宇宙人は語る。
ある大きな池の中で、夕日のしずみかけたころだというのに、誰もいない虚空にむかって話しかける成人男性がいた。
こんにちは、ハロー、私の名前は、タロウ・タロウ。両方ともタロウだ、よろしく頼む、わかりやすいのがいいとおもってね、いささか分かりやすすぎるのが難点だが、まあ、私のこれからする話とも関係のある理屈があって、こうなってる。
僕は、いま、首都近郊のある自然公園の池の、アヒルボートをこぎながら、この時代を満喫している。
荷物といえば、携帯型転送装置、まあ、なんというかテレポーテーションの道具を背負ってる、この時代の人々はリュックサックをしょっているとしか思わないだろうな、恋人はいないのにアヒルボートに乗っている、そっちのほうがもっと奇異の目でみられる光景だな、僕は、見た目外国人だけど。
しゃがみ込む人影、ボートは大きく揺れた……。
人影は右掌で顔を覆う……。
湖面の向こうには、大きな廃屋のホテルがみえる。
そうだ、すごく悲しいんだ、恋人のサヨコ・サヨコはこの時代に来るのをひどく嫌がった、だからそのことについて、少し話をしたい。
皆は宇宙人って、知っているかな、知っている筈だ、つい最近も、テレビで色々やっていたし、動画共有サイトやsnsでも、たびたび真偽不明の映像や写真がアップロードされているね。だから、当たり前の事だ、当たり前の事だと思って聞いてくれ。それは、当たり前の事だと。
《タプタプ》
人影がこぐのをやめて、揺れるボート。
いわゆる、宇宙人、そういうものが、どういう見た目をしているか知っているだろう、一番有名なのは、グレイだ、グレイ、そこで聞きたいことがあるんだ、人間は、UFOや宇宙人を恐れることはあっても、どこか、おっと失礼……カモの群れが通り過ぎていた、今日はくもりだ、アベックはいないが、ボートの停留場の、屋根のあるベンチの下に手をつないでいる老夫婦をみたよ。どうでもいいことだがね。
まあ、この池の上空にUFOがいたら、好奇心にあふれてそれを指さす、ひとだかりや野次馬、ベランダなんかから見上げる人々がいるね、僕はそういう人にといたいんだ。
「そんなに楽しいことかい?」
って、何が言いたいか、おしえてあげよう。
ようするに、時空転送というものには、デメリットがある、それをメリットとよぶ人もいる、時空転送を特定条件で行うと、様々な特殊能力が手に入るんだそうだ、たとえば、テレパシー、瞬間移動、サイコキネシス、魔力でものを動かす力、
うでまくりをして、力こぶをみせるボートの中の人影……。
ほら、僕の両腕をみてごらん、僕もいっかいためしたので、水かきがついたよ、かっぱだね。
まあまあまあまあ!!!!ご先祖様、僕が宇宙人って!!?早とちりしちゃだめだよ、そういうことじゃない、超能力を得た人間、それが宇宙人ってことではないんだ、まずUFOのことからはなそう。
あれは複数人が乗るための転送装置。それだけのことだ問題はその中身の事だろう?
そうさ、気が付いたかい“宇宙人の格好”これこそが“超能力を手に入れる条件”なのさ。
僕はさっき、前に試したといったろ、いまは外国人のスーツをきてるが、前一度、
オーソドックスな宇宙人の格好であそびにきたのさ、葉巻型UFOにのってね、細長いやつだよ。
ひと呼吸をおく人影……。
さあ、ここでひとつ疑問がある“なぜ宇宙人に化ける事が超能力を手に入れるための条件か”、すごくばかばかしい。
詳しいことはわからないんだ、科学者によると時空のひずみに関係があるらしいが……もともとそんなことをしなくても、ものすごく低確率ではあったが、タイムワープを経験した人の中に超能力を手に入れる人間がいたんだよ。
でもね、そのうち馬鹿な奴が、UFOや宇宙人の真似をしようってことになって、そこからこの特殊な現象が発見された、
UFO現象とよばれているんだけどね、僕らのいた時代でもその謎は解けなかった。
いまでも解けていない、僕の想像、というより僕のいた世界の噂話としてはこんなのもある。
人の想像が作り出した時間の矛盾に僕らがのっかった、今でもUFOや宇宙人は確認されていないんだ、でも僕らには真似ができた。
その時代にUFOはいなかったのに僕らがUFOのふりをした。
そしてタイムワープ自身時間の矛盾をもっている、つまりもともと僕らは過去にいなかったという事だよね。
その矛盾と矛盾がうまくかみ合ってしまったのではないか?
そのことによって、人間が得るはずのなかった超能力を過去の人間の想像と、未来の人間の科学力があわさってタイムワープという非日常的な経験にともなって、超能力を獲得するようになったんじゃないかな。
おもむろにボートから立ち上がる人影……。
まあむつかしい話しだから、その辺は100年、200年先の科学者にまかせるよ、そろそろ帰らなきゃサヨコ・サヨコにしかられる、もちろんこれはタイムワープ用の偽名だよ、それじゃあね、元気で僕らのご先祖さま。
宇宙人は語る。