女の子を機械化するのが好きなんです

 実現可能なことは大抵やってしまうのが人間とは思っていたが、開けた世界のそれはボクの想像を遙かに超えていた。同時に、ボクの病的な性癖を満たすに十分な柔軟性も兼ね備えていた。
 忘れもしない五年前の七月六日、何の前触れもなく、ボクはある程度の予知ができるようになった。最初は、突然宝くじの当選番号がハッキリと分かるというものだった。何かの拍子に頭がこんがらがったのではと思ったが、数字と、当選した後の手続きがあまりに鮮明に思い浮かぶのでものの試しに買ってみたら一週間後に一等の六億円が当たっていた。もう一度試したら八億円当たった。流石に怪しまれそうなのでそれ以上連続して買うことはしなかったが、その件で宝くじなどの『完全な運頼み』の賞金は税金の対象にならず、競馬など『予想が出来る等、運以外の要素が絡む』くじには税金がかかることを知った。
 予知能力が役立ったのはその後だ。金が手に入ると多くの危険がボクに降りかかったが、何が起こるかも、どうすれば回避できるかも事前に分かったため生き延びることが出来た。ただ、事態は思ったほど好転しないことも分かった。予知が万能ではなかったのだ。
 ボクの予知は自分に起こること。それも、大きな出来事しか予知できない。なので、些細な怪我や風邪などは回避できない。人間関係も同様で、ボクにとって危険な人間は避けられても、ボクに危害を加えない危険な人間は避けられない。
 そうやって過ごした五年間。ボク自身を変えてしまうには十分な期間だった。
「六条(ろくじょう)、準備が出来たぞ」
「ごくろうさま」
 友人の小波旅愁(こなみりょしゅう)は、ボクを危険な道へ引き込んだ一人だ。独自のコネを持ち、金さえ積めばボクの特殊な性癖を満たしてくれる。向こうも、ボクの資金をアテにしているから持ちつ持たれつではあるのだけれど。
「誰か、いるんですか」
 清潔で広い手術室には全裸に目隠しをされた少女と、彼女を縛り付けた手術台を取り囲む、小波を含んだ手術服の男女が八人が並んでいる。ボクは少し高い、全体を見下ろせる場所からゆっくり見物だ。
 小波が目隠しを外すと、少女は光景の異様さに暴れ始めた。
「なに、や、ぎゃあああ!」
 悲鳴に顔をしかめながら、小波は少女の顔を覗き込む。
「大人しくしろ、騒いでも何も変わらんぞ」
「き、切られ、殺され、いやあああ!」
 渋い顔のまま、小波はボクの方を向いた。ボクがうなずくと、小波は少女に注射器を突き刺した。
「や、あ……」
 鎮静剤はたちまち効き目を発揮し、少女を大人しくさせた。

 ◆◆◆

 手術台に縛り付けること自体に、大した意味は無い。少女の体はタンパク質をバラバラに分解され、内臓も皮膚もただの炭素に変えてしまった。骨は元の体格を再現するために、脳は人格を取り出すためにそのまま利用される。
「こんなものに意味があると思うかね」
 炭素に加工した少女の体を手に取り、小波が愚痴る。彼は物質に魂が宿るとは考えていない。
「魂の所在は分かっていないんだろう。なら、試しておくのが科学のためだと思うよ」
「ただのセンチメンタルじゃないかね」
 ボクは、予知なんていう非常識な能力を得て以来神秘的なものに興味が尽きない。小波にとってあれはただの物質だろうけども、ボクにとってあれは『少女の魂』を留めているかもしれない希少品だ。あれを機体の素材に使うか使わないかで、サイボーグの価値が決まると言ってもいいだろう。それが生身の部品をほとんど残さない、ロボットと言ったほうが正しいような物質であろうとも。

 ◆◆◆

 作業は順調に進んでいる。少女から得た炭素は重要な部品に多く使用され、脳は加工を終え、コンピューターと同調を始めている。
「あ、はっ……はじめまして! お、お部屋はこっちです中はぁあああ! え、えへへ……綺麗でしょ、わたしね、お利口さんなんだよ」
 スピーカーに繋がれ、少女がよく分からないことを口走り始める。彼女の脳は今、メチャクチャにされているのだろう。そう思うとたまらなく興奮する。ボクはそういう、困った性癖を持っている。
「うれしいでしょ? あはっパーティーなら負けないんだから……だめぇ、火が広がっちゃうぁあああ! あは、あへへぇ、ぇ、え、らー?」
 表情はまだ動かせないが、思考の動きはオシロスコープで可視化できるように仕掛けをしてある。激しく動くそれと、少女の可愛らしいうめき声はボクの心を躍らせた。
「まだエラーシャットダウンしないよ、遊ぼうよぉぉおおおん! こ、コンセントぉおお!」
 少女の脳で何が起きているのか、映せるようになる技術が待ち望まれる。

 ◆◆◆ 

 コンピューターと同調を終えた脳は主要なデータを機械へ移し、残った脳は補助演算装置として部品として残す。生身の脳は魂を残す可能性がある重要な部分だ。維持が難しいため加工こそするが、破棄するわけにはいかない。
 今はデータ移行の最終段階。深層部分の情報までコピーするため、脳の機能はほぼ止めている。少女の脳は死に限りなく近い状態で眠っていると言えるだろう。
 一方、体のほうは順調に出来上がっていた。少女の体から作った部品を組み込んだ全身の各部位が揃い、組み立てを待つ状態になっている。
 ここで、最初に使用した手術台が登場する。組み立てを後回しにし、各部位を手術台に並べ、後は組み立てる状態までお膳立てを整える。脳のデータ移行が終わり、頭部にコンピューターが収まったところで、頭部、胴体と電源ケーブルを繋ぎ火を入れていく。
「ん……あれ、わたし、なんで?」
 すると、手術台の上で気を失う寸前で記憶の止まっている少女が目を覚ます、という寸法だ。もちろん、これをやる技術的意味は無い。ボクの注文だ。
「気がついたかね、お嬢さん」
「え、あ、はい」
 小波が少女の顔を覗き込み声をかける。気が進まないのか、声のトーンは低い。対する少女は理解が追いついていないらしく、間抜けにも真面目に答えている。
「さっきのことは覚えていないのか」
「すごく怖かったけど……不思議なんです、今は落ち着いてて」
「これを見てどう思う」
 小波は手術台の上の鏡を少女に向けた。彼女には自分のバラされた体が見えるようになった。皮膚の質感に胸の大きさ、腕や足の太さまで忠実に再現されているが、それらの隙間から覗くのはごつごつとした骨組みやモーター、それらを繋ぐ配線などだ。とても人間の体には見えない。
「ロボットの部品、ですか」
「正確にはサイボーグだ、人間を元にしているからな」
「はあ……いいっ!?」
 少女の気のない返事を待たず、小波は少女の首と上半身のケーブルを繋げた。本来は電源を入れた状態でやる作業ではないらしいが、ボクのリクエストで実現している。電源を入れたままでも大きな部品が交換できるというのは、作ってみたら案外便利な機能だったらしい。
「あ、ああ、新しいデバイスが接続されました……既知の情報と合致、純正部品と判断。結合開始……い、今の、わたし?」
「飲み込みがいいな、さすがは機械だ」
「機械って、どういう」
 少女の話など聞かず、小波は右腕の配線を繋げた。モーターが回転し、指を動かそうとする音が聞こえる。
「うあ! あ、新しい……」
 体が繋がれる度、少女は機械的に言葉を繰り返す。自分の意思とは無関係に、情報が頭に入っていく。彼女はだんだんと感づいていくが、決して認めようとしない。そんな様子がたまらなく楽しく、愛おしい。
「結合終了、セルフチェック開始……」
 全てのパーツが配線で繋がれた。少女は今、手術台の上にある全ての部品を自分の一部と認識できるはずだ。
「嘘でしょ、嘘って言って!」
「この体は生前のお前を忠実に再現して作られている」
 小波は言いながら、少女の体に指を這わせた。既に神経伝達回路が動作しているらしく、触られたことで少女は身震いしている。
「機械でも感じるのは、そう作られているからだ。そしてここ」
 綺麗に剃毛された股ぐらに指を這わせ、小波は鼻で笑った。
「珍しい位置にほくろがある。こんなもの、ロボットに偶然付いていると思うか?」
「あんたたちが、わたしを見て付けたんでしょ!」
 小波は無造作に少女の股ぐらを掴んだ。割れ目を広げると、本来あるはずの穴がない。
「そう、お前を見て付けた。だが、あるべきものが無い股を撫でられて、触られた部分で感じるお前は何だ? 信じられないなら、自分の手で確かめてもいいんだぞ」
 少女の制止を無視し、彼女の手が秘部にあてがわれる。未完成のそこを指が這い、形を確かめる。少女の顔から、自分の置かれている状況を理解したことは明白だった。
「なんで……なんで? なんでこんなことするの?」
 少女の問いに、小波は淡々と答える。
「機械の体になってでも、死にたくない人間がいるからだ。それに、金になる」
 小波がコンピューターを操作すると、少女の目の色が変わった。
「あっ、あ……」
「こうすれば早かったんだがな」
 オシロスコープがブツリと途絶え、しばらくしてからまた動き始める。
「わたし、本当に、機械、に……?」
「理解させるのは簡単だが、自分で納得するというプロセスが大切というスポンサーの意向があるのでな」
 組み立てられながら、少女は、わたしは機械、わたしは機械と繰り返しつぶやいている。泣いているように見えるが、涙は流していない。そう言う機能を意図的に抜いているからだ。涙を流せないことで、機械であることをより強く自覚させる。
「わたしはなんで、改造されたんですか?」
「知らん、頼まれただけだ。お偉方に聞いてくれ」
 絞り出すような問いも、小波にあっさりと切り捨てられる。そのときの少女の絶望したような表情を見たとき、ボクは絶頂した。

 ◆◆◆

 悪趣味な見世物だが、ボクにとっては億単位の金を積むに十分な成果だ。さあ、出来上がったばかりの少女が夜のお供をするためにボクを待っている。
 彼女の質問になんと答えよう。途中で記憶を消すのも楽しそうだな。お腹のハッチを開けたら驚くかな?

 少女は寝室に全裸のまま立っていた。とても緊張しているように見える。よく見れば継ぎ目があるも、ぱっと見は年頃の少女と変わらない。あの中をボクは全て知っている、無機質な機械が彼女の本質……胸が高鳴る。
 さあ、デザートを楽しもう。

女の子を機械化するのが好きなんです

女の子を機械化するのが好きなんです

予知能力で大金を稼ぐ六条は、歪んだ性癖を満たすためにサイボーグ研究のスポンサーになった。 彼は少女が機械に改造される様子を、特等席で眺めることを何よりも好む。

  • 小説
  • 短編
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
  • 強い性的表現
更新日
登録日
2018-07-02

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