夏の思い出とりんご飴

西瓜

あの日見た祭りの匂いと涼しい風。
ふと漂ってきたような気がした。
祭りなんて久しく行っていないし、最後に行ったのは……そう、たぶん高2の夏だ。
それからはやれ受験だ、やれバイトだ就職だと、祭りなんて行くこともなかったが。
久しぶりに、行ってみようと思った。
たしか、こっちだったはず。
幼い頃の不確かな記憶をもとに、どうにか神社までたどり着く。
鳥居をくぐってみると、色々な屋台があった。クレープ、たこ焼き、焼きそば、ラムネ、くじ引き、そして、子供の頃大好きだった、りんご飴。
1つ300円のりんご飴さえ高額に思えたあの頃。今の財布の中には、あの頃想像もできなかった額が入っている。
「すみません、りんご飴一つください」
「あいよ、300円ね」
「はい、ありがとうございます」
石段に座り、先程買ったりんご飴を開けて舐める。
あの頃より随分と丁寧になった言葉。
あの頃より随分と余裕があるお金。
変わったことはたくさんあるのに、りんご飴の味と、祭りの匂いと、涼しい風は変わらない。
それがどうしても嬉しくて、なんだか感動してしまう。        
しばらくしてすっかり食べ終わったあと、ふと空を見上げた。蝉の声、青くどこまでも続く空、視界の端に見える緑の葉。地面を焦がす勢いで熱する太陽は、まさに夏という風に眩しく輝いている。
あぁ、夏だ。夏だと頭では分かっていたのだが、いつからか季節なんてほとんど気にしないようになっていた。
子供の頃は、夏はとても楽しい季節だった。友達と蝉を捕まえたり、かき氷を食べたり、一緒に宿題を進めたり…そういうときは大体ほとんど進まなかったが。
あの頃の友達は、一体どうしているだろうか。たまには私のことを思い出したりしてくれているだろうか。
過去の友達に思いを馳せながら立ち上がった。夏の蒸し暑い空気と涼しい風が体のわきを通り抜ける。
もう帰る気だったのだが、帰りにもう一つりんご飴を買う。
「すみません、りんご飴を一つください」
「あいよ、300円ね。…あれ、さっきも来た?りんご飴好きなんだねぇ。」
「あ、はい。子供の頃から好きなんです」
「そうなの。はい、これね。」
「ありがとうございます」
りんご飴を受け取り、帰路につく。
帰り道でりんご飴を開け、飴の部分をぱりっとかじる。もしかしたら、あの屋台のおばちゃんは私が子供のときに毎年通っていたりんご飴の屋台のおばちゃんかもしれない。握りこんで温かくなった100円玉3枚とりんご飴を交換してくれた、あのおばちゃんかもしれない。
世の中には思ったより、変わっていないところもある。
そう気づいた。あの頃の友達と、もう一度祭りに来たい。そう思った私は、帰宅したら仲間の中でも一番仲が良かった人にメールを送ることにした。

夏の思い出とりんご飴

夏の思い出とりんご飴

あぁ、夏だ。 無音(お題bot) 様(@nothing_glass)よりお題お借りしました。(あの日見た祭りの匂いと涼しい風)

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
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