謝罪したい、ある少女の亡霊。
「覚えていてくれますか?私は自分の思いへの返答をいただけなかった、いいえ、はっきりと頂いた、なのに、しつこく迫ってしまった。
返答を頂いたのに、見て見ぬふりをしたのです。
私は、人と仲良くなる過程を、その努力を、大きく省いて横着をしてしまった、だから、そんなわけはなかったのです、
私は、努力を怠ったのです。」
「あなたは、まだ生きたかったのでは?」
「私はゾンビですから。」
言葉のひびきに覚えがあった。
それは昨年、今、まさに遮断機がおりたちつつある、僕と、少女の眼前に横たわる踏切で、彼女が死んだとき
誰もがその原因とさとった、たった一度の悪口の事だ。
だが彼女は、そのことは一切きにしていないようにおもえた。
空気の読めないやつがいた。
嫌われ者だった。だが、友達は多かった。
そいつが昨年彼女と同じクラスになったとき、
平気で、いいはなったのだ。
「手が青い、ゾンビみたいだな」
およそ高校生とも思えない、低レベルな侮辱だった。
「それとは関係がありません」
軽快にそう言い放つ少女は、
毎朝同じ遮断機をまたぐ、電車は近づいてくるはずだ、驚くことではない、それ自体は、決まりきっている事だ。
やはり、少女は飛び越えようとするのだ。
毎朝、毎朝、両手両足のあざを、もはや気にする通行人もいない。
いま、遮断器にてをかけた、あとは片足が残されているだけだ、
警報がなったままの遮断器を彼女はわらって飛び越すのだろうか?。
人々はそれを見て、気づくこともできない、止めることもできない。
「私は何度死んでも平気ですから。」
瞬間、僕は彼女自身の気持ちになった、
痛み、苦しみ、後悔、彼女の人生のやるせないすべての感情。
初めから迷惑をかけていたんです、
何もかも、うまれたときから。
彼女の体の青あざは、誰もが見ないふりをしていた。
ゾンビと言い放ったのは、事の善悪もわからない不良人間だけだった。
「何をはぶいたの?君は努力したんだろ?」
僕は、毎朝同じ時間に電車に飛び込む少女に尋ねる。
少女は、そこで足を止め振り返る、電車は、高い音と低い音、そして彼女の制服を風で大きくゆさぶりながら通り過ぎて行った。
「覚えていてくれますか?私のしたことを、勘違いを、私は、あの人に、謝りたかった」
僕にはわかっていた。
それがどういう意味かを、
彼女は、その日、二通目のラブレターを手にしたまま、自殺した。
一通目は、ラブレターを嫌がられていることを
気づかなかったのだという。
彼女は美人だったが、臆病である反面、自身家だった。
そのまま、美しい笑顔をふりまいて、こちらをふりかえったまま、
普通より少し茶色がかった長い髪を風にゆさぶられ、
ありがとう
といった気がした。
彼女のことを覚えているのが僕だけだったとして、
その日彼女は死ななかった。
誰もが僕の感性と経験をばかにするだろう。
だとしても、僕は僕の想像と折り合いをつけ、現実と符合しない事実を受け入れ、
忘れ、反省をするのだ。
僕はそのことを、死ぬまで覚えている気がする。
謝罪したい、ある少女の亡霊。