呪術師の老人とアカスガノノイケの原風景

命の声がする、赤ん坊の声だ、老人の声だ、若者のもだえる声だ。
その池は、1㎢ほどのおおきさで、静かに湧き出る山る湧き水のたまった、ふもとのT村に接する綺麗な池だ。
慣れない緊張感に肌が震える、心がよりどころを探している、なるべく余裕のある方へ、なるべく無理のないほうへ。
「おはようございます」
「オハヨオオオウ」
異国人は、倍の大声で返事をした、村人が起きてこないか不安だった。
私はアカスガノノ池のまわりで体を30回右回りさせたあと二回あくびをして、虫取りのポーズをして、おしりを二回たたいで大声でわらった。
私はダメなものが好きだ。ダメなものへの依存は度を越している、それが、心の余裕を作り出している、と思いきや、それは真逆なのだ。

 怪しい呪術師は、アカスガノ池の周りを周回している、朝からずっとだ、どうやらそこに住み着いているらしい、身に着けているものはきらびやかな宝石類をまとっている衣装、強盗に合う事が心配である、本人はいたって平然としている、アカスガノノ池前占い所という、立て看板をつけたボロい建物で、駅前の売店のようなそれを縦にながく圧縮したような、スマホ画面の比率でみた世界のような、妙な建物で、彼は占いをする、その深く刻まれたシワが、彼の怪しい印象を打ち消して、そのご老人の名を一躍有名にした。

 毎日テレビ取材が訪れる、今日はまだだが、ほぼほぼ、毎日の事で、見慣れた光景である。そしてなんとかチューバーもいっぱいきた、あるいは、一般人がSNSにアップロードする動画を、画像を、しかし彼は嫌がる、嫌がるものの、拒みはしない、
「ミセモノジャナイヨー、ショウバイハンジョ!!」
どういう意味かわかっているのか、わかっていないのか、異国情緒あふれる光景である。彼は頭にターバンをまいている。
「私のツメは10センチアルヨー」
とのことであるらしい。

 命の声がする、早朝の住宅街はいろんな声がした。私は彼の宣言通りに、彼と同じことをした、早朝5時にである、
「アカスガノイケのマワリを30回右回リサセタら、二階アクビ!!ソシタラ虫取りポーズ!!おしりを二度叩いてワラッテ!!」
私は人気者になりたいといった、占いではなく、その方法をしりたいと、彼は、妙な答えをくれた。
「人気ホシケレバ。ミチとのソウグウ経験するね!!来週の朝、私と一緒にくるだよ!!体操スルダ」
私は、すごく馬鹿らしい体操をしたのだ、
池のほとりで、彼をはじめに見つけて、交番に通報したのは私だ、しかし彼はちゃんと許可をとって営業をしていたようだった。
なぜそんな所で営業をはじめたのだろう。そう思ったが礼儀ただしかった。
「オジョウチャン、アヤシイモノジャナイヨー」
 不思議な異人だった。
私は、彼の知恵を借りたいとおもった、クラスで人気者になりたい、そう思い、そのうさんくさい占い師に相談した、
そうすれば変わる気がした、私の少し、悲観気味の性格が……。
「ソレジャア私ガッコウへいく」
なぜか私も占い師のカタコトがうつっていた、
「ワカタワカタ」
私はいそいで、地べたにおいていたスクールバックをひろいあげ、肩にのせた、呼吸が乱れる、肌が緊張している、朝は肌寒い季節だ。
なぜだか奇妙に、うれしそうに手を振る占い師を背に、制服とスカーフをととのえ、ここにくるまえに、すでに終えた学校の用意と
制服の格好で、自転車にとびのり、学校へ急いだ。
学校へいくと、世界が少し違って見えた、なぜか駆け足で廊下と階段をいそいだ、教師にみつかったが成績のおかげで見逃された。
挨拶の声が上ずっていた、友達に少し笑われた、
その日は特別なにも変わりはしなかった、しかし、ふと空を見て思う。アカスガノイケで吸った早朝の空気は、心地がよかった。

  

呪術師の老人とアカスガノノイケの原風景

呪術師の老人とアカスガノノイケの原風景

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-27

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