星を数えて

 とある山の麓にぽつんと建つロッジ。冬の澄んだ空気に星がより一層輝いている。

「ねぇねぇ、お父さん。お星さまが沢山あってどれがお母さんなのかわかんないよ」

 白い息を吐きながら少年は夜空を見上げていた。
 傍らに座る父親は困ったように笑いながら、

「うーん、お父さんもいっぱいありすぎて、わかんないな」

 少年に寄りかかるように体を傾けて答えた。

「えーっ、お父さんが言ったんでしょ、お母さんはお星さまになったって」

「そうだね・・・・・・」

 少年に寄り添ったお父さんの声は小さかった。ちょっと間を開けると、

「よーし、それならお父さんと一緒に見つけよう」

 明るく少年に語りかけた。

「いいかい?あの赤く輝く星が見えるかな」

 お父さんが指差しながら言う。

「あれがベテルギウス。オリオン座という冬の星座の恒星。あの星から時計回りに数えていこう」

 正直、お父さんは夜も遅いので星を数えるうちに少年が眠くなると考えていた。しかし、

「こうせい?」

 少年は無邪気に聞き返してくる。

「あー、そうか。そこから説明しないとね」

 不思議そうにお父さんを見つめる少年の表情に眠気は感じられない。咳払いをしたお父さんが、

「星にはね恒星と惑星って二種類あってね」

 やさしく言い聞かせながら、長い夜になりそうだと思っていたのだった。

「───太陽のように自分で輝く星が恒星って言うんだよ。わかったかな?」

 長い話にも可愛くうなずきながら聞いていた少年が言った。

「ねぇねぇ、お父さん!赤いお星さまバクバクしているよ!」

 夜空を見上げながら少年が興奮してお父さんの服を何度もひっぱる。

「バクバク?」

 お父さんも夜空を見上げた。オリオン座の赤い星ベテルギウスが、心臓が脈打つように輝いている。
 おお、とお父さんが驚きながら少年を抱きよせた瞬間、

「うわっ!」

 親子で叫んだ。夜空にはまばゆいばかりの光が広がり、二人は眩しさに手を目に被せながら体を背ける。

「お父さん、どうしたの?夜が明けたの?」

「違う、爆発だ。超新星爆発だ!」

「ちょうしんせいばくはつ?」

 まばたきを繰り返し、ようやく眩しさに目が慣れたようにお父さんは白んだロッジの周りを見回しながら言った。

「まさか!・・・・・・ううん、超新星爆発ってのはお星さまの最後の姿なんだよ」

「最後ってお星さま、死んじゃったの?」

 鼻をすする少年の声は震えていた。

「悲しいね・・・・・・でも、この世に見えるものには全て寿命があるんだよ」

 少年の肩を抱き寄せる腕に力が入るお父さん。
 ついに泣き出した少年が、

「違う、ち、違うよ、お父さん。こんなに・・・・・・ヒッく、あ、明るくなったら今夜はもうお星さま数えられないよ!」

 うわーっ、と泣き声を響かせたのだった。

「しょうがないよ。しばらくは太陽と並んで昼も輝くのが超新星爆発なんだ。収まるまで待とうね」

 やさしく頭をなでるお父さん。それでも少年が泣き叫びながら言った。

「だって、だって、お星さま見えないとお母さんのお星さまも探せないよ!」

 少年の泣き声が響くなか、しばらく黙ったままのお父さんが、

「あー、お母さんはお星さまになったんじゃなく・・・・・・お家出ていったんだよ」

 夜空を見上げながら泣いていた。

星を数えて

星を数えて

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-05

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