スターチス なごり雪

ここはとあるのどかな田舎町。町民千人もいないとても小さな町。近隣の村の何個かは盗賊に襲われてるらしい。まぁこんなところの辺鄙な町には誰も来ないが。
「ウォォォリャ!」
キンカンカンドォン!
そんなのどかな町にそぐわない物騒な物音が太陽が上がる時間とともに聞こえてくる。
「ファ〜。おはよう。」
「おはよう。今日もせいが出るねあいつら。」
「もはやこの町の鶏だよね」
そう。もはやこの物騒な物音はこの町の目覚まし時計になっている。
「イテテ…クソッ!」
「そんなんで終わりなのか。達者なのは口だけだな」
「ウルセェクソ親父!大人が子供相手にムキになってんじゃねぇ!」
「相手が本気かどうか見分けもつかんのかバカ息子。」
「ウッセェ!とっとと死ね老害!」
まぁ…なんていうか…とにかくこの生意気そうなのが今回の主人公である。



「ハァハァハァ。」
「今日はここまでだな。さて店の準備をするか。」
「もうやってられるか!なんでこんなことしなきゃなんねぇんだよ!」
「もう弱音を吐くのか。思った以上に根性無しに育ったものだ。」
「そう育ったなら育てたテメェの責任だな。」
「自分の性格も人のせいか。まぁ責任は俺にあるが開き直るように育てた覚えはないぞ。」
「マジでウゼェんだよ!育てた覚えがねぇなら俺に構うんじゃねぇ!」
「バカがどこかでのたれ死んだら俺の誓いがなくなってしまうからな」
「あ?誓いダァ?」
「お前を守る。お前が生まれてくる前から俺が誓っ」
「気持ち悪いんだよ!もう俺に構うんじゃねぇ!死ね!」
そう言って俺はその場を去った。決して逃げたわけじゃない!逃げたわけじゃない!
俺は気づいたら見知らぬ神社にいた。かなり山奥の神社で今まで見たことがない。
「ハァハァ。ふーん。こんなところゼェゼェに神社があったのか」
今どこだろう。周りを見渡すと見覚えはあった。小さい頃よく親父に連れられて散歩した山。なにかとここに連れられてきた。だが…
「こんな神社無かったぞ…」
たしかにここは昔の散歩コース。それこそ毎日朝来てたからわかる。絶対ここに神社はないはない。
「導かれし迷い人よ」
何か神々しさすら感じるその声が脳に響く。
「だ、誰だ!」
「お主がここに来れたということは何か強い想い。願望、呪い、祈願。想いの種類は様々だが強さが尋常ではないほどでかいもの。それを持っているな」
俺の強い想い?なんだろ?彼女が欲しいとか?
「いや彼女が欲しいとかではない」
え、心読めるの?こわ!
「親族に勝ちたい。おそらくそんな願望であろう。」
あーそれかぁ。
「そうだな俺はあいつに勝ってギャフンと言わせたいな」
「つまり勝つための力が欲しいと。」
なるほど力か…たしかに欲しくはある。だけど
「チート使ってまで勝ちたいとはおもわねぇよ。そうだな。なにか弱み一つでも握れれば握りたいな」
「なるほど自分で勝ちたい。そう申すか。よろしいならば貴様にそのチャンスを与えよう。」
「いらねぇっつてんだろ!てか名を名乗れ!」
そう言った瞬間。目の前が光る。謎の光に包まれ数秒。ようやく光が収まり、さっきの森が目に入る。神社は見渡すがどこにも見当たらない。
「一体なんだったんだ?」
そう思うと足音が聞こえる。これは親父特有の足音!長年あいつを観察してるからあいつの足音だけは聞き分けられる。
「テメェ着いてくんなっつったろ!」
「ギャァァァァァ」
俺が殴りかかろうとしたら目の前にいたのは憎っくき親父ではなく、俺と同じくらいの子供だった。
「ヒッヒッな、何ですかヒッ。いきなりヒッ殴りかかるなんてヒッヒッ」
泣きながら俺に質問してくる。あれ?足音聞き間違えた?俺が?
「泣くんじゃねぇ!クソガキ!ブン殴るぞ!」
「ビエェェェン殴らないでェ〜。」
あー腹立つ!泣くんじゃねぇよ!クソガキが!


「お前なんでこんなところに?」
とにかくなだめ泣き止ませて質問している。
「お父さんの稽古がつらくて逃げて来たんだ。」
「ふーんなるほどな。」
「弱虫って言わないの?」
心底不思議そうな目で俺のことを見つめる
「逃げたくなるの誰だって同じだよ。ただそこから逃げて逃げたと認められる、自分の弱さを認められる強さを持つやつを俺は弱虫とは言わない。」
だからいまだに認められない俺の方が…
「意外と優しいんだね」
「まぁお前は弱虫より泣き虫って感じだな。」
「え、ひどい…」
「これからお前のあだ名泣虫な!」
「いやだよそんなの!名前だってしっかりあるのに…」
「覚えるのめんどいから教えなくて大丈夫な」
「君のことはなんて呼べばいい?」
「うーんそうだな。じゃあ俺のことは兄さんって呼べ」
「えー名前がいいよ〜」
「あにさん!」
「わかったよぉ。もう大きな声出さないで。」

「「あはははははははははははは」」
こいつとは少しの時間の付き合いだけど、なんか腹を割って話せる。こんなやつ初めてだよ。
「そういえばあにさんはどこから来たの?」
「ここから一番近い町だよ」
「え、。そこ僕住んでるけど見たことないよ?」
「お前そこに住んでるの?見たことないんだけど。」
??なんだ?こんなやつ見たことないんだが…。
「!?」
「どうしヒッ!」
こいつも気づいた?この足音を?俺の雰囲気が怖くなった?そんなことより
「近くにいるな…」
「多分5、6人だよね?」
気づいてたのか。てかこっちに近づいてね?
「お、こんなところに子供がいるじゃん。」
やば。見つかった。ここは逃げるか
「おいおい逃げられると思ってるのか?」
逃げようとしたところ周りを囲まれてたみたいだ。
「どどどどどうしよう!」
「おい暴れるなよ。大丈夫殺しやしねぇよ。ちょっといっしょに付いて来てグフッ」
今のは多分下っ端だろうなボスは一番後ろにいる。不意をついて気絶できたけど多分もう…
「あーあやっちゃったよ。せっかく痛め付けずに行こうとしたのに。」
「できるもんならやって見やがれ!てめーらの骨を一本でも多くへし折って敗けてやる!」
「無理だよこんなの〜泣。もうだめダァ」
ガチ泣かよ。マジか。
「無理は百も承知!でもな、俺は無理でもお前だけは絶対に逃がしてやる。だから気ぃ抜くんじゃねぇぞ!」
さて覚悟決めますか。多分死ぬだろうな。ただこいつだけでも逃がせれば上出来か。
「友情ごっこは終わりか?ならとりあえず生意気なお前からだ」
「っ!」
「しn」
「グワッ」ドサッ
「おいどうしグ」ドサッ
「ヤロォ〜うわぁ」ドグシャ
なにが起こった?目の前のボスが俺に斬りかかろうとした瞬間後ろの下っ端が変な声を上げて倒れていく。
「あ、ァァァ…」
泣虫が怯えてる?何故?こいつらが来た時はただただ怖がっただけなのに
「ととと父さん!」
「ヨォくそ息子。よくもテメェ逃げたしやがったな?帰ったらただじゃおかねぇからな。…なんてことも言ってられねぇか。おいそこのボウズ」
「な、なんだよ…」
「…ほぉなるほどなァ。」
俺のことを見て一瞬驚き何か納得行ったようにボスの方を向く。
「おいミル。お前強くなる方法知りたがってたなぁ」
え、ミル?
「一番手っ取り早い方法教えてやるよ。」
たまたまかな?
「護るべきものを作ることだよ。特に自分のガキに守られちゃ面子立たんだろ。」
「…」
「友情ごっこの次は家族ごっこか。見てて虫唾が走るnグワッ!」
「テメェ俺の家族によくも手ェ出してくれたな。普通に死ねると思うなよ」
そこからはよく覚えてない。ただボスが一方的に骨を5、6本おられるという拷問的なものを見た気がするが気のせいであろう。泣虫、、もといミルは何か深刻そうなしかし今後の心配というより何か覚悟を決めた顔をしてた。
「おい」
瞬間俺の体は光り始めるそろそろあの神社に強制送還されるのだろう。
「すまねぇな泣虫そろそろ時間らしいいっぱい話したいことあるがお前から何かないか?」
泣虫は俺の方を真剣に見つめこう応えた。
「僕強くなる。今回は守られちゃったけど今度はしっかりとあにさんの事護るって誓うからまってて!」
そこにもう泣虫はいないみたいだった。その目は俺が知ってる…
「おう!待っててやるぜ!何十年でも。てか俺が待たせるほうかもなw」
そういうと光りが一層に強くなり、
「またな」
その言葉を言い残し目の前が光に包まれてくる。これは男と男の誓い。俺が生まれるより前から俺が誓った不思議な誓い。


「ふぅ。」
光りが消え目の前にいつもの森が見える。周りを見渡しても泣虫やあのオヤジの姿は見えない。
「戻って来たのか?」
はっきりと言えずモヤモヤする。その時
「おやおやぁ。こんなところにガキがいるぞ?丁度いい人質にでもするか。」
あれ?デジャヴ?じゃなくて!ここまで近づくまで気がつかなかった?いや戻って来た先が丁度目の前だったのか。
「ふーんなるほどね。お前だけじゃできねぇだろうな?早く周りのやつも姿を見せたらどうだ?」
人数は5、6人。さっき見た光景なんだが…違うところと言えば泣虫がいないことか…
「生意気なガキだな?傷つけられないとでも思っているのか?」
じゃあ肉を切らせて骨を断つ。相打ちもしくわ深手でも追わせて、
「腕2本とも折っちまえ!」
捕まりますか。
グワァ!ギャァァァァァ!グフッ!
あぁこれもデジャヴだわ。この叫び声でバサバサ倒れていく感じ全く
「親子揃って同じ登場してんじゃねぇよ。」
親父は少し驚いたような表情の後、朗らかに笑う。
「悪かったな」
「あと来るの早えよ!もう少し待ってろよ泣虫」
「少しでも早く護たくてな。お前との誓いだったし。な?あにさん」
「そんだけの口きけるんだから相当強くなったんだろうなぁ?」
「お前に負けないレベルにはな。」
「ふーん。あの泣き虫がよくここまで成長したよな。親父よ。」
「もう喋ってる暇なさそうだぞ。一人はお前に任せた。流石の弱いお前でもあいつくらい倒せるよな?」
なんて軽口を叩きながら互いに背中を合わせる。
おれも泣虫なんかに負けてらんねぇな。こいつが過ごして来た数十年。おれとこいつの数十年差をさっさと埋めてしまおう。それでいつか絶対肩を並べてやる。

スターチス なごり雪

スターチス なごり雪

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-12

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