ヒーローと覆面クリーチャー

悪役向上委員会の工場にて、今日も覆面が製造されている、覆面は無償配布、しかし交換条件は、
秘密結社ハーフ・ダークネスの世界支配に貢献することだ
ハーフ・ダークネスの理ねんとは、人々の日々の鬱憤を利用して、人々の負の側面を利用して
全人口の半分の悪意を具現化して、自らの組織の兵力、部隊として利用することで
「ヒーロー」を駆逐して、ありとあらゆる国家を、“クリーチャー”の支配下におくこと。

黄色マントの師匠は、ヒーローの適正を持つ者の前に現れて、そしてこの狂乱の世界の中から“ヒーロー”を創出する、
いわば創造主。
“少女よ、お前に次世代のパワーをたくす、この口紅を手にとりたまえ”
“ヒーローと化物は同じ理屈で生まれる”
“umaのパワーを使う、得手不得手、適合するしないがあるのだ。”
黄色マントの師匠は、初めてアイの目の前にあらわれた3年前、そういった。
理由は知らないが、彼こそが、すべてのヒーローの生みの親で、人々にヒーローたる条件を教えあるき、国から国へと渡りあるいて、
人類のヒーロー化の啓もう活動をしている。

16歳の少女アイは、今日も、黄色マントの師匠からメールをもらった。
まだ少女なのに、彼女はヒーローであることを選んだ、覆面のかわりにかぶっているのは、
仮面だ、眼だけを隠すことのできる、特製の仮面、そして、手にはボクシンググローブをはめている。
コスチュームは、普通の高校の制服、セーラー服だ。
ビルの屋上に立ち尽くしていたが、いまビルの側面をけって、街の中央らへん、
夜中にもトラックが行きかう、にぎやかな交差点の中央に、ズシン、と音をたてておりたった。
誰もいない、ただトラックが行きかうだけの、四隅を巨大なビル、商業施設にかこまれた、寂しい街の、静かな夜の、ネオンライトの、電灯の、誰もみあげない看板たちの、電光掲示板と、信号機の、夜の闇、コンクリートの交差点。
師匠はいった、

「今日のT街の覆面エネミーは“嫉妬”グリーンクアイドクリーチャーだ。」

クリーチャーは常に同じ格好をしている、それは“覆面”
ヒーローのように自由もなければ、自我もない、ただ午前0時、きまってその欲求を発現させ、顕現させる。

「グォオオオ」

グリーンアイドクリーチャーの叫び声が夜の街にこだまする。
しかしそれは、どうやら地底から響く声だった。
彼は路地裏で人知れず覆面をかぶる“人間”
表の顔とは違う、欲求をむき出しにして、怪物の姿に身をまとった、人間の夜の顔、犯罪者の顔だ、暗闇でその姿はさだかではない。
覆面はスライムのようにとけ、やがて犯罪者の姿をおおい、沸騰したように膨張をつづけ、怪物としての輪郭を形づくる。
怪物は、誰も知らない地底から、上空をみあげる、かすかに光がみえる、

「ぐおおお」

人と怪物の境目で、まだ足を完全に覆ってはいない怪物としての肉体を、沸騰したスライムのようになった足のままで、
地面をけとばし、地上へとびだした。
グリーンアイドクリーチャーは、ヒーローの匂いを嗅ぎ、地底から……マンホールのふたをやぶって、水しぶきをあげてとびだしてきた。
今、あめがふっていなかったらその匂いはとてもひどいものだっただろう。

「ヒーロオオオ」

相手の目的もまた、ヒーロー、この街のヒーローは、アイである。
彼等はその交差点で目をあわせ、はちあわせて、向かい合った。

「嫉妬に狂った人間の本性……!!」

「グオゥウウ」

長いしたを街のあちこちにひっかけてとびまわる、商店街の店の看板、ビルの屋上の鉄柵、信号機や、建設中の家のむきだしたままの鉄骨。
ヒーロー“アイ”も、地面をなぐりつけ、威力をつけて、同じように飛び回る、
グリーンクリーチャーの速度が優勢だ、ビュービューと風をきる、その体を宙ぶらりんにそらになげだして、
いとも簡単に、空をとびまわる。

「観念しなさい!!」

やがて彼らは彼等なりのステージをきめた、それは、市民プールだ。夜中の市民プール、人がいない、薄暗い
然しクリーチャーたちは夜目がきく。
初めに飛び降りていったのは、クリーチャー、グリーンアイドクリーチャーだった、
そのときには、まだアイは、ビルの屋上で、グローブでてすりにつかまり、彼のまきついた舌を気味悪そうにながめていた。
ズドオオオオオン、ひとつのかたまりが、糸のようにのびた舌を、つるんっとビルの屋上から話して、
プールの屋根をつきやぶり、水しぶきとガラスの割れる音、豪快に地面が割れる音を深夜の街にひびきわたらせた。

ドドドオドオン。

3年前、突如として地中奥深くへとつながるクレーターが、ありとあらゆる国の首都にできあがり、そこから未確認生物、
「地底人、ともumaとも呼ばれる」※テレビ中継アナウンサーの名言
があらわれて、人間たちの生活を脅かし始めた、そしてそれはいまも続いている、
人間たちの真相心理に隠れていた怪物だという人間もいる、
彼等はミームだと語る人間もいる。

彼等は分裂し、増殖し、それそのままでは、ただの気味の悪い生物だが、人間と干渉することによってその力を発現させる。
ある日地底からはいだしてきて、人間と“合体”することを望んだ。
その親玉が、ハーフ・ダークネスのボスだといわれている、
その姿をしるものはいないが、伝説では、この世のものとは言えない、美人な女性だといわれている。

制服の少女“アイ”はセーラー服の襟をひらひら、裾をバタバタとならしながら怪物の前に上空9メートルからジャンプでおりたった、
轟音と振動、プールは水しぶきをあげ、われたガラスの破片が怪物につきささる。

“オオオオオ!!!”

彼の懐へと、瞬間的にとびこんでいくアイ、まるで彼女の周囲の空間がゆがんだように、彼女の存在も歪んで見える。
それは一瞬。
勝利は瞬間だった、ひるんだすきをねらってグリーンアイドクリーチャーにむけて、アイは一撃を放つ、
たったひとつの必殺技、アイ・アッパーパンチ!!

クリーチャーは自分の上あごと下あごがものすごい音をたてて“何か”を髪切ったのを感じた、
それは長いしただ、今の今まで、自分の手足のようにうごき、ヒーロー“アイ”へとのばしていた舌、自分の舌を噛み切ってしまった。

“ぶっろうあうどあう”

もはやそれは声ではなかった、血だらけのプール、やがて覆面ははずれ、それは形状をかえて、小さな緑の小人になった。

「毎日毎日、大変ね」

「人間の欲求がなくならないかぎり、クリーチャーは決していなくならないよ」

そう語るのは、化粧ポーチの形をしたアイの相棒“ルルナ”だ、ルルナの体液からつくられたのが、

“ぐっ”

アイは少し後悔をした、怪物は、敗北の瞬間、自分の拳と、アイの拳をぶつける、最後の気概をみせた。
先輩ヒーローがいっていた、今はもう別の街にいった、アイの姉の代わりをしていた先輩、恋人がクリーチャーになるのをみて、
この街に嫌気がさした、そこからアイとの仲もギクシャクしはじめて……。
アイは、その時のことを……はじめて同性と喧嘩したときの、
はじめて同じ人間と拳をかわしたときの痛みをおぼえている。

“誰もわるくない、だれも自分の欲求なんて満たしたいと思っていない、人間は、自分の欲求をコントロールできるようにはできていない
 だから怪物の力をつかってまで、欲求を守りたい、明日のために欲求を満たしたいと思う、私は、
 そういう感情を、悪いとは思わない”

アイは、先輩の、その気持ちがわからなかった、だからこそ、最後の日、先輩が転校するといった日に、拳とこぶしをぶつけて、
そして、勝利した、後味の悪い勝負だった。

「うっ……」

怪物だった男が、いまうつぶせの姿勢のまま、プールサイドにねころんだまま目を覚ました。
男は、苦しそうな声でこういった、よくみると、それはアイの学校の制服で、アイはそれが同じ高校の男子生徒だと気が付いた。
顔をあげると、眼鏡をかけた男性だった。

「やっぱり、アイは、サトー・アイだったか、君に嫉妬すれば、僕もヒーローになれるかななんておもったんだ」

それは、アイが最も気にかけている隣のクラスの男子、ロウだった。
成績優秀で他の生徒からも評判が良く、なぜ生徒会に立候補しないのかと、様々なうわさがながされていたものだ。

「僕には、欲求がないんだ、目指したいものがなにかわからない、常に敵をさがしていたよ、学校の敵は君だったよ、
 だから、ヒーローにもなりたかった、でもだめだったみたいだね、クリーチャーの側だったみたいだ」

アイはなんの感慨もいだかなかった、
なぜなら、自分が選んだことは、同情をしない事だからだ、
できれば、明日の朝、ロウが今日の事を覚えていないことを望む、それだけが、その夜の願いだった。

ヒーローと覆面クリーチャー

ヒーローと覆面クリーチャー

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-20

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted