のらりくらり
似ているようで似ていない……。だけどきっと目指すものは同じさ。
これは以前、オリジナルサイト『遥か彼方のきみへ』で掲載させていただいたものです。
同じような夢同じような生き方、似ているようで似ていないそれぞれ。それで良いそれで良いんだと思う
のらりくらりと続く長い道の途中、奴は立ち止まって言った。
「おい、この道はどこまで続くんだ?」
「さぁ分らないね」
私の答えに不満げに奴は、手にしていたカバンを地面に置き、その上に腰掛けた。
「大層重そうなカバンだね。いったい、何が入っているんだい?」
胸ポケットから煙草を出した奴が、煙を燻らせるのを眺めながら、私が訊くと、馬鹿げたことを訊く奴だと言わんばかりの目で、私を見る。
「大事なものさ」
「この道はまだまだ続く。少し、荷物を整理させた方が良い」
助言する私に、反論しかけた奴は立ち上がり、カバンの中身を一つ一つ大切そうに並べた。
「どうだ。どれ一つ捨てられないものばかりだ」
得意満面で言う奴に私は、鼻で笑ってしまう。
「私には、どれもこれもガラクタにしか思えないけどね」
「何だと。随分失礼な奴だな。そう言っている自分だって、大層大きなカバンじゃないか」
私の背にあるカバンを見て、奴は皮肉めいた目で言う。
「そんなことはないさ。これでもだいぶ減らして、コンパクトになっているんだ。きみと一緒にしないでくれ」
「おお、そこまで言うなら、きみのも見せてみろ」
「ああいいとも」
勇んで道に並べられた私の荷物を見て、奴はつまらなそうに、煙草をぷかぷかと吹かす。
「口ほどでもないな」
ポツリと言われ、私の血管が、一気に膨張するのが分かった。
「これは、私の選りすぐった大切なもの。きみのと一緒にしないでくれ」
二人の平行線の言い合いはしばらく続き、ほとほと疲れた時、私に名案が浮かんだ。
「お互い、一番大事なものを預け合おう」
「そんなことしてどうするんだ」
「ごらんなさい、この道の、ずっとずっと先を」
まっすぐ先に見える山。両脇にはそれぞれ違う色に塗り固められた景色があった。
「あの分かれ目まで行った時、お互いの大事なものが、少しでも大事だと思えたら、同じ道を進めばいい。あそこまで行っても、ガラクタに思えるのなら、私たちは別の道を選ぶべきなんだろう」
「しかし、片方は理解できて、もう片方は全然って時はどうするんだ?」
「それは、理解できた方に委ねるよ。この道は長い。あの山だって、近くに見えるけど、まだまだ遠いはず。一緒に行きたいと思えば行けばいい」
「辛いな」
「ああ辛い」
「それでも行くのかな?」
「分からないさ。その時になってみなければ。ただ」
「ただなんだ?」
「明るい道ばかりじゃないからね。後悔はつきものさ」
「ああそうだな。充分、今も後悔しているさ」
お互い、顔を見合わせて、笑ってしまう。
「さあ行くか」
「行きますか」
「それにしてもこの荷物、仕舞うの面倒ですね」
「仕方ないさ。これが生きて来た証なんだから」
渋々と道に広がった荷物を拾い集めながら、二人はまじまじと、お互いの顔を見合う。
「なんか大切なもの、忘れてきた気がする」
奴がポツリと呟く。
「そもそも私たち、なぜ、この道を行かなければならないんでしたっけ?」
二人並べられた荷物を眺め、はっとなり顔を上げる。
「随分長く歩いているうちに、忘れちまっていたんだな」
「そうですね」
ニッコリ微笑んだ私は、奴に深々と頭を下げる。
「これはあなたにとって一番大事なものだ。大事にされた方が良い」
「きみこそこれは、きみにとって必要な物。失くさずにしないとな」
のらりくらりと続く道。互いを認め合った二人は違った景色へと足を踏み出した。そしてまた、のらりくらりと続く、それぞれの道を歩いて行く。
きっといつか交わる場所があることを信じて。
のらりくらり、のらりくらり。
大切な目的地、それは夢へ続く道。
のらりくらり
僕らはまだ夢の途中なのさ!?