*星空文庫

暑苦しい

ネモ 作

電気を消せば消炭色のような鈍い暗さが広がるワンルームはこの時期になるとサウナ室のようにジメジメと湿気を帯びていて、寝巻きにしているノースリーブに汗が染み込み始めて鬱陶しかった。

夏の暑さに備えてショートカットにした髪も、首元は水分を含んでせっかくのブローしたのが台無し。

もう寝るだけだからいいかなと、ラインをしていたスマホの明かりを左手に持って窓際に近づいた。


右手でカーテンを開け、そのまま網戸にした。
外からは車の音がしてここには私が1人だけではないと思わせてくれた。

そして消炭色の部屋には街灯の淡いオレンジ色が差し込んでいる。

まるで夕焼けと夜を混ぜこぜにしたような、そんな塩梅の明るさが部屋を包んでいる。

なんだかそれがひどく落ち着くのだ。

そして1人になってしまった部屋で君がいたならと考える。

君は金髪で、こんな部屋じゃなくてカラフルな色の照明の下にいるのが似合う人だったね。

けれど好きだった食べ物は煮物とカレーだったけ。
私が作るといつもバイトそっちのけで帰ってきてはクビになってたよね。


気づいたらハタチを過ぎて、専門を卒業して就職して…私は美容師、君はダンサーとして別々の道を歩み始めた。


私は新人で、なかなか上手くいかないし失敗どころか迷惑ばっかりかけていて。
1人残っては電気がもったいないから自分のいる位置のライトだけつけてカットの練習してたんだ。


君はどうだったのかな…12時ごろに家に着くといつもはいないけど月に3回ぐらいは私を待っていてくれて話をしてくれたよね。

その話をする君の表情はカブトムシを取った子供のようでいて、どこか大人の雰囲気を持ち合わせていて、官能的で…いつも手を引かれて最後まで聞けた試しがなかったね。

私君の低くてどこか柔らかい声好きだったよ。
途中で手を握ってくれたり、頭を撫でてくれる気遣いが細かいところには癒されていたし、君の腹筋はあまりに美しくて毎回見惚れるし…君の体温は高めなのに夏場でも全然暑苦しいって思わなかったの。
君は私の体温は低すぎる、気持ちいいけど流石に心配って怒ってたなぁ…
そして次の日には必ず私の好きなパンケーキ作ってくれるから毎朝腰は痛いけれど楽しみでもあったんだよ。

料理ができない君が1つだけいっぱいいっぱい練習して到底私は勝てないぐらいうんと美味しいのを出してくれたよね。


今それが猛烈に食べたい。
だって夕飯作り損ねて食べるものないんだもの。

それに夏が始まって暑いのに、ぬくもりが足りなくて、開いた空間が広くて、このままじゃ寝相がまた悪くなっちゃうよ。

明日の事を考えるのが切なくてキューっとどこがか締め付けられる。

今はタオルケットでさえも手放しがたい。

君のいない夏は冬よりもずっと辛いかもしれない。
君は今その部屋でなにをしているの、一年半前の冬に君は雪のように白い顔で白い病院の中に居たよね。


真っ赤な血を流して、その血を浴びた男の子が泣きながら私にごめんなさいって言ってたの。

責められるわけがないじゃない。
照明が落ちてきてその子を庇ったなんて、人がいいなぁ流石は私の恋人って思っちゃったじゃない。

そこから君は目を覚まさないね。
体温は私よりも低くなっちゃったし、私が君を待つ番に切り替わっちゃったね。

期限は来年の夏。今年は平成最後の夏。
年号が変わって全てが新しくなった夏までに目を覚まさなければ、君は過去のものとして消されちゃう。
違うそんなドラマチックなものじゃない。
死んだとみなされて、君の望んだ通りに君の一部は他人の為の物になって、骨だけで家に帰ってしまう。

ただ待ってるだけ、そんな目眩のような悪夢が続く夏なんてこの世の地獄だと思うの。

だからどうか早く目を覚ましてほしい。

君を偲ぶのを待つ夏はあまりに暑苦しすぎる。

『暑苦しい』

暑苦しい夏の話でした。
今年はあまりにも暑いからこんな話を書いてしまったんだと思いたいです。

相手を偲ぶ準備をする夏…最高に嫌ですね。寒気すらします。しかも平成最後の年にそんな夏を過ごす人がいたならば…私からすれば地獄のようですがもう何年も1人、2人と増えては消えています。そんな夏が一区切りつきますように。

ここまで読んでくれてありがとうございます!!

『暑苦しい』 ネモ 作

暑いのにどこか寒い話。夜中に彼女が部屋で淡々と考え事をしているだけ。鬱々としてシリアス気味。 きっとこんな夏の夜もあるはず。

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  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-07-13
Copyrighted

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