レッサーパンダが宙を舞う。

 トーキョー都内、食品業界、小さな会社で働く、22歳、ヒサシです。デスクワークが得意です、人間関係苦手です。 
土曜日、私は今日、20年上の頼子さんとともに、動物園にきています。彼女は妖艶さの中に、やさしさをもった穏やかな大人の女性です。
彼女のドレス・アップは、最適解、動物園に似合う感じでありながら、彼女の憂いを帯びた表情によく似あう、おとなしいコーディネート、いわゆるフェミニンな雰囲気であり、化粧も、臭くない、つば広帽子が落ちついた雰囲気を際立たせる。私の好みはこーでねーと。
さすがバツイチといった風情である。ここまでで気づいた人も多くいると思う、そういう方に、鋭い、というのは癪にさわるが、年上好きである、それのどこが悪いのか。
「ねえ兄ちゃんお腹すいたー」
これが連れ子ならどんなによかったことか、正月だからって、正月だからって、実家から、親戚一同が、このトウキョーウに来るなんて、聞いてない、聞いてないんだよ……。
園の入口付近で、すでにダダをこねていたのは、親戚の子供である、いえ、甥である、東京観光へいくという妹の代わりに、私が預かっているのだ、
こいつがまったくやんちゃでこまっている。さっきだって頼子さんにむかって、むかって、
「おばちゃん!!おばちゃん!!あとでアイスたべよう!」
「え、ええいいわよ、でも、リツくんの好きな動物もみようね」
「うーん、好きな動物なんていないよ、あ、おばちゃん、さっきのおなら!!ちゃんと聞いてたよ!!」
「こらっ!!」
おならではない、頼子さんは、いわゆる大食いであり、お腹が大きくなることがある、俺はよく知っている、彼女はもともと、大食い選手権という
テレビの放送によく参加していたのだ、それで人気になったが、いまは質素な暮らし、ほそぼそとくらしているのだ、そんな彼女を支えたいと思っている、しかし、この甥、かわいくない。雰囲気をぶちこわしにして、まるで、妹の子供のころそっくりだ、髪型までぱっつんで似ている。
「こらー縞馬」
「縞馬じゃない!!リツとよべおじいさん!!」
カチン、ときたが、ここは大人の対応である。シマシマの洋服を着ているからシマシマ、なんてことだ、私とおそろいだ。色は甥が赤白、私が白黒。
「おじいちゃん腰がよわいからゆっくりいこうね」
腰をかがめてそんなポーズをすると、リツはふん!!とすねていたが、入口間際まで、整理券を用意しつつ、顔をあからめていた頼子さんは、明るさを取り戻したようだった。

 リツが好きだというので、初めにヒョウをみにいったのだが、あまりにうごかなかったので、リツはクソ爺という言葉をなげかけた、一同騒然としたが、コラ!!と声をあがると、おだやかな動物園の風景に戻った、オウムのゾーンでは、頼子さんの
「こんにちは」
に反応して、
「さようなら」
と返事があった、
ゾウの交尾をみた。おぞましい迫力だった。リツは、気が狂ったのだといっていた、そうともいう。
恐ろしいことに彼は思った事すべて口にするのだ、ヒョウのときのように、わざわざ大人の背丈でもこえられないようにこさえた鉄柵をせのびをして超えようとする。
「大丈夫かー!!今逃がしてやるからな!!」
頼子さんは大人だった。
「アイスあげるからねーリッチャン」
「うん……うっかわいそうに……」
 
 最後はレッサーパンダである、それは屋内の動物ゾーンにいた、チンパンジーやらもここにいた、園の北側、メイン・ステージである。
リツが疲れたというので早めに切り上げて変える事にした、このゾーンで、写真を撮ることにきめていた、トンネル状の建物は、薄暗く、少し肌寒く感じる。
「お、いたいたパンダ」
「え?タヌキじゃん」
「うふふ」
そのころには、リツは頼子さんにあまえて、手をひっぱっていた、15時にたべたアイス効果である。
記念撮影もとい、“甥のお世話の証拠写真”である、私は怒りに煮えたぎる筋肉をやわらげつつ、頑丈なガラスと、レッサーパンダをせにして、頼子さんと肩をくみ、無理やりその間をさこうと、間にはいって二人の間を両腕でこじあけるかわいいリツ君を真ん中にして、にんまりとした笑顔をふりまき、シャッターをおろそうとした、瞬間である。
「プーーーっ」
頼子さんだ、ととっさに思った、クスクスと笑い声が聞こえる、しかし、そのときなぜだか大声でリツが叫んだ。
「ぼくだよ!!」
真相不明である、しかし、顔を赤らめているリツと頼子さんをなだめつつ、笑顔の写真をとった、それは率直な笑顔だった。
僕は咳払いをした、すると動物園はいつもの光景にもどった、
その日最後に起こった、最後の奇妙な出来事とは、写真の中で気にぶら下がっていたレッサーパンダが、驚いて飛びあがっているように見えた事である。

レッサーパンダが宙を舞う。

レッサーパンダが宙を舞う。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-27

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