オンボロ動物園

まじめでやさしい飼育員の健さんがいるオンボロ動物園におとずれる奇跡とは。

 古くて小さな動物園には、リス一匹と九官鳥一羽しかいません。空いている小屋ばかりです。飼育員は、健さん一人きり。
 町の人は、オンボロ動物園と呼んでいます。誰も遊びにきません。あさっての日曜日で閉まるのです。
 仕事を終えた健さんは、ため息まじりにつぶやきました。
「昔みたいに、たくさんの動物がいて、町の人でにぎやかな動物園を見たかったなあ。」
 なんと!この独り言は聞かれていました。
 小屋の中にいる、リスのスクイです。
 すぐさま、九官鳥のナインに言いました。
「健さんがくれる木の実は、いつもおいしく、小屋は古いけど、寝床はとってもふんわり。お礼に、願いをかなえてあげたいです。」
 ナインは、オレンジのくちばしを、よこにふって「無理だ」と答えます。九官鳥なのに、話すのが嫌いなのです。
 なんと!この会話は聞かれていました。
 近くの森に住む、カラスのクロウです。
「あきらめずに、やってみようぜ。森のみんなに声をかけて、ここへきてもらおう。」
「いやだ、と言われるかもしれないよ。」
 スクイが小さな声で言うと、クロウは真っ黒な羽で、えさ箱の木の実をさしました。
「健さんは、うまい木の実を見つけに、毎朝森へやってくるのさ。そのたびに、みんなのけがを治してくれたり、優しい言葉をかけてくれたりするんだ。嫌われ者の、おれたちカラスにもな。だから、みんな喜んでくるさ!」
 クロウは、森に向かって飛んでいきました。
 スクイが、木の実を見つめて言います。
「いつも、おいしいわけですね。」
 ナインのくちばしが、たてにゆっくり動きました。
 スクイは、うでを組んで言います。
「森のみなさんが、空いている小屋に入れるように、準備をしないといけませんね。どうしましょう?」
 ナインは、くちばしをひねるばかりです。
 なんと!この相談は聞かれていました。
 森からきていた、サルのモンペイです。
「それはサル軍団に、まっかせなさい!」
 スクイは、たずねました。
「健さんに、けがを治してもらったの?」
「それだけじゃないよ。健さんは、しょちゅう、やわらかい枝や葉っぱを探しにくるんだよ。そのたびに、森のごみを拾ってくれたり、木を植えることもしてくれるんだよ。森のみんなが感謝してるよ!」
 モンペイは、木から木へ飛び移りながら、森の中に戻っていきました。
 残された二匹は、いつも寝床がふんわりしていたわけが、これで分かりました。
 そのとき、ナインが口を開きました。
「明日、健さんが、わしの小屋を開けたら、思い切りさわいでくれ。よろしくたのむ。」
 無口なナインが話すのは、とても久しぶりです。
 スクイはびっくりして、「は、はい」としか言えませんでした。
 次の日、健さんが、ナインの小屋を開けると、大さわぎをしている音が聞こえてきました。
「おや、なにかあったかな?」
 健さんは、スクイの小屋が気になります。
 そのすきに、ナインは外に飛び出しました。
「おーい、戻ってこーいっ」
 健さんは呼びますが、ナインはどんどん遠ざかっていきます。その先にあるのは町です。
 スクイには、ナインがなにをするつもりなのかが分かりました。
 ナインは町につくと、空から大声をはりあげます。
「明日!動物園!きてねー!」
 子どもたちがいる公園にもいきます。
「明日!動物園!いこー!」
 ナインは、そうやって町中を飛び回り、夕方に戻ってきました。ほっとした健さんは、ナインを小屋に入れます。
 スクイは、少しくたびれたナインの横顔に、深く頭をさげました。
 日曜日の朝、動物園についた健さんは、腰が抜けるほどびっくりしました。
 そう!あの呼びかけは聞かれていました。
 おおぜいの町の人で、にぎわっているのです。しかも、全ての小屋に動物がいます。まるで、夢を見ているようです。
「こっちには、イノシシがいるよ!」
「お父さん、ワシってかっこいいね!」
「すごいっ、この小屋はクマだ!」
 子どもたちの喜ぶ声に、健さんの目は涙であふれ、目の前がにじんで見えなくなりました。
 古くて小さな動物園には、森の動物たちが、毎日やってきます。空いている小屋はありません。健さんは、おおいそがしです。
 もう誰も、オンボロ動物園とは呼びません。おおぜいの人が遊びにきます。これからもずっと続いていくのです。

オンボロ動物園

オンボロ動物園

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 幼児向け
更新日
登録日
2018-06-21

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