少数電波ラジオ 後編

少数電波ラジオ完結偏

ひどい読みにくいですが、すごい楽しかったですありがとう。

-キーンコーンカーンコーン

1限が終わるチャイムが鳴る。
勿論次の2限が始まるまでには余暇がある。準備期間

「10分休憩」だ。

この期間、先生達は監視の任を離れ、各自生徒達は自由に過ごす事ができる。
教室の移動、私語、談笑、筆談、復習、予習、妄想、創造。
弁当箱の開封や、学校外へのアイキャンフライは禁止となっているが、これを示唆している場合ではない。


机に到着した途端、自分の机の居場所はどこにあるのだという数のプレゼントが自分の机を覆い隠していた。

「こんな数、全校生徒越えてんだろ・・・」

落胆している場合ではない。奇異な目が自分に向けられているのは百も承知。あらかじめ用意した大きな白い袋にそれを詰め込み、教室の隅へ追いやるまで実に一分足らず。

「わー、ちゃんととっといてくれるんだー。素敵!」
「優しいよねー。私のプレゼント気付いてくれたかなー?」
「私、今日こそ言っちゃうんだから!」
「きゃきゃきゃ」

女性の妄言を聞き流し、俺はラジオのスイッチを入れる。
ガサガサしたノイズを聞きながら、俺は着席と共に机に突っ伏し、不貞寝を決め込む。
どうか、この体制で放課後まで何も起きない事を願いながら

「さぁ!今日もやってきました!モーニングもぐりんぐ!今日はどんなコアな場所にもぐりこむのでしょうか!この番組はサンライz・・・」

「さーてここで、今日のモーニングもぐりんぐ。終了のお時間となってしまいましたー」
「いやー、すごかったですね今日も。まさかあんなとこにあんなものがあるなんてー」
「そーですね。さすがに国際警察が出てきた時はこの番組もついに終わりかと思いましたよ(笑)」
「そうですねぇ、ギリギリでしたが何もなくてよかったです!いやー、興奮した!」
「それではまた次回!お別れはこの曲で-プロジェクトX「未知との遭遇」-」

ラジオが丁度終わってしまったのは休憩時間であった。
急に耳元の娯楽がシンと静まったと思うと、外界とのコネクトが始まる。
うっすらと誰かの話し声が聞こえる。
体をゆすれられているような感覚まである。
そうか、少しだけ寝ていたのか自分は。そういえばラジオも途中が少し聞けていないようだ。俺とした事が。

「・・・ね・・・もう・・てるの?」
「・・・たない・・・ておこっ」

外界の音が少し聞こえてくる。なんだ?
ふと伏した顔を少しだけあげてみる

「!!!」

なんという事でしょう。プレゼントタワーではありませんか。
俺の席の横に。ゆらゆらと新築プレゼントタワー、略してプレタワーがたっている。
スカイツリーをも思わせるこのタワーはあと少しで天井の蛍光灯に触れそうな高さだ。孤高である。
意味が分からない。

「くっ・・・」

これでは先生が入ってきた途端、俺が目をつけられ、いらぬ尋問を受ける事になるじゃないか。そういう優しさはないのか。女性というものは。
俺はすぐさま立ち上がり、先ほどの白い袋にせっせと詰め込んだ。新築プレタワーはあっという間に崩れ去り、脚光を見ずにその生涯を閉じた。
そうしているうちに、またチャイムが鳴った。
俺はまたラジオをつける。


こうして昼休みまでやり過ごした。
強敵休み時間には、怒涛のプレゼント攻撃や、何としても話しかけてやるぞという目覚まし作戦が俺の頭上で執行されていたが、俺には効かなかった。また1人、また1人と諦めの声をあげる女子が俺の前から消えていった。そうして昼休みとなった頃には、長蛇の列ができていたが俺には関係ない。昼飯の一つや二つなんだ。そんなもの家に帰ってから食すに決まっているだろう。
なぜ見ず知らずの他人と食べねばならんのだ。嫌なこった。
その時だった
いきなり、体がすっと宙に浮いた。

「よお。」

「・・・・・。」

「何聞いてんだ?」

「・・・・。」

「俺はもう我慢ならねぇ。ちょっと面貸せ」

ついに恐れていた事が起こってしまった。
男子だ。男子が列にまぎれていたに違いない。いや、間に割って入ったのか。それはどちらでもいい。
強行派だ。これは手がつけられない。これだけ目立った行動をしては、目をつけられるのも当たり前だ。相手は誰だろう。上級生か…いや、同級生にいる”剛田”でなければそれでいい。あいつは嫌だ。筋肉でできているような頭しかないくせに、その力は常識を超えている。しかし、その身体は実に華奢でスラッとしているから、何も知らなければただの好青年なのだが…。
俺はそのまま胸ぐらをつかまれたままふわふわと宙を舞うように、男子トイレに拉致された。
最悪だ。

「ケヘヘ、ついに捕まえましたねぇ」
「ああ。こいつだ。」
「ケヘヘ、着いてくる女は蹴散らしときやしたよ。後はすきにしてくだせえ」
「おお。」

取り巻きもいるのか、気持ち悪い笑い方だな。

「後は失礼しやすぜぇ」

やめろ、名を呼ぶなよ。あの名を・・・。

「”剛田さん”」

くそおおおおおおおおおおおおお

ドンッ

壁に押し付けられる。実に衛生的ではない。青いタイルに押し付けられ、胸ぐらを掴まれながら徐々に上昇する俺の身体。
ああ、もう俺は終わりなのか。グッバイマイストーリー

「おい、お前。最近調子に乗ってるみたいだな」

「な・・・別に」

「透かしてんじゃねえよ、女子にちやほやされやがってよぉ」

剛田が顔を少し伏せた
何か様子がおかしい

「はぁ・・・?・・・すきでそうなってんじ・・・ねえよ・・・ない・・・です」

キッっとこちらを睨んできた。怖すぎる。
だがその目にはあまり悪意というか、脅威は感じられず。
どちらかと言えばそう・・・みつめられているような印象だった。

「んなこたどーでもいい。なぁ・・・俺のきもちしってんだろう・・・?」

はい、充分に。
女子にモテる俺が気に食わないんですよね。だから俺をしめて、憂さ晴らしをしようと、なるほど。単純明快。清清しい。
と、ここで内ポケットに手を伸ばす剛田。いや、ナイフとかそういうのはまずいんじゃないだろうか・・・。
俺は血の気がひき。とっさにパニックになった。

「うああああ!はなせよおおお!!」

俺が暴れると同時に、大きな声が聞こえた

「・・・くん!!!」

トイレに響き渡ったその声は、おそらく出入り口の方から。凛として力強い、気持ちの良い声だった。俺のよく知る声だ。

「先生!!!」

俺が叫んだせいか、少したじろいだ剛田は、手の力を弱め、ストンと俺は地面に落ちた。

「なにやってるの!早くこっちきなさい!」

現われた先生に手を引かれ、トイレを脱出。その時尻餅をついた剛田の胸元から、これからの人生、あれほど見なければよかったと後悔するものはないであろうという品物が、ころころとトイレを転がるのがみえた。
先生は俺の手を引き、他の生徒も気にせず、全速力で屋上まで俺を引っ張っていった。途中ちらっと覗いた先生の顔はどこか悲しそうで、目元が光って見えた。


俺と先生はこの高校に入学した当時の生徒とクラス担任だった。人に馴染みにくい俺を、先生は特に心配してくれたのか、よく二人で屋上に行って、相談にのってくれたり、いろいろな話をしてくれた。その度に先生は、ラジオの話を聞かせてくれた。この世界にはその地域にしか流れていないラジオがたくさあって、その地域にあったお話や情報を放送しているんだって。その中でも極少数の地域にしか流れていない少数電波ラジオていうのがあって、そのラジオを最後まで聞けた人は、なんでも願い事が叶うんだって話してくれた。そんな話自体は信じなかったけど。そんな話をしてくれる先生とか屋上の風景とか、ラジオの事が次第にスキになっていった。

「ねえ、あの話覚えてる?」

「あの話?」

「少数電波ラジオ」

「あー、はい。何回もされたので、一応」

「そんなにしとらんわ!」

「はいはい。それでどうしたんですか」

「私聞いたの。」

「え!ほんとにあったんですか?なんでわかるんですか?」

「なんとなく。その当時は私すごいラジオオタクで、この時間には何が流れているかっていうの把握していたの。それで、この時間帯はどの局も放送していない時間だってのがわかって。もしかしたらって。」

「何かのイタズラではなくて?」

「もー。・・・でも信じられないのはここから」

「?」

「私お願いしたのよ。あなたに友達がたくさんできますように。って」

「え、僕ですか?」

「そうよ。一番の問題児だもの」

「はぁ・・・」

「そしたらどうなったか。あなたの方が詳しいんじゃない?」

「あれもこれも先生のせいだったという事ですか。」

「・・・ごめんなさい。」

「どうしてすぐに言ってくれなかったんですか。」

「言おうかとも思ったんだけど、始めはホントに友達ができるかもって思って。なんだかあの噂が本当だったのが嬉しかったのもあって」

「先生なのに言い訳がましいですねぇ」

「勝手な迷惑かけたよね。ごめんなさい。」

「ほんと、大変でしたよ。」

「ごめんなさい」

「・・・・。でも一番危ない所を助けてもらったので、感謝しますよ。」

「・・・。」

「先生がいなければ今頃・・・。」

「今頃?」

「悪寒がすごいのでこれ以上は口を慎みます」

「何それ」

先生が笑った。少し、控えめに。

「これから僕、どうしたらいいんでしょう」

「んー、そうだなぁ。でも多分大丈夫じゃないかな。」

「何ですかその根拠のない、自信は」

「何かあったら私が責任をとります。」

「ははぁ。権力ですか。」

「私、先生なので。」

「それは頼もしい。」

「でも本当に大丈夫だと思うよ。そんなにずっとこんな状況が続くわけないし。」

「なんでそんな事が言えるんですか?」

「さぁてなんででしょうね」


先生はそう言って、校舎の方に歩いていった。でもやっぱり強がってはいたけど、先生は申し訳なかったのだと思う。
そんな感じがした。

「先生!」

俺は叫んだ。
先生は振り返った。笑顔で

「何?」

「誕生日おめでとう!」

くくくっといたずらな笑いを浮かべて、先生は校舎の方へ消えた
その背中は、さっきよりは幾分かいつもの陽気な先生に戻っていたように見えた。
やっぱり先生はかっこよくて、きれいで、かわいい、とても人間らしい人だと思った。
俺は前よりも、先生の事が好きになった。




それから数日。
先生の言ったとおり、俺のモテ期は終わりを告げた。またいつもの日常に戻りつつある。
しかしみんなの記憶が消えるわけではなく、俺はどうにも触れにくい存在になったようだ。
このままでは完全に、卒業まで孤立するなと考えていたが。これを打ち崩したのは以外にも剛田だった。
剛田もラジオがすきらしく、俺とその話をしたかったらしい。俺と剛田はラジオの話を中心に打ち解け、友達になった。
友達というのは1人できてしまえば、あとは芋づる方式。聞こえは悪いが、この方式で俺も退屈しない程度に孤独ではなくなった。
さて、剛田の胸元から転がり出たあれだが、剛田に問い詰めたところ、あのトイレでの出来事はあまり覚えていないらしい。ご都合主義だ。
俺がどれだけ剛田に近づかれるのを戦々恐々としていたか。今では笑い話である。
俺と先生の仲を語るのは少々やぶさかではある。しかし関係は続いている。先生は相変わらずかわいい。
先生がなぜ、このモテ期終了を予知していたのか、最近は少しわかる期がしてきた。

すきなものに裏切られるほど、惨めで悲しい事はない。
先生は信じていたのだ。大好きなラジオの事を。そして俺の事を。
なんて言ってる間にも、今日もどこかで少数電波ラジオは流れているに違いない。

「さぁ!始まりました!今日も監獄プリズンGO!新タイトルでお送りしています!今日のゲストはなんと!あの大犯罪者!全米を震撼させた、切り裂きジャック!の子孫!ジャック・ジャッキ様ですー!」

「i kill you!!」

「はい、お願いしますー!ぎゃああー!」


「やっぱり質落ちたな・・・。」



End

少数電波ラジオ 後編

書いてみるとやっぱり難しさがよくわかります。
なんだかんだでこんなにちゃんと完結まで書くのは久しぶりでした。
やっぱり最後まで書くのが一番いいと思います。

いやーでも楽しかった。

少数電波ラジオ 後編

究極のモテ期。 ばったばったと女子の群れをなぎ倒していくがそれでも尚眼前には女子の群れ。 その時起こった一番恐れていた事態。 男子の登場。 そしてこの現象の正体とは・・・! 完結偏。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-22

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