穏和な港町に停泊する私の船を誰か探してはくれないか。雲と風が子どものように流れる町だった。住まう人びとは自分で育てた果物を隣の家族に分け与え、我々は飢えることを知らなかった。皆が自慢の船を持った。いくらでも積載することができた。どこまでも旅をすることができた。私の船には美しい女神の像が飾られていた。船に乗ると太陽が私の体内に光を灯す。光は血管を通り、全身を輝かした。掌にある胼胝は透き通る柘榴のよう。海波は私の船をいつでも歓迎してくれた。船が通ると魚は一斉に海面に浮上して、我が身を捧げたいと私に願った。私は深く感謝しその中のいくつかの魚を引き上げるのである。
 嗚呼、今は死を待つだけの日々よ。女神はベッドの下を走る鼠となり、風は私の世話を拒む看護師に変わった。輝かしい記憶は深い水底へ沈み、忘却の一途を辿る。私の船はどこへ行ったのか。どうか私の代わりに探してほしいのだ。 

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-06

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