Have a good end.
人が運命を選びたがるのは、一種の可能性への羨望と偏愛である。人の意思を超えた概念、というものは人のないものねだりであって、結び付けてなけなしの奇跡を下に転がしたいからであると、自身で定義付けていた。
しかしもし仮に『運命』が存在するとして、運命は人に添わねば存命できぬのだということを目の当たりにしたらどうだろうか。すると自ずと運命は人のなりを模倣して、洗礼者の首の切り口を愛そうと踊り試みる。飽く迄仮定の話だ。それを目の前の男性に告げてみたが、彼は「下らない」と一刀両断してみせ、気怠そうに長い脚を組み直していた。
「先生はファム・ファタールをご存知でしょ。まさか知らないなんてことは」
「知識の有無はどうでもいい。それが下らないと私は話している」
美術教師と銘打たれたその男は、頑なに耳を貸そうとしない。古びた教室に置かれた深紅のヴェルベットの椅子をいたく気に入っており、たった一人だけの部員を相手に欠伸を噛み殺す始末だった。
ファム・ファタールは生きている。取り分け、運命の人を蠱惑の悪だと一度たりとも思ったことがない。そこに様式美すら超越した美々しさが息衝いている。それがこの朱夏を迎えている男だった。彼は芸術を形式上で関心を示しているが、それも振りである。彼は『美しい』と形容されるものが嫌いだった。詰まり、彼と芸術は因果な関係で結ばれている。
ならば何故、彼を『運命の人』と揶揄するのか。それは彼の見てくれにあった。
「先生、見てみろよ。また変なものに好かれてる」
「…………だから、何だと言う」
「爪。それ、マニキュアにしてはきらきらし過ぎでしょう」
彼の正面に向かい合うように座っていた自分は椅子を全面に寄せる。椅子の足が床に擦れてぎしぎしと耳障りな音を立てていたが、それも構わずに距離を詰めた。それから節くれだつ彼の手を取り、一際輝く人差し指を壊れ物のようにそっと掴んでは手のひらへと乗せた。
彼の爪はコバルトブルーのマニキュアを塗りたくったかのように目に目映い。しかしこれがマニキュアではなく宝石のアパタイトに当たると言えば誰が信じるだろうか。青の洞窟をそのまま石に閉じ込めたような煌めきは爪の上に張り付いたものではなく、爪自体が石へと変質してしまったものだ。
爪だけではない。恐らく歯の一部にもそんなものがあるのではないかと推測しているが、如何せん彼は笑うことがないので確かめようがない。その為に確かなことが言えない。だが言える。彼の何かしらの器官は宝石に冒されていると。
「仕事がしづらい。ペンチを持って来い、お前がこれを剥げ」
「生徒に拷問を課すんですか」
「お前のこともどうでもいい」
開襟されたカッターシャツの隙間からは黄色みを帯びた微光がちらついている。色からしてシトリンだろうか。あれも皮膚が変化したものに違いない。本当に難儀な人間だ。運命に愛され、美々に翻弄され、現代のファム・ファタールへと成り上がってしまったのだから。
顎の辺りまで伸びた前髪は湖面の波間のように緩くうねっており、その隙間では黒曜の瞳すら比喩では済まされない光彩を放っている。洒落にならないではないか。
好きなように使われるのは慣れていたので、彼の言う通りにペンチを探しに席を立つ。黒板脇にある引き出しを開けて錆びかけのペンチを取り出した。これを剥げ、というのは彼の爪を奪った宝石のことになるが、皮膚と癒着した宝石を剥がして痛みがないわけがない。
しかしそれを望むのは自分が得る苦痛以上に、相手への(詰まり俺という人間の)支配欲、優越感、そんなものを味わいたいのだ。それが生徒だろうが同僚だろうが関係ないだろう。それが彼という高潔な魂にうってつけの装飾だと思う。常に誰かを見下す姿勢は身長のせいではない。とは言え彼に身長は負けていないので、更に煽りを受ける結果になったのかもしれない。
ペンチを持ち帰ると、男は長い脚を組み直していた。肘掛けに肘をついては手持ち無沙汰に前髪を摘んでいる。彼の眼前に跪くと、男の手が差し出されており、アパタイトの光が陽の残光で微かに煌めいている。奥に秘められた洪水で溺れる前に、彼を救い出すのが自分の現在の使命だ。
「早くしろ」
彼の右手を左の手のひらに乗せ、指先へとくちづけを落とす。かさついて丸みを帯びた先を微かに食んでいると、案の定彼は苛立ちを眉間に込めていたので、へらりと一笑しながら大人しくペンチの先を爪の先へと挟んだ。テコの原理で引き剥がせば良いのだろうか。怖い? 実はそんなもの、とっくの昔に別れを告げてしまったので、そんなものはない。あるとすれば。
「っぐ……!!」
――高揚感。彼が理不尽な要求を自分に突き付ける度に比例して昂る心。彼が不合理で自分を圧迫させるのなら、自分は不合理をしっかりと咀嚼して胃酸で溶かし、彼へと送る恋文。或いは被膜越しの加虐心。
彼が悶絶を堪えようと肩に掴み掛かれば、彼が人間である実感をひしひしと感じられる。彼が奥歯を噛み締めれば、彼の生命が自分と何ひとつ変わらぬ凡常さに感嘆すら洩れてしまう。
柔らかな肉から剥離するアパタイト、剥き出しとなった皮膚から浮かぶ赤い珠。表面張力が失われた瞬間に彼は益々人へと近付くが、同時にルビーの艶めかしかすら与えられたファム・ファタールへと昇格する。
日に焼けた指先なら赤が似合う。宝石たちも愚かなものだ、男の秀美さに見惚れるくらいなら、彼に誂えた色を添えるべきだった。それともルビーが萎縮をしただけか。それよりも、彼が苦痛に脂汗を滲ませている方が余程愛おしいのだけど。
「先生、大丈夫? まだ行くよ」
「さっさとしろ」
「痛いよ、我慢してて」
「あ、あ…………っ、ぐ」
爪を整えてやるかのような光景で、彼が噛み潰した痛切な叫びだけが美術室に響き渡る。僅かに差し込み始めた陽光が辺りを舞う埃へとぶつかり、乱反射する。ダイヤモンドダストに遭遇したことはないが、劣らぬ明滅が彼の輪郭をシャープに際立たせていく。
目尻に刻まれた薄い皺も、涙腺から滲んで睫毛を濡らす水滴も、パールの遊色を思わせる肌と脂汗のテクスチャーも、どんな名画より貴いと信じられる。
薄い貝殻型の宝石から彼を奪う密かな快楽、痛いと吐けぬ麗しい唇への憐憫、その絵画的な現実が益々自分を縫い付ける。彼の意識に、人型の一枚皮に、自我が確立されては剥奪されていく。
軈て十枚の宝石は指先からの追放を余儀なくされ、その頃には彼は深く息を吐きながら肩にしがみついていた。額を鎖骨辺りへと預け、痛みを逃そうとカーディガンに縋り付くが、力が入らないのか布地に皺を作るだけで彼の指は留まれない。憐れだ、土から必死こいて空を目指す蝉の幼虫のような健気さすら指先に込められており、赤く染められたであろう十指が堪らなく愛くるしかった。
「…………俺が嫌がらなくなったの、知ってるでしょう」
「……何のことだ」
「いえ、何でも」
指を解いてやり、そのうちの一本を両手で掲げた。酸化して乾き始めた血液は彼にはあまり相応しくない。ルビーも構わないが、次は黒曜でも張ったら似合いそうだ、そんなことを思案しながら口に含むと、指のひとつひとつの関節が強張り、思わず顔を上げた彼と視線がかち合った。
光に透けて飛び交う色彩。彼の眼球もまた、美しい何かに取り憑かれ始めている。しかし流石に眼球を摘出する趣味もなければ、彼も器官の損失は避けたがるだろう。舐めてやりたい、そんな欲求に耐えながらも凝固しかける血液を舐め取った。
ぬるい金属片のような塩辛い味を味蕾で受け取りながら、ふよふよと柔らかな皮膚を舌で優しく掬う。その度に彼の憤怒が色として瞳に反映され始めている。あれは何だろう、炎だろうか。リチウムか、ストロンチウムの色。そんなことをぼんやり思いながら親指、人差し指と順番に指先を咥えては舐め、それを十本、全てに施した。
それが終わると、彼はよろよろと体を突き放しては椅子へと深く座り込む。ヴェルベットの椅子は粗大ゴミに廃棄されていたものを拾ったという、粗末な物だった。ほつれや穴はあちこちにあれば木のフレームはニスが剥がれてささくれも目立っている。勿論ヴェルベット特有の艶もなく、色が日焼けして落ちている箇所すらあった。
美しいものは愛さない、技術は秀でているくせに美術教師としては致命的であった。しかし皮肉にも彼は万物の美々たるものに求愛されてしまった。何も今日が初めてではない。
鉱物が張り付くこともあれば花が咲くこともあった。蜉蝣の翅が背に生えたり、ケツァールの羽根が肌を侵食したこともあった。此処まで来たら次は鱗でも生えるか、珊瑚でも生えるか、といったところだろう。
その度に彼は自分に運命の象徴を奪わせた。端から拒絶する気もなかった。人には効能のないその蠱惑さは自分にだけは届いた、自分が美しいかはさておき。
兎角、それらに侵食される彼こそ美の象徴なのだ。奪っても奪われても尽きやしない艶やかさ、溢れる生命力の力強さ、そして死神の鎌のような鋭利さすら鈍く光るものだから、廃部が決定していた部に無理矢理入部してまで、彼の傍で行く末を見届けたくなったのだ。
誰が彼を奪えるか。自分の目で傍観したくなる危うさ。彼が奪われたその日には、彼はどのような結末を迎えるのか。酷く汚れた動機が今日も彼を救ってしまう。さながら自分もまた寄生したいひとりではないか。否定は、しないが。
「どうします、これ。使わないなら前に作った平面彫刻に加えますけど」
「悪趣味だな……」
「どうでしょう。でも宝石は宝石でしょ、要らないなら貰いますからね」
先日彫った蔓花茄子にあしらえば映えることだろう。床に落としたままのアパタイト片をハンカチに包むと、足を前方に投げたままの彼は虚ろに自分を小突く。ブラウンの革靴の先も綻びが出来始めていた。
ハンカチをポケットに突っ込んでいると、深く背もたれに凭れ掛かる彼はしきりに指先同士を擦り合わせている。痛むのか、爪がなくて落ち着かないのか。とうに疼痛など忘れたというような面立ちに汗の影も欠片もなく、張り付いた前髪も払わぬままに虚空を見詰めていた。
「先生」
「…………何だ」
入学式の時もそうだった。式典の怠さに欠伸をしながら体育館を見渡している時に、隅の陰間にひっそりと凭れ掛かって腕を組む、あからさまに傲慢さを滲ませた男。自分は良い子ぶって密やかに目上の者を揶揄うことが好きであったので、あの男の面の皮でも暴いたらきっと面白いと、そう思ったのだが。
暴いた先の彼の秘密、運命に翻弄され、愛され尽くされた男。初めて見たものは広背筋を蝕む野茨。肌を突き破り、尚も棘が彼を痛めつけていく。白い花は流血で塗りたくられており、油絵の具の匂いが充満する美術室で出逢った彼は、不思議の国のアリスに登場するハートの女王を彷彿とさせた。
『見るな』
自らの血で花を染める男。あの男と目が合って、電流が脊髄を走る衝撃に襲われた。いや、稲妻かもしれない。
『……取ってくれ』
そうぽつりと吐き捨てた男から野茨を引き抜いてやってから、彼の関係は始まった。
今でも棘の痕が手のひらに刻まれている。彼の背はそれ以上だ、先日は毟ってくれと頼まれたので、背に咲いた蔓花茄子を引き抜いた。あの苦悶に歪む表情が、あの時だけしがみつく手が、自分に与えられた唯一の特権だった。
たったそれだけの関係。彼が綺麗なものに愛される度にこの手を汚させる。彼が望んだ時に、彼を蝕む婉美を自分のものとできる。それだけであり、彼が自分のものに、または自分が彼のものになることはない。双方が望んでいないからだ。しかし、対象は何時だって自分であり、彼であった。そんな関係で繋がれている。
彼の為なら、なんて随分と烏滸がましい。彼の脚の隙間に潜り込むようにして体を割り入れて、顎を持ち上げる。彼の視覚は保持されているらしいが、瞳のひとつは明らかに結晶化され始めている。白目が硝子のように透明感を持ち始めていた。彼は手を振り下ろそうと掴み掛かったが、痛む末端では手を引き剥がすには至らない。
彼が奥底から掻い付くことはしない。それが彼が彼である所以だからだ。完璧さなど勿論無い、無いが頭の天辺から体の末端にまで滲む誘惑に抗いたくもあり、そのまますっぽりと丸呑みされてみたいとすら思う。
ならば彼とは何だろう、彼が自分のファム・ファタールだとして、自分を揺るがす根幹は彼の何処にある。唇の奥? 目蓋の裏? カッターシャツの下? もしかしたらそんなものは初めから用意されていないのかもしれない。恋と呼ぶには物騒で陰惨だ。くちづけてはみたいけれど、その先なんて何ひとつ望んではいない。
手に入らない方が良い、そんな気がする。それでも奪う手を止めたら、彼は彼でなくなるように思うのだ。
「……お前は」
彼から問い掛ける。彼から口を開くことは滅多にない。
「なに」
よく生意気な口だと侮蔑されたものだ。諦めたのか、否定が口をつくことはなくなった。
「私とは一体、何だと思う」
伏せる目蓋へと唇を押し当てた。薄い皮膚からはうっすらと紫色の血管が透けている。その奥にある眼球の硬さと来たら、やはり何かに冒され始めていた。この肌もそうだ、後程剥がせとスパチュラを投げ付けられるに違いない。目は、どうだろう。そこまでの勇気が自分に、男に果たしてあるだろうか。
「アンタが何でも構わないんですよ、俺は。ただアンタを崇拝したいんです、きっとこの世で一番美しい人だから」
同性愛、敬愛、憧憬、支配欲、共依存、そんなもの、どれを取ってもふたりの隙間で息衝くことはない。但しあるとするならば、破滅に陥るに持ってこいの単語。愛と呼ぶには純粋過ぎる、狂気過ぎる、それくらいが丁度良いのだ。
無神論者と呼ぶには薄情ではないが曖昧で、クリスマスを祝って夏は墓参りに行く、そんな気軽さしかない若輩者が、彼という男に見出したもの。
死に至ろうとも、魂を犯されようとも、彼はどんな彼であったとしても、彼であるが故の終幕を迎えられる予感がしている。
何も求めちゃいないが、与えられるなら彼の結末だけでも。彼は何になる。何として彼となる。
「最高の侮蔑だな」
目蓋を震わせながらも彼は体を退けようとはせず、深く息を吐きながら目蓋越しの舌を受け入れていた。薄く開かれた唇へと指を忍ばせる。ぬらりと唾液が纏う犬歯はエナメルとは若干異なる質感で、指の腹で確かめながら何度も撫でた。参ったな、歯を抜く趣味も自分にはない。ペンチは床に転がっているが、別に彼を痛め付けたいわけでもなかった。
彼に相応しいものが、宝石ですら及ばないのだ。羽根も翅も花も葉も鉱物も、どれも彼を塗り替えるには今ひとつであった。もっと、もっと美しいもので彩られてほしい。際立つ傲慢さと自分にだけ向ける侮蔑と、ほんの少しだけ見せた怯懦のエッセンス。何時かファム・ファタールが永遠の偶像として自身へ留まるその日が訪れるまで、自分は選別して取捨して行かねばならない。
天使より、神より尊く貴く、阿鼻に堕落してでも失われぬ美貌を。それが彼の皮肉を捨て去ることになったとしても。最高の人で終わるために、それ以上の何かを産み出さないために。
「骨でもなんでも、アンタだったものが一欠片でもあれば、アンタは恒久的に神様に……いや、それ以上の存在なれる。人はそういうものが好きで、崇拝しないでいられないんだ。そうやって縋って生きていかなきゃならないんですよ、俺達」
「私は寄り添うものなぞ必要ない」
「そう、そうですね。少なくともアンタは俺には縋ったりしないでしょう。崇拝ってそういうものだから」
崇拝なんて自己満足だ、そこに神の意思などありはしない。それで良かった。それでこそ高潔な彼であるのだと頷けるのだから。
――愛せば愛する毎に何かを失っていく。
――慕えば慕うほどに欠けていく。
それを崇拝と言わないのなら教えてほしい、教師である彼なら教えてくれただろうか。
目蓋を舌で捲り、そっと表面へと触れた。弾力すらなく、只管に硬質なそれに彼は身震いすらしてはくれなかった。指先を彼の犬歯が突き立て、めりめりと食い込んでいく。へし折られる痛みすら遠く、何かに姿を変えてしまった瞳にざらついた舌を這わせながら、彼の柔らかな髪へと空いた指に巻き付けた。
サボンの香りと、微かに混じる油絵の具のべとついた匂い。此処だけが異質だった。此処からは部活動をする生徒達の張り上がる声も、風がポプラを撫でる音も、何もしなかった。埃臭い神聖な美術室では、互いの鼓動も呼吸音も何の意味も成さない。
美しい何かになりたかった。彼に侵食して彼の一部になりたかった。大人に近く遠い曖昧な体では、心では彼の何処にだって辿り着けない。それならば、せめてずっと精神の内側を掻き乱してほしい。その気がなくて結構、ファム・ファタールはそうあるべきだ。銀の皿への供犠にすらなれぬ自分だけれど、自分の首を掲げて喜ぶ彼も想像できないけれど。
「俺は、貴方を赦します」
瞳から伝う唾液が涙のようにきらきらと滴って、黒目は黒曜からビスマスの多彩でぎらついた光を放っている。奥では未だに炎が燻る。瞳は干渉を受け入れた。軈て光を閉ざすように細い睫毛が覆い、翳りを生み出す。水珠を纏ったそれはビスクドールの憂いを含んだ毛先にも似ている。
「私が何をした」
「知ってるくせに」
右手がかたりと震えていた。未だ血の滲む指先からは結晶化した何かが床へと落ち、弾けては小さな閃光を放つ。次は星が彼を求め始めた。無機物の求愛に目もくれないままに、彼はじっとこちらを見据えていた。半身が茜に染まる頃、彼は厚みのない唇で何やら象っていたが、それすら無音に掻き消されていく。
この男には罪さえ似合わない、身の丈に合うものなぞ、この世にはもうないのかもしれない。そんな偏った見方でしか彼を見詰められないのだから、これは正しく崇拝、なのだ。
そして自分に出来ることといえば、彼が齎す運命に弄ばれて、良い終末を迎えるために手筈を整えるだけ。
「先生、俺はね。貴方で最高の偶像を創り上げたいだけなんですよ」
だから、ね。怯えないでくださいよ。選んだ運命にはそれだけの羨望と偏愛が、込められているということ。
彼は殊更驚きもせずに瞬きをした。変異のファム・ファタール、彼がすぐに運命に落ちないことも、唯一の偶像になってくれはしないことも何もかも、その目でお見通しということだ。
Have a good end.