春から就職浪人をしています」と伝えて来た。
「理由は調べたか?」
「どうやら就職予定の処から、採用拒否に成った様ですが、何処に決まっていたかは判りません!春先まではコンビニでバイトをしていましたが、最近は行方が判らないと近所の主婦は話していました」
「もしかして、直也は柿本貴史に背格好が似ていないか聞いて下さい!」美優が横溝捜査一課長に横から告げた。
横溝捜査一課長は直ぐに刑事にその事を告げると、電話が終わった。
十分程して、先程の刑事が「一課長!似ています!私が柿本貴史の写真を見せて、詳しく体格を説明すると、背格好が殆ど同じだと近所の主婦から証言が取れました」
「守本の自宅には今誰が居るのだ!」
「妻の楓と娘が朝から、自宅に籠もっています」
「事情聴取に二人を連れて来い!長男の居所と主人の行き先を尋ねよう!」
「これで、道筋が見えましたね!」美優が言うと「事件の全貌が漸く判りました!奥さんのお陰です!これで憂鬱から解放されます!」そう言って笑みを漏らすと、美優は「私も普通の主婦に戻ります!後の取り調べはよろしくお願いします」軽く会釈をすると、捜査本部を出て行く美優。
報道陣が美優の姿を見つけて追い掛けて来て「事件はどの様に成りましたか?」と質問した。
笑顔に成って「解決しましたよ!夕方にも発表されると思います!」そう言うと、覆面パトカーに乗り込み自宅に帰って行った。
横溝の感謝の表れの一端での送迎に成っていたのだ。

一時間後、県警に守本楓が娘の美幸と一緒にやって来て、開口一番「申し訳有りませんでした!息子が事件に関与しています!」泣きながら言った。
「主人が、今朝!電話で自宅に刑事が来たらもう諦めなさいと言いました。それは全て野平美優さんに見抜かれてしまった証しだから、全てをお話しなさいと。。。。。。」項垂れて話した。

午後の取り調べが始まった冒頭佐山刑事が、真紀子に「守本教授の奥さんが県警に来られたよ!もう本当の事を話しなさい」と言うと「うそーーーーーーー」と大きな声で叫ぶと、そのまま机に顔を埋めて、泣き始めた真紀子。
「野平美優さんが、全てを解決したよ!ひとつ最後に言い残した言葉が、真紀子さんも信三さんの子供だったのでは?だったよ!」佐山刑事がそう言うと、急に顔を上げて「そこまで何故?判るの?お姉さんから聞いたわ!お母さんと父さんは本当に愛し合っていたのよ!周囲の人に引き裂かれたけれど、五年後も十年後も愛して貰えたって聞いたのよ!」
その言葉は信三が結婚して、五年後に香里が産まれ、その十年後に真紀子が産まれた事だと佐山は感じ取っていた。

しばらくして真紀子が「姉が話していたわ、母のお父さんは昔四国で魚屋をしていたので、大阪に出て行ったらしいの、都会の方が沢山売れるからだったのだけど、戦争が激しく成り商売では無く成って、親戚を頼って静岡に疎開したらしいわ!それから朝比奈の父は私が子供だとは最後まで知らなかったと思います!河西の母が敢えて言わなかったのです!朝比奈の家に知れると、どの様な仕打ちが有るか恐かったのでしょう」と昔の話しをぼそぼそと話し出した。

一方守本楓は、亀岡から日本海に向かう途中に在る隠れ家の場所を話すが、密かに逮捕して欲しいと頼み込んだ。
それは全員が自殺してしまう可能性が大きいから、命だけは助けて欲しいと願う一心だった。
それを約束して貰えるまでは、隠れ家は話さないと頑なに拒否した楓。
「お前が警察に連行された事が判れば、俺達は終りだ!潔く自殺して終りにする!」と言い残していた。

夕方朝比奈明日香を筆頭に、子供四人が逮捕されたとマスコミが一斉に報道した。
しかし、楓達の願いは虚しく松永捜査一課長達が、亀岡の近く、下山の隠れ家に到着した時、全員青酸カリを服用して、重なり合う様に死亡していた。
{大変な事件を起こしてしまい誠に申し訳有りませんでした!一般の方で亡く成られた方が多数出た事は私の計算間違いでした死んでお詫びをしても許されるとは思いませんが。。。。。。守本覚}の文章が一行書かれた便箋が残されていた。

その結果を聞いた真紀子もその日の夜、隠し持って居た青酸カリを服用して絶命してしまった。
翌日からのマスコミは一斉に事件の経緯を報道し始めた。
スーパーASUKAは経営陣が全員逮捕に近い衝撃に成り、小島常務と村上部長は放心状態で、店を休業にして最善策をメインバンク中心に検討を始めた。

翌日、美優の自宅も平穏な日々に戻ると思っていたが、マスコミからの出演依頼が殺到して、気の休まる時が無く成った。
本当はマスコミには出演したくなかった美優だが、このままでは守本教授達が悪者にされてしまうので、美優はマスコミに出て朝比奈信三と横山由香子の哀しい恋物語を語って、風当たりを和らげる様にした。

「こんなに憂鬱な事件は初めてだったな!捜査一課が毎日通夜の会場の様だった!」
数日後一平が夜美優に話した。
「私もこんなに有名に成るとは思わなかったわ!サインの練習をしていて良かったわ」と複雑な笑みを見せた。
その後、スーパーASUKAは大手のスーパーに買い取られて、不採算店は閉鎖に成った。
「地域密着で良い店だったのに、これからは何処に行っても同じ様な店に成るのね!」
「でも、毎日の買い物には行かなければね」久美と美優は久しぶりに二人揃って、新装に成った元スーパーASUKA店に向かった。


                         完

                       2018,09,19

憂鬱

憂鬱

お馴染み、静岡県警野平一平、美優シリーズ 静岡市内のスーパーASUKAで、イベントで配布された豚汁で死者が。。。。。 目的は何か?スズランを使った犯罪に戸惑う県警、だが事件は次々。。。。。 混乱の市民、憂鬱な状況に成る市民と県警の面々、難事件に美優の推理が臨む!最新作!

  • 小説
  • 長編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted