ランニングとシャッター音。
パシャリと音がした
ドラマチックな瞬間に、写真趣味の私の頭の中に
構図、タイミング、センス。
カメラで瞬間を切り取るときのアイデアが浮かぶ。
その一瞬で、一日の大半を終えたかの様なエネルギーの使い方をする。
だが今は持久走の最終だ、
いまここで体力がつきてはいけない。
「ラスト一周」
私は呼吸の限界を感じて、空をみあげた、
雲は、夕焼けにてらされて、とけたように形をくずしていた。
タイムキーパーは軽快な声をあげる、
「○○分○○秒」
周回おくれの私に、残酷な告知だ。
タイムキーパーは、
絶賛足首捻挫中のサッカー部主将だった。
私は文芸部だ。
今が体育の時間でなければ、彼とは、まるで接点がない。
関係がないといえば、なぜ私は中学にあがってすぐ写真部に入らなかったのだろう。
もう一年目がおわりそうなのに、
理由は単純だ、好きなものほど距離を置きたくなる。
「はあ、はあ!!」
砂埃をたてて、ふらつく足は全力疾走だ、遅いが、全力だ。
意識しないことほど、時間が過ぎるのは早い。
ゴールテープにはあと少し、テープは私の目の前に!
嘘をついた、
テープをきったのはもう随分前の人、私はどべから数えたほうが早い。
「はあ、はあ……あっ」
ゴールテープの直前に転がりそうになった。
そしてその転倒の直前におもいだした。
さっき見上げたそらは、ひとつだけ雲の形がはっきりしていた。
それを表現する方法は、言葉でなく、写真だ。
同時におもいだす、この中学にあがって、写真部にはいった親友のAちゃんのこと、
彼女は入部依頼、写真で賞をとった、入学以来、いくつもいくつも、
小学生のときから頭角を現していたし、すでに差がついていた。
嫉妬はある、
けれど、私は頑なに信じている。
「評価に値しない、私の写真の価値を、いつかどこかでみつけられたら、それで満足なんだ」
あと数メートルもないところで、
体勢をくずし、豪快に転んだ、ゴールラインは、私の目線をすりぬけた、ひざがいたい、すりむいた。
状況を理解するのに、一分……空をみあげてあおむけに寝転んだ。
そのあとに私は、タイムキーパーに助けをもとめた。
彼は怪訝な顔をしたが、
たちあがった私の顔をみると、くすりとわらった。
彼によると、どう考えても必死で頑張った表情で、おまけにどろだらけだったので、同情したらしい。
帰宅のチャイムがなる。
写真部の少女は
決して届くはずのない、
自分とは遠い距離にいる親友のことをおもって
ひっそりと夕焼け空を
みあげた。
ランニングとシャッター音。