七不思議の井戸

yumieisuke


あるとき、意識がふわふわとした空間の中で、僕は死神と出会った。
暗闇の中、僕は死神と会話をしていた、僕も死神も、少年の姿だった。

「ほつれているんだ、
心臓は布でできている個所もあるよ、
物理的なものではないが、赤い糸と布でできている。
君の心臓はほつれているばっかりで、あの頃とかわりない、適当な人生だねえ」

「心臓をまるで巾着袋みたいにいわないでください」

「君は代償について考えた事があるか?」

「なに?」

しにがみは、えへんとせきこみ、ふりあげていたかまを、かたにうつし、かたとひじのうらがわで
ささえるかっこうでもって、らくなしせいでしゃべりなおした。

「幸せの代償」

「しってるよ、自分が我慢することだ」

「いいや君はしらない、しらないからここにいなさい、いつか僕の代わりをするといいよ」

「ここってどこですか」

この死神はふざけた死神だ、まるでゆるきゃらみたいな顔とからだで、しゃべりながら、ふいに、
ひらりと一回転して、
どこかむこうの暗闇の中へさっていってしまう。

「ここだよ、すぐにまた会える」

はっとすると、眼をぱちくりとわざとらしくうごかした。
僕は、井戸をのぞき込んだ姿勢のままで、自分が軽く意識を失っていたのだと
きがついた。
がばっと、姿勢を立て直す、井戸、そして地面、土の地面だ、苔や、雑草もおいしげっている。
小さな石、ここは民家か?ともかく建物の、どこか建物の、敷地内。

「いったいなんだったんだ、そしてここはどこだ」

「サトル!!」

「君は……ヒトシ」

後ろからこえがかかる、声だけでわかった……。
ふりかえろうとしたが、首がこっていて、半分もうごかなかった、
制服のヒトシは、僕の背後でたちつくし、スマホをにぎりしめて、そのまま僕にしゃべりかけていた。
顔がよく見えない、まるでぬりつぶされたみたいだ。
そうだ、こいつはヒトシ、大親友、今?は高校の同級生。

「サトル……いわないのか?いわないなら俺が」

その瞬間、あたまがぐらり、つづけて二回、ぐらり、ぐらり
なんだか、奇妙な光景だった。
腕時計がゆがむ、つづけて景色がゆがむ、

(この井戸は学校の裏手にある、
よくある七不思議のうちの一つの……いや、思い出せないが、どんな七不思議だったろうか?)

ふらりふらりと、ひざをついた姿勢のまま、井戸をのぞき込んだままの体をどうにか
たてなおそうと、井戸のへりにつかまって、僕はたちあがる。
井戸を設置するための小屋のような、簡素な木の枠組みがある。
そして、振り返った背後には、ヒトシ、背景には校舎を囲む木々、敷地内の芝生やら、コンクリート、土
渡り廊下、薄汚れた校舎の背面。

「サトル…サトル」

そうだ、こいつは何かをいいたげだった、あの時、何を言おうとしたのだ。
今と、過去が交差して、頭の中を駆け巡る、
こいつは何をいおうとしていた?何をいおうとしているんだ?

ふと、脳裏をよぎるものがあった、こいつの一番かっこよかった瞬間の事だ、
こいつは、あのとき、部活終わりに、テニス部のミキちゃんをよびだした。

「ミキちゃん、好きだ!!」

そこは校舎の二階。
サトルは、俺の前で、夕暮れにそまる僕らの教室の中、僕らのクラスのヒロインに告白した。
相手の彼女の返答は快諾だった。

「サトル……言わないのか??」

それは、こいつが、あの告白の前に、俺に聞いてきたこと。
なぜ、あいつが俺の気持ちをしっていたのか、今でもわからない。
しかし、こいつはどうして、どうして。
いま、ゆがむ景色の中で、もっとも、その中心というかのように、
まるで天気予報の台風の眼の中心のように、画像がゆがみ、その中心点が、ゆがみの勢いが、
すべてサトルの顔の真ん中に収束していく。
次にきこえたのは、親友のヒトシ、こいつの叫び声だった。

「サトル……いわぁなぁいのかぁああ!??」

とたん、思い出した、
この井戸で、この井戸で、サトルはきっと何かをみたのだ。
七不思議のひとつ、“死期のわかる井戸”
覗き込んだものの死期を、その映像を、その人間に語り掛けるという第三西高校の井戸!!

(なつかしい)
なぜ、そんなことをおもったのだろう。
彼はこの後どうなるのだろう、いや、これ以前?いや、たったいま、彼の身に何かおきたのか?

ふいに、優しい声が耳元でささやいた気がした。

「サトルくん、おきて、二人して、大酒のみなんだから」

これは、何年かたったとき、大学時代の思い出、二人はまだ付き合っていて、それで……。

●イン!!●イン!!

けたたましいスマホの音で目がさめた、

「ああ、うるさい、今何時だよ」

現実の僕は、自室のベッドによこたわっていたようだ。
携帯を見ると午後8時42分。
休みなので、大分ねてしまった、少し後悔した。
深夜までゲームをやりすぎたかな、大学生自体を思い出す。
アプリを操作して、受け取ったメッセージの内容を確認する、指先は、手慣れた動きを繰り返す。

「なんて夢見たんだ、ホラ、ヒトシいきてんじゃねえかよ、変な夢」

(何々?メッセージはっと)

———覚えてるよな、来週、ミキの3回忌だから、一緒にたのむぜ、な。

僕は、心の中にくすぶっていた、我慢したままの感情に寂しさをおぼえたのだった。

七不思議の井戸

七不思議の井戸

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-14

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