No.13物語10~12
10 手を繋ぐ
歩き疲れた彼は
湖のほとりに腰をおろした
彼は空を見るのが好きで
光る粒と大きな丸を
今日も眺めていた
水の音が心地よく
彼の瞼はもう
その心地よい世界を
真っ黒に
意識が遠くなる
感覚…
誰かが目の前で笑っている
暖かな光
優しい香り
彼は自分がわからない
その誰かもわからない
ただ ただ 心地よい関係
この時間は
一人ではない
確かに誰かが側にいる
とても懐かしく
とても大好きで
笑ってくれている
不思議と自分も笑っている
手を伸ばす
上へ上へ
手を伸ばす
触れそうになる
手へは届かない
ふと上を見ると
その手の主は悲しそうな顔をした
突然暖かい光が
黒くなり
下へ引っ張られた
気がつくとさっきの湖のほとりだった
真っ暗な湖に
揺れる光る粒と大きな丸
湖が空を真似て出来た光
その中の揺れる自分
この世界には自分しかいない
もしも目覚めなければ
暖かい世界
優しい光に包まれて
急いで瞼を閉じてみた
真っ暗な世界にはなったが
真っ暗なだけだった
意識が遠くなる感覚が必要なのだと
認識した
また空を見上げ動かない
光る粒と大きな丸を眺めていた
どうしても戻りたかった
暖かく優しい世界
そしたら
手を繋ぐ
11 光 背けて
光る粒と大きな丸を見ていたら
燃えるような大きな眩しい光が下から登てきた
あたりが騒がしくなった
自分以外の生き物達が目覚めだした
燃えるような大きな眩しい丸からは
目を背けた
彼は大きな眩しい丸は好きではなかった
彼の目には眩しすぎて
それ以上に
騒がし過ぎて
自分がこの騒がしい世界で一人ぼっちなのが
耐えられなかったから
いっそのこと消えてなくなりたくなった
その時間
彼は動かない
物陰から騒がしい世界を眺めていた
周りがよく見えるほうが
彼は怖かったから
自分が他を見るように
向こうだって自分を見ている
そう思えたから
その時目の前の水溜まりに
粉まみれの
空を飛ぶ生き物が
落ちてきた
不器用に羽を羽ばたかせ
激しく動いていた
粉を水溜まりに落としながら
粉が水溜まりに広がり
波紋が波打っている
激しく激しく
それを彼はじっと見ていた
動きは次第にゆっくりになり
やがて動かなくなった
波紋が穏やかになり
消えた
粉が
空を飛ばなくなった
生き物の回りに漂っていた
彼はじっと見つめて
思った
空を飛んでいて
飛ばなくなった生き物が
眠りについたのだと
12 自分をやめると 世界は…
彼は動かなくなった空飛ぶ生き物を眺めていた
きっとこの空飛ぶ生き物も
真っ暗な世界へ行き
暖かい所に行ったのだと
彼は知っていた
その世界が永遠では無いことを
空飛ぶ生き物も
もうすぐ目覚めこの世界へ戻ってくる
それまで待ってみようと思ったのだ
だが
空飛ぶ生き物は目を覚まさなかった
どうして空飛ぶ生き物は目を覚まさない?
少しだけ風が吹いた
空飛ぶ生き物の羽が風で動いた
水溜まりにまた少しだけ波紋がおきた
自分の力で動いた訳ではなく
風によって動かされた
彼にもわかった
同じ動きでも
違いはわかった
何か違和感はあったのだが
それ以上に
彼はうらやましかった
あの暖かい世界にこんなに長く行ける事が
彼は湖を見つめ
決心した
あの世界に行くんだ
この空飛ぶ生き物みたいに
あの暖かい世界に
ずっとずっと
彼はゆっくりと湖へ
入っていく
身体のの力が抜けた
身体が夜空に向いた
心地よかった
だけど真っ暗な世界ではなかった
何かが違う
空飛ぶ生き物は羽をバタバタさせていた
こんなに穏やかではなかった
急に怖くなった
その時
身体に力が入った
すると身体は湖に沈み始めた
慌てて手をバタバタさせた
水が顔に
鼻に口に入ってきた
バシャッバシャッバシャッバシャッ
苦しい苦しい苦しい苦しい
身体が下へ沈んでいく
大きな丸の光で 口から出る泡が見えた
沢山の泡が
どこかで見た光景
自分の奥底の恐ろしい何か
この世界は恐ろしい
行ってはダメな所だ
それでも身体は沈んでいく
水の中から揺れる大きな丸を
掴もうとして手を伸ばした
両手をいっぱい伸ばした
意識が真っ黒になりかけた
タ、ス、ケ、テ、
その時だった
上から物凄い 勢いで
光る何かが現れた
その光る何かは彼の
いっぱいに伸ばした手を掴んだ
確かに掴んだのだ
優しく強いその何かに引っ張られた
気がつくと
彼は水辺に漂っていた
彼はわかった
あの空飛ぶ生き物もきっと苦しかったんだ
苦しくてバタバタしていたんだ
彼は空飛ぶ生き物が心配になり
食べ物を持って
動かなくなった
空飛ぶ生き物の前に行った
そして
救えなかったんだと
No.13物語10~12