2人の魔法使い
魔女のアルデールは、相棒というとでも重要な存在がいる、彼女も、相棒も魔法使いだ。それは、この非日常的な世界を、ともに支えあいながら生き抜くための非日常的な友情を結んだ、特異な、仲間というべき存在だ。
長髪のくるくるとカールした髪型。おさなげで、たよりなげなやわらかいまなざし、背中に背負ったのは貴重な“魔法使い”の証明である魔法の石をちりばめた、魔法杖
少し努力すれば、いくらでも人気者になれそうなものだが、彼女がそれを拒んでいる。
彼女にとって、重要か重要でないかを分ける存在は単純だ、快不快の審判を下すのだ、それは彼女の感性が自発的に行うことで、ある意味では彼女自身もその被害者といって差し支えない、とは彼女の持論。
快不快の判断とはいうが。実際うまくいかない事に、彼女なりの言い訳をしているのだ、
そんな彼女の相棒、言い分けを批判し、彼女のもうひとつの面をサポートしたのが黒猫の相棒ウィールだ。彼は自由人である、もともと本当に人で、ちいさな国の王子だった。今は庶民の生活にあこがれ、王国でひと騒動おこし、はれて自由の身になり、あるときは好青年・美青年として“グウェン”と名乗り、街から街を美女アルデールとともに渡り歩き、またある時は寡黙なふりをして、実際は甘えん坊のかわいい飼い猫としてふるまう。
アルデールは、紺色のブーツで足を多い、いま昨日エストの街の通りにできた水たまりを飛び越えた。
「おいしょっと」
今日のウィールは美青年……ではなく黒猫だ。昨日、アルデールはウィールに怒られた。酒場でせっかく同年代の女性と仲良くなるチャンスがあったのに、そっけない態度をとってしまったのだ、しかしアルデールには言えない事があった、だから彼女もまた、今日拗ねている。
「ニャーニャー」
早くなる足、わざと黒猫がおいつけないほどの速さで、かけだす、彼女は裏通りへ進むとき、住宅の合間、カーブした道を、いたずらっぽく口元に笑みをうかべながら、はしって横切った。
「ニャ、ニャ」
声が遠くなる、足をとめた、まだこない、さすがにやりすぎたのか?と思いふりかえり、少しまっている、と、上から人の声がした。
「いつまで拗ねているんだ、アルデール」
相棒の声だ、相棒ウィールはいま好青年の姿をして、白いスーツの正装をみにまとい、どこかの家の物干しざおに足だけでぶらさがっている、さすがにアルデールも
「ひゃっ」
といって、ころびそうになった、ころんだら、ぬかるんだレンガの道で、ゴスロリひらひらの衣装が台無しになりそうだ。
アルデールはいいわけをした、こういうとき、喧嘩をするとき必ずはじめに、妙なおれかたをするのがアルデールなのだ。
「嫌われるのが怖いから同性は怖いわ」
「いつまでそんなことをいってるんだ」
「あなたには女同士の社会がわからないのよ」
「うっ」
そそくさと前をいくアルデール、細い裏通りは、この街の正門、城下町の城壁の正面玄関への近道なのだ。人には出会わないがカラスはよく泣いている。
言い負かす事のできた事をよろこんで、ニコニコのアルデール、相棒はしょんぼりしている。またひょろひょろと猫の姿にもどってしまった。
しかし実際アルデールは相棒に感謝していた、会話はちぐはぐだったとはいえ、コミュニケーション能力の低い彼女は昨日、少しだけその酒場の少女、メアリと話したのだ。だから名前もしっているし、だが……まぐれみたいなもの……チグハグで、その加減に彼女はわらっていて、かわいらしくわらっていたが……同年代とは、ああいうものだろうか?と彼女は思う。
今日も話せるかはわからない、だが一仕事、魔物退治の仕事も終えたら、また会いに酒場にいってみようか、そういう気持ちにさせたのは、相棒ウィールの力だ、ウィールは昨日酒場で、グウェンとして、青年の姿になり、酒場の雰囲気をがらりとかえた、丁度真ん中あたりで街の男とバカ騒ぎをしたのだ、剣士の男、炭鉱夫、鍛冶屋の男、用心棒の男、一瞬でなかよくなってしまい、彼女の方をちらちらと気にしていた。
そんなとき、彼女によってきた一人の女性がいた、メアリだ、彼女はワイングラスを片手に、よっぱらいながら、花屋を営んでいることをかたり、そんなウィールをいい男、といった、それが会話の糸口だった。このさい、仲良くなって、ウィールとくっつけようか、とも思ってしまう、まだ朝型の5時、魔法使いたちの朝は早い、朝焼けが魔力の源のひとつ、月も同じだ、今日は仕事がうまくいったら、ウィールに女性の口説き方をおしえてやろう、と思う。朝焼けが一人と一匹を照らす、ぬかるんだ道で、黒猫のウィールの足は汚れる、目の端でそれを気を使いながら、またひとつ昨日ふった大雨でできた水たまりを飛び越えるアルデールだった。
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