台本 明日の空
登場人物
ユウキ(m) 幼馴染三人トリオのお調子者枠。よく人を煽る。根はいいやつ。
アユミ(fe) 幼馴染三人トリオの元気枠。ちょっぴりおバカな、エネルギーの塊。
カイト(m) 幼馴染三人トリオの突っ込み枠。わかりやすい性格で、嘘がつけない。
Zetta(ゼタ)(fe) 三人の前に姿を表した、十歳ほどの姿の少女。どこか人間場馴れした雰囲気を持っているが……?
※(ナレーション)とあるところは、指定された配役の方がナレーションとして文を読んでください。
概要説明
突如世界を駆け巡った、衝撃的なニュース。
八月の三十一日、ちょうどその日の24時に隕石が落ちてきて地球が滅びてしまうのだと言う。
そんな状況の中、八月三十日、ユウキ・アユミ・カイトの三人はアイスを片手に昔遊び回った川辺の草原(くさはら)に腰を下ろしていた。
───以下台本───
ア「あーーーっついなぁ、もう!」
カ「どうして毎年毎年『十年に一度の暑さ』とか『世紀的な異常気象だ』とか言うんだろうな、毎年暑いっての」
ユ「んーまぁ諦めるしかないっしょ、強いて言うならこーんな日に『川原に行こうよ』なんてチャット送ってきたアユミを恨むしか」
ア「ユウキもノリノリだったじゃん!なんでアタシのせいになるんだよーー」
ユ「コッチは子供のお守りのつもりで仕方なーーく。アンダスタン?マドモワゼル?」
ア「変な言葉使わないで!」
カ「ああもう、暑苦しいから喧嘩すんなお前ら!!アイス溶けちまうだろ、さっさと食えよ!!」
ユ「さーーせん」
ア「むーーー」(同時に)
ア「───んー、でもやっぱり信じらんないなぁ」
カ「今日で世界が終わるって?」
ア「うん。だってさだってさ、あまりにもいつもと変わらなくない?」
ユ「あえて言えば、いつもは25日くらいには終わる夏休みが今年はちゃーんと31日まである、ってくらいだ」
ア「まー最後の日までセンセー達もお仕事じゃ可哀想ってことでしょ。アタシも最後の日に勉強とかヤダし」
カ「の割に、宿題はきっちり出たよな。まああのときは誰もこんなことになるなんて知らなかったからだけど」
ユ「やるやつとか居んの?俺白紙だぞ」
カ「……正直最初しかやってない。人生ではじめて宿題サボったかも」
ゼタ「もしもし(微かな声で)」
ア「真面目だなぁカイトは」
ユ「さっすが。ソンケーしちゃうぜ師匠」
カ「絶対思ってないだろ」
ゼ「もしもし(少し大きく)」
ア「……今、誰かに呼ばれなかった?」
カ「え?」
ユ「あー……?」
ゼ「もしもし。お三方。」
カ「うわっ!ほんとに誰か居る!」
ユ「ビックリしたぁ……」
ア「ほら、だから言ったじゃん!呼ばれたー、って」
ユ「怒んなって」
カ「悪かったよ。……で、君は、誰?」
ゼ「私の名前はゼタです。」
………。
ア「それだけ?迷子になったとか、そういうアレじゃないの?」
ユ「…………違うみたいだな。」
カ「うーん……?ゼタ、君についてもう少し詳しく教えてもらえる?」
ゼタ「はい。ゼタは、俗に言う、『神様』です」
ユ「突然現れたと思ったら、神様ぁ?」
カ「まあこんな世界が終わる前日に一人でいるのは確かにちょっと普通じゃないけど」
ア「本当なの?正直ふつーの女の子にしか見えないよ」
ゼタ「ゼタは、ズィー・イー・ティー・ティー・エー。単位の名前です。とてもとても大きな。ゼタはそれだけの力を持っています。例えば、こんな風に」
ユ「うわわわ、あっという間に川が凍った!?」
ア「うそうそ、なにこれ……つめたい!本物の氷だよこれ!」
カ「このあり得ないほど暑い中なのに……」
ゼタ「お分かりいただけましたか」
(へぇ、とかはぁ、とか要領の得ない返事をする三人)
ユ「川、一瞬でもとに戻った」
ア「すっごーい……」
カ「……で、そんな、神様が俺たちに何か頼みでも──?」
ゼタ「逆です。ゼタは与えるものです。明日はこの星の最後の一日。ゼタは最後に、人類皆の願いを叶えて回るために存在するのです」
ユ「願い……?」
ア「うーーん……地球を救って、とかダメなの?」
ゼタ「ゼタはゼタ、どれだけ多くても有限なのです。無量大数と無限のようなものです。その差は埋めようがありません」
ア「はえ?」
ユ「無理、ってこったろ」
ゼタ「その通りです。」
カ「何でも、ってわけじゃないのか。他にもなにかダメな事はあるか?」
ゼタ「あります。物質的に再現できないものは用意できません」
ユ「例えば?」
ゼタ「死んだ人と同じ姿をした人間、なら、今すぐにご用意できます。ですが、それは『生き返らせた』ということではありません。魂は復元できませんから。それはただのマネキンになります」
ア「なんだか学校の先生みたいだよぅ……眠くなってきた」
カ「ま、要するに、物理的に全力を出せば用意できる程度のお願い──ってことか」
ユ「なるほどなぁ」
ア「んーー……でもそれだったら正直、神様が来てくれる必要ってあったのかな? どうせ最後だし、貯金ぜーーんぶ使ったら叶う範囲のお願いなら自分で叶えちゃうでしょ。アタシ先週ステーキ食べに行ったもん」
ユ「あーー……確かに?」
ゼタ「そうとも限りません。例えばステーキ屋、きっと明日は営業なんてしていないはずですよ。ご家族も仕事はお休みでしょう?」
ア「ん……?」
カ「そっか、地球最後の一日に働くような物好きはそうそう居ないよな」
ユ「世界最後の一日の特別も、用意してくれる人なんていないってことか」
ア「っでもでも、アイス買った駄菓子屋は空いてたじゃん!」
ユ「あのばーちゃんは子供が好きであの商売やってるんだからちょっと違うだろ。俺たちからお代貰っていかなかったくらいだし」
カ「そういうことだな。つまり、実質これが最初で最後のチャンス、ってわけだ」
ア「ええええ急に言われてもわかんないよー!!!ご飯はもう準備しちゃったし……えっと、えっと」
ユ「ゲームとか、持っててもなぁ」
カ「難しいな……?」
ゼタ「焦る必要はありません、私は今日中に伺った願いならば履行します」
カ「厳しいなぁ…………………あ」(なにかに気づいたように)
ア(ナレーション)「誰かの声につられて、三人は顔を上げました。」
ユ(ナレーション)「空にはいつの間にか、太陽を取り囲むように丸い虹が浮かんでいました。世界の終わりを飾り付けるように輝いていました。」
カ(ナレーション)「それはとてもとても綺麗で、そして、とても──『トクベツ』な景色でした。」
ア「……お願い、決まったかも」
ユ「叶えてもらえんのか?」
カ「川が凍ったくらいだ。少なくとも、『俺たちから見た世界』の中ではその願いは叶うんだろうよ」
ユ「そーかもな。」
ゼタ「決まりましたか」
カ「決まった。だろ?」
ア「ねねね、折角だしせーので言おうよ、せーので」
ユ「はあ……?ま、いーよ、たまには聞いてやるよ」
カ「ああもう、さっさと言うぞ。───せーの、」
三人「明日を、いつも通りの青空にしてください」
台本 明日の空