タバコ、コーヒー、私立探偵。
青年探偵ヨツローは、今日の朝誤ってタバコにコーヒーを落としてしまった。
昨日の探偵業務、一か月前から依頼されている飼い猫探しはまだおわらない。
走って追いかけた昨日の猫は、野良の猫だった、途中、転倒してドロを飲んだのだ、大雨でぬかるんだつちが、容易に両足をのみこんで、転んだ。
そして、ヨツローは、次の瞬間から、あらゆることを考えた、瞬間的な思考だった。
今朝入れたのも泥の様なコーヒーだ、コーヒーも入れなおさなければ。
別の依頼、深夜に風呂場を利用してはじめた、ストーカー野郎の写真の現像がそろそろのはずだ。
さて、とキッチンに併設されたダイニングのソファ、というかアパートなのでくそ狭いだけだが、
流しにいらなくなったコーヒーをすてて、よっこらしょ、とすわったらテレビの電源をいれる。
コーヒーは苦い。
思えば探偵を始めた理由は、小さなころのに原因がある、あれこれつじつまを合わせて考えるのが好きだった。
そんな洞察をしているといつのまにか、なにかしらのものごとを解決に導く、たまたま、そういう観察力が優れている、だから仕事にした。
兄弟、こどもたちの喧嘩、親の忘れもの、となりの家が騒がしい理由、
いつも初めに僕が“理由”をみつけた、
だが、今も、僕の生涯でたったひとつだけわからない事がある。
それは、あのころから、自分が誰になったのか、っていうことだ。
幼馴染のシローは、高校生になった直後に亡くなった。
事故だった、あいつはマンガを描くのが好きで、俺は興味がなかったが、才能はあるようにみえたし、実際身の回りじゃ、あいつはヒーローだった。
ヨツローには恋人がいた、
サチといって超絶美人だった。
そのサチは、あいつがなくなる1か月前に、平然とした顔で俺にこういった。
“私、ヨツロー君の事が好きなんだ”
言葉がない、音もなくなった、好きだった炭酸飲料の味がなくなった。
“いつも、シロー君の事をきにして、彼の影に隠れて、だけどたまにシロー君より気がきくところがあって、
でも、いまはシロー君の事が大切、嘘じゃないよ、はじめは、あなたが気になって近づいたんだけど”
それ以外コーラは味がしなくなったし、タバコもはじめた。
唯一、空腹を満たしたのは、コーヒーだった、そのコーヒーも今朝はこのざまだ。
卒業以来、サチさんにもあっていない、サチさんは、有名なモデルになった。
その目は、今どこを見ているかわからない、ただ、毎年みかけるのだ、シローのやつが好きだった、ひまわりが、その単純な黄色と茶色のコントラストが、あいつの墓前にきちんと置かれているのを、だから、俺はちゃんと、夕方にやってくる、あいつの恋人の姿を、
同じ日に見かけることはない。
夕日がすきだ、あいつとみる夕日の中で、俺はブラックコーヒーの苦みが愛しくなる。
シローはブラックコーヒーの味も知らなかったと思う。
あいつは、俺の好きなものが嫌いだったから。
ああ、高校卒業後、一度だけ、あいつの原稿を、漫画のコンテスト?に応募したことがあった、
優秀賞をとった、お金は、受け取らなかったが、電話してきた社員に向かって、こういったよ。
“才能は死にました”
って。
タバコ、コーヒー、私立探偵。