ありがとうございました

ありがとうございました

どうか…どうか、どうか。

聞いてください。


陽光で目が覚めます。
スマホのアラームが遅れてなります。
朝が来たことを実感します。
何件か来てるメッセージに返信して、スマホをベッドに放ります。
鏡で自分の顔を確認して、寝癖がすごいなと呟きます。
くしでといても、こいつは元には戻りません。
もう20数年の付き合いです。
一時期、縮毛強制でまっすぐの時代もありました。
その頃は、仲良くしていました。
しかし、喧嘩ばかりの日々が懐かしくなりました。
定期的にかけていた縮毛強制を辞めました。
さっき鏡の前で呟いた僕の顔は、笑っていました。

シャワーを済ませました。
髪を乾かして、出かける準備をしました。
季節や流行を無視した服装に着替えました。
時計を確認すると10時を少し回った頃でした。
2年ほど乗り回したロードバイクで家を出ました。

外では蝉が鳴いていました。
陽射しも眩しくて、夏らしさを感じました。
今日は海沿いを走ることにしました。
道路から見える砂浜で、子供が遊んでいました。
こんなに朝早いのにって思いました。
隣にはお父さんとお母さんらしき人がいました。
目が悪いのであまり見えなかったですが、幸せそうでした。

海を暫く走っていると街に出ました。
スーツを着た人が汗を流しながら歩いていました。
僕もほんのりと汗をかき始めました。

ここはとても程よい街でした。
程よい施設ばかりで、大きな建物も街全体で1つしかありませんでした。
この街の人はみんなそこに集まりました。

自転車を止めるとこには、まだ飽きがありました。
お昼過ぎにはもう、止めるスペースなんてありませんでした。

中に入ると一気に体が冷えました。
夏場のショッピングモールは大きな冷蔵庫でした。
何も買う予定なんかなかったけど、ひたすら歩いて回りました。
1階、2階、3階。ここは本当に何もかもが揃っていました。
2階には喫煙スペースがありました。
1階や3階にもあるとは思いますが、僕はここで煙草を吸うことにしました。
実に2年ぶりの煙草でした。
ひと口目でむせてしまいました。
中にいた30代ぐらいのお姉さんが一瞬だけ目線を僕に向けました。
軽く会釈をして、もうひと口吸うと、上手く吸えました。
肺全体に浸透するように、5秒ほど肺の中を煙で満たしました。
フィルターギリギリまで吸いました。
後半は雑味が酷く、嫌いだという人もいればそれがいいと好んで吸う人もいました。
僕の友達には後者が多かっったですが、理由は金がないからでした。

フードコートには38種類にも及ぶ売店が入っていました。
その中でも人気のラーメン屋がありました。
どんな時間でも必ず30分ぐらい待つほど美味しいラーメン屋でした。
小さい頃、よくここに連れて行ってもらいました。
みんなで食べるラーメンと、一人で食べるラーメンは味が違いました。
僕は圧倒的に一人で食べるラーメン派でした。

それから映画館に行きました。
どう考えても面白くない映画をチョイスしました。
そのはずでしたが、見てみると割と面白い映画でした。
時間が余ったので、もう一本みることにしました。
次はすごく面白そうな映画を見ることにしました。
そうすれば面白くないかもしれないという仮説を立てました。
しかし、その仮説は外れることになります。

外に出ると、すっかり暗くなっていました。
時刻は20時を少し回ってました。
そんなに長い時間ここにいたのかと思いました。
それもそのはずです。
2本目を見終わった後、僕は面白くない映画を探そうと、追加で2本も見たのです。
しかし、面白くない映画などありませんでした。

夜の街はどこか懐かしい匂いがしました。
遠い昔を思い出しました。
帰りも海岸沿いを走って帰りました。
浜辺では数人の若者がBBQをしていました。
小さな笑い声がここまで届きました。

家の前に着きました。
しかし素通りしました。
向かうのは家ではないです。

ずっとずっと、走って行きます。
どこに向かうのかは決まっているのですが、ここでは伏せておきます。

この世界は存外、どこまでも綺麗な場所です。
何もかもが揃っています。
不自由することはないんです。
したいことがなくたって生きていけます。
しかしお金が必要です。
しかし、お金なんて簡単に稼げるんです。
僕たちは自分の時間を売るだけでお金にできます。
価値は、世界が決めてくれます。
望まない事もあります。
望んだことが叶わないこともあります。
思い通りにいかないことの方がきっと多いです。
でも、上手くできてます。
全ての悲しみを上書きしてくれる幸福が必ず訪れます。
或いはもう訪れてます。
気づけないだけで、案外側にいてくれたりします。
だから、どうか。
願いが叶うのであれば、諦めないで下さい。
どうか、生きていてください。
なりふり構わず、生きてください。
泥臭くたって生きてください。
間違えても生きてください。
ありがとう。
ありがとうございました。

どうか、お元気で。

ありがとうございました

ありがとうございました

「超えたんだ。壁を」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-28

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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