マユツバヒーロー

 私は保育園児のころ、戦隊ヒーローものの番組が好きだった、そのころ空前のブームで、土日以外にも木曜の夜にすら、そういう特撮ヒーロー番組がやっていた、その木曜日夜の番組(オドロウマン)シナリオの関係なのだが、マツユバという敵がでてきたときに、その昔、その敵がヒーローだったという設定に度肝を抜かれたことがあって、私はその敵の事がもっと知りたくて、まずマツユバというものについて、その夜、食事がおわったあとの家族のだんらんのとき、薄暗く、切れかけた照明の下で、父と母に質問したのだ。すると父が答えた。
「マユツバというのはだね、騙されないために、まゆに唾をつけたりすること、眉唾もの、という言い方をすると、正しいか、間違っているか、疑わしいもののことをそういったりするね」
「へえぇー」
いかし私は三日で忘れた……。そしてなぜか、頭の中で、そしてお絵かきの中で、マユツバというヒーローを空想でしたてるようになってしまったのだ。

 それから番組のことも、ヒーローの事も、しばらく忘れていたのだが、小学校にあがって一年生になり、少したってからのころだった。長い昼休憩のとき女子皆で遊んでいると、男子が砂をとばしてきて皆はにげたのだが私だけ顔にかかってしまって、ぺっぺとはきだしたことがあった、その男子は、典型的な意地の悪いやつだったので、あまりきにはしなかったのだが。
「唾きたねえ」
といってきたのだ、女子たちは砂場で、静かに山をつくっていただけだったのに……。体操着だったからよかったものの、哀しかった。
私は、おバカだったのでそのことでひどく落ち込んでいた、何日も落ち込んで、廊下もとぼとぼとして歩いたりしていた。
しかし、何日、何週間か、普通にすごしていて、しばらくたって屋外でのマラソン授業中に転んで怪我をしたときに、一年の女の担任の先生が、消毒をしてくれて、私がないていると
「私の小さいころ、つばをつけとけば直るってお兄ちゃんがね」
そんな話をしていた、私がさらに泣いていると、わけを聞いて来て、
「先生、つばってきたなくない?」
「きっと消毒効果があるのよ、自分のものだから、きたなくないのよ」
といってくれた。私は先生がヒーローだと思って、先生に尋ねてしまったのだ、すごく馬鹿だったのだが。
「マユツバってヒーローしってる!?」
と、先生は困惑して、知っているわ、と答えて、保健室から私をかついで、自分たちの3組の教室に戻ると、先生は、私がまだ落ち込んでいたので、体育の途中でぬだしてきたのにもかかわらず、黒板に絵をかいて、私が頼んだら、私の知らないヒーローの絵をかいた。

「マユツバもの、という言葉があるわね、きっとこの人は探偵のヒーローだったのよ」
私は、違うよ!!と否定したかったのだが、できない理由があった、そうだ、その時おもいだしたのだ、そんなヒーローは自分の想像だったことを、
だから、ヒーローの代わりに、勇気をだしていったのだ。
「先生がそういうなら、そうかもしれない!!眉唾って、そういう意味だね!!眉につばをつけて、探偵をしたヒーローだ」
すると、先生はなんだかわかったようにわからないようにわらった、私が、大人になった瞬間だった。

マユツバヒーロー

マユツバヒーロー

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-29

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