踊る強盗

20年前の事、この国の首都、郊外地区で、一つの事件が起きた。メディアでも果敢にとりあげられたのだが、街の、郊外に隣接する児童養護施設の隣の教会に強盗が入った。丁度その時、それをとめにかかった丁度慰問活動にきていたボランティアがいたのだが、それは地元の道化師団体、クラウン協会のピエロだった、その一人がが、強盗を捕まえようとして、顔にひどく傷をおった。
 ほかにけが人はいなく、施設の職員や、神父は感謝はしていたが、申し訳ない、申し訳ないと涙する姿も話題になった。
 地元新聞では連日のように大きく取り上げられたが、ピエロの素性は明かされなかった、勇敢なピエロ、として取り上げられたのみであった、犯人像も郊外の人間という事以外にはなにもわからなかった。なにせ、郊外といえば移民やスラムのような荒れた土地柄で、豊かな中心街とは隔離されたように、交流もさけられ、関心も薄い、なにより郊外の事は郊外で、それがこの、アレギスの国の掟である。
 
 それから時がたち、俺は郊外を捨てて、街へと移り住んだ。今は警察官になっている。
つい最近、20年後の事である、俺の住む地域を管轄するサウギ警察署は、近頃発生している連続強盗に頭を悩ませていた。その施設にまた新しく強盗がはいったらしいというので、無線から聞きつけたまま、なりふり構わず直行した、20年後の俺は、施設をでてある壁を取り囲んでいる街の中心街でくらす。制服をきちんと整え、サイレンを鳴らして急行する。

“こちら○○○——了解、いまからそちらへ応援に向かう”

“——踊る強盗事件——”

昨今世間でこうもてはやされている事件だ、この強盗は、ともかく気性があらく、刃物をふりまわしたり、人をぶんなげたりするのだが、
たった一つだけ奇妙な点がある、強盗が成功した際には必ずそのピエロは、踊るのだ。施設はすでに二台のパトカーがとまっていた。

「人質は?」
「おりません、警部、中にはまあ、こんな時間ですから」
「それもそうだな、もう20時か、いや、隣接する施設の見回りと、児童を一か所にあつめて見張っていてくれ、俺は中にいる犯人と交渉してみる」
「はっただちに」
 
俺は有名大学を出たエリートになっていた。エリートコース、出世万々歳である。月がやけに黄色い、しかし、そんなことを言っている合間はなかった、教会——強盗が入ったという協会の屋根に、何かがいる、うごめいているようなしぐさをしていた。

「あれは……マリア像……いや!!踊る!!踊る強盗!!」
「やつめ、小ばかにしやがって!!」

しかし、俺はたしかにみたのだ、そいつは覆面もつけず、しかしマスクだけはつけていた、だがそいつの額には確かに、あの時の、20年前のあのときのピエロが負ったはずの傷が残っていた、私は、拳銃型スタンガンそのピエロの足をうち……ピエロは失神して、落ちて来た。

「今回が初めてだ、本当だ」

 落ちたピエロはすぐさま取り押さえられた。署に直行して、牢屋にぶちこみ、勾留、取り調べが行われる。
5日に及ぶ取調の結果、調査の結果、確かに、彼が犯罪を犯したのは初めてだったらしいことがわかる。
 そもそもこの踊る強盗事件は、容姿や素性が全く違う犯人が、違う強盗事件、手口もまるで違う方法でいくつもの犯罪が行われている、それは署も、世間でさえ把握している事実だった。しかし犯罪グループという単位でみると、共通点こそが重要だ、たった一つ共通していたのが、“犯行後に犯人が踊る”という事だけなのだ、そこで、ただひとつだけ、うちの課の敏腕刑事が、最後にそのピエロに質問した。

「なんで踊るんだ、犯罪グループの合図か何かではないのか??皆踊るんだ、どうして踊るんだ??」

「ある日、私の目の前に、仕事のない私の前に、救世主が現れました、お前は俺の手足となればいい、“踊るのだ、踊れ”と」

 あるとき、公園の段ボールによこたわり、化粧も落とさず、大道芸のつかれもあって寝込んでいたピエロ、そいつは目の前にあらわれ、
男は、黒いコートをはおり、体は全身ほうたいぐるぐるまきの、顔は覆面、中折帽子をかぶっていた。憶する事もなく、彼に話しかけてきたという。
声は、覆面のせいでもごもごして聞こえるが、どうやらこうした行いになれているようだった。
そんななりながら、いくつもの食糧——パンや水、コンビニのごはん、総菜など——を来る日も来る日もプレゼントしてくれたのだ、
礼などいい、俺の手足になれ、といわれたという。

「覆面をした男に言われたんです、世の中暗いニュースばかり、お金持ちはどんどんお金持ちになり、そこそこに努力した人間も、いつ貧乏あるともしれない、ニュースは残忍な事件ばかり、しかし世間は、ニュースをもとめる、矛盾している、だから、ちょっとおもしろいことをしないかって」

男は、クラウン業の廃業とともに職をうしない、点々としていた、人を喜ばせるという欲求を満たすことのできない男は、枯れた欲求とともに自分の居場所を失っていた、そんなとき、覆面の男にいわれたのだ。

「世間を騒がせよう、暗いニュースでもなく、明るいニュースでもなく、奇抜なものが求められている、これできっと、世界がまた
古きよき、混沌とした時代に戻るのさって」

「そんなバカな、たわごとを!!」

刑事はおこったが、そこにいた一同、一瞬だけ少し考え込んでしまったのだ。
お金持ちは、どんどんお金持ちになる、街の中央には、超高層ビルがたち、それを覆うように塀ができて、“貴族特区”ができている、庶民と貴族の差は開くばかり、そんなとき、貴族からお金を奪うという、強盗の姿、在り方がそれが何かを変えるのだろうか……と。

いや、犯罪は犯罪なのである、しかもこいつは、貴族から強盗をしたわけではない、そのことを尋ねると、こういった。

「僕は、これでいいと、身の丈に合った“パフォーマンス”をしろといわれたよ、ひたいに傷をもった男だったよ」

と、ちなみにこの男に、素性をきくと、20年前の事件には全く身に覚えがないらしい。踊る強盗は何人もいるらしい、が、額の傷男は、いったい何人いるのだろうか。

踊る強盗

踊る強盗

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-29

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