向夏と匂い

春生志乃

向夏と匂い

六月二十五日夕方、三日ぶりに外へ出た。
なぜ外へ出たのか、それは親に洗濯を入れるよう頼まれた、ただそれだけの事だ。
外は生暖かく向夏だと感じた。
この時期は独特の陽と風の匂いがする。
匂いを文字で表現するのは中々難しく、その人によって匂いの感じ方も違う。
私がこの匂いを嗅いで思い出すのは、高校生の下校時によく嗅いでいた匂いだ。
友達と食堂でテスト勉強をした後、この夏に向かう風が吹き荒れる森林のある道を帰った。
話なんて他愛もない話で最近のゲームの話や、どの先生の授業が好きかなどそんなどうでもいい話ばかりだった。
けれどそれが楽しくもありその時間が愛おしかった事は大人になってから思い出して、物思いに耽る。
もし匂いを表現するのなら、青春や懐しいというものなのかもしれない。
物思いに耽って匂いを思い出すけれど、その時の友人とは仲違いしてしまい、もう二度と会うこともないだろう。
その出来事までも思い出して少し哀しみが押し寄せる。
相手は私の事などもうどうでもよく忘れているだろうけれど、私は匂いを嗅いでその事をいつまでも思い出すかもしれない。
それも含めて青春だと思える程になるまでにはどれくらいの時間がかかるのだろうか。
私が哀しみに暮れる間は、きっとまだ子供なのだろう。
全てを許容してまた同じ洗濯を入れる頃、ああそんな事もあったな、なんて思い出して自分の過ちを認めることが出来たら、この匂いとも仲良く出来るのだろうか。
けれど今はまだ哀しい匂いがする。

向夏と匂い

向夏と匂い

向夏の匂いであの時を思い出す。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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