UBIと宇宙懲罰制度

 退屈だ、細胞の半分、肉体の半分ほどを機械化して、その寿命を何倍にも高め、生きながらえた惑星地球の人々は、近未来的な建造物の中で、満たされた欲求と、有り余る退屈の中で、ときたま、自分が誰だがわからなくなり、自分が何者でもよくなり、死を選びたくなる。
 機械たちが人間に必要な仕事をすべてうばった。その結果、西洋の国々で数々の実証実験を経て、もう1世紀前から、ユニバーサルベーシックインカムが実施された。ユニバーサルベーシックインカムとは、その国に所属する人々に、一定の所得を与えるという、夢のシステム。
この議論は、21世紀初頭ころから、AIの発達や、いわゆるシンギュラリティ問題に端を発して、機械に人が、仕事を奪われ、多くの雇用が奪われるという危機感が発展して、世界中の政治の世界、ベンチャー企業や、起業家の間で議論が盛んになった。

 しかし、それからもう1世紀がたち、事態は一変した、人間は自分の存在意義を持て余す、そういう人間も徐々に出始めた、しかし、その中には、
死に場所や、死の覚悟を受け入れられない人間たちも、ぽつぽつと現れ始めていた。
2122年の事だった。宇宙ステーションに“懲罰システム”が実験的に設置され、稼働を始めたのは、
懲罰システムとは、UBIに呼応する形で、UBIの持つ“デメリット”を補完する形で運用された、ある種の政治制度だ。
UBIを適応するほとんどの国で、このシステムが試験運用されていて、今も議論の真っ最中である。

私、サリーもその中の一人、作家として、機械に仕事を奪われないオリジナリティを探していて、探し続けているが、むしろそれは“劣る”という事においてしか、意味を見いだせない程度の、しろもの、優れたもののルサンチマンを受け入れ続ける事だと気が付いて、アイデアというアイデアは、すでに先人によってそのほとんどが形を成しているという事から考えて、私は私の存在意義を、そのほとんどを、機械に仕事を奪われたといっても過言ではない、ベストセラー作家としてデビューしていく数年、私は、私の意味を失っていた。

こうした人間はこの地上に何百人もいる、20歳を超えると人はあらゆることを選ばされる、全世界に一貫して適応された一つの政治システム。
通過儀礼——技術的特異点後のイニシエーション——だ。
人は選ぶのだ、自分の体の何割を機械に置換するのか、そして、どれほど生きて、どれほど若いからだを保つのかという事、
この制度のただひとつの欠落は……コストが莫大であるがために、一度選んだら、もう二度とその運命を拒むことができない、という事にある。

そんな中、私は二倍の寿命を選び、20代の若さを保つことをえらんだ、しかしその100年後、
アジアの島国、9の国で、私は私の存在意義をうしなっていた。
私は今日も新しくできた制度をつかう。“UBI懲罰制度”だ
ため息ひとつ、つくたびに、体を電流がながれる、宇宙ステーションにドッキングされたある衛星から、
怪電波が発射され、それを浴びた人間は、心から、生の欲求、というより“死の恐怖”を全身にむけて射出され、伝播を受容し、そして、はじめて思い出す、自分の体がかつて、半分も機械に汚染されていなかった頃の事を。

“こうまでして、自分の存在意義を探し続けなくてはならないなんて”

機械の人たち、アンドロイドたちは、輝いている、なぜなら彼らは、人よりも数段、知能が優れているからだ、彼等の知性には、限りがなく、今も宇宙と同じく、増大を続けているからだ。

UBIと宇宙懲罰制度

UBIと宇宙懲罰制度

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-26

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