シンガーソングライター

あなたの言葉を、あなたは歌う。

ギターの弦に指の先の皮膚が触れる
本当に微かな音が
先程までの話し声や 店内音楽よりも
鮮明に響く。


ステージにあたる灯りは
宙に舞う小さな小さな埃までも
照らし出すほど明るい。
そこに影を落として立つ。
あなたはシンガーソングライター。
今からあなたはきっと
なんともないような、
でも誰かに言いたかったようなことを
あなたの語調のようなギターに乗せて
話してくれるんだろう。



ライトの中であなたは
雄弁に、それでいてかろやかに。
あなたの言葉をわたしの手にそっと乗せるように。
時には真っ直ぐに視線を投げかけて。
時には躍動的な歌声を走らせて。 歌う。



その瞳に映る灯りが、
あなたが目を細めて笑うと
宙に跳ねるように溶ける気がする。
汗で少し濡れた前髪を額に貼って、
年齢を見失うくらい笑ったあなたの表情が
何よりも素敵だと思った。



ステージの上で自分の言葉で、
自分の音で、音楽をするということは。
本当はとても勇気のいる事だ。
勝手に是非を感じる他人に向けて
自分を表現するというあなたは、
とてつもない勇者だ。
あなたがステージに立つ回数によって
どんどん忘れてしまいそうになるけれど、
あなたの歌う顔は、それがどんなに勇ましく、
誇り高いことかを思い出させてくれる。


マイクの瀬戸際、ちいさく聞こえた
ありがとう。に、明日からの生活を
わたしなりに生きていくことを
あなたと約束したような気持ちで。
そんな会話は交わしてはいないけれど。
また日常でわたしを生きていくために、
行ってらっしゃいを言われたような。



そんな気持ちでわたしはライブハウスのドアを閉めた。

シンガーソングライター

親愛なるシンガーソングライターへ。

シンガーソングライター

私の好きな弾き語る方々へ向けて。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-14

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