夜の詩

夜の詩

夜に生きる女の子たち。

『夜に生まれた』

夜に生まれて夜に生き
アタシの全てが夜で出来ていると
誰彼もなく知られ
けれど貴方は何故手を差し伸べたの


『夜に生まれた』


嘘を吐いてでも傍に居たかった
まるで昼に生まれたかのような顔をして
貴方の指に自分の指を絡ませて

抱かれる度に忘れるの
アタシの世界が夜で出来ていること
貴方の世界が昼で出来ていること
決して交わらないふたつを
何食わぬ顔で交わらせるの

気持ちのいい場所など
今はまだないのです
ただ貴方の動きに合わせるだけ
そうして貴方を高めるだけ

何故癒せるなどと思われるのですか
その濡れて光る瞳で
この疵を確かに見た筈なのに
息のしやすさなど自慢げに誇らないで

愛するということは
絶望に近付くということ
日の光で身を焼くということ
愛されるということは
失望に近付くということ
日の光に身を捧げるということ

貴方に愛されなくなった時
アタシは魂の死を迎えるのです
何もかも全てを捧げて
それらを失うのです


「貴方の愛はアタシを壊す」

『情婦』

完成度の低い愛
なんて低俗な関係

それでもアナタ方には迷惑かけてないでしょうに


『情婦』


札束に抱かれて眠りたいの
高らかに笑って見下して
アタシはそれで結構
夜にしか咲けない花だねだなんて、アナタ少し無礼だわ

笑って終わりの愛
夜にしか咲けないなら、夜にだけ咲いてやろうじゃない
だから札束を抱いて眠りたいの
アタシはそれしか愛せない

喜ばせようなんて考えないで
何をしたって喜んだりなんかしないから
アナタにそんな力は無い
そうしてアタシを見下しているだけでいいのよ

お似合いね
その冷ややかな眼差し
とても好きよ
アナタの氷点下な科白

悪い人だと誰かが言う
そんなの無視すればいいんじゃない?
アナタにはアナタのやり方があるんでしょうし
そしてそれはアタシには何の関係も無いわ

笑える程に渇いた関係
だけど居心地は好いでしょう
アタシ達は似てるのね
同族嫌悪という言葉はお知りかしら
アタシはアナタを嫌っている


「夜だけ。それで好いなら続けましょう?」

『安売り少女』

アジアの片隅に産まれ落ち

アタシの名前は「女」


『安売り少女』


ハイ、どなたでも結構です
アタシをお買いになりたいならどうぞ
けれど心は求めないで
そんなものは持っていませんので

ハート型の何かが、この胸の中にあると人は言う
そんなの嘘よ
だってそんなの見た事ないわ
疑り深さを褒めてくれたのはアナタが最初
嬉しい

ねぇ、幾らで買って下さるの?
そう口にした瞬間に表情が凍りつく
何故?さっきまであんなに優しかったのに
愛し合う為にお金は必要でしょう?

ええ、幾らでもいいのです
只お金を頂かないと
それだけの事
それだけでアタシはアナタの物

そして結局は紙切れを差し出すのね
さっきまでの優しさと憐れみは一体何処へ
だからアタシは心を捨てた
持っていたら死んでしまうわ

愛していますと言うのは簡単
咽が音を発し、唇が言葉を作るだけの事
そんな安易なもの欲しさにアナタは紙切れをくれるのね


「愛してくれたら心は取り戻せる筈なのに」

『夜の海にて』

写真をバラバラに千切って風に飛ばす
22時の憂鬱は大きな決意によって実行された

さようなら

それを言葉にするのに何年かかった事だろう
だって愛してたから
他の誰が何を言っても耳に入らないくらい
だけどそれは幻想

気付いた時からアタシは変わる
もう過去でしょう
囚われている時間さえ無駄

あんなに仲良しだったのに
でもそれも過去
あんなに近くに居たのに
でもそれも過去
あんなに
あんなにも一緒に泣いたり笑ったりしたのに

現在をいきましょう
ねぇ、アタシ
今には今の大切な事が沢山あるのだから
悲観する事は無い
アタシは一人にはならない

きっと一人になんて
死ぬ時ですらなれないわ

『独り』

グルグル世界が回る
目眩よ此れは
グルグルグルグル
世界もアタシも回る回る

「キュートな誘惑」と謳われる香水を身に纏い
夜の街を闇のように徘徊
貴方はどなた?と知らぬ顔

グルグルグルグル
気付いて
グルグルグルグル
アタシは此処よ

腕を伸ばせばすぐ其処に
アタシは居るの
貴方の傍に

グルグル回るはアタシ
貴方を中心にグルグル
回って回って
いつしか辿り着ければ其れで好い

『花』

所詮はこの世
舞い散る花となりて


透明感のありすぎる朝
アタシの胸に蝶の痣はまだ残る

幸福と不幸は隣り合わせだから
そう言ってあの子も泣いた
アタシはまだ泣かないけれど
何時の日か泣くのでしょう
たった独りの世界で

大丈夫だよ
そう言って貴方が笑った
アタシはまだ笑えないけれど
何時の日か笑えるのでしょう
誰かの傍で

その誰かが貴方だなんて
まだ知らぬ頃の会話が過ぎる

大丈夫だよ
不透明な夜に居ても
アタシの胸に蝶の痣がありさえすれば


所詮はこの世
されど咲き誇る花となりて

『哀しみごっこ』

哀しみの海の前で
叫べども無音


『哀しみごっこ』


冬の海なんて寂しすぎると
分かっていたのにどうして
余りにも哀しみに浸りたかった

こんなにも寂しいと嘆いてみても
貴方には届かないのでしょう
アタシの胸の黒子すら知ってる癖に

見捨てられて哀れ
アタシは何時だってこんな風に
一人きりで泣いてきた
このまま消えてしまいたいと
何度だって思った

どんなに愛しても
必ず終わりがくるのは何故
永遠なんて無いのでしょうか




哀しみしか無い情景

アタシしかいない砂の上で
微かに覚えのあるステップを踏む
あの子もこんな風に
哀しみに浸っていた

ああ、それは
どんなに愚かに見えたことか

哀しみが止まらない
けれどそれは
どこか芝居じみた絵空事


「愛してるなんて全部嘘」

『無力』

全てがアタシの所為ではないかと、
そう思いながらベッドに横たわる午前三時二十五分。

彼女を救えなかったのはアタシの所為
彼が笑えなくなったのはアタシの所為
あの子に裏切られたのはアタシの所為

君を巻き込んで、
嵐のようにアタシは動き続ける
否、アタシの周りが動き続けている
常にアタシを巻き込みながら
アタシが腕を掴んだ、
君をも巻き込みながら

愛はこういうものでしたか?
言葉以外の伝え方をどうか教えて
誰かアタシにそれを教えて


神様
アタシは慈悲も無く人を憐れむ事ができるのです

『意地悪』

そんな言葉は勿体無いわ
アタシには身分不相応


『意地悪』


お言葉に甘える事はできません
だってアタシはそんなにも上品な扱いを受けられるような女ではありませんもの
だから上手に運転する事だけに集中して下さいな
それだけで結構

望みなどありません
だってアタシはこんなにも下品な笑みを浮かべるような女ですもの
だから上手に躾ける事だけに従事して下さいな
それだけで結構

アタシの役割
即ち夜のお仕事
何でも致しますから、どうぞご命令を
貴方様の仰る通りに致します

あら、なんて不機嫌なお顔
アタシの所為なのかしら?
何か不手際でもしましたかしら
そんな記憶はありませんが

アタシは上手に貴方様の下僕に徹しているではありませんの
何のご不満がおありで?
まさか愛なんて口にされる心算ではないでしょうね
それは一番の御法度よ

アタシの中にそんなものを探そうとするのはお止め下さいな
そんな殺生な事はお止め下さいまし
下品な口紅の色がお気に召さないなら仰って
すぐにその唇で拭えばよい事
口付けだけで情死できるでしょうよ


「意地悪なんて人聞きが悪いわ。大人の関係と形容してよ」

『恋』

覚めてしまえば
あれは夢だったのだと
愕然と思うだけ

冷めてしまえば
あれは夢だったのだと
漠然と思うだけ

誰かの夢にそっと寄り添い
終わりがくれば身を引いて
例えば蝶のようにひらひらと

アタシは恋よ
誰かが夢見た恋そのもの
望むように振る舞い
望むように消える

夜が優しいのは
その静けさ
その暗澹さ
その空虚さ

アタシに夢見てください
貴方に寄り添い
そっと絶望へ手招き致します

心無いアタシに出来る
最良の愛し方は
貴方を内側からそっと壊すこと
その傷口を知らぬ間に
取り返しのつかない迄に広げること


「さあ、絶望に至る恋を楽しんで」

夜の詩

夜は明けましたか。

夜の詩

夜をテーマにした詩。 古いのから新しいのまで。

  • 自由詩
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-06-24

Copyrighted
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Copyrighted
  1. 『夜に生まれた』
  2. 『情婦』
  3. 『安売り少女』
  4. 『夜の海にて』
  5. 『独り』
  6. 『花』
  7. 『哀しみごっこ』
  8. 『無力』
  9. 『意地悪』
  10. 『恋』