財宝の扉と猛獣の扉
駄文ですが、よろしければどうぞ
財宝の扉と猛獣の扉
気が付くと俺は何もない真っ白な部屋にいた。目の前には二つの扉。服は寝間着で、手には紙切れが握られており、読むと
「おめでとう。きみはTHE GAMEに招待された。二つの扉のうち、一方には億を超える財宝が、もう一方には猛獣が、それぞれ用意されている。どちらの部屋にも外への出口があるから心配しなくてよい。果たして君は生きて脱出することができるか? GAME MASTERより」
などというふざけた内容だった。やや呆然とした後、足元から怒りがこみ上げてきて、全身微動しながら遂に噴いた。顔はマグマのように真っ赤だろう、足の震えは地団駄にかわった。紙をビリビリに破いて、どこにいるとも知れないマスターとやらに向かって、お下劣極まりない罵詈雑言を吐き捨てた。しかし部屋の応答は皆無、反響した自分の汚い暴言だけが聞こえる、虚しさよ、哀れさよ。
ようやく冷静さを取り戻した俺は、落ち着いて周りを見渡した。真っ白い部屋、二つの扉、俺が先ほど引き裂いた紙片、以上。。。。いや、異常だ。どう考えてもおかしい。おかしくって、笑いも噴火した。フフフ、アハ、アッハハハ、なんなんだ一体?THE GAME?おっかしい!俺は腹を抱えて、人生で一番笑った。笑いもまた反響した。床に転がって、虫のように、悶え笑い苦しんだ。アハハハハハハハハハ………笑いも収まってきたころ、俺は再び冷静になった。この異常空間のまさに中心に俺が存在している、それはどうしようもない事実としてやっと受け入れることができた。OK、確かに俺はTHE GAMEに参加している、これは紛れもない。ただ問題が一つ、扉の先に猛獣がいることだ。運悪くそれがいる扉を開けてしまったら、俺はこのへんてこな所で苦悶の死を遂げることになる。これだけは何としても避けたい。断っておくが、俺は別に財宝がほしいわけではない。もちろん多重債務者ではないし、何かどうしても欲しいものがあるわけでもない。そのような強欲はあいにく持ち合わせておらず、むしろ清貧質素である。とにかく生きてここから出たい、それだけが俺の目標だ。とするとやはり問題は二つの扉に帰着する。
俺は扉に近づき、耳をあてた。何も聞こえない。次に両扉をたたいて、猛獣から何らかのリアクションを得ようと試みたが、扉は沈黙を保っている。俺はできる限りの扉との対話に挑戦した、開けるという極めてシンプルな方法を除いて。わかったことは、扉を開けるという動作において、確率は1/2であることが、厳格に守られているということである。何のヒントもない、それがこの二つの扉に神聖的な美すら感じてきた。扉は、開けない限りは、1/2とうい不可侵かつ絶対的な数的美をここに示してくれるのだ。俺はしばしこの美に酔った。この部屋から出たくないとさえ思った。扉を開けた瞬間、この美は崩壊してしまう、そのことに恐怖した。
人間は動物であるが故に本能からは逃れられないわけで、つまり腹が減ったのだ。どうしようもなく腹が減った。この人間の本能とは強烈なモノで、俺の美意識さえも翻ってしまった。生きて脱出したい、この気持ちが強くなった。改めて二つの扉と対峙する。やはり美しい、そしてこれを俺の手で崩壊させるのもまさに至高の喜びである、そう思えるようになってきた。さて、俺は今からこの均衡を破壊する。できれば五体満足で帰還するつもりだが、はてさてどちらを開けようか……
俺は両方の扉を開けることにした。なぜならこの二つの扉をよく観察してみると、右の扉の左側に蝶番が、左の扉の右側に蝶番が付いてるので、構造上二つの扉の間に三角形の隙間ができるのである。これなら扉の対称性を崩すことなく、かつ、安全性を保つことができる。俺は二つの扉を開け、三角形の空間に身を潜めた。まもなく右の扉から獣の歩く足音が聞こえてきた。扉の隙間から覗いてみると、体長2Mはあろうか、立派な虎が闊歩しているではないか。俺は虎に気づかれるなと必死に祈った。ここでさらに驚くべきことが起きた。なんと左の扉からも虎が姿を現したのである。結局のところ、どちらを選ぼうが俺は死んでいたのだ。俺は虎が扉から離れたのを見て、とりあえず左の扉から部屋に入った。中は通路のようになっていて、その先に出口。出ると辺りは夜で、ほんのり潮風が頬を撫でた。どうやら俺は波止場の倉庫に閉じ込められていたらしい。
この事件がなんだったのかはよくわからない。だがこの日以来、俺は自分の命の大切さをはっきりと痛感したのは事実である。
財宝の扉と猛獣の扉
構成力が必要だと痛感した