怪物級感染映画。
「こちら“カメ刑事”」
「こちら“ウサギ刑事”前席方面の出入り口は人影なし、後ろはどうだ」
「あーあーこちら“カメ刑事”異常なし、変化あり次第、応援と特殊部隊の要請をする、“例の広告”が流れる気配はいまのところなし、午前に引き続き
監視を継続する」
「あーあーこちらウサギ刑事、ラジャ、しかし、佐々木、このコードネームどうにかならなかったのか」
「課長にいってくださいよ、一課は忙しいはずなんですけどねえ」
ふう、とため息をつく佐藤刑事。
カメこと、佐々木刑事は、マイクを遠くに話、あくびをした、イヤホンははずしていないので、緊急の対応ができる、しかし
急ぎの事件、緊張感もあるが、これが都市伝説じみた事件で、いまいち実態がつかめないのだ。
「聞こえてるぞ、こちら“人間”怪物はまだか?」
「はっ!!課っこちら“カメ”後方に異常ありません、商業施設A—二回シアターホール、異常ありません」
そのとき、女性の声がまじって聞こえて来た。
「ザ……ザザザ……こち、こち……こちら資料室の“カニ”、聞こえますか」
「どうした、こちら“人間”お前はモニターを監視しているはずだろう、どうしたみずし……“カニ”」
「それが、先ほどモニタールームで見覚えの顔があると思って一時停止をおして、つまり、Aセンター、二階シアターホール、入口の監視カメラです、
“彼です”銀行強盗犯、犯罪歴を持つ男がまじっています」
一同
「なんだと!!?」
どたどたと聞こえる足音、なんだなんだ、と大型モニターを見つめる映画館の観客たち……。後ろをみるものもいれば、いいところだからと一切気にせず、飲み物を飲むものもいる。
《バタン!!》
映画館の後方のドアがひらく、入口は、後方と右側にふたつある、わらわらと、警察が入ってくる。
「申し訳ない、少し身分確認をさせて頂きたい、警視庁捜査一課だ」
ざわめく施設内。
「なんだよなんだよ、こどもの怪獣映画じゃねえか」
「B級映画だぞ、ポップコーンくらいくわせろ、やってらんねえなおい」
ウサギこと佐藤は、前方から、カメこと佐々木は後方から一人ひとりチェックする、そのとき、丁度後方の右側の出入り口から、出ていく人影がいた。
「あ、まて!!先輩!!その男!!間違いないっすよ!!金髪!!」
「オラア!!井口!!まて井口!!お前が、お前が何かしたのか!!」
すぐさま身柄を拘束して、事情を聞く事になった。
「もう2年も前の犯罪をいつまで、罪をつぐなって出所したんですよ」
一階のゲームセンターの一室、従業員室をかりて尋問を始めたのは、カメこと佐々木だった。
ウサギのぬいぐるみをてにとって、なんだか気が散ったように尋問する。
「いいか?お前、お前が“怪物”のうわさをながしたんじゃないのか、あの映画の最中に流れるっていう……例のあれだよ、今日はここなんだ」
「あん?刑事さん、そんな話しんじてるの?うっそだよ、ばっかだなあ、俺がそんな仕業するわけないじゃない、第一俺は、今日朝まで、仕事だったんだよ、聞いてみるといいよ」
彼は工事現場のアルバイトをしていた、たしかに、責任者に問いただすとその形跡がある、と捜査本部から連絡があった。
「くっそー」
「刑事さん、映画のお代、だしてよ」
「ったくしょーがねーなくそが」
再び合流する二人の刑事、カメは持ち場に戻った。後方の警備である、そのときだった。
「きゃーーー!!」
女子トイレから声がした、後方の奥、つきあたり、つまり左側の奥である。
「どうした」
どたどたとわりこむ二人の刑事、そのとき、女性が子供を抱えて何かをいっていた。
「うちのこが、うちのこが、洗面台で倒れていたんです」
過呼吸ということだった、すぐに佐々木刑事が手当てをして、一難はさった。事件のあらましはこうである。
小学3年生のトウジは友達がすくなく、日ごろ寂しい思いをしていた、そんなときであったのが、昭和の終わりごろにおきたある事件のことだった。
インターネットサイトを通じて、その事件の事をしった、あるホラー映画の宣伝で、ゾンビをモチーフにした映画だったが、そのうたい文句があなたも、友達も、恋人も、“感染”する、この映画を見た人も、感染する。という宣伝文句だった。
その文句が、集団ヒステリーを誘発し、いくつもの映画館でパニックがおき、一時上映停止となったのだった。
「モキュメンタリーという映画があります、僕はあれをとりたくて、その参考にしようと思いました」
のちにその少年はそう語る、そう、噂話を流して、様々な劇場で、実際にパニックをひきおこしたのは、この少年だったのだ。
警視庁は暇だったのか、とさんざんたたかれはしたものの、しかし実際ほかに大きな事件はなかった、少年は少年院へ。
そもそもの発端が“映画館で怪物に感染した”というネットのフェイクニュース、これに加担したものは、どれほど多かっただろうか、
それは、ほとんどが大人の仕業だった。
怪物級感染映画。