分裂の息 1
早朝のこと。「僕」は駅のトイレで吐いた後、電車に乗った。家を出る前には気休めにと蜂蜜を舐めた。
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多分本物じゃないおじさんが僕の前に立っている
しきりに蜂蜜について訊いてくる
「おまい、グレープ味の飴噛んでるだろ。おまいグレープ味の飴を、噛んでるだろ。」といつまでも訊いてくる
ええい、どうすれば良いんだ
力んだから、腰が痛い
揺れる電車に立っているから、膝が痛い
蜂蜜くらい知ってるよ
だからもう、ゆっくり寝てください
飴は、噛まない派なんです
ぼかぁもう、だめだぁ
おじさんの目を見るのが怖くて、胸のあたりをみた
そしたら女の子の、弱く、高く震える声がした
近づいてくる
まっすぐ僕を見つめて、近づいてくる
嫌だから下を向いた
「おまい、何噛んだ。なに噛んだ。」
車両に2人きり
あっちとこっち
ドアに手をついて、つり革を掴みながら揺れる車両の中を、来る
弛んだ裾のズボンを乗せた、だっさい合皮のゴム底ローファーが視界の端に映った
分裂の息 1