終焉に捧げる小夜曲 番外編~揺れる中で最後に手に入れたもの~
『終焉に捧げる小夜曲』シリーズの番外編
はて、あの後の3人の生き方は?
時が経っても時代は変わらない 見上げればどこでも同じ空の色
あれからもう3年経った今も尚私達も変わらないまま、過ごしている。
「秋月、頼むそこにある資料を取ってくれ。」
「はい」
栄太郎さんに言われ、資料を渡せばそのまま資料を見つつ書類にペンを走らせる。
あの後栄太郎さんは法学部で国家公務員試験Ⅰを難なくも合格した上で、大学も首席で卒業したのはいいけれど今の政党に不満があるらしく今は、遠縁の知り合いの大企業の後継ぎ。
どうやら、跡取りがいる事もないのでこうして働いている為に、最近は眼鏡をかけたまんま。
ガチャリ、と音がすれば斎藤さんが道具を背負いながら帰って来た。
「おかえりなさい、一さん。」
一さんはあれから、やっと本家の方へと行き師範代として相変わらず武道の道に走る事に。
今私達が住んでいるのは、あのアパートじゃなくて一さんが本家の道場の横にある別宅。ここなら栄太郎さんの通う会社まで車で10分、一さんもよくこうしてもらえたものだ。
それだけ先生は一さんの事を可愛がっているのだろう
「吉田、お前はそこでいいのか?」
「自室では埒が開かん故にリビングでこうしているんだが」
「…ああ、そうか。」
という短い返事、だけ残して一さんは浴室へと足を運ぶ。
実を言えばここは稽古中はここまで声が聞こえてくるから栄太郎さんの部屋は、その音から遠い場所にあるのだけれど、これは一さんも私もよく知っている。
栄太郎さんは誰よりも努力家なのだけれども、何かに手を付けるとまた何かに手を付けている為に、相当部屋が荒れている事。
私も何度か掃除をしようと思ったのだけれど、どれが重要な物なのか学のない私にはさっぱり分からないので手をつけられない…それは一さんも同じ思いらしい。
いつの間にかシャワーを浴び終わったのか、上半身裸の斎藤さんは暢気に髪を拭いている。
「斎藤さんってば、こっちに来るのはいいけれどそんな格好でこっちに来ないで下さい。」
すると嫌味で『斎藤さん』と呼べば、不機嫌な顔。
「…同意だ、俺は男だから構わんが女が1人いるのを忘れるな。」
「……承知」
長い間を置いての返事 もう歳なんだから拗ねないで欲しい
けれどやはり、胸元にはあの時渡したムーンストーンのネックレスがある。それは栄太郎さんも同じで、ずっと付けてくれている。
当時私はアルバイトもしていたが、お父さんが仕送りをしていてくれた為何とか買えたと言う話で…でもシルバーのリングは安物なのだけれど。
「ふう」
と溜息を吐いては、資料をトントンッ、と纏める栄太郎さん。どうやら仕事の方は終えたらしい。
そんな2人にマグカップを渡す
一さんにはコーヒーを、栄太郎さんにはハーブティーを。それでもって私はココア。
2人共、カップを受け取ると口をつける…のだけれど、今日は金曜日。
明日は栄太郎さんも一さんも午前中で帰ってくる、そんな日なんだけれど。
『再び瞳を開いたら2人達は私を待っていてくれた、欲張りだけれど、もし叶うとしたら私は2人を愛したい。』
正直今更この言葉に後悔してる
「…結婚できなくても、いい…か。」
「どうした、秋月?」
「…今何か聞こえたが」
と呟いた言葉に反応しているのに気が付いて、私はハッとなって「お風呂に行ってきますね!」と言ってはその場から離れる。
「…馬鹿」
素直に言ってしまえば いいのに
「吉田」
「斎藤」
「「言うべき事がある」」
その夜、2人の言葉が静かに口を開いた。
・ ・ ・ ・
「遅いなぁ…」
もう時刻は午後3時、とっくに2人が帰って来ていい時間でこうしてお昼ご飯を用意して待っているのに。そんな時、栄太郎さんからメールが届いた。
『斎藤も俺も用事が入ったから、昼飯は夜に回してくれ』
「こ、この…」
「馬鹿!!」
「んで、今更話す様な問題ではないが。」
「ああ」
感知していた
秋月からの告白を聞いたあの時の様子と今の状況――言わばあいつ自身が後悔をしていると言う事
だからこそ、嘘を吐いてまで近くの喫茶店で待ち合わせ、こうしているのだから。
「…どうする?あのままだと俺らがこうしている時間はそう長くないぞ」
「だから、今こうしている訳だ。」
そう言ってカップを置けば、互いに3年前の告白を思いだす。
「…結婚か、確かに3人等で出来る物ではあるまいし、かと言って俺らのどちらかが正式な夫…もしくは愛人と言うものも秋月は納得せんだろうし、お前も納得できないだろ?斎藤」
「無論だ」
如何にして、俺ら…否、彼女だけでもいい。納得、救う為の方法は?
そうして、バサリとテーブルの上に資料を取り出せば、斎藤は「何なんだ?」と問いかけては「見てみろ」とだけ答える。
「これは、あいつの…家族構成?」
「だけじゃない、血縁者その他諸々…先祖や遠縁まで。言わば秋月の祖母祖父、家紋も全て調べ上げている。」
そうしてパラパラと資料に目を通していると、どうやら勘づいたらしい。
「…と、言う事は。」
「そうだ、それこそあいつが今まで知らず恐らく親自身も告げていないのだろうな。きっと」
「この策士風情が」
なんて斎藤が笑って呟けば、カップの紅茶を飲みほして返事をした。
「…最高の褒め言葉だ、後寄りたい所があるがいいか?」
「ああ」
もし、願いが叶うなら…なんて事はさせない。何せ神よ、俺らは現実主義者なんでな。お前の手解きなどいらん
チクタク、と時計が鳴る中1人だけで2人が帰ってくるのを待つ。
あれからアルバイトを続けると言ったけれど、2人してそれを断った。栄太郎さんも見習いと言えど副社長の地位の為に仕送りなど要らない程。それに斎藤さんだって若いうちから働いているから金銭的な面では十分。
まるで、私は半端者だ。
すると鍵が開いては玄関まで走って、「おかえりなさい」と言うと2人も「ただいま」と返してはお昼に食べるはずだったチキンライスを食べていると今日はやけに2人の食べるペースが異常に速い。
「ひゃらにゃらほれがありゃへほく(皿なら俺が洗っておく)」
と斎藤さんに続いて栄太郎さんの言葉が続く
「ほりはいふゅふろひってほい(とりあえず風呂入って来い)」
「行儀悪いですよ……」
といいつつも、2人の好意に甘えお風呂から上がると栄太郎さんが携帯で何か話しているので、何かと手を伸ばせば斎藤さんに手で口を塞がれる。
「ええ、はい 分かりました。夜分遅くに申し訳ありません。また後日にでもお掛けしますので。」
ピッ、と言う音が鳴るとようやく解放され、私はこの人達が何をしているのか理解できないから口を開いた。
「一さんに、栄太郎さん!一体2人で何してるんですか!?」
そうだ、そうだよ
「私ばっか蚊帳の外で…ッ」
これが事実だ
「私がどんな思いで、生活してるのか解ってるんですか!?」
響く、沈黙。
「あ…」
2人は落ち着いた目でこちらを見ている「知ってるよ」と言わんばかりに。
これじゃあ ただの八つ当たりだ
そうしゅん、としていると栄太郎さんが、「まぁソファーに座れ」と言うと一言返してきた。
「大事な話がある」
「大事な…話?」
少し戸惑っていると一さんは、窓に背中を預けながら「いいから座れ」と押して、とりあえず座って、顔を俯く。
「覚えているか?お前が3年前に言った言葉」
「…はい」
きっとあの事であろう「結婚などしなくてもいい」と
でも、こうして3人同じ屋根の下で暮らして見るとそんな事が言えるような状況じゃなかった。好きなのに、どうすればいいのか分からなくて。
どっちかに甘えてしまえば、一さんか栄太郎さんか…傷ついている光景なんて見たくないから我慢。声を掛けるのも辛ければ、触れる事はもっと辛い。
「正直な話、俺らには嬉しくとも結果的にはこうなった。それでお前は俺か斎藤が傷つくのを恐れて自ら遠ざかる」
「ええ…」
的確で、何も言い返す言葉など1つも言えずに栄太郎さんがバサッと資料を付きだし、自身は煙草に手をつける。
「これは?」
「お前の血縁者…つまり親、親戚、もっと遡れば祖父祖母以上の事が書いてある。読んでみろ。」
そう言われてペラペラ捲るとまずお父さんの事が書いてあった でも、私はこんな事を聞かされてなんかないのに。
さらに見て行けばお母さんの家の事情と、おじいちゃん、おばあちゃん…そうして最後には…家紋が。
「嘘…」
嘘だ それを考えてしまえば私は『この人』との関係性が濃くなってしまう。
「嘘だと思うか?だが、それが事実で向こう(幕末)での事もあながち間違いじゃない。」
だって、これ……。
「お前の父親はお前自身と血が繋がっていない、そこにある通り本当の父親は既に亡くなっている訳で未亡人の母親と結婚した訳だ。そして見ただろうがその家系図と家紋…分かるな?」
と言うと灰皿に煙草を押し付けると、また言葉を続けて行く。
「俺は『吉田家』を妹に継がせ、今は残念だが断絶寸前。つまりお前の父親は『吉田家』の人間。言うなれば立場上秋月は今の父親の養子に当たる。だからお前と俺は実質上『吉田家の人間』としてカウントする。」
「なら私は、曖昧ではあるけれど既に私と栄太郎さんは結婚している…って事ですか?」
「そうなるな」
なんて涼しげな声をしつつまた煙草に手を付けて、紫煙を吐き出す。
じゃあ、私は一さんと――…違う、この人を裏切る事になってしまう。と思う中、栄太郎さんは一言だけ言い残した。
「でもな、例え秋月が吉田家の人間だとしても斎藤はどうなる?一切血の繋がらない唯一の男だ。なぁ?斎藤」
「…ああ」
話が全くを持って見えない
この人達は何が言いたいの?私に何を伝えようとしているの?
すると今度は斎藤さんが口を開いた
「強引な手口…だが、こんな話がある。」
「強、引…?」
「とある鍛冶師がいた、だがその鍛冶師は代々続く子孫にその剣を持たせるのだが果てこれは呪いなのか、その一族しか継げない刀を他所の人間が持つ事が出来た。」
紫煙と、沈黙だけが残るこの空間にポツリ、ポツリと呟いた。
「…理由は、その鍛冶師の人間と他所の人間と愛し合っていた。つまりは恋人という立場」
「あ」
さっき、栄太郎さんはなんて言った?「だからお前と俺は実質上『吉田家の人間』としてカウントする。」と。つまりは……
「私が栄太郎さんの家の人間でも一さんとの婚約は許される…?」
「そうだ」
何だったんだろう
こんなにも1人で勝手に喚いている中、2人はちゃんと『証拠』をくれたじゃないか。
そう思うと、涙が頬を伝うと栄太郎さんの額と私の額が当たると微かに呟いた。
「もう、苦しまなくていいんだよ。『言葉』」
「今、名前を……。」
呆気に取られていると次は一さんが口を挟んで来た
「俺も前までは名前で呼ばれない事を差別と言ったが、逆にこうせねば俺らも不公平だ。」
「ん、じゃあさっきの電話は…?」
「今日、アンタの実家に行ってコレを話した。」
「ええッ!?」
「流石に吉田との事は驚いていたが、何の問題はないと。さっきの電話は、明日アンタの家に挨拶しにいく取り付けだ。」
「えええー…」
…ごめんなさい、お父さんお母さん。どうやら私はかなり迷惑を…いや、私にじゃなくて2人に。
・ ・ ・ ・
「言葉、久しぶりね。病院以来会ってないからお父さん寂しがってたわよ?それに、2人共イイ男じゃない。両手で花で羨ましいわ~」
「ちょッ!お母さん!」
「ほほほ、まぁまぁ上がりなさいな。」
「すみません、昨日はこちらの勝手な都合で。さぞ迷惑を掛けたかと」
なんて社交的に答える栄太郎さんを横に「いいのよ、いいのよ。」とお母さんは言う。
「もうこの子も歳が歳だから、結婚してもおかしくはないわよ、栄太郎君。」
「それはどうも」
うーん、何だろう…やたら栄太郎さんが爽やかな人に見える。対して斎藤さんはいつもの様に気配がない。
そうして家に上がるとリビングの方へ通され、お姉ちゃんがココアを淹れてくれるけど問題発生。
「お姉ちゃん…気持ちは嬉しいんだけど、実はこっちの黒い髪の人…一さんって言うんだけれど、この人甘い物は駄目なの。」
「あちゃー…なら別のに入れ返してくるわ」とカップを取ろうとした瞬間、一さんは制止した。
「…構いません」
「ほー、言葉より一個下って聞いたのに案外しっかりしてるじゃない。それに何処かダーティーな渋さが…」
「小依、いいから向こう行ってなさい。」
とお母さんに言われると、「はいはい」と返事をしては部屋を出て行った。
「…さて、再びご紹介させて頂きますが私は吉田栄太郎と申します。」
「並びに斎藤一と申します」
栄太郎さんならともかく、一さんは一応上司で年上の土方さんに「アンタ」呼ばわりしていたのにここまでになると…。やっぱ職業柄、そういう礼儀はしっかりしてるんだなぁ。
「ふむ、まさか吉田君と我が家の事を知った時は驚いたが…何、若いのによくここまで調べてくれたな。」
「いえ、この事造作でもありません。しかし、秘密裏に調べていた事を恥であると思ってもいます。」
「そう言うな。ただお前さん達は言葉の事を第一に考えて、ここまでしてくれたんだ。それは恥とは言わんぞ。」
「ありがとうございます」
と、栄太郎さんが頭を下げると斎藤さんは懐から『何か』を出してはスッとお父さんとお母さんの前に差し出した。
「吉田の事は、昨日納得頂けましたが、俺の場合はこちらの方に記入を願いたいのです。後で本人にサインをしておくよう言っておきますので。」
……え、まさか この紙は
「けれど、斎藤さん。あなたの親御さんの所には違う名前があるじゃない」
「俺は幼少の頃に父母を亡くしています。故に、ここには俺の親代わりである方が保証人となって下さいました。」
なんて聞いてよく見れば、この人の名前は確か斎藤さんの道場の師匠さんの名前だ。
「…そんなに若いのに苦労しただろうに。」
本当だ 幼い頃から親が居ないと言うのに、ここまで生きてしっかりと仕事までして私の面倒を見てくれるんだから。
「いえ、全てはそちらのお嬢さんの為。そうであれば、俺はこの生き方を苦痛であるとは感じません。」
「――…!」
「そうか、そうか」と言って2人がサインをすればこちらに婚姻届を差しだされる
「言葉、本当の事を話さなくて悪いと思っている。けれども、この人達を大事にしなさい。お前もこれだけ大事にされているんだから」
「うん」
勝手な事ばっかり言って、結局自分がしていた事は我儘でどれだけ2人に苦労をかけたのだろう?けれど今度こそはこの人達の気持ちを大事にしていくから。
「それで、式の手筈なんですが……。」
「「「早ッ!!」」」
と私と両親は驚く、が一さんは声を上げるどころか顔色1つ変えない事はきっと気付いていたんだろうと確信。そしてやっぱり栄太郎さんの作業の早さは尋常じゃない……
んで、夜が更けてこうなっているんだけれど、何故か実家の食卓に一さんと栄太郎さんまでもがいる。お父さんは2人に酒は勧めてるし、お母さんはご機嫌だし、そうして何より隣にいるお姉ちゃんがうるさい。
「ねぇねぇ、斎藤君ってその歳なのに道場の師範代なんてすごいのねー!」
「…いえ、まぁ。」
「栄太郎君も言葉と同い年なのに副社長なんだって?もう、本っっ当に言葉が羨ましいーッ!!」
「言葉…お前の姉君は確か何年恋人がいなかったか?」
「5年、ですよ。やかましくてごめんなさい、2人共…。」
「「…ああ」」
3人でげんなりとしている中、尚お姉ちゃんのマシンガントークは止まらない。
「そう言えば今日は2人の旦那様もお泊りなんだって~?うん、ようやく言葉も大人の階段を…って、ああもう済ませちゃったか。」
「「「済ませてません」」」
(ってか、栄太郎さんと一さん!明日はお仕事なんじゃないんですか!?)
(有給休暇を取ってきた)
(……)
と言う小声話の中、栄太郎さんは本当だとして一さんは仕事サボる気だね、これ。
なんて騒がしい時間が過ぎて、夜自分の部屋にコンコン、とノック音が響く。
「言葉、少しいいか?」
「あれ?2人共客間で寝てたんじゃ……」
「いいから来い、海浜公園まで行くぞ。」
「今から?」
「…ああ」
そう言われ胸騒ぎがする
ああ、これは確か栄太郎さん達と行った時の光景と同じだ。
「今、『着替えて』きます。」
もし、私の両親に会って話すだけならあの2人は今日『あんな服装』はしなかっただろう。
一さんは紺色スーツに灰色のネクタイを締めて、栄太郎さんは白いタキシードと薄紅のネクタイ。
そうして私は、薄紫のパーティードレスを着ては海浜公園へと向かうと、まだ噴水から水が出ない状態のまま。
すると栄太郎さんはスタスタと中央の方で止まれば、こちらに微笑んで一さんが口を開いては手を差し伸べる。
「丁度、時間だ。」
そういうと、噴水の手前までエスコートしてはあの時の様に噴水から水が上がりライトアップされる。
「俺の、結婚式場はここだ。」
響くのは水の音と栄太郎さんの声だけ
「汝ら、吉田栄太郎共に秋月言葉は病める時も健やかな時でも永遠の愛を誓うか?」
「誓う」
という短い言葉の後に栄太郎さんと私の唇が重なる ああ、やっぱり温かいんですね。貴方は
唇が離れて、噴水も止まれば一さんもこちらに来ては『ある物』を取り出しては私に手渡しては「開けてみろ」と一言。
そっと箱を開ければそこにはシルバーのダブルリングでカルセドニーの石が入っている。
カルセドニーの石の意味は――『人との結びつき』
栄太郎さんが私の左腕を持っては、一さんがそっと左手の薬指にリングを嵌めてくれる。
「…これは、俺と吉田で出し合って買った。俺達の一生の恋人(パートナー)として」
「ええ…」
石の所為なのか、やたらと光るリングを胸にあてていると「言葉」と2人から名前を呼ばれ頬に2人の温かさを覚えて目を見開く。
「お前に会えて本当によかった」
「もう俺はアンタを苦しめさせない、絶対に守り通すからな。」
「はいッ…!」
2人からの早い結婚式と永遠の誓い 正式的な結婚式は一さんとだけれど、これはきっと一生忘れない。
あ、でも後1つだけ忘れた事がある。
「私…どっちの苗字になるんですか?」
「あ」
なんていつも思慮深い栄太郎さんが小さく呟きながら、斎藤さんがその返事をしてくれた。
「山口…じゃ不服か?」
「山口…?」
と頭にはてなマークを浮かべる私にいつもの一さんの顔で淡々と語っていく
「俺の本来の名は『山口一』ちなみに道場の方でもこの名前で登録している、『斎藤一』という名は大先生とアンタら2人しか知らない。故に婚約届けにもこの名前で通してある…それに」
栄太郎さんの方をじっ、と見ている一さんに向けて「何だ?」と答える。
「お前の故郷…長州は、今じゃ『山口』だろう?そう言う意味合いとして俺は考えたんだがな」
なんて言う一さんの言葉に「ぷ」と笑う。それじゃあ何だか掛け合わせとしてじゃなくギャグに聞こえてしまう。
「…『山口栄太郎』か。かなり似合わんがしかし、そう変名しておこう、近いうちにでも市役所の方を通して変更手続きをする。」
「でもそれってかなり複雑で裁判とかも関わってくるんじゃ…!」
「言葉、お前は誰に向かって言っているんだ?かの天才、松陰先生に正式に『三無生・村塾四天王』の名を貰った男だぞ?」
なんて言いながら余裕満々の表情で答える。ちょっと自惚れてる所があるかもしれないけれど、私は知っているから。栄太郎さんの今までの働きを。
もう長らく続いて来た私の弱さ…2人の間でずっと揺れては何も見えず迷子になっていた私をこの人達はちゃんと探し出してくれたから
「お前らの式が終わった後、俺の故郷にでも帰るか。もうずっと見る事のなかった『あの場所』で先生に言わないとな『俺達が築いた時代は平和で、俺自身も笑えるのだ』と」
「そうですね…後、高杉さんとかにも報告しとかなきゃ怒られそう。」
「だな」と返答する栄太郎さんに続いて、斎藤さんも口を挟んだ。
「なら、京にも行くか。何せ俺らが出会った場所だ。それに…会津にも足を運びたい。俺(新撰組)がこの土地の徒華で合った事、それでも尚俺はこの先を進むと伝えたい。」
「…随分と前の帰郷だな、忙しい物だ。」
最後に手に入れたものは確かなる『幸せ』 真っ暗な空に浮かんだ月が、優しく吹く風が何処か聖なるセレナーデを歌ってくれたような気がした。
もうこの手を離さないように指を絡ませて例え未来に届かないとしても私はずっと覚えているから
例え声に出来ないモノが合ったとしても、でも隣にずっといてくれる。
だから涙が零れないように、そっと目を閉じた。
貴方と重なる時 1つ1つ大事な事を思い出して
忘れそうになっても言葉よりも記憶よりも『この手』が覚えている
「私はずっとここにいます」
2人の重なった赤い糸を道標にして
fin.
終焉に捧げる小夜曲 番外編~揺れる中で最後に手に入れたもの~
どうも閲覧ありがとうございます
『終焉に捧げる小夜曲』シリーズの番外編
最終話でヒロインがあんな事言っていたのに、この矛盾……。いや、私は独身ですから分かりませんけれども!(苦笑)
……つーか、こんなんで結婚の話は通るのか?なんていうのがかなりの疑問で、叩かれる可能性大なのでヘルメット被っときます;;
最後まで読んでいただきありがとうございました