終焉に捧げる小夜曲 ~追憶編 ・ 涙~

翼を広げて辿りついたのは終焉の地
ただただ1つの祈りを込めて 少女に罪を 男には断罪を

先の見えない物語


14 ~追憶編・涙~

「伏見、甲州は落ちた、か…。」
あの日から私は新撰組の跡を辿りながら、歩き続ける。私が知る限りではこの戦で、永倉・原田両名の幹部は隊を脱して、そろそろ局長である近藤の死が訪れると同時に
土方さんは江戸へ下りつつ、宇都宮。そして斎藤さんは新撰組の隊長として会津へ向かっているはず。なら、隊長両名が生涯の別れを告げるのは母成峠。私の記憶違いでなければ、今 土方さんと斎藤さんは共にいる。
既に日が落ち空を見上げれば、あの優しい夕暮れ。
『…斎藤、一だ。』
木の棒を掻き集め木に背中を預けては、前に京の長州藩邸で桂さん…否、今は木戸さんが言っていた事を思い出す。
どうやら、伊上君も伏見の戦場に赴いては、銃の留め金が外れたと同時に斬り殺されたのだと。
けれど私は もう既に覚悟を決めているからこそ彼の為にも…亡くした人達の思いを汲んで、最期の戦に挑む。
「…栄太郎さん」
私は
「『秋月言葉』と言う志士の名で戦います」
だから、あと少しだけ そっちで待っててください。

「土方さん、足の具合は?」
「こんなモンとっとと治る、気にすんな。」
「…」
「んで、ここまで俺らは新撰組の人間として戦ってきた。俺は直に母成峠を起つ 斎藤、お前はどうする?いくら少人数であろうと組を引いてんのは、俺とお前だけだ。」
「土方さんは、何処に?」
「北でアイツらを討つ、あそこだけが最後の要だ。」
「…そうか」
と言う会話の中、ただ溜息を吐いては「やれやれ」と言っては土方は立ち上がると同時に口を開いた。
「斎藤、お前は会津に残るんだろ?何せ、容保公の後ろ盾がなきゃ新撰組は生き残れねぇんだ。違うか?」
「…違わない ただ絶対に躊躇など許される事はなく剣を抜く…それが全て」
「くっくっ」と笑い声を上げながら夜の空を見上げ、ただただ微かに呟いた。
「俺はまだここに残る、だから『そっちの新撰組』は任せたぞ。」
「…承知」
そう答えれば、微かな気を感じては立ち上がり、背を向けて森の一本道へと向かおうとする。
「おい、どこ行くんだよ?」
「…招かざる、客。すぐそこまで来ているからすぐに戻る」
「ったく…世話を掛ける奴だ」

 ・ ・ ・ ・
「いつから附けてた?」
と言う言葉と共に私は斎藤さんの後ろに立っていると同時に、答えた。
「土方さんと話してた時ですよ」
くるりと後ろを向けば、『あの日』失くした少女の姿。
「久しぶりですね、斎藤さん。もう何年会っていなかったんでしょう」
「4年と少しか…」
そう答えれば、ただその場に座り込む。と同時に私は斎藤さんに聞いてみた
「いいんですか?私は貴方達の敵だと言うのに」
「…殺気がない。アンタは俺を今ここで殺す事はないだろう、なら何の用だ?」
斎藤さんの言葉を無視して、「よっ」と呟き、芝生の上で仰向けになる。
「いつの日か、言ってましたよね。「アンタはその信念の元、いざと言う時に抜けばいい」と だから、その信念を貫き通すまでここまで足を運んだんですよ。」
「…」
この人は昔から無言で答える事が多かった だから私も淡々と呟いていく
「懐かしいですよね、もうあれから相当の年月が過ぎているのに、あの時川辺で会っていた事が昨日のように思えて仕方ない。初めて会った時、稽古した時…私はまだ鮮明に覚えている。」
すると視線だけをこっちに向けては、何年も聞く事のなかった懐かしい声音で口を開いた。
「…俺は池田屋(あの時)の光景しか覚えていない」
――甘いのはどっちだ!?
「だが」
――貴方は解っていたはず、私が敵であるのだと!!それを殺さずに野放しにした貴方が!!貴方と初めて出会い、栄太郎さんに出会い選べなかった…2人の間で揺れていた私が!!
「あの時、俺に剣先を向けた時の姿ではなく安心した。」
「そう、ですか…。」
無言 けれども、この人の事だから何も言わなくても落ち着く。そんな不思議な光景の中起き上がってはパンパンと砂埃を払っては、今度は私が斎藤さんに背を向けた。
「もう私は、この恰好で貴方の前には姿を現しません。」
この人と栄太郎さんに初めて出会って選べなかった…2人の間で揺れていた私の罪を贖う為に。
「だから、さようなら。次は戦場で会いましょう」
と言い残して、その場を去っては斎藤さんは一言だけ呟いて俯いた。
「…秋月」
例え敵同士であったとしても、もう彼女をこの汚れきった剣で殺したくもないと言うのに。何故、またもこうして言えなかったのだろう?「俺にはアンタを斬れない」と。
そんな簡単な言葉すら言えずに暗闇の中、彼女の姿は既になかった。
「…こんな、はずじゃなかった。」
彼女が俺と自身を否定すると言うのならば、俺は『俺自身』を否定する。
もうすぐ来るであろう、もう1つの新撰組の最後の戦が。
「…斎藤さん」
ごめんなさい こんな事を言いに来て
あの人の事だから、何よりも剣が、そうして自分自身をよく理解しているだろうから。でも、ここで言わなきゃ意味がないから。
短い間過ごしてきたあの頃の姿に戻って、貴方に会いに行って…だからもう終わりにしましょう?
パサリとかつらを取っては、栄太郎さんが選んでくれた着物を剥いで、ただ1枚の桜色の帯あげを形見の刀の根付にしては結ぶ。

決戦は、後3日後。

「た、隊長…会津藩はどうやら籠城を決め込んだそうです。」
「…分かっている、明日辺りにでも薩摩軍がここまで来るはずだ。今夜はもう休め」
「はい」と言う声を聞いては近辺を散策してみる
運のいい事に、戦国時代に上杉軍が残した深い溝がある上に今までの合戦で向こうの出方も見たが、最新式の銃でも射程距離は把握済み。ここを上手く利用していけば十分に戦える。
しかし、もう薩摩が攻めてきて2日も経っている。少人数と言えど負傷した者が増え続け、勝敗は決まっているのだから。
いくら土方さんが北へ上ったとしても結末は変わる事などなく、間違いなく『新撰組』は時代の敗者として、生き残る。
そんな先を見据えては最後の戦の火蓋は切って落とされた
響く銃声と悲鳴の数々、さらに負傷者も増えながら、断末魔のような声が戦場に響く。
「臆するな!重症の奴は溝か城下前に辿りつけ!残りの奴らは着いてこい!」
『京の街は碁盤の目、でなくば迷う。人に見られれば先程と同じ事になる 着いてこい』
秋月と初めて会った時に掛けた言葉が脳内から離れる事はなく、苦しい銃撃戦を受けながらも、俺は刀で薩摩と向き合う。
――ただ願うならば、彼女が俺の側に…新撰組にいてくれるならば。
「くッ…!」
負けてなるものか
例え新撰組(俺達)が敗北者になったとしても、この先の未来を見届ける義務を。
「止まれ」
その瞬間、薩摩軍の中から聞き覚えのある声が響いた。
赤く長い髪を結び、靡かせては、黒い装束、もう着る事が禁じられたと言えど俺らが戦った唯一の誇りである浅葱色のダンダラ模様の羽織。
「な、何じゃ!この女子…新撰組の羽織など着りおって…!この、賊軍がァッ!!」
そう言われ構えられた銃を手首ごと斬り落し、斬られた人間は「ぐが…」と声を上げ、刀に付いた血を払う。
「止まれと私は言いいましたよね?異存があるのなら斬り落せばいい。」
と言う言葉に数名が剣を抜き、銃を向けた瞬間、飛び散った頬を抑え目を見開き、斬り落して行く。
「私は日本人、秋月言葉。現状の土台を作るべく命を落として逝った仲間の無念を晴らす為、この命と身を狂気と化して官軍と言えど容赦なく斬り捨てる!」
「う…」
仲間…否、そちら側に偶然付いていた人間を斬り捨てても容赦さえもない。尻もちをついて後ずさる者…邪魔な人間を斬っては、一歩進めば道を開け、最前列へと向かう。
「と、捕った…」
「! 馬鹿、止せッ!!」
「その首取らせてもらうぞ!」
と隊員が斬りつけるが、避けては地に右手に刀を持ちながら逆立ちからの回し蹴りで意識を失えば、さらに進む。
「秋月…」
さらにもう一歩
「…止めろ」
その瞬間、俺に向かって走り出しては斬りつけてくるが防ぐ。片手で払えば後ろへと下がる。
「はぁッ!」
池田屋の時のように躊躇う事ない横薙ぎに、左手を上へと上げれば、その瞬間パァンッ、という音が静寂の間に響いては、彼女の髪も下ろされ――……
血が、滴る。そして刃先に感じたこの感触は
「……あ」
俺の、銀色の刃が秋月の喉笛を確実に貫いて秋月は膝を付いた。
すると、スルリと細い身体から羽織と黒い装束と腕に巻いてあった布が地面をついたその瞬間、脇腹にさえ銃弾を食らう。
「秋、月…」
カシャンッ、と刀を落とせば 笑っていた
「さい、と…うさん。」
『ありがとうございます、お兄さん。私、秋月言葉と言います!貴方の、名は』
もう喉笛を刺され、呼吸もままならない上に、脇腹にも痛手を負っていると言うのに、必死に力を振り絞ってはその手を俺へと向けて…。
『あの人もいなくて…けど、寂しいから寂しくないフリをして色んな事に打ちこんで…その苦痛を忘れる事ができるのは斎藤さんとこうしている時しかないのに!』
こいつは、まさか……。
「銃弾を掠めた瞬間と共に、俺の刃を自ら呑んだのか。」
目から頬へと涙が伝い、ポタポタと下へ落ちてゆくと共に隊員は薩摩と戦うが、俺にはそんな音は聞こえずにただ取り残された世界で、か細い声が響いた。
「まだ、その鉄ごしらえの額当て…付けてたんですか…」
そう呟くと、秋月の震える手は俺の髪に触れては梳いている。
「や、っと…斎藤さんの髪に…触れられた…い、つも 綺麗だと思って、たんですよ…?」
「もう何も言うなッ!」
ヒュー、ヒューと聞こえる呼吸音と未だ俺の髪を離さず、呟く。
「今まで…貴方と過ごした時間を、私は覚えています…何1つ隠す事なく。あの川辺も、稽古、つ けてもら、た事も…一緒に、蕎麦を食べた事も…」
「止せ」
それでも、彼女は言う事を聞かずにまだ話している。
「…池田屋で言った事、覚えてますか?」
「ああ…」
「私…栄太郎さんも大事、で…斎藤さんも大事。だから…全て終わって…ごほッ!」
血反吐を吐きながらも、彼女の想いは言葉は止まらない。俺の頬には彼女が吐いた血が付く
「だ、から…私の罪を、貴方の手で…斬り捨ててほし、かった…。」
すると、俺の髪に回した腕は震え、頬に付いた血を拭う。
「斎藤さんは…わ、たしを殺したくないのは…知って、まし、た。自分の汚れた手で…殺すのが嫌と…ここ、に来るまでたくさん殺、した…から…でも、貴方の剣は…錆びて、ない…。だから、この先の人生で、その剣に誇りを、持って…生きて…。」
「俺の…この剣で…?」
と言い残すと、さらに彼女は頬を緩め、泣いているが、とうとう声も掠れ聞こえなくなって行く。

「私の信念は――……」

口元だけが動き、頬にあった手さえ俺の身体から、擦り残ってはとうとう目を閉じた。もうこの生涯精一杯生きたのだと満足したような顔で。
秋月の喉元を貫いた刃を抜いては、そのまま横にさせて俺は斬りこんで行く。銃声と悲鳴が飛び交うこの戦場を。
「はァアアアアッ!!」
この誠の心と、剣を背負いながら。

深い意識の中 あの短くも長い遠い日を
初めてここに来て あの大事な2人と出会えた事
自分の守りたいモノを1つ1つ失くした時
この命と身を狂気と化して最期に辿れたこの場所
私の 貫き通した信念は『残された人に命を賭けてでも先の人生を伝える事』
足掻き通しても守れない無力さと死に場所を求めてようやく答えを出せた事に後悔はないよ
――高杉さん
   桂さん
   久坂さん
   中村さん
そして、栄太郎さんと斎藤さん。
もう動かなくなった時、ようやく言えた言葉。
『 一さん 』
きっとあの人はこの先も剣の道を歩んでいくんだろう
無表情で無口で一匹狼
それはあの人自身が分かっているだろうから、最初と最期に振るわせてしまった断罪の刃。
栄太郎さんはどうだろうか?
宮部さんを、久坂さんを、入江さんを、寺島さんを守れなくて怒っているのかな?
多分、あの悲しみとほんの強がりを見せた顔で冷たく嘲笑うだけ。
けれども私は 秋月言葉は最期にこの名前で戦いました
嗚呼、この崩れ冷たい身体を誰かが 抱きしめてくれてる。
涙も、悲しみも、笑顔も、ここに居たという確かな証拠。

だから
だから またいつか逢いましょう

「――き」
どこか覚めた精神と、うっすら聞こえる声、そっと目を開けたその瞬間白い空間の中で白い腕が差しだされる。
その姿は黒のジーパン、と対して白い服と、黒い髪。
「秋月」
「…さ、いとうさん?」
え、どうして?何でこの人が今ここにいるの?と迷っている中、もう随分と聞く事のなかったもう1つの声。
「秋月、俺の姿は見えんのか?」
と壁に寄りかかり、腕を組むこの人は…
「栄太郎さん!」
「呼ぶのが遅い。だが、ここ(現代)では小姓なんて者はいないな。奉公人はいたとして」
「…待たせたな、秋月。」
またいつか
「はいっ!!」
会えた事に感謝しています 神様

It begins from here which it finally is not.

終焉に捧げる小夜曲 ~追憶編 ・ 涙~

どうも閲覧ありがとうございます

ここでようやくこの話の本編は最終話となります
如何でしたでしょうか?
恐らく、史実好きの皆様としては許せないと思います。(自分も好きなので)
けれどもこれが、一番ベストなのではないかと自身では思っているんです。
もしこのままヒロインが斎藤さんを選んでいたら、この物語で積み上げてきた斎藤さんのキャラは崩壊するでしょう。
それにそうなってしまっては、吉田さんへの思いは全て無くなると言う訳です。
斎藤さんの傍にいて、吉田さんへの思いを押し殺す……であっては本物の斎藤さんが出来上がる事はないのです。
ただでさえ、実の子が言うほど寡黙である人なので、こうしておけば幕末の時代に生きていた斎藤さんは自身の事を語ることなく生を終えると言う意味合いも含め。

しかし本編は終わりましたが、まだ続きがあります。
小夜曲(セレナーデ)は愛を意味していますので、とことん3人の愛がどうなるのか…と言う所まで続けていきたいと思っています。

一応区切りとしてここまで読んで頂きありがとうございます
この先…現代でどうなって行くのか気になる方は、現代編までどうぞ

終焉に捧げる小夜曲 ~追憶編 ・ 涙~

分かれようとしていた時代は既に崩壊し始めていた その中、黒く沈んでしまった少女は全てを清算する。 果てして罪の意識か罰の意識か もう1つの新撰組の終わりの地で全てが決まる 宛てのない0へと戻って けれども0のままでは変わらない けれども0であればその先に道はある 叶わぬ恋も全て そうして儚い命は黒から白へと変えて逝く

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-20

CC BY-NC-ND
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