*星空文庫

待ってるこっちの身にもなってくれ

やまなしレイ 作

待ってるこっちの身にもなってくれ
  1. 一.白髪三千丈
  2. 二.おすそわけ

――――この結末は絶対に予測不可能

一.白髪三千丈

一.白髪三千丈

 読んでいるみなさんからしてみれば、これは昔の話、うーんと昔の話っす。多分、何百年とか昔の話。
 ただ、具体的にこの話が西暦何年の出来事だとか断言しちゃうと、「この時代にこの服装はおかしい」とか「この道具が生まれたのはもっと後の時代のはずだ」みたいな歴史考証のツッコミが来るかも知れないから、いつだか分からない、うーーーーーんと昔の話ってことにしといてほしいっす。
 「西暦」って言葉もホントなら、あっしは知らないはずっすね。


 場所もどこだか分かんないっす。
 「この地域を舞台にしている作品だと、この言葉づかいには違和感がある」みたいに言われたくないんで、日本のどこかって思っといてくださいっす。
 ひょっとしたら「日本」じゃないのかも。「地球」でもない、どこか遠くの惑星の「なぜだか地球によく似た星」の「なぜだか日本によく似た国の話」かも知れないっす。あと、違和感くらいなら飲み込めって思うっす。

 そもそも、あっしからすれば「日本」とか「地球」みたいな言葉もピンと来ないっすね。生まれた村が世界のほとんどで、海の向こうに何があるかだなんて考えたこともない時代の話っす。



 そんな時代に、あっし達は男二人で旅をしていやした。
 大きな体にボサボサの髪、三度笠が目立つ男があっしのあにさんでやんす。あにさんと言っても血のつながった兄弟じゃなくて、あっしの方が荷物持ちとして連れて行ってもらおうと頼み込んだ関係なんで「あにさん」と呼んでるだけっす。

 本名は言えねっす。
 ここで「あにさん」の名前を明かすと「この名前が使われていたのは○○時代にちがいない」「なのにこの描写は矛盾している」みたいにツッコまれかねないんで、この小説に出てくる人物は一人を除いては名前が設定されてねーです。あっしのことも「小僧」とお呼びください。

 要は、みなさんから見れば、いつだか分からないくらいうんと昔、どこだか分からない場所、名前もない人達の話がこれから始まるってことっすね。

 ◇

「オイ、小僧。あれを見ろ」

 そろそろ日も傾いてきたころ、あっし達は今晩の寝床になる場所がないかと急ぎ足になっていたっす。野宿も慣れたもんすけど、村に着いたらありがたいなと思って急いでいたところでやした。

 道の真ん中に、うつ伏せで女の人が倒れていたでやんす。

「どうしやす、あにさん?」
「若い女だったらXXXXXXXXXXXXX

 あにさんの発言は仮に冗談だとしても「性犯罪を肯定的にとらえた作品」と解釈されて炎上しかねなかったので、自主規制が入りやした。



 TAKE2でやんす

「オイ、小僧。あれを見ろ」

 そろそろ日も傾いてきたころ、あっし達は今晩の寝床になる場所がないかと急ぎ足になっていたっす。野宿も慣れたもんすけど、村に着いたらありがたいなと思って急いでいたところでやした。

 道の真ん中に、うつ伏せで女の人が倒れていたでやんす。

「どうしやす、あにさん?」
「金目のものがあったらXXXXXXXXXXXXX

 あにさんの発言は「窃盗を助長させるかも知れない」「実際に窃盗の被害にあった人達の気持ちを考えたことがあるのか」と叩かれかねなかったので、自主規制が入りやした。



 TAKE3でやんす

「オイ、小僧。あれを見ろ」

 そろそろ日も傾いてきたころ、あっし達は今晩の寝床になる場所がないかと急ぎ足になっていたっす。野宿も慣れたもんすけど、村に着いたらありがたいなと思って急いでいたところでやした。

 道の真ん中に、うつ伏せで女の人が倒れていたでやんす。

「どうしやす、あにさん?」
「助けよう」
「それでこそ、あにさんっす」

 あっしが抱き起すと、女性は大体40歳くらいの方でした。

「ふむ、変な気は起こさなくて済みそうだな」

 これは別にあにさんが少女しか性の対象として見られない歪んだ欲望を抱えているとかそういうワケじゃないっす。この時代の庶民の大体の寿命は30歳代なので、40歳といえば結構な長寿なんす。


「どうやらその女性、病気みたいだな……」

 見れば、顔は真っ青でやつれてて、手足は細く、時折コホコホと咳きこんでいる様子っす。どうしてこんな状態で外を出歩いていたんすかね……?

「おばあさん!おばあさん!しっかりして下さい!」

 目を覚ましたおばあさんは、あっし達の姿を見るとこんなことを言ったっす。
「あぁ……旅の御方よ、お願いです。昨日から息子がいないのです。帰ってこないのです」

 聞けば、この家は年老いた病気の夫婦と息子さんの三人暮らしで、息子さんの稼ぎで何とか食いつないできたとのことっす。
 しかし、昨晩は息子さんが帰ってこず、食べるものも薬も用意できず、困り果て、仕方なく病気のお母さんが外を探してまわって、そこで倒れちゃったみたいっす。

 お母さんを村の自宅までおぶって連れてったあっし達は、息子さんを探してくれないかと必死に頼まれやした。
「分かった。だが、交換条件がある。息子さんを探している間、俺達をこの家に泊めてくれ」

 ◇

 日はもう暮れ始めていたっす。

「さて。どうしやす、あにさん?」
「今日はもう暗くなる。この状態で人を探すのはムリだな」
「じゃあ捜索は明日からで?」
「お主、泊まる場所が決まっても、メシはどうするつもりだ?」

 あー、あの家じゃ蓄えもなさそうっすもんねー。

「だから、これから隣家に恵んでもらいに行こう」
「……」

 これを読んでいるみなさんがどう思うかは分かりやせんが、この時代は村という共同体が強かった時代でやんす。だから、年老いた夫婦のために村全体で助け合うのはおかしいことじゃないっす。ま、あっし達は村の外から来た人間なんすけどね。



 隣の家は、老夫婦と若い夫婦とその子供の三世代の家でやんした。
 応対してくれた若い奥さんに事情を説明すると、イヤな顔をされたけど、汁物とイモを分けてもらえたっす。今晩はこれで過ごせそうっす。


「あー、それと。隣の息子さんの行方について、何でもいいから知っていることはないか?」

 後ろで黙って突っ立っていたあにさんが、若奥さんに尋ねやした。
 ん……? 今、ちょっと……?

「昼、村中を捜してまわっていたみたいなんだけどね。残念ながらウチらは何も知らねんだ」
「ふーん…? まぁ、イイや。最後に見かけた者は誰もいなかったのか?」
「朝早く出かけたらしいからね。誰も姿は見てねんだよ」
「ふむ。朝早く出かけたって、いなくなった息子さんは何をして生計を立ててたんだい?」
「漁師だよ。魚釣りの腕がすごくてね、たくさん釣って野菜と交換したり、ご両親の薬代にしたりしていたみたいだよ」

 なるほど、だから早朝に一人で出かけてたんすね。

「だからね。多分、漁の最中に海にでも落ちちまったんじゃないかと思うんだよ。あんな両親想いの御人が帰ってこないだなんておかしいもの」
「ふぅん……確かにね。分かった、ありがとう」

 あにさんはそれを聞いて帰ろうとしやしたが、最後に一つ振り返って尋ねやした。

「そうだ、いなくなった隣の息子さん。名前はなんて言うんです?
聞き込みをしようにも、それを知らなくちゃ聞きづらくてね」

 そう言えば、それを聞くのを忘れてたっすね。

「名前ですか?」

 若奥さんは教えてくれたっす。
 この物語で唯一“名前”を付けられた人物―――

「浦島さんです、浦島太郎さんという名前です」



  to be continued...

二.おすそわけ

二.おすそわけ

「浦島さんです、浦島太郎さんという名前です」

――――ちょうどそこまで読み終わったところで、



「センパーイ、お待たせしたっすー」

 うどんをお盆にのせた少女が到着した。
 体育終わりらしい彼女からは制汗剤のにおいがふわっと漂う。私は黙ってスマホをカバンにしまい、少し冷めてしまった日替わり定食にとりかかる。


 私の名前は大塚千影。高校2年生だ。
 そして、私を「センパイ」と呼ぶ彼女は上野心。高校1年生だ。

 私たちは一応「同じ高校の先輩・後輩」の関係ではあるが、同じ部活だったり、昔からの知り合いだったりというワケではない。女同士の恋人ということでもないし、「友達」かどうかも微妙だ。ただ毎週木曜日、こうして学食で同じテーブルを囲むだけの関係だ。

 ウチの学校の学食は生徒数に比してテーブル数が少なく、いつも超満員だ。私も去年1年間は一度も利用できず、毎日パンで過ごしていた。
 だが、今年になり木曜午前の最後の授業が移動教室&早めに授業を切り上げたがる教師になったので、そこから急いで学食に向かえば“木曜日だけはテーブルを確保できる”ようになったのだ。

 私には友達がいないので、せっかく確保したテーブルも一人で占拠していて申し訳ないなと思っていたところ、「誰も来ないなら相席してもイイっすかー?」とドッカリ座ったのが上野だった。聞けば、彼女の木曜午前最後の授業は体育のため昼休みには必ず出遅れてしまうとのことだった。

 それ以来、毎週木曜日の昼食は、この後輩と同じテーブルを囲むことになったのだ。

 ◇

「そういや、前から気になってたんすけど……センパイっていつもスマホで何見てんすか?」

 うどんを食べるのが下手すぎな上野は、周りに汁をまき散らしながら聞いてきた。こっちのお盆にまで飛んできそうで心配だ。そんなことが気になって答えなかったところ、追い立てるようにもう一度訊かれた。

「センパイって友達がいないじゃないっすか。
同じクラスに、とか。ウチの学校に、とかじゃなくて。生涯、生まれてこの方、人生で一度たりとも友達ができたことないじゃないっすか。」

 ぶほっ。
 思わずむせてしまった。

「そんなセンパイがスマホで何 見てんのかなーって。
ぶっちゃけ友達いない人ってスマホ持っててもイミなくないっすか?」

 てめ ふっざ けんな
「てめ ふっざ けんな」

 思ったことがそのまま口から出た。

「友達いなくても、有名人とかスポーツ新聞とか猫の画像をアップしてくれる人とかのTwitterをフォローしてるし!スマホ持ってるイミあるし!」
「そういう一方的なフォローばっかで寂しくなんねーすか?」
 たたたたたたしかに私のTwitterは100人をフォローしているのに対して、私をフォローしているアカウントは1人もいない。私が何をつぶやいても、世界中の誰も読んでいない状態だ。

「いや、でもな。聞けよ、上野。
誰かがTwitterとはSNSというより雑誌のようなものって言ってたぞ。しかも、自分で何を掲載するかを決められる、自分のための自分だけの雑誌だ」
「はぁ」
「私は有名人の動向とか、ニュースとか、そういうものをチェックする雑誌を作ってるんだ。オマエみたいに大して面白いこと言わないリア友のどーーでもいいつぶやきばかり載せてる雑誌より百倍おもしろいはずだぞ」
「“りあとも”って何すか?」
 え? そこに引っかかります?
「リアルの友達ってことだよ。ネットの友達じゃなくて」
「ほら、ネットでのつながりはリアルじゃねーって言ってんじゃねっすか」

 ぐぬぬ……そもそも私はネットの友達もいない。基本ずっと読むだけのROM専なので、どこかに書き込んだりもしない。誰とでもつながれるはずのインターネットでもなお、誰ともつながっていないキング・オブ・ザ・ぼっちなのだ。

「センパイも、そろそろクラスに友達つくった方がイイっすよー」
 一つ下の後輩にこんなことを言われてしまった。
 しかしなぁ。こればっかしは性分なのだ。誰とも関わりたくないし、煩わしいことはしたくないんだ。

 ……

 ………


「小説……読んでたんだよ」
「はい?」
「いや、さっき『スマホで何 見てんだ』って訊いただろ?
いつもここでネット小説を読んでるんだよ」
「ネット小説って何すか? 青空文庫みたいな?」
「私が読んでるのはそんな大層なやつじゃなくて、誰でも投稿できる小説サイトだ。小説家を目指している人が、誰でも自由に投稿できて、読者がそれを読むことができる―――」

 バン

 突然テーブルをたたく音がして、顔を上げる。
 見ると、いつまで経ってもクラスで一人だけ逆上がりができない子供を見るような目で上野が私のことを見ていた。

「センパイ! お金に困ってんすか!?」


「……は?」
 何を言っているのかよく分からなくて、リアクションが二行ほど遅れてしまった。
「あたしもお金そんな持っていないっすけど、少しくらいなら貸したげることは出来るっす」
「何言ってんの?」
「だって、小説を買う余裕もないほどお金に困ってんすよね? 素人の書いた小説しか読めないくらいお金がないだなんて」

 いやいやいやいや、待て待て。

「まずは全ての小説投稿サイトと、そこに投稿している人と、それを読んでいる人に謝れ」

「お金に困ってるワケじゃないんすか?」
「お金が余ってるワケでもねーけどさ……私が投稿サイトを読んでるのは、面白いからだよ。本屋で売っている小説も面白いけどさ、別の魅力があるっつーか」
「でも、しょせんはプロの小説家になれないアマチュアが書いたものじゃねーっすか」

 ヒドイ物言いだが、まぁ、一理ある。
 全体の平均値を比べれば、プロとアマチュアではレベルがちがうだろう。

「でも、そこが面白いっていうかさ……
“面白さが保証されていない面白さ”っていうか」
「辛いようでそんなに辛くないラー油(辛口)みたいなことっすか」

 全然ちがう。

「例えば、高校野球ってあるよな。
レベルだけで言ったら、大学だとか社会人だとか、もっと上だとプロ野球があって、メジャーリーグなんて世界中の化け物が集まりやがる。それに比べたら全然レベルが低いんだけど、自分の母校とか同じ町、地元の県の高校を応援しちゃう、みたいなことよ」
「あたし、野球とか全然わかんねーっす」

 てめえ、何行にもわたっての説明が終わってから言うんじゃねえよ。

「ポケモンで例えてくれたら分かるかもっす」
「……私が分かんねーよ」
「じゃあ、Splatoonで」
「みんなが使っている人気のブキより、私は私しか使っているのを見たことがないソイチューバーが好き、みたいな?」
「分かりやすいっす」

 今の例えで、他の人にも伝わるのだろうか?

「でも、あたしはリールガン系の方が見かけない気がしやすね」
「Splatoonの話の方を膨らますんじゃねえよ」

 要は、作品のレベルとか世間の人気とかじゃなくて、自分の好きなものを探す楽しみがあるって話だ。


「ごちそっさんです」
 気づけば、上野はうどんを全て食べ終えていた。
 私の方も定食を食べ終えていた。週に1度、私が学校で誰かと話す時間も今週はこれでおしまいだ。


「じゃあ、あたしもそのサイトを見てみるっすよ」

 ニヘニヘ笑いながら人なつっこく話すその後輩の姿は、なるほどコイツが誰とでも仲良くなれるワケだと思わされた。相手が好きなものに興味を持てる―――チャラチャラしているようで、人の琴線に触れるヤツなのだ。私にはこんなことは出来ない。

「センパイが読んでた作品は、何てゆーヤツっすか?」
「あー、さっき読んでたヤツか? あれは、ちょっとなー」
「面白くないっすか?」
「いや……まぁ、私には合わなくてもオマエには合うってこともあるもんな。毎週水曜の深夜に最新話がアップされるらしいし、ちょうどいいか」

 後輩は目をキラキラ輝かせながら言う。

「それなら、毎週センパイとその小説の話ができるってことっすもんね」

 まぁ、そういうことになるだろう。

「作品名は……『待ってるこっちの身にもなってくれ』だ」
「………」
「………」
「なんか、センパイのこと言っているみたいなタイトルっすね」


  to be continued...

『待ってるこっちの身にもなってくれ』

『待ってるこっちの身にもなってくれ』 やまなしレイ 作

「いつだか分からないくらいうんと昔、どこだか分からない場所、名前もない人達の話」……二人の男が旅の途中で立ち寄った村で、ある事件に巻き込まれるような、巻き込まれてはいないような。 【毎週水曜夜~木曜朝くらいに更新します】 【この本は2018年11月末日までの限定公開とします】 配信者のブログはこちら→ http://yamanashirei.blog86.fc2.com/ 配信者のTwitterはこちら→ twitter/yamanashirei

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更新日
登録日 2018-07-04
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