少女思いの天邪鬼な魔女

yumieisuke

 一か月前のできごと。
「炎の小竜の爪のアカを煎じて飲むといいよ」
 僕の初めて、人生で初めて目撃したこの世ならざるもの、それは、魔女であり、かつ魔女であり、そして魔女であり、小人だった。
窓をあけると、涼しい風が入り込んできて、少し肌寒くなってきたころ、薄く秋色に染まり始めた庭の木々、裏庭を取り囲むそれらは、家主を失って、手入れの習慣は長い間を必要とすることになった。僕はあまりていれをすることしらない。
 家主は変わった女性だった、老婆であり、僕の親戚にあたる、意地が悪く、それでいて誰かが困ったときには軽く手を差し伸べるような、ひまわり好きの、天邪鬼の変わり者の老婆。
 申し遅れました、僕はこの老婆なき家をアトリエとして使い、変わりに管理をまかされた、15の学生、ルイーニャです。
髪の毛はぼさぼさで、かといって手入れをしていないわけではなく、特殊な天然パーマです、そばかすは気になりません、勲章です、実際少しきにします、化粧でこまかせます。
 このアトリエの居心地はとてもよろしい感じです、少しぼろいのが玉にきずですが、私のようななんの力も資産もない若輩者の学生が、いわゆるがきんちょ様がおあそび、いえ、絵の特訓をするにはとても居心地がよろしゅうございます、木造建築で、味わいが深く、私も火の管理にはきをつかっています、キッチンや私がアトリエとしてつかっている部屋に、いくつか灰皿があるので、どうやら老婆はここでたばこをすっていたようですが、
そのほかにはいたって普通の、蜘蛛の巣やら、たまに蚊やハエがはいってくる程度の、きれいな……おうちです、キッチンの割れたガラス窓も、
私は好きです、雨漏りのする二階も……。
そういえば、さっきの奇妙な遭遇の話をしましょう、先週の事です、この目の前で、私の昼ごはんのヨーグルトを、ビーカーに半分うつしておいしそうに平らげる、特殊な形状をした、お鼻のながーい、お美しいお婆さまと遭遇してしまったのは。

 「あーなんかねえかなあ、なんか、そうだなんか、売り物になりそうなもの」

 その時、私は玄関先で物音がしたので、思わず隠れてしまいました、それはこの家のすぐそばにある一軒家、老婆の娘夫婦の住む家のおとう様でした、いつもここは、アトリエとして使わせていただいて、たまにお昼をおよばれすることもあるのですが、とても人見知りな自分としては、ぶるぶる震えながら、突然の訪問者を、居留守という手段でかわすことを考えていました、そのときです。丁度一回のキッチンのほうで声がしました。

「お、これなんかいいなあ、まあお金になりそうなものは売ってしまおう、思い出は別だが、かあさんにもきいて、お義母さんには悪いが、
 腐らせるよりはいいだろう」

おとう様は、特にほかに用事はないようで、うろうろしていましたが、そのまま出て行かれるようでした、ギシリギシリ、二階へとあるいていったあとすぐおりてきて、廊下をつたい、玄関に向かいます。
二階への上り下りは大変です、なぜなら、二階は狭いうえに、木のはしごでのぼらなくてはいけない、中肉中背のおとう様には大変だったとおもいます。しかし呼吸を荒くしながら、ひととおり二階もみてまわり、そのまま家をでていくようでした。
しかし、その間際、私の隠れている一階の、玄関からみて左の——ドアが半端にあけはなたれたままのアトリエとして使っている一室をのぞいて——
入口から、ひとこと、この言葉を残していかれました。

「おっいいじゃんー綺麗な絵だなあ」

 私は絵を描く事は好んでおりますが、人にみみみ見られる事は、わわわわ、嫌いです。
すみません、初めにいっておかなかったのですが、いわゆるぼくっこ属性なので、実は女の子です。
ショートカットの、男の子の真似をしようと黒ぶちめがねをかけています、とても内気な内気系女子です。
つづきです、その後、部屋に私が隠れていることも気づかず、おとう様は、そのまま玄関へあるいていき、そして、バタンと玄関の戸をしめられ、
またひところ大声で何かをさけびました、たしか。

「しまったー砥石をもってくるんだったー、隣の小屋だ、いっつも無駄なことをしてしまう」

等々と独り言をつぶやいておられました。その日、土曜日でしたので、私はその後、とくに予定もなく、お絵かきと、この家の散策をしていました、
古びた家の使われなくなったすべてのものは、私にとって美しい、異世界の、ファンタジックな、ある種の特殊な生活者の面影を宿し、残していて、
その家の散策は、どこか自分のスタイルにあったような小説を読み込むときのような没入感や読後感のようなものにひたれました。

「おばあさん、天国で元気かなあ」

 私は2、3度おばあさんと会話をしたことがあります、二度は飴玉をいただきました、なぜだか私の事をきにいってくれていたようで、贈り物もいくつかもらいました、今もつかっていますが、花と蝶の柄のチェックのハンカチは、私の親しんだ愛用品です。
絵と散策を一通り終えて、今日はひきあげようか、と思ったときには左手の細い私の腕時計は、とっくに16時半をさししめしていました。
「気づかなかった、夕日が差し込んでいるわ、きれい」
部屋から廊下へと、オレンジ色の光がさしこんで、木製の床板の、木々の年輪やこまかい溝、シワ、ふしがよく見える。
丁度その廊下左のつきあたりが、何もない気の壁にガラス窓がとりつかれていて、上へ続く大きく開いた二階床の穴、木のはしご。
左が物置、右がトイレ、そして廊下の逆側は、玄関やキッチンがあります。
いつもはそんなところまでみない、床何て、ゴキブリがでそうだから、そう思っていると、耳元の上、いつも私がこしかけている、老婆の物書きにつかっていただろう、すこし大型の机——これは入口のすぐまよこ、はいって左に置かれていたが——そこに左をむいてこしかけていたのだが、位置としては、その机の右側においてある、縦長の本棚のあたりから声がしたのだ、私はたちあがりそれをまさぐり、何冊かかきわけて、声の主をさがしたのっです。

「ここだよ」

 そういうと私の額の上、丁度目と目の真ん中あたりにそれが存在していることがわかった、それは、あきらかに人間ではなく、その声量も、虫とか、カエルとかそれくらいの程度の小さなものだとわかった。
「何か困ったことがないか?ワシのいう事をきけば、それの解決方法、まじないをおしえてやろう、だがひとつ、ワシの頼みを聞いてくれ」
そうおっしゃったので、私はまず、その老婆の、いわゆる小人とか妖精とかいったたぐいの特殊な老婆の、ここにすみついた、いわゆる経緯をたずねました、老婆は笑っていいました。

「ワシはカラジャ、老婆の分身だよ、あと2、3年は今の形をたもっていられる、奴は錬金術が得意でな、寿命を削る代わりに、私をこの世にのこしていったのだ、なにせほら、遺言をかくのも面倒くさがったのでなあ、まったくあまのじゃくなばばあだ、なあ?ルイーニャ」

 老婆が取引に要求したのは、彼女がしたためな恋文でした、その秘密を守るようにいわれました、それはちょうど妖精のいた棚の、怪しい占い本の間にはさまっていました。長い間そうしてあったのか、ほこりがひどく、色も日に焼けていたのです。
どうやら、老婆はその恋文を、相手に出すこともできず、ずっとそこに隠していたようです。
しかし、とても美しい、悲しい恋文でした、そこには、自分で書いたとおもわれるポストカードと、絵がそえられていて、それはまるで芸術的で、この家の配置や老婆の好み、そっくりな、どこかそっくりに感じざるないような雰囲気を内包していました。

 私は、いいものをいただいた、とよろこんでその日家に帰りました。老婆は、私に恋文を持っていてほしいといってくれました、私が喜んでいたら、米粒ほどの飴玉をくれました。それはまだたくさんあるようで、小瓶にぎゅうぎゅうにつまっていて、夕日と部屋の明かりが反射え、まるで宝石のように光っていました、老婆の残した神秘的な光景と部屋と家、そして、魔力をもった怪物じみた存在、私はその日、眠ることができませんでした。

 次の日、一日かけて、私は炎の小竜の爪、なるものを煎じて、飲むことにしました、料理もしたことがない私は、ただ鍋でものを煮詰めるだけでも一苦労です、そして老婆の忠告によると、炎の小竜—— サラマンダー ——のツメは、もらったとき、カミの包みにいれられていましたが、老婆は、煮詰めるときは注意するようにといいました、2、3度火を噴く事があるのだとか、それを煎じて飲むとどうなるのか、というと、大事なときに、緊張しなくなったり、心のそこから勇気が湧いてくるようになるのだとか。
いまのところ、効果は実感できていませんが、きっといつか、その時が来ると思います。

 老婆は、自分の呪術の才能を知っていましたが、一度たりとも自分のために使ったことはなかったそうです。
ゆえに周囲の人間から、変わりものと扱われ、魔術の才能をひた隠しにしつづけていたそうです。
それからというもの私は、老婆の家の、裏庭や庭の手入れや、雑草ぬき、家の掃除をかかすことがなくなりました。
私は考えました、私に好きな人が出来たとき、好きな相手ができたとき、その思いをしたためた手紙とイラスト、ポストカードをつくり、老婆のかわりに私は私の思いを伝えよう、と、それがきっと供養になるのです。

少女思いの天邪鬼な魔女

少女思いの天邪鬼な魔女

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-23

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted