水底の銀河鉄道

西洋の昔話、
ある湖の奥底には、図書館がありました、人魚たちの図書館であって、そこには、たくさんの人魚がすんでいました。
人魚たちには、本当の母と父の姿はわかりません、だれにもわからないのです。
誰が誰の子で、それどころか、母と父さえ、どうやって子供を産んだのかわすれています。
そんな湖の奥深くに、あるときふたつの命が同時に誕生しました。
ふたごのようにそだった、幼馴染の、ジミとケルです。

ジミは、男の子でした。
ケルは、女の子です。

16になったある日、ジミはいいます。
「しっているかい?ケル、僕は、見た事がある、地上世界の秘密の道具」

幼少期、ジミのほうが初めにみたのは、飛行船でした、ふわふわと空中をただよっていました、
湖にときたま浮かぶことがある、船乗りや、遊覧船のように、地上の上の湖をふわふわと、
あれは湖だった、そらは湖だった、本当はここと何もかわりがないんだ、
幼いながら、ジミは自分があの大きな湖で泳ぐ事もできるかもしれない、何かしらの発明が可能かもしれない
水中に水流の流れがあるように、空にも風の流れがある、そこまではしっていたのです

ですが、その希望は、ジミがケルに話したあとの、16のときに打ち砕かれました。
砕いたのは、飛行船ではなく、潜水艦でした。
一風変わった人間が、個人でつくった潜水艦。
つくりが全く違う、飛行船とは違う。
ジミの希望はうちくだかれたのです。

しかもその船は、幾度となく湖にやってきたかと思うと、
地上のものを、地下の、人魚の図書館へ運んでくるようになったのです。
ジミは思いました、気に入らないと。
彼は、若い男でした、彼は森でとった動物や、鳥や果物をおみやげにもってきて、図書館を観光していきます。
そんなことを何度かつづけていましたが、
たった一度、かわりに要求したのです。

「ここにうるわしい女性、僕の人生の伴侶となる女性がいるはずだ」

はじめに、ジミが彼と一緒につれていかれました、ヌシの判断です。
しかし、人魚たちに、男女の概念は存在しません、
ですが、ジミはさとっていたのです。
「この人間とは性格があわない」

山の暮らし、あるいは男が稼いだ金で、都会にいくとき、
きらびやかな街の街頭や、ビルの明かりに目がくらみます、これが“地上の海のしくみだ”
と漠然とおもったのです、彼女は、もてはやされました。
しかし、漠然と空虚でした。
彼女の瞳も、まゆも、鼻も、とても、とても口では言い表せないほどにめずらしく、また美しい
並みの人間、いいえ、人間とはまた違った、美しさがあり、彼女は多くの人間に話しかけられ、もてなされたのです。
ですが、あるとき空虚さと退屈さに耐え切れなくなって、
湖にもどってきてしまったのです。
ポチャリ、と海に自分の体をしずめれば、洋服はぬげ、自分の足を、あるくためのものではなかったあしを
器用につかって、人間のフリをする必要もない。

それから、一年ほど、件の潜水艦は、海底に姿をあらわしませんでした。
しかし、最後に現れたとき、彼は意外な事をいったのです、
その前日に、ジミとケルは、いつもと同じ、本をよみながら、お話をしました。
銀河鉄道とよるという本です。

「ねえ、昨日飛行船をみたの、あんなにきれいだったのね、私いってみたいわ、あなたもいっていたでしょ、綺麗よ、飛行船」

「私は、僕は、もう行きたくないな」

「飛行船をみたの?」

「どこで?」

「地上で」

「みてないよ」

ジミは、その問答すら退屈そうに答えました。
地上でみても、水中でみても同じことです。

その一年後、たよりがきました。
あるとき、失踪したケルからでした。
最後に潜水艦があらわれたとき、図書館の人魚たちにむかって、彼はいいました。

「僕のあてがはずれたというなら、僕は二度とここにあらわれない、もう地上にいってみたい人魚はいないのか?僕は、昨晩、夢でみたんだよ」

それから一年後ジミに届いたたより、それは、ケルからのものでした。

「私は地上でしあわせにくらしているわ」

意外でした、誰も、彼の相手をしなかったとおもったのに、いつのまに、ケルは潜水艦にもぐりこんだのか、
ヌシさま、つまり、この図書館の主すら、そのことをしりませんでした。
皆失踪したと思い込んでいたのです。

 それから、たよりがきてから、ジミは、湖の生活が一層退屈なものになりました、でも地上はもっと退屈です。
あまりにも胸がくるしく、息がつまりそうな毎日、
それでも、ケルは何度も何度も、ジミにたよりをよこしました。

 ジミにはひとつ腑に落ちない事があって、あるとき、ヌシさまに聞きました

「ヌシさま、なぜですか?私が地上に憧れたのは、なぜでしょうか?」

「どういうことだい?」

図書館の奥におおきなとびらがあって、そこがヌシさんのすまいです、すまいには、秘宝がたくさんあります、
地上からふってきた、ガラスや、人間の世界でつくられた色々な道具、家具、テレビまであります。
それを呆然とながめながら、ジミはいったのです。

「ヌシさま、私が初めにあこがれたのです、でも私は、そのあこがれを、ケルにわたしました、なぜだと思いますか?」

ヌシさまは答えました。
つえをつき、しわくちゃの顔の、老婆がこたえました。

「いいかい、それが幸せなんだよ、お前ははじめから、幸せについてしっていたのだ」

それだけでは楽にはなりませんでしたが、
ジミは、この湖から、再び地上世界へのあこがれについて、考えることにしました。

水底の銀河鉄道

水底の銀河鉄道

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-16

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