求めていた俺 sequel
第二部 「挑戦者編」
五話 挑戦者
梅雨真っ盛りの川東市。
桐生は学校の下駄箱を開けると、一枚の紙のようなものがヒラヒラと落ちたのを見た。
「なんだろう」
拾って見てみるとそこには「挑戦状」と大きく綴られているではないか。紙の裏を見てみると詳細が送り主の名を添えて記されてあった。
〜 桐生、お前は皇楼祭という戦いの聖地で見事頂点に立ったようやな。ワイはお前のようなつえぇ奴とやりあうのが大好きなんや。
と言うわけで明日の放課後、学園の屋上にて
決闘じゃ!! “神無月師走” 〜
「え、なんか俺決闘申し込まれてんだけど。
まあ明日暇だし、行ってやるかー。」
果たし状の送り主の名前は「神無月師走」。
関西弁と赤いモヒカン頭が特徴の桐生のクラスメイトだ。
同じクラスなのだから直接渡した方が早いが、出来るだけ人目に触れたくなかったんだろう。
「そういえば神無月って・・」
実は神無月師走は、去年の”天楓祭”の優勝者である。この世界では前期と後期に分かれて一年に二度の格闘技大会が開催される。
一つは前期の“皇楼祭”、そして後期の”天楓祭“
である。おそらく彼はそれぞれの大会のチャンピオン同士の対決をしてどちらが強いか試したいのだろう。
ゾワッ・・
背後で得体の知れない感覚が桐生を襲った。
背中の方から声が聞こえてきた。
「そういうわけだから、まってるよ・・・」
桐生が素早く振り返るとそこには赤いモヒカン頭の少年が。神無月だ。
「おま、いつのまに!!」
「逃げるなよ、じゃあねー。」
フッ・・
「消えた・・」
気配を感じ取れなかった。強敵の予感がする。
「油断できねぇな。」
そして、決闘当日。桐生は学園の屋上で神無月と向き合っていた。周囲には何故か野次馬が集まって来ている。桐生と神無月がコッソリ屋上に向かうのを一人の生徒が目撃した事がきっかけである。
「準備はええか?桐生」
「おう」
「これはワイとお前のガチンコ勝負や。気ぃ引き締めなあかんで」
「わかってるさ。お前から先攻でいいぞ」
桐生は神無月の能力を知らない。そもそも能力者かどうかも分からない。早いうちにそれを見極めたかった。だがこの決断が後に仇となってしまうことをこの時はまだ知らない。
「ええんか?ほんなら遠慮しないでぇ!!」
ブワッッ!
直後、神無月はなんの前触れもなく空高く垂直に飛び上がった。
「ハァッハッハ!これこそワイの能力、
空中浮遊や!!」
「で、出た!禁断のチート能力!!」
野次馬の一人が神無月を指差して行った。
「お、オメーずるいぞ!降りて来い!!」
神無月は空高くから桐生を見下し、早くも勝利を確信したかのように屈託のない笑みを浮かべて言った。
「桐生よ。お前の能力の事は聞いてるで。確かにお前の能力は厄介やな。相手に一度触れるだけでその一切の動きを封じる事ができる・・だっけか。だがな、ワイの空中浮遊の前ではそんなものは通用しない!!空こそワイの世界!ワイのルールや!」
「これじゃあ俺の攻撃がまるで届かないじゃねーか!」
「・・だから勝負にならないだろうって?
そんな心配はいらんで。なぜならコッチの攻撃はしっかり届くからな!!」
「!?」
神無月は赤いモヒカンの端々を鋭く尖らせ、
大量の棘の雨を降らす。
ビシュシュシュシュシュシュッ!
「喰らえ、ニードルレイン!串刺しにしたるわ!」
技名そのままの攻撃だ。
桐生は降り注ぐ棘をスレスレのところで躱す。
ザクザクッッ
棘を飛ばすスピードはそこそこ速め。
「よけられるかいな!」
今度はやや少し大きめの棘を飛ばす神無月。
棘は桐生の顔面へ一直線に飛行。
ガシッ
桐生は棘を鼻スレスレの所で掴み取った。
「そろそろ見切ったぜ。」
棘の重さは見た目の割に意外と重い。ほぼ文鎮と同じくらいの重量だった。直撃すればどうなるかは言わずもがなである。
「おーい!いい加減降りて来いよ。避けてるだけじゃ退屈だぜ。」
「なにぬかしおるんや?折角ワイは有利な状況におるのに、降りてもうたら水の泡やんけ!」
「いいからさっさと降りてk・・」
桐生の言葉に耳を傾ける事なくモヒカンから棘の雨を降らす。
ビュババッッ
「少しは人の話も聞けっての!」
桐生が前屈みになると頭上を征く棘が髪の毛をかすった。
カカカカカッ
次に、並列に連射された棘を横飛びで回避する。地面に突き刺さった棘が桐生の足場をじわじわと縮小していく。かと言って地面の棘を一本一本抜いている遑はない。その間にも敵は容赦なく棘を射出してくるだろう。
どうすれば形成逆転できるか?桐生は思考を巡りに巡らせる。最初は、隙を見て引き抜いた棘を直接投げ返そうなどと思いついたが、
無駄だ。投げるには重すぎて神無月まで届かない。もはや打つ手なしか・・
「クソッ!」
ガッ
桐生は拳を地面に叩きつける。
「どうしたどうした?闇雲に逃げ回ってるだけではこっちもオモロないでぇ?」
神無月は、自分の卑劣な戦法のお陰で手も足も出せない桐生を歯に衣着せぬ物言いで挑発する。
「そこの野次馬たち、はよ避難した方がええで。そろそろこのショーもしまいや。」
「何勝った気になってんだよ?」
「桐生、ここは建物の屋上や。逃げようにも逃げられん。この状況をなんて言うか知っとるか? 「詰み」だよ。」
「(くそ、俺はこんな所で死ぬのか・・!?
俺には果たすべき復讐が残っているのに・・!)」
バサッッ
神無月はモヒカンを頭一個分巨大化させる。
そこから無数の棘が桐生めがけて放たれる。
「諦めてお陀仏や!!」
「くっ、くそったれぇええええ!」
桐生は何も考えずただ左手を頭上斜めに突き出した。何も起こるはずが無い事は自明だったのに。
だが桐生が・・否、今この場にいる全員の目に映った光景は予想を遥かに凌駕していた。
ボオオオオオオオオオオオオオッッ!!
桐生の左掌から巨大で真っ黒な炎の柱が顕現したのだ。
神無月には理解が出来なかった。桐生の一撃が彼に理解の時間を与える事を許さなかった。
黒い炎が神無月の視界を塗りつぶす。
「な、なんちゅートリックや・・」
ジュ・・・
黒い炎は一瞬にして神無月を跡形もなく焼却した。 炎は勢いが留まる所を知らず、そのまま幾重もの雲を穿つ。
桐生はすっかり二の句が継げなくなる。
「え・・・なんだ・・・今の・・」
謎の黒い炎は煙一つ出さずに左掌から去っていった。
その頃、聖川東学園を遥か遠くからビルの上で眺めていた白髪の男、祠堂流星は棒付き飴を咥えながら呟いた。
「とうとう覚醒しやがったか・・、あのガキの本来の力が・・・」
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