仮面少女

私は根っからのクズだ。
とたったひとりの親友にはそのことを伝えている。
初めからクズ、クズになるのが本望だ。
日ごろからどうやって、どこで手を抜いて、どうやってさぼろうかという事しか考えていない。
例えば学校、宿題、
いいや、それは建前だ、
私はまじめすぎるから、どこかでクズであることに納得できなければ、
くじけてしまう、
私の高校はフリーダムだ、東のB区にある、
偏差値は平均だ、

私は、メンタルに問題を抱えている、
表の顔と裏の顔の差が激しい、
表面上は文学好きだが、裏では残虐な戦争ゲームをやっている。
それをわかっている唯一無二の友人は、私のことをわかっていて、
たまにいうんだ。

「今、クズだったね」

そうすると私は、全身から力が抜けたようになる、
(今、頑張らなくていいんだ)
と思えるようになる。

友人のほうはどうかといえば、私と真逆といえばわかりやすいだろうか、

ついこの間、友人は私にいった。
「私は頭を使ってしまうの、悪い想像をしてしまうのよ、
　そうするとどんな人間の、どんな言葉も、悪口に聞こえる事がある、
　あなたは冗談もうまいから、あなたがそばにいるだけで、私はまともに見えるわ」

彼女の評価は、自分に対する評価と周囲からの評価には、
ほとんどギャップはなかった。
だから私は、その普遍性のようなものがうらやましかった。
個性がないと彼女はいうが、私には個性が強すぎる。
それが、“何の影響”であるか、考えるのもおっくうである。

もともと、私の過去に一つの問題がある。
酒豪の父の存在である、
家では酒乱といってもよい、その乱れようはそんじょそこらの一般家庭の比ではないだろう
人が変わる、次の日はまともな顔をしている。
そのギャップを言い表すには、“シラフ”の時の父の状態を表現するのが一番いいだろう。
丸眼鏡にさっぱりとしたショートヘア、その辺のさわやかなサラリーマンといえばいいだろうか。
保険会社の営業をしている。

仮面をはがせば饒舌だ、
あることないこと話したり、
子供たちの悪口を延々いったり、
妻の自尊心を破壊する、
そのとき、私たちの食卓はただただ冷めているのだ、
明日、記憶がなくなるまでの事だから。

昨日もそういえば、
ｹﾗｹﾗと笑ってた、それが不吉な予兆や、予感だっただろうか？

私は昨日のことをはっきりと覚えている、
しかし、豪邸と呼ぶには程遠い、住宅街のまるで雑居ビルのようなこじんまりした
細身の三階建ての一件やの前につくと、
すべてを忘れる事にしている、
ああ、ブルーの屋根、たしか、ここが自分の家だった。
そうだった。

お風呂の支度、ごはんの支度、
母親は、そのあとスマホをいじっていた、
何をしているか皆目見当もつかない。

私はその楽園での仕事を終え、自室のベットへ眠りにつく、

ああ、今度の休みは、友人と遊園地にいくんだった。
近くのいつでも閉園しそうな、さびれた遊園地、私たちはそこでたくさんの写真をとる事をきめていたんだ……。
そう思っていると、3分後に朝がきた。

友人に家のベルでたたき起こされ、準備を完璧に終えていた私は
あえて部屋を汚くして、
友人は私の部屋のドアをあけて、一言いう。
「やっぱりクズね」
私は、スクールバッグのせもたれにひじをついて横向きにねそべりながら、
クスリとくちもとだけ笑みをうかべる。
あえてととのえていなかったロングヘア―を今整えるとき！。

玄関でまつ友人のもとへ、私は急いで身支度をしてかけつけた。
長い髪、薄い化粧、香水にほんの少しのアクセサリー類。
制服は、中の上、シワひとつないのは、昨日の夜、宿題がおわったあとミニアイロンで整えたからだ。
純白のシャツ、リボンを結ぶ、チェックのスカートは、バサバサして心地がわるい。
私の今朝の準備は完璧だった。
なぜなら、私は、友人と一緒にいるときは、少しクズでいいのだから。

そして、ついさっき災難はやってきた、
今朝私たちは遭遇した。

二人で乗り込んだ、家の近くの通学バスの中。
サラリーマンが、泣いている赤ん坊をみつけて
その母親に絡んでいた、
しばらくそれをだれもがだまってみていたが、
あるとき、老人がサラリーマンの腕をとっていいはなった。

「いい加減にしなされ」

性別は不明だったが
サラリーマンは、黙り込んで、極まりが悪そうに立ち位置を２、３メートルずらした。
人込みは彼の存在を匿名の誰かの中に押し込んだ。

私は友人を見て一言いってみた。

「自業自得だね」

返答はすぐに帰ってきた。

「え？そうじゃないよ、赤ちゃん、どうにもなくてよかったね。」

友人はひきつった顔でわらった。