ある猫の憂鬱。

yumieisuke

 私は憂鬱だ、ことのはじまり、それは3週間ほど前のこと、私の自宅、詳しく言えば、私が飼われている邸宅ということになり、私はペットなので、
つまり私の家というより、ご主人様の家なのだが、とある事件がおこった。そのとき私は縁側で叫んだ。
「ゴゴゴゴゴロニャーーーゴロロロロアロロロロ」
つまり、雷が鳴くときのような音だ。
猛烈な不快感を示したのだ、ご主人様、いや、すべての人間に対して、怒りをおぼえたのだ……。
私はそのとき、どんな事件にまきこまれたか?
私のご主人は、例のごとく、毎度のごとく縁側で私に八つ当たりをしたのだ。
私はたたみをはいずり、かきむしり、暴れまわった、そうして、ご主人様のほうをちらりとみつつ、ご主人様の狂乱についてもの申そうと
毛を逆立てていると、どうやらご主人は泣いているようだった。
だから私は悲しい気持ちになり、そのままリビングの自分のベッドでふて寝したのだ。
あまりにあばれたので、畳だけではなく、縁側の障子にひとつ穴がふえてしまった、後悔である。

ご主人といっても、飼い主はまだ若い少女である、まだ高校生なのだ。
しかしこのご主人さま、エレナさまは、ひがみやねたみがひどいのだ。
せっかくの親友のブレアさまの好意さえ、ときたまねたみ、相手の方の努力を無駄にしてしまう事がある。

 それは、ご主人さまがブレア様のある態度を受け入れられず、ずっとその事を気にしているのはわかってはいる、気づいてはいる、
そのことがあると、ご主人さまは、何かあると私のお気に入りの部屋、ほとんど私の部屋と化した屋根裏部屋の物置にくるのだ。
そして、先ほどの話のように、縁側で私にするように、私の毛を生え際とさかさまになでて、髪型をくしゃくしゃにするのである。
そのくせ、癇癪がおさまると柔らかいくしをつかって、綺麗に毛並みを整えるのだから、そのことからも、相当な変わり者の少女であることはうかがえるだろう。
私は何度もブレア様に申し上げたのである。リビングで、彼女がとても礼儀正しくおかしなどをお召し上がりになり、
ご主人とゲームをしている最中に、彼女の目の前でこういったのだ。
「ゴニャニャニャニャ!!!」
そうである、つまりそのままである、勘のいいひとは何をいっているかわかると思うが、ここは人間界の繁栄度合いとキャットフードの進歩具合に免じて、訳してシンゼヨウ。
「ゴニャニャンンヤナロロロロニャヤ!!」
こっちが正解だった、申し訳ない、ごほん、
「ブレアさまままま!!だめです!!あなたさまがそういうニヒルな笑顔をなされると、私があとから髪の毛をぼさぼさにさせられてしまいます!!!」
といった、のである。

 そうなのだ。ブレア様の何を気にして、ご主人様が狂ったように落ち込んでしまうかと言えば、そのニヒルな笑いなのだ、
しかし、本人には悪気があるわけではない、だからこそいいづらいのだ、励ますとき、ほめるとき、なんでもなくそばにいるのが嬉しいとき
猫のようにご主人に足踏みするでなく、人間は人間なりのコミュニケーションという方法をとる、
つまりだ、ややこしいのである。
だからこそ、私はそれをまねてほしいとブレアさまにいったのである、しかし、彼女はアメリカ人とのハーフであるがさすがに猫語までは
習得していなかったようなのだ。

 そんなご主人様の気が変わったのは、二か月ほど前の事だったろうか、ご本人から、ブレアに褒められたい、と私の部屋、そのときは
屋根裏部屋にいた、まあ私の部屋2である、そこで私にうちあけられたのだ。
「私マジックがやりたいわ!!」
魔法少女に変身するのかと思いきや、それはどうやら、文化祭でマジックを披露するとのことだった、私はなんでも手伝いたいとおもった、
しかし、本当に手伝わされることになるとは、それからは、猛烈な特訓の日々であった、私はご主人様の朝、夕の特訓に、一緒につきあわされ、
猫のことがかいてある本をたくさんかってきて、ご主人様は私を調教なされた、そう、それはまるでサーカスのペットのように!!

屋根裏部屋は、その一か月ほど、特訓場と化した。
そのかいあって、ご主人様の出す合図すべてをマスターした。
両手でゆびをならしたらジャンプ、片手で二回ならしたら、玉乗りの合図である、そんなこんなで文化祭はやってきて、
私はブレアさまにつれられて、ご主人様と別のステージから、教室の上手、もりあがった檀上の、廊下側から、一人のマジシャンとして
登場していったのだ。
「レディースエンジェントルマン!!」
マジックは大成功だった、しかしご主人さまは、始終うかれない顔をしていた、だが私の顔をみて、だきあげると、片付け中にもかかわらず、
他の男子、女子生徒や教師のめをぬすんで、私のほほに自分のほほをよせつけて、ありがとう、といった。

私でさえ気が付いていた。
マジックの成功ではなく、マジックは平凡なもので、そこそこの賑わいこそあったが、最も盛り上がったところは別であった、
玉乗りである、玉乗りのイベントのとき、
ご主人が失敗して、猫である私が成功したところが
最もにぎわったこと、そして、友人のブレアは、また不敵な笑みをうかべてご主人にいった。

「応援したかいがあったわ、さすがエレナよ、おめでとう」

文化祭でくたくたになりながら、ペット用のゲージを重そうにかかえ、ふらふらよたよたと、その日ご主人様は私と帰宅した、
玄関でのただいま、はこれまでにないほどに、気の抜けた声がした、
そして、そのまま、私はご主人様の部屋へ、ご主人様はベッドインしたが、しばらくすると、おきあがり、ゲージをあけ餌をあたえ、私を開放してくれた。その後、風呂にはいった、ご主人はニコニコ顔だったが、寝る間際、屋根裏部屋、(こういうときには懺悔室)
にきて、私にむかってこういった。

「笑い方は気に入らないけど、いい友人なのよね、笑い方がもったいないわよね」

と。
それからのご主人様は、機嫌がよかったし、ブレアさまのことを悪くいうことはなくなった、
だが、どうやら、好きな人に告白してふられて、その腹いせで、冒頭の事件がおこったらしかった。
猫の生活、ペットとしての人生は、いささか理不尽を感じざるをえないときがあるのだった。

ある猫の憂鬱。

ある猫の憂鬱。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-21

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