青春を駆ける。Part2
青春を駆ける。2作目です!
大学の馬術部で日々奮闘する女子大生の話。第二弾です!
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『キャーーっ!松坂先輩カッコイイー!』
『あっ、コッチ向いた♪♪』
『ヤバい!!チョーイケメン♥♥』
「コラッ!!!お前調子乗んな!!」
ゴンッ
「イッター!!…最近ゲンコツ喰らう回数増えてる気がするんですけど!」
「真面目にやれって言ってんだよ!ベンケーシーもお前に似て調子乗ると指示聞かなくなるだろーが!!」
「あーあ、まーた喧嘩してんの?」
「椋!お前あそこにいる女共をどこかに追いやってくれ!」
とある大学の馬術部の話。
大淵先輩によるまことの朝練で一日が始まる。
松坂まことは今、大学2年生。JDデビューをし、キラキラとした日々を過ごすはずだったが、何を間違えたのか、臭い馬と汗くさい部員の人たちと、土ぼこりにまみれながら馬術に励んでいた。
大淵雄介先輩はまことの1コ上の先輩で、鬼のように指導する馬術部の部長。田中椋は大淵と同い年で、唯一、大淵と気が合う親友だった。
1年生の時はそこまで馬術は上手ではなかったまことだったが、2年生になり、ベンケーシーと気持ちが通じ合うようになったからか、そこそこまで上達することができた。その結果、7月に行われた伝統のある、5つの大学対抗の大会で4位に入賞するという成績を残した。
まことの友達である佐々木絵美が落馬してしまい、腕を骨折した。まことの入賞はそのおかげもあるのかもしれなかったが。
大淵先輩はもちろん優勝。
この調子でいくと、大淵先輩は、初の全国大会出場だったが、その馬が怪我をしてしまい、その機会を逃してしまった。なんと、その代わりに、まことが出場することになった。
そういう訳で、大淵先輩はまことの指導に回り、スパルタな指導者として君臨している。
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「お前さ、最近松坂のこと、しごき過ぎてない?見てて可哀想になるくらい」
田中が大淵に言った。
「そうか?これぐらいでへばってたら全国では通用しないぞ」
「そうかもしれないけど、そういうことじゃなくて…」
田中はため息をついた。
部活後、男子更衣室で着替えている。
「仮にもさ、女の子だよ?ほら、お前この前言ってたじゃん『練習のしすぎも身体に良くないからな。気をつけろよ』あと何だっけ?こんなことも言ってたよね『俺の可愛いこうは__』」
「ぅるせっ!!!黙れ!」
大淵が慌てて遮った。
「もっと素直になれよ」
田中は笑いながら言った。
「余計なお世話だ!」
大淵は一喝して着替えを入れた袋を持って更衣室を足早に出た。
なぜか、厳しく松坂に当たってしまう。どうにか直したいのに自分が言うことをきかない。もどかしくて仕方がない。
大淵はそんなことを考えながら自分の部屋へ急いだ。大淵やその他の馬術部の人たちは大体が寮で過ごしていた。
靴箱に靴を入れ、室内用の靴に履き替えていた時、大淵の背後から声がかかった。
「よぉ」
振り返ると、そこには、大淵の友達である相馬隼人がいた。
相馬は、大淵の高校からの付き合いだ。大淵はあまり相馬のことを良く思っていないが、なかなか切れない縁だった。大学では化学同好会に入り、いつもヘラヘラと生きていた。
「おう、久し振りだな」
「そうだなぁ。…今度、飲まないか?この間学校内でスゲー話題になったあの全国出場した女誘ってさ。まぁ、そこら辺のお前の話とか、聞きたいから。俺ん家来いよ」
大淵は特に断る理由は無かったので二つ返事で了解した。
「じゃあ、今週末。何時でもいいから。連絡しろよ」
大淵は相馬を見送り、自分の部屋に向かった。
「…どういう風の吹き回しだ?わざわざここまで来て飲む約束とか、らしくない。いや、らしいのか?しかも松坂まで…。俺がいるから襲うことは無いとしても。……まずは松坂に連絡だ」
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「はいはいっっ!!とゆーことで!!えー、全国出場したまことちゃんと大淵に!カンパイッ!!!」
「「カンパイ!」」
「てかお前既に飲んでるだろ」
「いやぁ、缶ビールのあまぁい誘惑には耐えられなくてねー」
「初対面で酔っ払うってどうかと思うけど。あー、こいつは相馬隼人。俺の高校からの友達」
「どうもぉー!まことちゃんのことは噂でイロイロ聞いてるよ!ま、堅くならないで、ガンガン飲んでって!」
「よろしくお願いします!」
まことは勢い良くお辞儀をした。
「それで、……高校時代の大淵先輩って、どんな感じだったんですか??」
まことは大淵先輩に今回のことを誘われてから、相馬に昔話を聞きたくて仕方がなかったのだ。
「おい相馬、お前余計なこと言うなよ」
ドスの利いた声で大淵が言った。
「いいじゃないですかー!こういう時ぐらいしか聞く機会無いですし」
「良くない!そんな昔話お前には関係ないだろ!そもそも__」
「いーじゃねーか!そんなこと!もー、赤裸々に話してやんよ!その代わりまことちゃんの話も聞きたいなぁー?」
「モチロンです!」
まことの体には既にアルコールが回っていた。
まことはちゃぶ台に身を乗り出した。
「まずまず!
…大淵先輩にカノジョ、いたんですか?」
「うん、いた」
真面目な顔で相馬が頷いた。
「ええぇぇーーーっ!!ウッソーー!信じらんない!」
「お前なぁ」
「大淵、お前は黙ってろ。その彼女がな、コイツに釣り合わないくらいかわいーい子でな」
「ほうほう」
「美人、秀才、運動神経抜群、生徒会長もやっててしかもお金持ち!男共はみんな夢中!みんなのアイドルと大淵は付き合ってやがって__」
「今は別れてる。ハイ、以上!詮索禁止!」
大淵は話を遮った。
「えぇーーー!?何でですかー?もっと聞きたいー!」
「コイツ、怒ると怖ーからなぁー?」
相馬が大淵の顔を覗き込んで言った。
「あ、それは私、もう重々承知してます!最近先輩のしごき様が鬼の様にヤバくて…」
「悪かったな、鬼で」
そんなこんなで3人は夜21時から次の日の朝3時まで飲み明かした。0時からまことはほとんど眠っていたが。
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「じゃーなー。楽しかったぜ!また来いよ!まことちゃんも誘ってさ!オレまことちゃんのこと気に入ったよ」
相馬が玄関から、外にいる、まことを背負っている大淵に言った。
「そーか、それは良かった。ただしお前
…コイツに手ェ出すなよ」
「へへへ。約束は出来兼ねますが」
大淵は相馬を睨みつけた。
「いくらお前でもただじゃおかねーからな」
「おぉ怖。そーかそーか。お前に新しく好きな子が出来たか」
大淵はフンと鼻をならした。
「好きなのかはよく分からない。
ただ、ほっとけないだけだ」
「ふーん。…それを好きって言うんじゃないなかなぁ。でもお前、橘さんのこと、しっかりしとかないと酷い目に合うぞ」
相馬が打って変わって真面目に言った。
「……わかってるよ」
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まことは今日一日授業が無く、勉強のために、朝から大学内にあるカフェテリアにいた。
腕時計を見ると、午後4時ちょうどだった。
「わ!ピッタリ7時間じゃん」
そう言って勉強道具をしまい、席を立った。
「お会計、450円になります」
「はい、400と10円玉が、1、2、3、4、5枚!」
「ありがとうございました」
まことはレシートを財布に入れ、それをカバンのいつもの定位置に置いた。その時まことは妙な違和感を感じた。
「あ、…れ?身分証を入れた袋が…無い。……どこにやったかなぁ」
しばらく考えてから、昨日飲んだ相馬の家に忘れた、という結論に至った。
「うん、それしかないよね。…まだ部活まで一時間弱あるし、20分ちょいで着くでしょ。先輩に少し遅れますって言えば大丈夫だよね。……家で出した覚えないけどなぁ」
椋先輩宛にラインを送りながら呟いた。
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「ぉ、来た。…はいもしもし。おぉー!まことちゃん!どしたー?あぁ、うん。え、マジ?ちょっと待って。………あ、あったわ!うん、クッションの下に、うん、え、来る?オッケ、待ってるわー、うん、いやへーきへーき、んじゃ後で」
相馬は電話を切った。
元々ちゃぶ台の上に置いてあった、まことの身分証は、昨晩、相馬がこっそりまことのカバンから抜き取ったものだった。
「まことちゃんは素直だなぁ」
相馬は微笑みながら言った。
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大淵は、いつもならいるはずのまことが馬小屋に見当たらず、キョロキョロしていた。
「椋、お前、松坂がどこにいるか知らねーか?」
「あ、伝えるの忘れてた。なんか、『昨日飲んだ友達の家に身分証を忘れてきてしまったみたいで、取りに行ってから部活に___』」
「行ったのか!?」
大淵が椋の胸ぐらを掴んで叫んだ。
「う、ん。行ったんじゃない?何、なんかヤバイの?」
大淵はそれには答えずに手を離し、猛ダッシュでグラウンドから出ていってしまった。
「松坂に何かあるの…?」
田中は、大淵がこんなに切羽詰まった様子を見たことがなかった。
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ピンポーン
「どうも、松坂です」
まことは電車で5分程揺られ、昨日大淵先輩と一緒に来た道を、自分の記憶を頼りに20分かけて歩いた。
この古いマンションに着いたとき、まことは涙が出そうなくらいホッとした。
ガチャ
「どーぉも」
相馬が顔を出した。
「ちょっとここではなんだから、中入りなよ」
そう言って相馬はまことの腕を掴んで中に引き入れた。
「いえ、でも私これから部活があるので…」
「コーヒーあるけど飲める?」
相馬は聞こえない振りをしてまことに言った。
「あの、身分証を取りに来ただけですから」
「いや、そう言わずにさ。座ってよ。大淵には部活遅れるって言ってきただろ?」
半ば強引に相馬が言う。
「や、あの、私、帰ります。身分証、どこにありますか?」
まことは口早に言った。
「ここにあるよー」
そう言って相馬はパーカーのポケットの中から身分証を出してヒラヒラして見せた。
「どうもありがとうございます。…渡して下さい」
まことは手を差し出した。
「嫌だね」
相馬は身分証を再びポケットに入れ、パーカーを脱ぎ、隣の部屋に投げ捨てた。
「返して下さい」
もう一度まことが言った。
相馬がニヤリと笑った。
「俺だって男だ。……どういうことか、分かるか?」
相馬はまことに近寄った。まことはジリジリと下がったが、部屋の広さには限度がある。直ぐに背中に壁が当たった。
「こんな狭い部屋で男と女が二人きり。こんなに絶好な機会は無いよね」
相馬はまことの顔を無理矢理上げさせた。
お酒臭い息で吐き気を催す。
まことは反抗的に相馬を睨みつけた。
「おーぉー、強気だねぇ。そんな女も好きだよ」
そう言って相馬はまことにキスをした。
「___っんぁっ!!」
まことが相馬を突き飛ばした。そのすきにドアへ向かったが相馬はその腕を掴み、力任せに引き寄せた。
「おい、…へっ。逃げようったってダメだぜ。」
「だ、誰かあぁっっ!!助け___ンぐ……」
「おっとー、そんなに叫ばれちゃ困るなぁ。大人しくしててよ」
そう言いながらまことの上に馬乗りになり、その口を手で塞いだ。まことはその手を外そうとするがいくら力を込めてもびくともしなかった。
死ぬ!誰か!!助けて!!
バリバリッ
相馬がまことのブラウスのボタンを引きちぎった。下着が露わになる。
「へへっ。そのくびれ、そそるねぇ」
ガガン!!ガン!
「なんだ?」
何だっていい!少しでもこれを先に延ばせるのなら、大地震でも起きればいいのに!
バキッ!!
「まことっっ!!」
大淵がドアを突き破って入ってきた。
涙が込み上げてくる。
大淵がまことを見て一瞬愕然とした表情になる。そして、まことに馬乗りしている相馬へ、怒りのこもった視線を向けた。
「お、お前、」
大淵はたじろぐ相馬の胸ぐらを掴んで顔面をぶん殴った。
相馬の鼻から血が出た。
「ち、ちょっと待て!なん__」
立ち上がって弁解しかけた相馬に大淵が近寄ってまた顔を殴った。
相馬は背中から食器棚に突っ込んだ。たくさんの食器が落ちて辺りに飛び散った。
大淵は相馬を無理矢理立ち上がらせてまた思い切り殴った。
今度はCDやビデオが置かれている棚に頭から突っ込んだ。
床一面にCDが散らばった。
相馬は気を失ってしまった。
大淵は無言のまま壁に寄りかかっているまことに近寄って強く抱きしめた。
そしてすぐに自分が着ているジャケットを脱いでまことの体に巻きつけ、その手を引きながら足早に外に出た。辺りは少し暗くなっていて、肌寒かった。
しばらく歩いたところで急に大淵が立ち止まり、振り向いてまことを抱きしめた。
「ごめん」
大淵はまことを強く抱きしめたまま言った。
まことは首をフルフル振った。そして大淵の胸に顔を埋めた。
「ごめん」
大淵がもう一度言った。
うわああ、と自分でもびっくりするほどの子供のような泣き声が漏れた。
大淵はまことの様子が治まるまで、しばらくそのままでいた。
まことが泣き止んでから大淵に言った。
「ぅ、上書きして下さい」
「え?」
「相馬さんに、…キス、されました。このままは嫌です。…お願い」
大淵はしばらく無言で、またぽろぽろと涙を流しているまことを見つめた。
「わかった」
そう言って、大淵はまことに深く長くキスをした。
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「……………それでそれで、大淵先輩とキスしたの??」
「……………………うん」
まことは顔を真っ赤にしながら頷いた。
「 マジで!!?やったじゃん!!もうゴール間近!?」
絵美が自分のクマのぬいぐるみをバンバン叩きながら叫んだ。
「…そっちよりも襲われかけた方を言って欲しかったよぉ」
まことは膝に顔を埋めながら言った。
「それにしても驚きだわー。あのカタブツの大淵先輩があんたとキス、ねぇ」
「やめてぇぇーーーー!!!」
はぁ、と絵美はため息をついた。
「あのねぇ、青春できるのも今の内だよ?私もね、大淵先輩のこと好きだったんだ。だけどそんなあんた見てなんか吹っ切れちゃった。いいよ、あげる」
「あげるって、先輩は絵美の所有物じゃないんだから…。でも、いいの?絵美みたいに魅力的な娘だったら絶対にイチコロだと思う…けど、悔しいけど」
「多分…というか確実に無理ね。あの人は私に振り向いてくれない。……大丈夫よ、あんたはあの人に好かれてるから」
そう言って絵美はまことに微笑みかけた。
青春を駆ける。Part2
ピンチにタイミングよく助けに来てくれる王子様がいたらなぁ、と思います。