夏の日、花子さんのいた教室。

yumieisuke

花子さんはいただろうか?
うだるような暑さのなか、退屈な教室、気の合う仲間がどこにもいない、
いたとしても、手を伸ばした後、退屈になって手放すだろう、そんな毎日だ、すべてが気に入らなかった。
今てをのばしたのは天井のしみは、奇妙な形をしている、たまに人の顔に見えることがあるがじーっとみているともっとしみはひろがって
いつのまに視界いっぱいにひろがって、にじんで、眼がぼーっとして、まるで自分だけ異世界に迷い込んだような錯覚に陥る。

5時限目、夕方の風はかろうじてここちよく、カーテンの隙間、開放的に開放された、左端の窓からいっときだけの幸福を運んでくる。
小学校の教室は、古びて、かびて、さびて、その補修さえままならず、ペンキや、ワックスを塗りなおすのは、面倒なことにここに通うものたちのつとめだ。
重苦しい雰囲気、それは孤独のためだろうか、今日は体育の授業を一人だけさぼっている。
嘘だ、調子が悪いので教室にもどされた、保健室より教室がよかったので、自分の教室、自分の机、うでを伸ばして、そのうえに頭をねかせて、
ここでへばってのんびりしている。

一番後ろの席は、いちばん端っこ左側、もっとも人気がある、そこからひとつ前にいくと私の席がある、
私といえど私はおとこだ、男だったのだ、そうおませさんだから、しゃべり方はまわりにあわせたくなかった。
私も君も彼もあなたもどうだっていい、同じ一人称は退屈。
私は退屈だ、だからこそ昨今夏休みや夏まつり、そんなものではなく、かわりもの、
だからこそ怪談に興味がある、夏だから、
いや強引だ、何かしら面白いことがあればいいと思うとき
私はこういった強引な切り出し方をする、
すべては退屈と暑さのせいだ。

カーテンがゆれている、カーテンもかびくさくて、ふるくさくて、ぼろぼろだ、だが愛嬌がある、やかましい同級生たちの声がしみこんでいて
気を抜くと反響して聞こえてきそうだ、さっきまでにぎやかだった教室は、僕が雰囲気を壊したせいか、シーンとしている、
嘘だ。ただたんに、ここには誰もいない、校庭からは声がする、ここにあるのは僕の耳の中で反響する皆の声。
セミの音は確実にうるさい、だが教室には何もいない、何もいないわけではないだろう、きっと蚊やハエはいるが
人間がいない、人間がいないということは重大な問題だ。私が人間だからだ。

退屈だ、僕は誰かを探している、
それは、多分、花子さんだ、花子さんはきっと、この僕の退屈な毎日を変えてくれるだろう?

いや、それもどうでもいいのかもしれない、
隣のクラスに怪談のうまい奴がいる、話しもうまいから、かなわない。
逆側、後ろの二つとなりのクラスには狂人がいるが、あそこまでふりきると、日常会話が不可能なレベル、つまり霊感商法タイプの怪談野郎。

そうか、僕はあれがやりたいんだ、しかしあれをやるほどの幼馴染もともだちもいない、
かといって、瞬間的に誰かと仲良くなれないわけでもない、ただ、すべて想像できてしまってあまりに退屈なのだ、
テーブルでやるやつ、あるよね、あれって、何っていったかな、たしか、っくりさん……。
いいえ、そっくりさんではないはずだ。

パリパリとノートをやぶった、
その瞬間のことはあまり考えてない、やぶりたかったのでやぶったのだ
いつ算数のノートをとりだしたのかすら覚えがない。

退屈すぎて紙飛行機をつくった、人が密集するところで投げると、教師は文句をいうだろう、
しかしピーキーなつくりでいいのだ、なぜならいまここには人がいない、私はおもいきってそれをなげた。

「あっ」

目の錯覚か、赤いひも、たとえばサスペンダースカート、俗にいう吊りスカートのヒモがみえたきがした。
それにふれたとき、私の頭には確かに聞こえた。

「暇なの?」

私は答えた。

「暇です、きっと自分のせいです」

くくく、と誰かが笑った気がした、その瞬間、校庭から、廊下をつたって、非常に騒がしい人々が、さわぎつつ帰還した。
たったひとり、孤独で、退屈な私をたたえてくれた。

夏の日、花子さんのいた教室。

夏の日、花子さんのいた教室。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-19

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